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恐るべき執着心
112 昔と違う
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兄弟喧嘩が始まった。魔法も拳も蹴りもありの勝負だ。
俺は得意の雷魔法、ロンテは音魔法を使って攻防戦を繰り広げていた。
「鳴って、揺れろ。己の害となる壁を打ち砕け。ソニックブーム!」
低いビープ音が微かに聞こえる。
思わず箒に飛び乗って空に上がれば、俺が立っていた場所の少し後ろから数本に木が見えない攻撃によって折れていた。
魔法の詠唱が終わってから箒に飛び乗るのに数秒とかかってないはずなのに、俺の着ていたローブが巻き添えになって布切れとかしてしまった。
あと少し遅かったら足、壊されてたな……。
「にしても、カリヤ先輩と同じ攻撃が見えないタイプかよ……」
見えない攻撃の対処法は永華ちゃんとカリヤ先輩で知ってはいるが、あれを俺に使えるかどうかは微妙だ。
色水をぶちまけたところで、実態がないものだろうから意味ないだろうし。
「びびってんのか!?オニイサマ!」
「うるせぇな!」
次々に魔法を打ってくるロンテに負けず劣らず、俺も得意の雷魔法を繰り出す。
「全知の神罰、降って災害、降りてその者に害をなせ。サンダー!」
晴天の空に一筋の光が落ち、遅れて轟音が当たりに響いた。
雷が落ちた影響で辺りに砂ぼこりが舞う。
砂ぼこりは一瞬で払われ、中から現れたのはひびだらけの防衛魔法と、こちらをまっすぐ見据えるロンテ。
防衛魔法は、さっきの攻撃が許容量のギリギリだったのか。次の瞬間くだけ散った。
流石に一撃で終わってはくれないらしい。
「おいおい、これじゃあマッサージにもなりゃしねえぞ!」
次から次に見えない攻撃が飛んでくる。
見えないせいでかわそうとしてもかわしきれず、体のあちこちに怪我ができる。
永華ちゃんのように、勘や観察眼で避けるなんてことは俺にはできないらしい。
「ぐあ!!」
魔眼の再現、あれも俺にできるかと問われれば難しいかもしれない。
あれは二つの魔力操作をしなくてはならない。
永華ちゃんは糸で魔方陣を作るなんて器用な真似ができるから土壇場でできたんだろう。
俺はそこまで器用じゃないから、片方に集中し出して片方がおろそかになる未来が見えていた。
それに俺は魔力量がさほどない魔力の消費が単純に二倍になるなんて不利以外の何でもない。
他に方法はと聞かれれば、俺の頭の中に該当するような知識はない。
カルタやレーピオならなにか方法が思い付いたかもしれない。
また見えない攻撃が飛んできて、俺は負けじと打ち返す。
俺に向かってくるはずの攻撃の一つが逸れて箒に直撃、箒は穂の部分の大半がなくなり制御不能になり落下する。
木がクッションになって大ケガは避けれたが、あちこちに小さい擦り傷ができた。
急いで起き上がり、持っていた棒同然の箒を投げ捨て木から急いで降りる。
降りた瞬間、俺の頭より上にある木が消し飛んだ。
「容赦無さすぎだろ」
「するわけねえだろ」
まぁ、それもそうか。
ロンテの言い分からすれば、俺たち親子しか見ない自分の両親に不満をもって、俺たちを消そうとしてるんだから。
俺たちさえ消えれば、ロンテの両親はロンテを見てくれる。そう信じて行動してる。
俺だって色々と言いたいことはあるが、この状況で言える余裕なんてなかった。
見えない攻撃に、流石に命の危機を覚え、一か八か間に合わないだろう魔力探知の魔法よりも魔眼の再現をやるべきだと判断した。
左の、片目だけに魔力を流す。
これは永華ちゃんから聞いた方法、これなら魔力の消費半減だし両目でやるよりも、恐らくは簡単にできる。
うっすらと赤い霧のようななにかが見える。
うっすらと赤い霧のようなものが見えた瞬間、左目に激痛が走り、思わず小さいが呻き声をあげてしまった。
恐ろしいスピードで俺の方に向かってくる赤い霧のようなものを良ければ、背後から大きな音が響いて木や地面がえぐれているのが見えた。
いける。
そう思った。
だからロンテが動揺している間に雷魔法を発動させ、不意の一撃は綺麗にロンテに直撃することになった。
ロンテは黒焦げになり、あちこちからプスプスと煙をあげている。
「がっ……!」
呻き声をあげ、膝をつく。
ロンテが呻き声をあげて膝をついたことで、喧嘩は終わったと認識したローレスは魔力を目に送ることをやめる。
深く息をつき、ズキズキと痛む目を押さえると生暖かく、ぬるりとした感覚がした。
驚いて慌てて顔から手を離せば、手に付いたものの正体は易々とわかった。
血と涙だ。
血と涙が左の頬を伝って地面に落ちていく。
これほどの痛みに、少量だが目から流れる血。
永華ちゃんは、よくこんな手を使った__
いや、永華ちゃんのときは血は出てなかったっけ。
まぁ、単純に永華ちゃんの方が魔力の流し方がうまいんだろう。
俺の場合は魔力を注ぎすぎた結果、目かその回りの血管に何かしらの傷を負ったんだろう。
視界が霞む、見えないなんてことはないから視力には問題ないんだろう、と思う。
素人判断は信用できないが、この状態がで不安になんてなりたくない。
ロンテに視線をやるが気絶しているのか、さっきの状態のままだ。
これなら詠唱したって問題ないだろうと判断して、事前に作っていた魔方陣の治癒魔法は使わないことにした。
治癒魔法を使えばゆっくりとだが痛みは引いていき、血は止まっていた。
「ふぅ……」
治療が終わった俺は怪しい小屋に向かおうとした。
あの板きれの通りなら、多分あそこに母ちゃんがいる。いなければ、ロンテをたたき起こして聞き出せば良いだけのことだ。
そう思って小屋に向かおうと、ロンテの近くを通りすぎると小さい声で詠唱していた。
気がついたときにはもう遅く、バキッと言う骨の折れる音と主に強い衝撃が横から来て、俺を殴り飛ばした。
あまりの勢いに地面をバウンドし、転がる。杖はどこかに飛んでいった。
起き上がろうとしたとしたが折れたあばら骨が内蔵に刺さっているのか血を吐いてしまった。
「あー……はは、油断したなぁ」
ユラリと黒焦げになったロンテは幽霊のように立ち上がり、俺を見下す。
「まあ、俺もさっき意識が戻ったところだけどよ。杖取り上げるとか、縛るとかした方がよかったんじゃねえの?」
ロンテの言う通りだ。俺は油断してたんだろう。
返事をしようにも喉からヒューヒューと、空気の抜けるような音しかでない。
やっぱり内蔵をやっているのかも……。
「ま、これでお互い様だ」
懐に仕込んでいる治癒魔法の魔方陣に魔力を注ぐ。
「父様は“お前はローレスをこえられない”って言ってたけどよ。昔よりも弱くなったな、オニイサマ」
……。
「昔の俺たちが喧嘩してたら殴り合いでも言い合いでも俺が負けてた。今みたいに這いつくばったオニイサマを見ることなんてなかったわ」
いつまでも……。
「魔法も、勉強も、礼儀作法も、昔は俺が必死に追いかけるが話だったのに、今じゃこれ。やっぱり、父様も母様もオニイサマじゃなくて俺を見るべきなんだよ」
俺は得意気に見下してくるロンテを睨み付ける。
「何だよ、オニイサマ。俺に負けて悔しいの?杖もないし、その怪我じゃ反撃とかもできないでしょ」
治癒魔法で怪我がなおったのを確認したら、俺は血の流しすぎでクラクラするのも無視して立ち上がりロンテの頬に拳を叩き込んだ。
「お前ら全員揃って、いつまでも昔のことを引きずってうぜぇんだよ!」
倒れこんだロンテが杖を俺に向けて反撃してこようとするが魔法を使うまもなく取り上げて遠くに放り投げてしまう。
慌てたロンテは馬乗りになられると不味いと判断しのか、とっさに砂を俺めがけて投げてきた。
目に砂が入ることはなかったがロンテには距離をとられてしまう。
「お前の話し聞いてれば、いつまでも昔のこと言ってるじゃねえか。俺が優秀?そんなわけねえだろ」
「は?父様の言葉否定するの?お前は優秀なローレス・ブレイブだろ?」
「昔は知らねえが、今の俺は優秀なんかじゃねえよ。友達に勉強教えてもらって、唯一の家族すら守れない、だたのローレス・レイスだ」
「……」
「いつまでも過去にすがり付いてないで、今を見ろよ。お前も、お前の親も、俺たちのことなんて忘れて、最初からなかったものだって思えばよかったんだ」
「お前ぇ!!」
怒りに身を任せた拳が飛んでくる。
「いったい!誰が生まれたから、俺がこんな目に遭ってると思ってるんだ!誰がいなくなったから、こんなことになってると思ってる!」
「俺だよ!俺が生まれたのが始まりだ!生まれる順番が違ったら、生まれさえしてなかったらなにか違ったのかもな!」
飛んできた蹴りを受け流してボディに一撃。
「でも、そんなのどうにもならねえ!そもそも俺たちが出ていくように仕向けたのはお前の母親のせいだろ!」
「それこそ知らねえよ!」
「こっちだって、あのババアのくだんねえプライドなんて知らねえよ!お前のその思いも、向けるのは俺じゃなくて親だろ!」
「見てくれないのに、どうしろってんだよ!」
「知らねえって!もう静かに暮らさせてくれよ!俺たちが何かしたか?してないだろ」
もはや二人の言い合いは支離滅裂になっていた。
「俺はもう優秀じゃない、昔の俺じゃない。ろくでもない幻想にとらわれて、勝手に自分を苦しませてるのはお前自身なんじゃねえのか!」
「知るかあ!!消えろ!!」
「お前らが諦めろ!」
同時にお互いの頬にお互いの拳が入り、ロンテが倒れた。
「俺の勝ちだ」
喧嘩をはじめて数時間、勝敗は決した。
息がきれて、体のあちこちが痛い。
「……もう、覚えてないけどバーちゃんとジーちゃん殺したやつらんとこ、どうやって帰りたいって思うよ」
「知るかよ。俺は生まれる前に死んでんだから」
「あっそ。ロンテ、お前さ。あそこから離れろ」
「は?」
「いつまでも拘ってんな。お前、十分凄いんだからブレイブ家じゃなくても生きていけるだろ」
不意にこぼしたローレスの言葉に、ロンテは目を見開く。
「え?」
「もう、俺なんか超えて十分すげえやつになってんだから、ロンテのことちゃんと見てくれる人のところに行け」
「い、いきなり何なんだよ」
「別に、お前の両親は嫌いだけどお前が嫌いって訳じゃないし、幸せになれば良いと思ってる。お前のそれがいなくなった俺たちが原因ってんなら、多分一生解決できねえわ。ババアの方はどうにかなっても、クズは無理だ」
手紙を見て察した、あの執着心。
多分、殺しでもしないと追いかけっ子は終わらないだろう。
「だから、別の人のところに行けよ。そのうち殺されちまうぞ」
「……知ってるよ。それができたら、とうの昔にやってる」
「じゃあ、なんで……」
「親ってのは子供にとって特別、わかるだろ?」
「……母ちゃんはどこだ?」
「時間切れだな」
ロンテは俺の後ろを見て、諦めたように微笑んだ。
「は?なん、で……」
ゾクリと詰めたいものが背中を撫でて慌てて振り向くと、そこには無表情のローシュテール・ブレイブがいた。
俺は得意の雷魔法、ロンテは音魔法を使って攻防戦を繰り広げていた。
「鳴って、揺れろ。己の害となる壁を打ち砕け。ソニックブーム!」
低いビープ音が微かに聞こえる。
思わず箒に飛び乗って空に上がれば、俺が立っていた場所の少し後ろから数本に木が見えない攻撃によって折れていた。
魔法の詠唱が終わってから箒に飛び乗るのに数秒とかかってないはずなのに、俺の着ていたローブが巻き添えになって布切れとかしてしまった。
あと少し遅かったら足、壊されてたな……。
「にしても、カリヤ先輩と同じ攻撃が見えないタイプかよ……」
見えない攻撃の対処法は永華ちゃんとカリヤ先輩で知ってはいるが、あれを俺に使えるかどうかは微妙だ。
色水をぶちまけたところで、実態がないものだろうから意味ないだろうし。
「びびってんのか!?オニイサマ!」
「うるせぇな!」
次々に魔法を打ってくるロンテに負けず劣らず、俺も得意の雷魔法を繰り出す。
「全知の神罰、降って災害、降りてその者に害をなせ。サンダー!」
晴天の空に一筋の光が落ち、遅れて轟音が当たりに響いた。
雷が落ちた影響で辺りに砂ぼこりが舞う。
砂ぼこりは一瞬で払われ、中から現れたのはひびだらけの防衛魔法と、こちらをまっすぐ見据えるロンテ。
防衛魔法は、さっきの攻撃が許容量のギリギリだったのか。次の瞬間くだけ散った。
流石に一撃で終わってはくれないらしい。
「おいおい、これじゃあマッサージにもなりゃしねえぞ!」
次から次に見えない攻撃が飛んでくる。
見えないせいでかわそうとしてもかわしきれず、体のあちこちに怪我ができる。
永華ちゃんのように、勘や観察眼で避けるなんてことは俺にはできないらしい。
「ぐあ!!」
魔眼の再現、あれも俺にできるかと問われれば難しいかもしれない。
あれは二つの魔力操作をしなくてはならない。
永華ちゃんは糸で魔方陣を作るなんて器用な真似ができるから土壇場でできたんだろう。
俺はそこまで器用じゃないから、片方に集中し出して片方がおろそかになる未来が見えていた。
それに俺は魔力量がさほどない魔力の消費が単純に二倍になるなんて不利以外の何でもない。
他に方法はと聞かれれば、俺の頭の中に該当するような知識はない。
カルタやレーピオならなにか方法が思い付いたかもしれない。
また見えない攻撃が飛んできて、俺は負けじと打ち返す。
俺に向かってくるはずの攻撃の一つが逸れて箒に直撃、箒は穂の部分の大半がなくなり制御不能になり落下する。
木がクッションになって大ケガは避けれたが、あちこちに小さい擦り傷ができた。
急いで起き上がり、持っていた棒同然の箒を投げ捨て木から急いで降りる。
降りた瞬間、俺の頭より上にある木が消し飛んだ。
「容赦無さすぎだろ」
「するわけねえだろ」
まぁ、それもそうか。
ロンテの言い分からすれば、俺たち親子しか見ない自分の両親に不満をもって、俺たちを消そうとしてるんだから。
俺たちさえ消えれば、ロンテの両親はロンテを見てくれる。そう信じて行動してる。
俺だって色々と言いたいことはあるが、この状況で言える余裕なんてなかった。
見えない攻撃に、流石に命の危機を覚え、一か八か間に合わないだろう魔力探知の魔法よりも魔眼の再現をやるべきだと判断した。
左の、片目だけに魔力を流す。
これは永華ちゃんから聞いた方法、これなら魔力の消費半減だし両目でやるよりも、恐らくは簡単にできる。
うっすらと赤い霧のようななにかが見える。
うっすらと赤い霧のようなものが見えた瞬間、左目に激痛が走り、思わず小さいが呻き声をあげてしまった。
恐ろしいスピードで俺の方に向かってくる赤い霧のようなものを良ければ、背後から大きな音が響いて木や地面がえぐれているのが見えた。
いける。
そう思った。
だからロンテが動揺している間に雷魔法を発動させ、不意の一撃は綺麗にロンテに直撃することになった。
ロンテは黒焦げになり、あちこちからプスプスと煙をあげている。
「がっ……!」
呻き声をあげ、膝をつく。
ロンテが呻き声をあげて膝をついたことで、喧嘩は終わったと認識したローレスは魔力を目に送ることをやめる。
深く息をつき、ズキズキと痛む目を押さえると生暖かく、ぬるりとした感覚がした。
驚いて慌てて顔から手を離せば、手に付いたものの正体は易々とわかった。
血と涙だ。
血と涙が左の頬を伝って地面に落ちていく。
これほどの痛みに、少量だが目から流れる血。
永華ちゃんは、よくこんな手を使った__
いや、永華ちゃんのときは血は出てなかったっけ。
まぁ、単純に永華ちゃんの方が魔力の流し方がうまいんだろう。
俺の場合は魔力を注ぎすぎた結果、目かその回りの血管に何かしらの傷を負ったんだろう。
視界が霞む、見えないなんてことはないから視力には問題ないんだろう、と思う。
素人判断は信用できないが、この状態がで不安になんてなりたくない。
ロンテに視線をやるが気絶しているのか、さっきの状態のままだ。
これなら詠唱したって問題ないだろうと判断して、事前に作っていた魔方陣の治癒魔法は使わないことにした。
治癒魔法を使えばゆっくりとだが痛みは引いていき、血は止まっていた。
「ふぅ……」
治療が終わった俺は怪しい小屋に向かおうとした。
あの板きれの通りなら、多分あそこに母ちゃんがいる。いなければ、ロンテをたたき起こして聞き出せば良いだけのことだ。
そう思って小屋に向かおうと、ロンテの近くを通りすぎると小さい声で詠唱していた。
気がついたときにはもう遅く、バキッと言う骨の折れる音と主に強い衝撃が横から来て、俺を殴り飛ばした。
あまりの勢いに地面をバウンドし、転がる。杖はどこかに飛んでいった。
起き上がろうとしたとしたが折れたあばら骨が内蔵に刺さっているのか血を吐いてしまった。
「あー……はは、油断したなぁ」
ユラリと黒焦げになったロンテは幽霊のように立ち上がり、俺を見下す。
「まあ、俺もさっき意識が戻ったところだけどよ。杖取り上げるとか、縛るとかした方がよかったんじゃねえの?」
ロンテの言う通りだ。俺は油断してたんだろう。
返事をしようにも喉からヒューヒューと、空気の抜けるような音しかでない。
やっぱり内蔵をやっているのかも……。
「ま、これでお互い様だ」
懐に仕込んでいる治癒魔法の魔方陣に魔力を注ぐ。
「父様は“お前はローレスをこえられない”って言ってたけどよ。昔よりも弱くなったな、オニイサマ」
……。
「昔の俺たちが喧嘩してたら殴り合いでも言い合いでも俺が負けてた。今みたいに這いつくばったオニイサマを見ることなんてなかったわ」
いつまでも……。
「魔法も、勉強も、礼儀作法も、昔は俺が必死に追いかけるが話だったのに、今じゃこれ。やっぱり、父様も母様もオニイサマじゃなくて俺を見るべきなんだよ」
俺は得意気に見下してくるロンテを睨み付ける。
「何だよ、オニイサマ。俺に負けて悔しいの?杖もないし、その怪我じゃ反撃とかもできないでしょ」
治癒魔法で怪我がなおったのを確認したら、俺は血の流しすぎでクラクラするのも無視して立ち上がりロンテの頬に拳を叩き込んだ。
「お前ら全員揃って、いつまでも昔のことを引きずってうぜぇんだよ!」
倒れこんだロンテが杖を俺に向けて反撃してこようとするが魔法を使うまもなく取り上げて遠くに放り投げてしまう。
慌てたロンテは馬乗りになられると不味いと判断しのか、とっさに砂を俺めがけて投げてきた。
目に砂が入ることはなかったがロンテには距離をとられてしまう。
「お前の話し聞いてれば、いつまでも昔のこと言ってるじゃねえか。俺が優秀?そんなわけねえだろ」
「は?父様の言葉否定するの?お前は優秀なローレス・ブレイブだろ?」
「昔は知らねえが、今の俺は優秀なんかじゃねえよ。友達に勉強教えてもらって、唯一の家族すら守れない、だたのローレス・レイスだ」
「……」
「いつまでも過去にすがり付いてないで、今を見ろよ。お前も、お前の親も、俺たちのことなんて忘れて、最初からなかったものだって思えばよかったんだ」
「お前ぇ!!」
怒りに身を任せた拳が飛んでくる。
「いったい!誰が生まれたから、俺がこんな目に遭ってると思ってるんだ!誰がいなくなったから、こんなことになってると思ってる!」
「俺だよ!俺が生まれたのが始まりだ!生まれる順番が違ったら、生まれさえしてなかったらなにか違ったのかもな!」
飛んできた蹴りを受け流してボディに一撃。
「でも、そんなのどうにもならねえ!そもそも俺たちが出ていくように仕向けたのはお前の母親のせいだろ!」
「それこそ知らねえよ!」
「こっちだって、あのババアのくだんねえプライドなんて知らねえよ!お前のその思いも、向けるのは俺じゃなくて親だろ!」
「見てくれないのに、どうしろってんだよ!」
「知らねえって!もう静かに暮らさせてくれよ!俺たちが何かしたか?してないだろ」
もはや二人の言い合いは支離滅裂になっていた。
「俺はもう優秀じゃない、昔の俺じゃない。ろくでもない幻想にとらわれて、勝手に自分を苦しませてるのはお前自身なんじゃねえのか!」
「知るかあ!!消えろ!!」
「お前らが諦めろ!」
同時にお互いの頬にお互いの拳が入り、ロンテが倒れた。
「俺の勝ちだ」
喧嘩をはじめて数時間、勝敗は決した。
息がきれて、体のあちこちが痛い。
「……もう、覚えてないけどバーちゃんとジーちゃん殺したやつらんとこ、どうやって帰りたいって思うよ」
「知るかよ。俺は生まれる前に死んでんだから」
「あっそ。ロンテ、お前さ。あそこから離れろ」
「は?」
「いつまでも拘ってんな。お前、十分凄いんだからブレイブ家じゃなくても生きていけるだろ」
不意にこぼしたローレスの言葉に、ロンテは目を見開く。
「え?」
「もう、俺なんか超えて十分すげえやつになってんだから、ロンテのことちゃんと見てくれる人のところに行け」
「い、いきなり何なんだよ」
「別に、お前の両親は嫌いだけどお前が嫌いって訳じゃないし、幸せになれば良いと思ってる。お前のそれがいなくなった俺たちが原因ってんなら、多分一生解決できねえわ。ババアの方はどうにかなっても、クズは無理だ」
手紙を見て察した、あの執着心。
多分、殺しでもしないと追いかけっ子は終わらないだろう。
「だから、別の人のところに行けよ。そのうち殺されちまうぞ」
「……知ってるよ。それができたら、とうの昔にやってる」
「じゃあ、なんで……」
「親ってのは子供にとって特別、わかるだろ?」
「……母ちゃんはどこだ?」
「時間切れだな」
ロンテは俺の後ろを見て、諦めたように微笑んだ。
「は?なん、で……」
ゾクリと詰めたいものが背中を撫でて慌てて振り向くと、そこには無表情のローシュテール・ブレイブがいた。
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