苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

文字の大きさ
上 下
131 / 234
恐るべき執着心

130 喀血

しおりを挟む
すくなすとも、僕の魔力は三分の一を切っている。

 体力馬鹿のアルマックや戌井が息をきらしている。

 なのに、ローシュテールは次から次に魔法を使い、僕の見立てが間違っていなければ大量の魔力を放出している。

 しかも、レイスとロンテ先輩を捕まえるために昼間から動き回っている。

 ロンテ先輩への仕打ちだって体力を使うはずだし、いなくなった三人を探すのだって体力を使わない訳がない。

 魔力が少なくなっているはずだ。

 息を弾ませたって可笑しくないはずだ。

 なのに、ローシュテールは平然としている。

 もと軍人だから?異世界だから?強さが違うから?

 違う、なにかが明確に違う

 何かが確実に可笑しい。

「アルマック」

「はぁ……はあ……。なんだ?」

「ローシュテール、可笑しくないか?」

「は?……確かに、息の一つもきらしてない」

「レイス、ローシュテールは昔からこうなのか?」

「……俺の記憶が間違ってないんだったら、軍から抜かる理由になった怪我のせいで体力が減ってたはずだ。見たところ、鍛え直したようには見えないな」

 やっぱり、可笑しい。

 だが、その可笑しさの答えが見つかる前に事態は進んでいく。

 ついに、僕たちの魔法がローシュテールの防衛魔法を打ち破った。

 砂ぼこりが舞い、ローシュテールがどうなったのかはわからない。

「遅れましたわ!」

「皆さん怪我はあ!?」

 上空からやって来たのはファーレンテインとアスクスが遅れてやってきた。

 箒に乗って透明になれる魔法の布を被った二人は、いつの間にかここにきていたらしい。

 箒を適当なところに置いて、透明になれる魔法の布を脱いで駆けてくる。

 アスクスは頭から血を流している僕や、受け身が取れずに骨を折ってしまっただろうララに治癒魔法をかけていく。

「何がありましたの?」

「逃げてる最中に見つかって、殺されかけてんだよ」

 肩で息をするアルマックが答える。

「なあ、母ちゃんはどうなったんだ?」

「アーネチカさんならロンテ様の部下の方々が護衛をしておりましたから怪我はありませんわ。部下の方々はいくらか怪我をしておりましたけれど、致命傷にはなっておりませんわ。今はメルリス魔法学校に向かっているところかと」

「よ、よかった……」

 レイスは安心感からか、ストンと力が抜けたかのように座り込んでしまった。

 動けなくなっているかもしれないが、敵の前で悠長な……。

 いや、一ヶ月近くもの間、行方知れずで探し回って、やっと見つけたと思ったらローシュテールに捕まって、結果的に行方は知れぬまま。

 ローシュテールのやっていること、やろうとしていることを知り、戦闘になって精神的に疲弊している。

 そんな状態で、やっと探し回っていた行方知れずの母の安否を知れたのだ。

 こうやって気が抜けるのも、可笑しくはない話しか。

「ローシュテール様は……」

「さすがに動けないでしょ。あれでダメなら人間やめてるか、魔具を使ってるわ!」

 レイの意見に全くの同意だ。

 流石にあれだけの防衛魔法を展開していれば魔力切れを起こすだろう。

 魔力切れを起こしていなくても、防衛魔法は全部壊れて魔法全部が当たっていたように思えるから結構なダメージが入っているだろう。

 これでダメならレイの言う通り、何かしらの策を施しているんだろうが、今までのローシュテールを見るに自分の感情を最優先で動いているから、策をこうじているかも怪しいな。

 それにローシュテールはリンデヒル商会を巻き込み、“人形の砂糖薬”を購入した疑惑で、流石に拘束されるはずだ。

 逮捕されるかはわからないが、証拠を集める猶予はあるだろう。

 僕たちに攻撃しようと思ってもその頃には魔法学校にいて、そう簡単に手出しできないだろう。

「ならば早く、この場から去りましょう。もし仮に起き上がってきたら厄介ですわ」

「ですねえ。手当てもすみましたし、戦うよりも逃げるべきですう」

「相手が強すぎて逃げる暇がなかったんだよね」

「それなら尚更ですわ」

 気絶していて動かないロンテ先輩を箒の上に乗っけて固定する。

 この場から早く去り、魔法学校に向かおうとしたとき、未だに舞っている砂埃の中に何か見えた__気がした。

 ただの一瞬だった。

 だが、それは僕の不安感を煽る。

 じぃっと、砂埃の中を見つめる。

 また、ゆらりと影が動いた。

「ローシュテールが、まだ動いてる?」

 一同に戦慄が走る。

 砂ぼこりが晴れて、フラフラとこちらに近づいてくるローシュテールがそこにいた。

「なんで!?」

 明らかにダメージは入っている。

 どこもかしこもボロボロなのは見て取れるが、なんで動けるんだ?

 足元には折れた剣が転がっているが、もしかして剣で受け止めたのか?

「動けなくなるはずなのに……」

 やっぱりどこかが可笑しい。

「戌井、力流眼の再現でローシュテールを見ろ。流石に仕掛けがあるはず、効果を考えると法外なものかもしれない……!」

「わ、わかった」

 僕は力流眼の再現は使えない。

 いや、使えはするが、すぐに痛みが出て目が充血してくるから使うなと言われている。

 戌井のやつが使えるのは体が頑丈なのか、それとも適正があるからなのか、その二択なんだろう。

「え、えぇっと……は?え、なにこれ、ま……混ざってる?」

 驚愕の声があちこちから上がる。

「え、え……暗い青と、え、なにあれ、も、もう一つ何か、何か混ざって、る?」

 それぞれの魔力には色がある。人によって明度は異なるものの赤、青、黄色、緑、紫、通常はこの五種。

 そして赤が火、青が水、黄色が雷、緑が風、紫が地と、色で得意である魔法の系統がわかる。

 他の色が混じるなんて、他人に魔法をかけられている状態でも混ざることはなく、はっきりと境目があるはずだし、他人の魔力なんて時間がたつにつれて薄れ消えていくものだ。

「あれ、何色?」

 魔力の色が混じっているのだって異常事態なのに、混ざっている色がわからないなんて余計に可笑しい。

「……いっ!?」

「永華!」

 戌井が目を押さえて座り込む。

 戌井が目に痛みを持つまで、まだ時間があるはずなのに痛みを訴えた。

 見えたもう一つの魔力は、いったいなんなんだ?

 違和感が疑問を呼び、ローシュテールを注視していると獲物を狙う獣の目と目があった。

「あ……」

 ボキンと音がして、腹部に凄まじい衝撃が走る。

 そしてガシャンと音を立てて荷物の山にダイブした。

「ケホッ、ガボッ……」

 荷物の山から転がり落ち、腹部から何かが這い上がってくる。

 腹部から這い上がってきたものを吐き出せば、視界の大半が鮮血に染まる。

 血を吐いた。

 目があった瞬間、腹部を殴られ、吹き飛んだ僕はどこかの家の倉庫に窓から入ることになってしまったんだろう。

 いや、僕以外にもいる。

 僕の後ろにいたせいで、アルマックとレイがいて二人は折り重なるようになって気絶していた。

 窓にぶつかったときと荷物の山にダイブしたときに衝撃が来ず、二人の怪我した様子がないのはレイがとっさに防衛魔法をはったんだろう。

 僕も殴られたときの怪我しかない。

 それにしてもだ。

 肋骨が折れて内蔵を傷つけているのか、それとも殴られた衝撃で内蔵が破裂したのか、血を吐いてしまった。

 さっきまで戦闘をしていたからアドレナリンが出ていて痛みは来ない。

 部屋の外が騒がしいのは、僕たちが窓を突き破って入ってきたことが原因だろう。

「あ、ま…く」

 重たいからだを引きずり起き上がって、アルマックの名を呼ぶ。

 反応がない、二人の肩を揺する。

「う、ぐぅ……」

「う、ぅ……」

「お、きろ」

 アルマックとレイがうっすらと目を覚まし、起き上がる。

「ここは、どこ?」

「どこかの、家の、倉庫」

「あ?あー……ブレイブ家?」

「多分……」

 この当たりにある家と言えばブレイブ家以外にはないだろう。

「よりによって面倒なところに放り込んでくれたわね。……いっ!」

 レイが立ち上がろうとしたとき、脇腹の辺りを押さえる。

「骨、折れたわ」

「……俺もだ」

 二人はフラフラと起き上がる。

 あれだけの勢いだ、骨が折れていない方が可笑しいだろう。

 むしろ僕のように喀血してないだけましだろう。

 飛び込んできた窓から出ようと、近づく。

「……?」

 壁と荷物の間に何かがある。

「……これ」

 良いものを、見つけた。

 キィ__

 蝶番が軋み、扉が開いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...