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恐るべき執着心

115 一人じゃないけど

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永華視点

「篠野部の奴どこ行きやがった!」

 私が怒りを叫んでいるのには訳がある。

 私が好んで魔方陣を学んでいる、それは単にこちらの世界に来て初めて目にした魔法の痕跡である赤い魔方陣を解析するためだ。

 解析と言えば聞こえはいいだろうが、実際は素人ながらに効果と作用のしかたを探っていだけに過ぎない。

 それで最近は魔法学校に籠りきりで、異世界関係の書物探しを優先させていたので息抜きがてら魔方陣を調べていたら一つわかったことがあった。

 あれは“一人用”の魔方陣なのだ。

 私たち二人を呼んだ魔方陣は一人用。だが事実、異世界の人間は二人現れている。

 明らかに何かがおかしい。

 私と篠野部で呼ばれた時の使用が違ったのも、これで説明がつくが、それはそれとして色々とわからないことが増える。

 一人用のはずの魔方陣のでなぜ私たち二人が呼ばれることになったのか?

 本来はどちらが呼ばれたのか?

 何が原因で二人が呼ばれる結果になったのか?

 そもそも魔方陣がまともに発動してないのに、どうやって私たちがここにきたのか?

 ホントに色々と疑問が増えた。

 篠野部にそれを伝えに行こうとした。

 頭がいいから私じゃ思い付かないような考えをしてくれるかもと思っての行動だ。

 だがあちこち探しても、全くもって見つからない。

 今日は平日だけど休みな状態で、朝から探して、先生や生徒たちに聞き込みしたり、いろんな場所に行ってるが話すら見当たらない。

「はぁ……。ダメもとで門の警備員さんに聞いてみるか~」

 私が襲撃されたこと、レイス親子とロンテ・ブレイブがいなくなったこと、私たちがブレイブ家に狙われている可能性があること。

 それらを考慮して、外出は控えることになっている。複数人で行こうとしても止められるくらいには、教職員たちはピリついている。

 だから駄目で元々だった。

 まあ、その薄い期待と希望は警備員さんの“知らない”の一言で崩れ去ったのが。

 別に急ぎのものではないが、篠野部に「報連相をしっかりしろ」と言われている身、忘れてましたと言って篠野部の冷たい目とチクチクとした言葉に晒されたくないからこうしている。

 こうしてるのに、肝心の本人が見つからない。

「……」

 三人も行方知れずになったことで、段々と不安が心に蓄積していく。

 篠野部なら、やろうと思えば誰にも認識されずに魔法学校を出ることなんて出きるだろう。

 光を操る自己魔法。その使い道の一つに“光の反射をねじ曲げて対象を人の目に写らないようにする”と言うものがある。

 それを使えば、出きる。

 魔力探知や力流眼りょくりゅうがん力流眼りょくりゅうがんの再現を使えば話は違うだろう。

 この魔法学校には魔力探知の魔法がかけられているが、登録された魔力には反応しない仕組みになっている。

 もちろん、篠野部や私の魔力も登録されてるから出入りするのにも、学内で魔法を使うのにも、反応しない。

 力流眼りょくりゅうがんの持ち主は学内にはいるが、篠野部が対策にをしていないとは思えなかった。

 人を避けて行動していて、そもそもの話、力流眼りょくりゅうがんの持ち主にあっていなかったのなら知らないのもおかしくはない。

 再現も同じ。というか、決闘のような場でなければ再現を使う者なんでいない。使うにしたって研究とかしてる人だから、研究室以外で使うとは考えにくい。

 だから、篠野部にやる気があるのなら、間違いなく出来る。

 実行した理由はなんだろうか?

 直近のことを思えば、ブレイブ家に脅されたか、ローレスから連絡が入ったか、誘拐か、何かしら帰る方法のヒントがわかったか。

 後者、二つはないだろう。一番最後のなら私にも声をかけるはず、誘拐の線も薄い。

 どうやって学校に侵入するって話だ。内部の誰かがやったっている線もあるけど、それを考え出すときりがないから一旦、おいておく。

 私が襲撃された話もあるし、ローレス達のこともある。篠野部は警戒していないとは思えないし、透明にもなれるから簡単に捕まるとは思えない。

 私が襲撃されたときのようになる、と思う。

 ローレスからの連絡が入ったんなら先生に言うだろう。

 ローレスからの連絡が入っていて、それが知らせられない状態は……ないと思う。

 手紙に一人で来てくれなんて書かれていたとして、篠野部は確実にそれに乗らないだろう。

 一番あるのならば、ブレイブ家からの脅しか何かが来たってところだろう。

 私たちのもとにくる手紙に差出人が書かれていなければ、パーティーの時のことを思い出して間違いなく疑う。

 開かないかもしれない、開いたとしても同室やいつメン、先生に連絡をいれるだろう。また来たって。

 それがないのは、脅されているから?

 う~ん、わからない。けど、あり得る。

 ……もしかしたら置き手紙とか残していたりしないかな?

 ないならないでいい、もしもがあるから先生に知らせて私はまた探し回るだけだ。

 仮に篠野部が脅されて、ブレイブ家にいる可能性が高いのならば……私も行かないと、ね。

 篠野部に何かあったら私は頭がおかしくなるかもしれない。

 今だって時々、思う。

 私は元からこの世界の人間で、元の世界の記憶は誰かに植え付けられたものなんじゃないかって……。

 じいさんは私たちを異世界のものだと言った。私たちの持ち物の中には、この世界の技術では作れないものがある。異世界から人を呼ぶ魔法がある。

 私が異世界にやってきたと言う証拠はある。

 気持ちも、考えも、どうしようもない。一度。思ってしまったら、頭からはなれない。

 でも篠野部を見たら、それは単なる私の妄想だと思えた。

 だって、昔から知る人で、同じ境遇で、同じ場所の出身。それだけの共通点があり、同じ目的。

 一人ではないという事実は、私の心を守る。

 だから篠野部にいなくなられたら困る。いろんな意味で困る。



 男子寮の前に来て、適当な人に声をかけて“篠野部が見つからない。不安だから部屋を調べてみて欲しい”とベイノットかレーピオに伝えてもらう。

 出入り口にもたれて待っていれば、現れたのは血相を変えて、こちらに向かって走ってくるベイノットとレーピオだった。

 その瞬間、不安は現実になったのだと知った。

「普段から起きたときにいないなんてざらですしい、一日ずっと図書館に籠って見かけないことがありましたけどお、こうなるとはあ……。いえ、まだ確定したことではありませんがあ……」

「最近のことを思えば確認の一つでもしとくんだったぜ。それで、言われて慌てて確認してみたんだがよ
。永華宛のよくわかんねえ模様が書かれた封筒が、篠野部の教科書の間に挟まれてたんだよ」

「マジか」

 もしかしたらあるかなとか思ってだけど、ホントにあった……。

 ベイノットから差し出された封筒には宛名に私の名前と、差出人に篠野部の名前が書かれていた。

 封を開けて手紙に何が書いているのか確認してみれば、数字がズラッと並んでいた

「なにこれ?」

「数学の問題か?」

「でも二桁の数字がずっと並んでるだけのものですよお?」

 何かヒントがないか。そう思って手紙を裏返してみると“いろはにほへと”と縦で書かれいた。

「……」

「裏にヒントらしきものがありますけどお、これってなんなんでしょう?」

「わかんねえ……」

 これ、いろは唄が関係してるのなら日本人にしかわからないようになってるな。

 外国人、ましてや異世界の人なんて日本語がわかってもいろは唄の順番なんか知らないだろうし、暗号にするならちょうどいい。

 仮に日本語が読める人がいてもわからない仕組みだ。ただの数字の羅列に見えるだろう。

 裏のヒントも、ホームシックの一貫だと思えば……まぁ、変ではない。

 何となく、解き方がわかった。

 これは数字を縦横に当てはめて、示す方向を見ると考えるべきか。二つの線が交わる場所が正解であるなら……。
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