苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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恐るべき執着心

133 また現れる黒

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誰かの視点

瓶が誰かの放った弓に割られ、中身が地面に飛び散り、その異常性を見せつけた。

「誰だ!?これを飲まないと私は__」

 ローシュテールの言葉を遮るように、魔力が膨れ上がり、ローシュテールの口から黒い粘性のあるものが溢れだした。

 どこからか悲鳴が上がる。

「な、なにが起こっているんですの?」

 目が覚めた三人は状況が把握しきれていないのか、目を白黒させている。

 黒い粘性のある液体はまるで生き物のように脈を打ち、生き物のように地面を這う。

 ローシュテールは苦しさからうずくまり、えずいている。

 黒い粘性のある液体を吐き出し終わったのか、ぐったりとして、蠢く黒い粘性のある液体を気にしていられないのか動こうとしない。

 それを関知していたのか、黒い粘性のあるものはスライムとか思うような動きをしてローシュテールを飲み込まんと広がる。

 ローシュテールは動けないから、逃げられない。

 体のあちこちに黒い粘性のあるものが付着したとて微動だにしない。

 永華は魔方陣の治癒魔法を使おうとしているが、脳震盪の影響で編めない。

 メメたち三人は怪我のせいもあって間に合わないだろう。

 カルタ達は物理的に距離があって間に合わない。

 間に合いそうなのはレイス親子か、気絶したまま動く気配が一切ないロンテの三人だけだ。

 ローシュテールが飲み込まれたらどうなるか、箱庭試験を受けていたもの達は、その先が想像できてしまった。

 レイス親子は走り出すが、黒い粘性のあるものはどんどんローシュテールを飲み込んでいき、ローレスやアーネチカが引き剥がそうとしても次から次に這い上がってくる。

「なんなんだよ!これ!」

「ローシュテール!起きなさい!ローシュテール!!」

 二人が懸命に黒い粘性のあるものを引き剥がそうとするも虚しく、黒い粘性のあるものはローシュテールを包み込んでいく。

「ディープ・ビート!!」

 重低音が弾いたと思ったら黒い粘性のあるものは音の波によってローシュテールから引き剥がされ地面に散る。

 その隙をついてアーネチカとローレスはぐったりとして動く気配のないローシュテールを抱えて、引きずりながら黒い粘性のあるものから離れていく。

「はー、はー……なにがどうなってんだよ!?」

 魔法を使って黒い粘性のあるものをローシュテールから引き剥がしたのは、さっきまで気絶していたロンテだった。

 状況はうまく把握できてはいないものの、あの黒い物体は危険なものと判断したらしく、ローシュテールから音魔法を使って引き剥がしたようだ。

「ロンテ~!!」

「情けねえ面さらしてる暇があるなら、あの黒いのどうにかしやがれ!つかなんでアーネチカさんがいるんだよ!」

「二人が危ない目に遭ってるって聞いて、しかもお友だちが巻き込まれてるって聞いたから……」

「親子揃ってお人好し!!!!って、おい!!」

 ローシュテールを引きずって引き剥がし、補職するべき相手がいなくなった黒い粘性のあるものは、今度は一番近くにいる動けない永華を狙って飛び上がり、広がる。

「っ!?」

 永華は自分を食らおうとするものを見上げることしかできず、頭が真っ白になっていた。

「水は天の恵み、願い踊り舞う。ウォーターボール!」

 声が三つ響く。

 水魔法を使い、黒い粘性のあるものを巻き上げ永華から遠くに引きはがず。

 間髪いれずに矢が飛んできて黒い粘性のあるものの中心__いや、地面を射貫いたと思えば球体型の結界魔法が発動し、黒い粘性のあるものを囲い混んだ。

 球体型の結界魔法は魔方陣、しかも血で紙に書いたものを矢にくくりつけたものだった。

 投げられた三人の中で一番頑丈で、怪我が少ないメメが動けない永華を抱えて下がる。

 レーピオは症状を確認しつつ、治癒魔法をかける。

 壁を叩く、大きな音がする。

 何度も、何度も、何度も、何度も。

 黒い粘性のあるものは結界魔法から出たい一心なんだろう。

 何度も結界を叩きつけ、しまいには地面に突き刺さる矢を折る。

 血でかかれた魔方陣の紙を破るまで、時間の問題かもしれない。

 メメは永華を抱き上げ、ローレスはローシュテールを担ぎ、ベイノットはカルタを背負って、その場から離れようと走り出す。

 ローシュテールが動かなくなった以上、連れ拐われる危険性はないし、何よりも人を狙って飲み込もうとするスライムもどきのような何かが脱出を試みている以上、近くに居続けるのは危険だ。

 走って、走って、なるべく距離を取る。

 誰かが振り替える。

 結界魔法にヒビが入り、そのヒビの間からじわじわとにじみ出てきている。

 カルタ達が合流できた。

「レーピオ、あとで篠野部も見てやってくれ。ロンテ先輩に使うようだかなんだかの治癒魔法薬を飲んだし、俺たちが治癒魔法書けちゃいるが効きがわりい!」

「わかりましたあ!」

 血を流しすぎたせいでしんどそうなカルタの手には弓矢が握られており、服は血塗れで口許には血がついている。

 結界魔法、その魔方陣はカルタの血で書かれ、弓を放ったのもカルタだろう。

 その直後、魔方陣が書かれた紙は破かれてしまい、結界魔法はガラスが割れたときのように砕け散っていく。

 結界魔法が壊れた瞬間、スライムのような黒い粘性のあるものが大津波のように遠ざかっていく永華達を追いかける。

「アタシ達のこと追いかけてきてるわよ!」

「ふざけないでほしいんだけど!ちょっと!粘着ストーカー貴族!あんたが撒いた種なんだから自分で刈り取りなさいよ!」

 ミューがローシュテールを罵倒するも反応はなく、気絶しているのか、答える気力すらないのかわからない。

 中々の速度で追いかけてくる黒い粘性のあるもの、走る速度は上回っているらしくだんだんと距離が近づいてくる。

 着実に距離を縮めてくる黒い粘性のあるものが、逃げる永華達を飲み込もうと大きく広がる。

 影が射し、捕まるのかと思った瞬間。

「ホーリー・ライツ!」

 力強い言葉と共に眩く、神々しい光が頭上を通過して黒い粘性のあるものに当たる。

 黒い粘性のあるものは蛇のようにのたうち回り、ジュワジュワと嫌な音を立てて蒸発し、消えていった。

 逃げていた面々が呆気に取られていると、王都アストロがある方面から魔導警察とヘルスティーナ・バーベイト、アーネチカと一緒にいるはずのロンテの部下がこちらに向かってきていた。

「君たち、怪我……いや、揃いも揃って中々の怪我をしてそうじゃの……」

「ヘルスティーナ先生!?」

「魔導警察もいるぜ!」

 学生達は心強い味方がやってきたと安堵する。

 そこからは早かった。

 一番の重傷者である篠野部カルタと、まだ動けない戌井永華、どうにもいつの間にか昏倒していたローシュテール・レイスは担架で運ばれる。

 他の面々も重傷で、あちこちの骨が折れており、動けているのはアドレナリンの影響があるからだ。

 痛みによって動けなくなった他の学生達も担架で運ばれることになった。

 それぞれ転移魔法を使って王都にある病院にかつぎ込まれ、骨折や打撲などの複数の怪我が原因で入院が確定した。

 カルタは案の定、内臓破裂と折れた肋骨が臓器に刺さっていた。

 カルタに巻き込まれブレイブ家の倉庫に放り込まれたベイノットとミューも肋骨を負傷。

 捕まれた投げられ首を痛めたララと、巻き込まれ縺れ合い木に激突したレーピオとメメも似たようなものだ。

 永華は脳震盪を起こしており、剣で切られた細かい傷はあれども比較的、軽傷だった。

 ロンテに関して怪我と言う怪我は背中の傷だけで、それでも皮膚が裂けているところがいくつかあったが治癒魔法により緩和。軽傷と言っても差し支えないくらいになっていた。

 ローレスは肋骨が折れており、それが内臓に刺さっていた形跡があった。本人曰く永華に習った治癒魔法の魔方陣で治したのだそうだ。それ以外はかすり傷だけだ。

 アーネチカは逃げている際に受けた治療済みのかすり傷だけで、唯一の無傷と言っても差し支えない。

 騒動を起こした張本人であるローシュテールは__
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