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恐るべき執着心

110 エサ

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指定された場所は舗装された道はあるものの、森の奥にあるブレイブ家の本邸。

 荷物は杖と戌井を見習って魔法以外の武器として、小さいナイフ。

 ここに来ることを伝えた者は誰もいない。

 まぁ、誰かが僕がいないことを知って探しに来た結果、ここに行き着いたのなら話は別だけど。

 立地的に人が来ることは早々無さそうだし、そもそもブレイブ家に近寄ろうとする人間なんていなさそうだし、叫んでも助けはこなさそうだな。

 ある程度の怪我は覚悟の上だが、どれ程で解決するか……。

 深呼吸をして、足を進める。

 門まで行けば土のような顔を色をして、目の下に隈をこさえた使用人がいた。

 その使用人は僕を応接室に通したあと、そそくさとどこかに消えていった。

 人のことは言えないが、無愛想な使用人だ。

 まあ、噂を真とするのならば心に余裕ができなくて、こんなことになるのも無理はないか。

 大人しくソファに座って呼び出した本人が来るのを待っていると、いきなりローテーブルクロスの魔法がいきなり光だし、急に体が重たくなる。

「何だ!・?」

 いきなりのことに慌てていると扉が開いた。

 開いた扉の先にたっていたのはブレイブ家の当主、僕を呼び出した本人、ローシュテール・ブレイブだった。

「やあ、少年」

「……ブレイブ家の御当主様」

 ローシュテール・ブレイブはパーティーの時と変わらない、優しそうでどこか不気味な微笑みを保ったまま頷いた。

「あぁ、そうだ。君はぁ……いや、この際君の名前など、どうでも良い。よく、呼び出しに応じてくれたね」

 ふん!来ざる終えないように手紙を書いたのはアンタの癖に……。

 睨み付けるも、どこ吹く風といったようにニコニコとしている。

「で、いったい何のようです?」

「そう、急かすな。まだ時間があるからゆっくりと話してあげよう」

 ローシュテール・ブレイブは扉の外に佇み、いっこうに中に入ってこようとしない。

 この体の重さ、家の持ち主が入ってこない状況、この魔方陣はいわゆるデバフ効果がありそうだな。

「まず君を、ここに呼んだ理由はたいたって単純だ。“ローレス・レイス”と“アーネチカ・レイス”を我が屋敷に連れ戻す、そのためのエサだ」

 レイス親子を釣るためのエサ、ね。

 やっぱりレイス親子が行方をくらませた理由はブレイブ家__いや、ローシュテール・ブレイブだったんだな。

「アーネチカは優しい娘だからな。子供の友人が自分のせいで囚われているとなれば偽装工作した労力も厭わず現れるだろう。ローレスも、きっとアーネチカに似ているだろうから、来る」

「さぁ?どうでしょう。僕はあまり愛想がよくないし、レイスたちと一緒にいたのはただの気まぐれですからね」

 正確には戌井にひっぱられて一緒にいることが多くなった、だがな。

 それを言うと、今度は戌井は標的になりそうだから言わないが。

「それでもだ。アーネチカには、それがわからないだろうし、ローレスはアーネチカによく似ているから、関係が希薄な君でも見捨てられないだろうな」

「まあ、確かにレイスはお人好しですからね」

「きっと、アーネチカに似たんだろうな」

 ……さっきっから“ローレス・レイスはアーネチカ・レイスに似ている”と言っているが、もしかしてレイスにあったことがないのか?

 そもそも、なんで貴族がレイス親子を狙うんだ?

「理由は理解していただいたかな?」

「まあ、しましたけど……なんで貴方がレイス親子を狙うのかが不可解でしかない」

 さっきっからレイス親子の話をしている際の表情を見るに、恨みがあるようには見えない。

 むしろ良い感情が表に出てきている。

 なんか、粘着質で気持ち悪いけど……。

「あぁ、そんなことが気になるのか。もしやローレスに家族のことを何も聞いていないのか?」

「母子家庭だとしか聞いてないですね」

 そう言えば、かたくなに父親の話を出さなかったような……。

「ふむ、やはりまだ怒っているのか」

 なんか自己完結している。

 喧嘩ってなんのことだ?レイスか?それともアーネチカさん?

 文脈的にレイスだが、この人の物言いから察してレイスのことをよく知らないはずだ。

「まぁ、いい。“妻”の癇癪も許してやるのが男の甲斐性だ」

「は?」

 今、“妻”って言ったのか?

「驚いているな。何も知らなかったんだから不思議なことでもないか。アーネチカは私の妻、ローレスは私とアーネチカの子供だ」

 レイスが、ローレスが、こいつの子供?

 いや、いや……。この男にはローザベッラ・ブレイブと言う妻がいる。そして、その子供が、現在生死も行方もわからないロンテ・ブレイブのはず。

 ……いや、この世界が一部を除いて、理解しがたいが重婚は合法だ。

 それに権力者が愛人を作るのも珍しくはないらしい。本当に理解しがたい。

 まあ、御家断絶を避けるための策なんだろうけど……。

 どっちが先かは知らないが、ローザベッラ・ブレイブとアーネチカさんが、この男に嫁入りした。

 ロンテ・ブレイブとレイスが産まれて……。“連れ戻す”と言ってる辺り、なにかがあったのかは知らないがレイス親子が出ていった。

 そして姿を隠し続け、今に至る。

「なるほど、ずっと不思議だったんだ。平民で、素行が悪いわけでも、それ以外に目をつけられるようそなんて、ほぼ無いレイスにアンタから手紙が届いて、その手紙を読んだあと怯えていたことも、急いでアーネチカさんに手紙を送ったことも、アーネチカさんがいなくなって家が荒らされていたことも、それを知ってレイスが学校を飛び出していったのも!」

 怪しさはあったが、確実な証拠はなかった。

 だから今まで疑惑だったが、ここで本人が自白してくれるとはな……。

「やっぱり、アンタが原因がったんだな」

「失礼だな。別に私が悪いわけでもないだろう。アーネチカをお放置しすぎた結果だ。そのせいで十四年前に出ていかれてしまった」

 はっ!よく言う。どうせ、ろくでもない理由だろうに。

「どうとでも言える」

「それも、そうだな。だが、あの二人には私の元に戻ってきてもらう。何があってもな」

 ……この手の人間は嫌いだ。気持ち悪い。

「さぁ、私の目的については、これで良いだろう?そのテーブルクロスのそれは魔法封じの効果を持つ魔方陣だ。だから、いくら魔法が得意で肉弾戦が苦手な君は簡単に脱出できないだろう。それに、外から魔法をかける予定だからな」

 魔法が得意で肉弾戦が苦手とばれたのは、パーティーの襲撃が原因か……。めんどくさい。

「君と一緒にいた少女が来なくてよかったよ」

 ……確かに、戌井なら扉を簡単に破れそうだ。

「動揺しないんだね?」

「わかってたことだからな」

「そうか。君は利口だな」

「アンタに褒められたって嬉しくもない」

「はは、毒舌だな」

 抵抗もしない僕に、ローシュテール・ブレイブは満足そうに頷き、背を向ける。

「それから一つ、私はアーネチカがいなくなったことに関与していないよ」

 それだけ言い残すと、扉を閉めて向こう側から魔法をかけ、何処かに行った。

「アーネチカさんはローシュテール・ブレイブは関与していない?」

 そういえば最初の方に偽装工作と言っていたな。

 強盗かなにかに襲われたのか、それともローシュテール・ブレイブの言う通りに偽装工作をして何処かに隠れているのか……。

 レイス親子が行方をくらませている現状、どうやって僕を使うつもりなのか気になるが、今は大人しくしておくしかないか。

 さて、ローシュテール・ブレイブがレイス親子の元にくのが早いか、僕の仕掛けが発動するのが先か。

 どっちだろうな?
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