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恐るべき執着心

98 案内猫

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カルタ視点

戌井が買い物をしてくると行って出ていってから一時間近くがたった。

 すぐに帰ると言ったこと、実際戌井の目的の店からメルリス魔法学校はそこまで遠くないこと、それを考えると遅い。

 ファーレンテインは心配になったらしく、図書室で本を読んでいた僕のところにやってきた。

「戌井が帰ってこない?」

「そうなんですの」

 別に戌井は用事でもないんだし、たかだか帰りが遅くなった程度でなんでそんなに騒ぎ立てているんだか……。

「どうせ手芸屋に入り浸っているんだろう。それか猫にかまっていて時間に気がついていないかだ」

 どっちもよくあること、日常茶飯事だ。

「う~ん、そうなんでしょうか?なんか胸騒ぎがしますの」

 ファーレンテインの言葉を聞いて何か嫌なものを覚える。

 人魚も獣人も、自然界を生き抜く動物が原種のようなものだ。それに加え、人魚は弱肉強食の世界を生き残る屈強な種族と言っても過言ではない。

 経験則なのか、それとも動物部分の本能なのか。ファーレンテインやミューの予感はよく当たっていた。

 あとは不思議なことに戌井とアルマックの勘も割りと当たる。

 純人間のレイスや僕、ホビットと人のハーフであるアスクスの勘なんて他に比べれば当たらないにも等しいだろう。

「胸騒ぎ、か」

 よく勘を当てるファーレンテインがそう言った。後ろでレイも頷いている。

 なんだか、僕もだんだん不安になってきた。

 換気のために開けられている窓から外を見る。

 曇り空、雪や雨でも降りかねない空模様だ。

 どうしようか……。

 ……確か、戌井の奴は傘持ってなかったはずだ。

「あと少しして帰ってこなければ探しに行けばいい。流石に天気が悪くなってきたなら気がつくだろうからな」

「それもそうですわね。……なんかずぶ濡れになって帰ってきそうですし、用意をして待ってい待っておくとしますわ」

 ファーレンテインの胸騒ぎは気になるが、そう過保護にあることもあるまい。

 どこかで寄り道をしているだけで、そのうちヒョコっと戻ってくるに__

「にゃ~」

 開いていた窓から、猫がスルリと入ってきた。

「あら、猫ちゃん?」

 猫は窓辺で立ち止まると、また「にゃ~」と鳴いた。

 じっと見つめていると窓辺から机の上に移動し、僕の制服の裾を噛んだと思ったらグイグイを引っ張ってきた。

 野良、だろうか?それにしてはずいぶんと人懐っこいな。

「あら、懐かれていますのね」

「いや、初対面なんだが……」

 別に動物に好かれる方でもないし、エサを与えた覚えもない。猫の好く撫で方とか、そう言ったものも一つも知らない。

 そう言うのを知っているのは戌井の方だし、猫に好かれてるのも戌井だ。

 猫、猫……?そういえば、こっちに来て一年もしないうちに猫に案内されて戌井を見つける、なんてことあったな。

「……いや、まさかな」

 あんなファンタジー小説みたいなこと……。

「……」

 そういえば、この世界って魔法や妖精の概念あったな。

 いまだ服の裾を引っ張ってくる猫を見る。

 一向に離そうとしないし、どうにも遊んで欲しいわけではなさそうだ。

 仮に、あの時のように戌井の元に連れていきたがっているのだとして、戌井に何かあったと考えるべきなのだろうか?

 あの時のように、僕は戌井を探してると言うわけでもないのに……。

 あのとき以来、猫に呼ばれるなんてことはなかったから判別が付かない。

 ……なら、聞いてみるのが手っ取り早いか。

「戌井のところに連れていきたいのかい?」

 僕がそう聞いた瞬間、猫は弾かれたかのように顔を上げ窓辺に駆けていく。

「にゃん!」

 窓の枠に乗っかってこちらを振り替える猫は、まるで付いてこいとでも行ってるようだった。

 なるほど、付いていってみるか。

 本を閉じファーレンテインに渡す。

「すまないが、これを片付けておいてくれないか?少し行ってくる」

「え、えぇ。でも、本当にえーちゃんがいるんですか?」

「前に一度同じことがあった。ついていったら本当に戌井がいたから、見に行くだけ行ってみる」

「わかりましたわ」

 窓辺に近づくと猫は外に出ていってしまった。外を覗き込むと、少し離れたところでこちらをみて待っていた。

 やっぱり、どこかに連れていこうとしているようだ。

 窓から出て走っていく猫を追いかけていく。

 猫は焦っているのか、僕がついてきているのを確認はするものの走るスピードは落とすつもりはないらしい。

 道中、捨て置かれた古い箒があったので拝借して箒に乗って追いかけることにした。

 この猫、走っているときよりも箒に乗り出してからの方が走るスピードが早くなっている。

 猫を追い帰ること数分、街に入っていくらかしたところで街が妙に騒がしいことに気がついた。

 視線の先を追ってみると離れたところで白いもやのようなものが広がっているのが見える。

 ボヤ騒ぎが起きたのかと思ったが違うようだ。焦げた匂いもしないし、赤い光も見えない、しかもちらほら聞こえてくる話によれば“道のど真ん中で突如として発生した”ものらしい。

 猫の向かっている方向は煙がもくもくと立ち込めている方向だ。もしかすると、あの煙は戌井が魔方陣で発生させたものなのかもしれない。

 そうやって考えていれば、白い煙の方向から少しずれた。

 路地裏に入り、ジグザグと進んでいく。

 路地裏を進んでいった先、視界に入ったのは足に鎖が巻き付いた戌井が落ちてくるところだった。

 鎖は自力でほどけたらしいが、このままでは頭から落ちてしまう。

 箒のスピードをあげる。

「戌井!」

 戌井は目をつぶって僕のことを認識していないらしい。

 必死に手を伸ばす、あと少し。

 ガシャン!!__

 鎖の落ちる音がした。

 戌井は、僕の腕の中で落下の衝撃を身構えてる。

 肩口を切りつけられて怪我があるが、他に怪我は見受けられない。無事、とはいいがいたが、さほどの怪我がないことにホッと息を吐く。

「うぅ……ん?あれ?篠野部?」

 腕の中に戌井は目をパチクリとさせている。状況が飲み込めていないらしいが、あの状態なら仕方ないだろう。

「今度は一体何に巻き込まれたんだ?」

「ほあ……」

 何をボーッとして……。

「戌井、惚けている暇があるんなら何があったか教えろ」

「はっ……あ、はい。って上!」

 正気に戻った戌井から敬意を聞こうとしたとき、戌井が空を見上げて悲鳴を上げた。

 振り替えると、そこには箒に乗った不審者と僕たちに向かって落ちてくる氷塊があった。

「なっ!?」

 慌てて箒のスピードをあげ、落ちてくる氷塊を避ける。

 落ちた氷塊は地面に当たるとヒビを作り、碎け散る。

 あれに当たっていたらと思うと背筋がヒヤリとする。

「し、篠野部、苦しいよ~」

「あ……」

 氷塊から逃げるのに必死で、振り落とさないように腕に力を入れていたから自然と絞めていたらしい。

 ……小さいな?腕の中にすっぽりと収まるサイズだ。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 今は現状把握、そして迎撃か逃げることだ。

「すまん。で、あれはなんなんだ?」

「わ、わかんないよ。帰り道に人気がなくなったと思ったら行きなり襲われて……」

 人気がないところを狙ってる当たり、計画を練ってる可能性が高いな。

「剣持ってる奴と鉄パイプと、あと魔導師の三人。魔導師は今追いかけてきてるから、他の二人は屋根の上にいるのかも」

「三人組か」

 多対一を押し付けてくる当たり、一対一では勝てないと思ってるのか?

 後ろには執着に追いかけてくる魔導師がいる。
 
 魔法を打ってくるが、今のところはなんとか避けられているのは幸いだ。

 箒でのチェイスが始まって数分、狭い路地を箒で駆けるのは難しく、何度も曲がり損ねそうになった。

 これなら高度を上げてしまった方がいいか。

「戌井、高度をあげるから、しっかり掴まっていろ」

「う、うん」

 高度を上げて屋根よりも高いところに行こうとした。

 ふと横を見ると、屋根の上で弓矢を構えている襲撃者がいた。

「っ!」
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