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蛇令嬢
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また場所は変わってベイベルツ邸。
ベイベルツ邸の中庭ではゆったり、だが異様な光景のお茶会が開かれていた。
マーマリアの隣で襲撃犯がふぬけた顔をして地面に座り込んでいるのだ。
もちろん訳を知らない周囲は困惑、使用人達が魔導警察や憲兵を呼びに行こうとしたがララがそれを制止した。
だってもう既に向かってきているのだから。
「ふぅ、いやはや迂闊に私の誘いにのって人質を変えてくれてよかったわ」
やってきた襲撃犯、当初は一番非力そうなララを人質にとっていたがマーマリアが交渉したことで人質をララからマーマリアに変えたのだ。
マーマリアに触れた襲撃犯は一気に戦意を失くしふぬけた顔で座り込んだ。
これはマーマリアの自己魔法、触れた相手のみではあるが戦意喪失させる魔法だ。制約はある、だが条件をクリアしてしまえば強い。
「自分達いらなかっただろ……」
「たぶん向こうも同じこと思ってそうですわ。傀儡魔法発動してから屋敷に入りましたけど、これも余り意味はありませんでしたね」
「はぁ、アタシが一番弱そうなのね。いてもいなくても関係なのも、知ってたわ、知ってたわよ……」
落ち込みようがすごいララと険しい顔のカリヤを覗いて三人の視線はマーマリアに側でふむけている襲撃犯に向かっていた。今は仮面を外され花を見て笑顔になっている。
「……襲撃犯が来た方向、お婆様のお部屋がある方向でしたわ」
カリヤが言葉をこぼした。
「そ、そうです!大奥様が向こうに、早く行かなければ!」
「いいえ、私たちが行きます」
カリヤはメイドの言葉をキッパリと断る。
深呼吸したカリヤは覚悟を決め、ふむけになった襲撃犯を縛り上げるように言うと祖母の部屋に向かった。
屋敷野中はさっきの出来事で上から下への大騒ぎになっている。何度も使用人達に止められたがカリヤは祖母の部屋の前に立っていた。
「……私が入ります。皆さんは後ろに」
「身内にも容赦がないようですけど、大丈夫なんですか?」
「何かあったときは、自力でどうにかしますわ。私、お婆様とお話ししたいんです」
しっかりと覚悟は決まっているようだ。
カリヤはゆっくりと部屋の扉を開けた。
そこには椅子に座っている祖母と冒険者__いや、襲撃犯のリーダーがいた。
「……よお?やりやがったな?お前らのせいで色々とお釈迦になっちまったぜ!お前らの首でチャラにしてやるから差し出せよ!」
襲撃犯は腰に下げている剣に手を掛ける。
「多少の屋敷の破壊は構いません」
カリヤは一言残すと、まっすぐに祖母のもとに向かっていく。
あんに祖母と二人にしてほしいと言っていた。
「無視してんじゃねえぞ!」
襲撃犯はカリヤが無視したことに腹を立て、剣を抜いて切りかかる。
その間に人形が入り込んだ。メメがベイベルツ邸にはいる前に発動させていた傀儡魔法だ。
「なっ!?」
行きなり飛び込んできた人形に驚いた襲撃犯の動きが鈍る。それをヘラクレスに鍛えられているララが見逃すわけもなく人形越しに蹴りを入れる。
襲撃犯が怯むとマーマリアが追撃する。
「“ウォーターボール”」
詠唱を簡略化した魔法で作り出した水球で襲撃犯を屋敷の外に叩き出した。
落下していく襲撃犯は体勢を立て直して、逃げようとするが襲撃犯と一緒に落ちてきた人形は浮き上がり回り込む。そして巨大化してメメ、ララ、ナーズビアを受け止めた。
「観念してくださいまし」
「お前らのせいで国際指名手配になんだ、嫌だね!」
交渉決裂。
メメの人形達が遠慮無しに腹を抱えた襲撃犯に襲いかかる。
剣を振るうもふわふわモコモコの物体はうまいこと避ける。無視してメメ達に切りかかろうとしても逃げようとしても物量で妨害してくるのだ。
「鬱陶しい!!!」
襲撃犯が余裕なさげに叫ぶ。
襲撃犯が人形の相手をしてる間にララとナーズビアの魔法詠唱は終わっていた
「スタン」
「ウォーターボール!」
「アイス!」
その瞬間、人形達は退いた。
襲撃犯は、その好きに逃げようとしたが屋敷の中からマーマリアが放った魔法が襲撃犯の動きを止め、ララが放った大きな水球が襲撃犯に当たり、次いでナーズビアの氷魔法が当たり襲撃犯は氷の牢獄に閉じ込められた。
「先生ナイスですわ~」
「ふう、上手くいったわね」
「……誰も怪我はしてないか」
ベイベルツ邸の襲撃犯と、そのリーダーは制圧した。
次は協力者、カリヤの祖母だ。
カリヤとカリヤの祖母は真正面から向き合っていた。
マーマリアは生徒達の援護をし襲撃犯が氷付けになったのを確認して、少しはなれた場所で二人のやり取りを見ることにした。
カリヤはマーマリアに視線を向ける。二人にしてくれないか、そう言いたいのだろうが仮にも人身売買に手を貸していた可能性がある者と二人きりになどさせられなかったマーマリアは首を横にふった。
マーマリアの反応を見たカリヤは悩むも、仕方がないとわりきる。
再び祖母に向き直り、口を開く。
「お婆様、いくつか質問があります」
カリヤの祖母は何も言わず、まっすぐにカリヤを見つめる。その目は酷く濁っていた。
「人身売買に手を貸していたと言うのは事実でしょうか」
「えぇ」
言い訳するでもなく、黙るでもなく、肯定されてしまった。
「っ!……なぜですか!」
「憎いからです」
「……は?」
「平民が、憎いからです。私の夫を横取りしようとして、挙げ句手に入らないからと殺した平民が憎いからです」
その声に抑揚はない。淡々と事実を告げているだけだ。
カリヤは両親から祖母が心を壊し、貴族主義者過激派になった理由を聞いていた。
始まりは祖父の浮気、相手は飲み屋の娘であった。祖父は遊びだったのだろう、だが浮気相手は違った。本気であったし、玉の輿を望んでいたが祖父に捨てられたことにより恨みをつのらせ刺殺した。祖母と二人の子供の前でだ。
「貴女が手を貸している者達も平民でしたが?」
「えぇ、ですから、ほどほどに利用して切り捨てようと思っていました。まぁ、まさか孫に潰されるとは思っていませんでしたがね」
「……憎いからと、無関係なものまで手を出すのですか?」
「無関係?同じ平民ではないですか。無関係ではありません」
「……何を、言っているんですか?」
「カリヤこそ何を言っているのです?」
祖母の言動に言葉がつまりそうになる。
「お、お兄様だって、巻き込まれたのですよ?」
「ネレーオが?そんな話、聞いていないのだけれど……」
「仕事先で、彼らに出会い、彼らの犯した罪を知った。お兄様は領民が無垢な民がこれ以上被害に会わないようにと、お兄様は証拠を私に送りました。離脱したあとに、捕えられるようにと」
私も危険な目に遭ってはいたが、それは私の自業自得だ。
「あら、そう」
「……それ以外に、何かないのですか?」
「ないですわ。だってあの子、私がいくら言っても平民との関わりを失くそうとしないんだもの。仕事上、必要な関わりがあると言うのはわかりますけど、友人なんて論外、痛い目を見たら目が覚めるわ。死んではいないのでしょう?」
「……ダンジョンの中に置いていかれたと、聞いてます」
「そう、なら死なないわね。あの子、強いもの」
カリヤは絶句した。話が通じない、少し前の自分よりも酷い。
祖母が心を壊したと聞いてはいたが、今日に至るまでのカリヤは到底そうは思えなかった。だが、今になってわかったのだ。
もう祖母には分別ができないのだ、祖父を殺した娘と他の平民との違いがわからない。
「カリヤ、貴女も平民を友人とするなどやめなさい。世界が違うもの」
頭がいたい。
すむ世界が違う、メルリス魔法学校のようなと頃がなければ友人関係にだってそうそうなれない。それはわかっている。
爵位がある限り、常に対等になんてなれない。
わかっている、知っている。
だけど、祖母のこれは違う。
領地を、民を守るべき貴族がすることではない!
感情がぐちゃぐちゃになる。
私は、どうすればいい?
カリヤの肩に手が置かれる。父だった。
父と少し後ろにいる母は悲痛な表情だった。やってきた魔導警察や憲兵から話は聞いたのだろう。
カリヤはふらふらとした足取りで母の元へ行く。優しく、抱き締められた。
祖母はカリヤやネレーオに優しかった。
だけど現実は違う。濁った祖母の瞳は孫であるカリヤやネレーオすらうつっていなかった。祖母は、過去に復讐に囚われた鬼になってしまった。
後始末の話をしよう。
透明化の魔法を使った襲撃犯は証拠を持ち逃げして、事件をなかったことにしようとした。
だが永華が決闘でも使った魔眼の再現で見つけて、自己魔法で透明化していたカルタによって色水をかけられヘラクレスに拘束された。
レーピオ達のもとに現れた襲撃犯はジャーニーの自己魔法により現れた直後に拘束、デーヒルの情報を流していた協力者もベイノットによって無力化。
ベイベルツ邸に現れた襲撃犯はマーマリアにより無力化、リーダーは学生達により拘束。協力者であったカリヤの祖母は魔導警察に逮捕された。
ネレーオの集めた証拠をアスクス家の者が秘密裏に国の重役に報告、ネレーオ自身の証言もあって言い逃れができず犯人達も逮捕。
犯人達が隣国の公認冒険者であったことで少し揉めたが、判決や処罰はメルトポリア王国で行われることになった。
隣国は誠心誠意対応したことからメルトポリア王国との関係はさほど悪化しなかった。たが、当分頭は上がらないだろうし、要求も断れないだろう。
カリヤの祖母と犯人達も牢獄に入れられることになり、そのうち判決が下り処罰されるだろう。
ベイベルツ家はネレーオやカリヤが事態を解決しようと動いたこともあり、祖母の単独犯と見なされさほど重たい罰は下らなかった。むしろ、ネレーオやカリヤは称賛され、怪我や精神状態を心配されたくらいだ。
この一件に協力したアスクス家、ファーレンテイン家、メルリス魔法学校は褒美が渡された。
それは今回、手を貸した教員と生徒達にもだ。ただ揃って名前が表に出ることを嫌がったから、その名前が表沙汰になることはなかった。
まぁ、少し前の決闘や問題解決にあたって永華達は公欠という扱いになっていたので察していた者はいただろう。
被害者達は全て見つかったわけではないが、奇跡的に多くの被害者が家に帰れたと言う。
そしてネレーオの怪我についてだが呪いを受けてしまった足は呪いの影響が残っており、長期間の治療が必要らしい。
三週間近く放置していたことが原因だというがネレーオは呪いを解けないので仕方ないと割りきっていた。
それからカリヤだが、よほど祖母のことが堪えたのか酷く沈んでいた。
ベイベルツ邸の中庭ではゆったり、だが異様な光景のお茶会が開かれていた。
マーマリアの隣で襲撃犯がふぬけた顔をして地面に座り込んでいるのだ。
もちろん訳を知らない周囲は困惑、使用人達が魔導警察や憲兵を呼びに行こうとしたがララがそれを制止した。
だってもう既に向かってきているのだから。
「ふぅ、いやはや迂闊に私の誘いにのって人質を変えてくれてよかったわ」
やってきた襲撃犯、当初は一番非力そうなララを人質にとっていたがマーマリアが交渉したことで人質をララからマーマリアに変えたのだ。
マーマリアに触れた襲撃犯は一気に戦意を失くしふぬけた顔で座り込んだ。
これはマーマリアの自己魔法、触れた相手のみではあるが戦意喪失させる魔法だ。制約はある、だが条件をクリアしてしまえば強い。
「自分達いらなかっただろ……」
「たぶん向こうも同じこと思ってそうですわ。傀儡魔法発動してから屋敷に入りましたけど、これも余り意味はありませんでしたね」
「はぁ、アタシが一番弱そうなのね。いてもいなくても関係なのも、知ってたわ、知ってたわよ……」
落ち込みようがすごいララと険しい顔のカリヤを覗いて三人の視線はマーマリアに側でふむけている襲撃犯に向かっていた。今は仮面を外され花を見て笑顔になっている。
「……襲撃犯が来た方向、お婆様のお部屋がある方向でしたわ」
カリヤが言葉をこぼした。
「そ、そうです!大奥様が向こうに、早く行かなければ!」
「いいえ、私たちが行きます」
カリヤはメイドの言葉をキッパリと断る。
深呼吸したカリヤは覚悟を決め、ふむけになった襲撃犯を縛り上げるように言うと祖母の部屋に向かった。
屋敷野中はさっきの出来事で上から下への大騒ぎになっている。何度も使用人達に止められたがカリヤは祖母の部屋の前に立っていた。
「……私が入ります。皆さんは後ろに」
「身内にも容赦がないようですけど、大丈夫なんですか?」
「何かあったときは、自力でどうにかしますわ。私、お婆様とお話ししたいんです」
しっかりと覚悟は決まっているようだ。
カリヤはゆっくりと部屋の扉を開けた。
そこには椅子に座っている祖母と冒険者__いや、襲撃犯のリーダーがいた。
「……よお?やりやがったな?お前らのせいで色々とお釈迦になっちまったぜ!お前らの首でチャラにしてやるから差し出せよ!」
襲撃犯は腰に下げている剣に手を掛ける。
「多少の屋敷の破壊は構いません」
カリヤは一言残すと、まっすぐに祖母のもとに向かっていく。
あんに祖母と二人にしてほしいと言っていた。
「無視してんじゃねえぞ!」
襲撃犯はカリヤが無視したことに腹を立て、剣を抜いて切りかかる。
その間に人形が入り込んだ。メメがベイベルツ邸にはいる前に発動させていた傀儡魔法だ。
「なっ!?」
行きなり飛び込んできた人形に驚いた襲撃犯の動きが鈍る。それをヘラクレスに鍛えられているララが見逃すわけもなく人形越しに蹴りを入れる。
襲撃犯が怯むとマーマリアが追撃する。
「“ウォーターボール”」
詠唱を簡略化した魔法で作り出した水球で襲撃犯を屋敷の外に叩き出した。
落下していく襲撃犯は体勢を立て直して、逃げようとするが襲撃犯と一緒に落ちてきた人形は浮き上がり回り込む。そして巨大化してメメ、ララ、ナーズビアを受け止めた。
「観念してくださいまし」
「お前らのせいで国際指名手配になんだ、嫌だね!」
交渉決裂。
メメの人形達が遠慮無しに腹を抱えた襲撃犯に襲いかかる。
剣を振るうもふわふわモコモコの物体はうまいこと避ける。無視してメメ達に切りかかろうとしても逃げようとしても物量で妨害してくるのだ。
「鬱陶しい!!!」
襲撃犯が余裕なさげに叫ぶ。
襲撃犯が人形の相手をしてる間にララとナーズビアの魔法詠唱は終わっていた
「スタン」
「ウォーターボール!」
「アイス!」
その瞬間、人形達は退いた。
襲撃犯は、その好きに逃げようとしたが屋敷の中からマーマリアが放った魔法が襲撃犯の動きを止め、ララが放った大きな水球が襲撃犯に当たり、次いでナーズビアの氷魔法が当たり襲撃犯は氷の牢獄に閉じ込められた。
「先生ナイスですわ~」
「ふう、上手くいったわね」
「……誰も怪我はしてないか」
ベイベルツ邸の襲撃犯と、そのリーダーは制圧した。
次は協力者、カリヤの祖母だ。
カリヤとカリヤの祖母は真正面から向き合っていた。
マーマリアは生徒達の援護をし襲撃犯が氷付けになったのを確認して、少しはなれた場所で二人のやり取りを見ることにした。
カリヤはマーマリアに視線を向ける。二人にしてくれないか、そう言いたいのだろうが仮にも人身売買に手を貸していた可能性がある者と二人きりになどさせられなかったマーマリアは首を横にふった。
マーマリアの反応を見たカリヤは悩むも、仕方がないとわりきる。
再び祖母に向き直り、口を開く。
「お婆様、いくつか質問があります」
カリヤの祖母は何も言わず、まっすぐにカリヤを見つめる。その目は酷く濁っていた。
「人身売買に手を貸していたと言うのは事実でしょうか」
「えぇ」
言い訳するでもなく、黙るでもなく、肯定されてしまった。
「っ!……なぜですか!」
「憎いからです」
「……は?」
「平民が、憎いからです。私の夫を横取りしようとして、挙げ句手に入らないからと殺した平民が憎いからです」
その声に抑揚はない。淡々と事実を告げているだけだ。
カリヤは両親から祖母が心を壊し、貴族主義者過激派になった理由を聞いていた。
始まりは祖父の浮気、相手は飲み屋の娘であった。祖父は遊びだったのだろう、だが浮気相手は違った。本気であったし、玉の輿を望んでいたが祖父に捨てられたことにより恨みをつのらせ刺殺した。祖母と二人の子供の前でだ。
「貴女が手を貸している者達も平民でしたが?」
「えぇ、ですから、ほどほどに利用して切り捨てようと思っていました。まぁ、まさか孫に潰されるとは思っていませんでしたがね」
「……憎いからと、無関係なものまで手を出すのですか?」
「無関係?同じ平民ではないですか。無関係ではありません」
「……何を、言っているんですか?」
「カリヤこそ何を言っているのです?」
祖母の言動に言葉がつまりそうになる。
「お、お兄様だって、巻き込まれたのですよ?」
「ネレーオが?そんな話、聞いていないのだけれど……」
「仕事先で、彼らに出会い、彼らの犯した罪を知った。お兄様は領民が無垢な民がこれ以上被害に会わないようにと、お兄様は証拠を私に送りました。離脱したあとに、捕えられるようにと」
私も危険な目に遭ってはいたが、それは私の自業自得だ。
「あら、そう」
「……それ以外に、何かないのですか?」
「ないですわ。だってあの子、私がいくら言っても平民との関わりを失くそうとしないんだもの。仕事上、必要な関わりがあると言うのはわかりますけど、友人なんて論外、痛い目を見たら目が覚めるわ。死んではいないのでしょう?」
「……ダンジョンの中に置いていかれたと、聞いてます」
「そう、なら死なないわね。あの子、強いもの」
カリヤは絶句した。話が通じない、少し前の自分よりも酷い。
祖母が心を壊したと聞いてはいたが、今日に至るまでのカリヤは到底そうは思えなかった。だが、今になってわかったのだ。
もう祖母には分別ができないのだ、祖父を殺した娘と他の平民との違いがわからない。
「カリヤ、貴女も平民を友人とするなどやめなさい。世界が違うもの」
頭がいたい。
すむ世界が違う、メルリス魔法学校のようなと頃がなければ友人関係にだってそうそうなれない。それはわかっている。
爵位がある限り、常に対等になんてなれない。
わかっている、知っている。
だけど、祖母のこれは違う。
領地を、民を守るべき貴族がすることではない!
感情がぐちゃぐちゃになる。
私は、どうすればいい?
カリヤの肩に手が置かれる。父だった。
父と少し後ろにいる母は悲痛な表情だった。やってきた魔導警察や憲兵から話は聞いたのだろう。
カリヤはふらふらとした足取りで母の元へ行く。優しく、抱き締められた。
祖母はカリヤやネレーオに優しかった。
だけど現実は違う。濁った祖母の瞳は孫であるカリヤやネレーオすらうつっていなかった。祖母は、過去に復讐に囚われた鬼になってしまった。
後始末の話をしよう。
透明化の魔法を使った襲撃犯は証拠を持ち逃げして、事件をなかったことにしようとした。
だが永華が決闘でも使った魔眼の再現で見つけて、自己魔法で透明化していたカルタによって色水をかけられヘラクレスに拘束された。
レーピオ達のもとに現れた襲撃犯はジャーニーの自己魔法により現れた直後に拘束、デーヒルの情報を流していた協力者もベイノットによって無力化。
ベイベルツ邸に現れた襲撃犯はマーマリアにより無力化、リーダーは学生達により拘束。協力者であったカリヤの祖母は魔導警察に逮捕された。
ネレーオの集めた証拠をアスクス家の者が秘密裏に国の重役に報告、ネレーオ自身の証言もあって言い逃れができず犯人達も逮捕。
犯人達が隣国の公認冒険者であったことで少し揉めたが、判決や処罰はメルトポリア王国で行われることになった。
隣国は誠心誠意対応したことからメルトポリア王国との関係はさほど悪化しなかった。たが、当分頭は上がらないだろうし、要求も断れないだろう。
カリヤの祖母と犯人達も牢獄に入れられることになり、そのうち判決が下り処罰されるだろう。
ベイベルツ家はネレーオやカリヤが事態を解決しようと動いたこともあり、祖母の単独犯と見なされさほど重たい罰は下らなかった。むしろ、ネレーオやカリヤは称賛され、怪我や精神状態を心配されたくらいだ。
この一件に協力したアスクス家、ファーレンテイン家、メルリス魔法学校は褒美が渡された。
それは今回、手を貸した教員と生徒達にもだ。ただ揃って名前が表に出ることを嫌がったから、その名前が表沙汰になることはなかった。
まぁ、少し前の決闘や問題解決にあたって永華達は公欠という扱いになっていたので察していた者はいただろう。
被害者達は全て見つかったわけではないが、奇跡的に多くの被害者が家に帰れたと言う。
そしてネレーオの怪我についてだが呪いを受けてしまった足は呪いの影響が残っており、長期間の治療が必要らしい。
三週間近く放置していたことが原因だというがネレーオは呪いを解けないので仕方ないと割りきっていた。
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