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蛇令嬢

86 本当に貴族?

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出現した通路は高原となるものは存在しておらず、暗闇に包まれていた。

 カルタが自己魔法で小さい光の玉を作り指し先行させていく、通路は自然とできたものを改造したものだろうか。岩は剥き出し、階段になって入るもののがたつきが酷い。

 もはや洞窟も同然だ。

 ただ、この通路にも黒い汚れが続いている。

 ……まぁ、今までごまかし気味だったけどいたが。これは多分、古くなった血だろう。

 見る限りは安全そうと言うことで、全員で進むことになった。カルタは光源要員に名乗り出たが魔力を温存すべきとの意見があり見送りになった。

 松明を思ったヘラクレスが先頭にビーグル、カルタ、ミュー、永華、ローレス、ザベルの順番で降りていく。

 天井からは水が滴り落ちており、それが私たちを除いて唯一の音の発生源だ。

 水に足を滑らせ転倒しそうになるというトラブルはあったものの、それ以外は特に何もなく無事に広い場所に出れた。

「……生活感が、ある」

 たどり着いたのはダンジョンの中とは相違ないもので、モンスター達がいそうなものだが……全く見当たらない。

 それどころか、さっきまで火がついていたであろう焚き火の跡や隅にやられた煤のついた貝殻と魚の骨、それから寝床と思われるものがあった。

 壁には日数を刻んだであろう痕跡があった。その隣には懐中時計が吊るされている。

 圧倒的な生活感、間違いなく人が住んでいるといえるものだった。

 間違いなく、“誰か”がここにいる。全員が確信した。

 その“誰か”が誰なのかは現状わからない。

 だが壁に刻まれた日数とネレーオがダンジョンに置いてかれた日数が一致するのだ。

 ここにネレーオがいる確率は圧倒的に高い。

 寝床子にしているここにいないとなると、この空間から連なっている三つの空間の内どこかにいるんだろ__

「ネレーオ!!!!」

「ちょっと先輩!?」

 ビーグルがいきなり叫んだ。

「いるんだろ!?出てきやがれ!」

 ローレスの驚愕の声を無視して更に叫ぶ。ネレーオがここにいると確信しているらしい。

「そこの懐中時計でバレてんだよ!」

 ビーグルが指差す懐中時計、壁に吊るされているものだった。

 ザベルがそれに近づき蓋を閉じる。

 そこにはベイベルツ家の紋が入っていた。

「……本物ですね。仮に偽物であったとして、ここに住む人物が持つ理由はありませんし、貴族御用達の職人が作っている代物で見分けがつくようになってます」

 貴族御用達の職人すごいな。

 ビーグルの行動に驚いていた永華の思考は単調なものになっていた。

 コツ、ズル……、コツ、ズル……__

 少しおかしい足音を聞いてすぐに正気を取り戻し、ビーグル越しに通路の先をみる。

 永華は腰にぶら下げている木刀にてをかける。回りにいるもの達も獲物に手をかけ、ビーグルだけが仁王立ちだった。

「……ビーグル?ビーグルか!」

 暗い通路から出てきたのは少々野性的になっている推定成人男性だった。さっきの何か引きずるような音は足を怪我していて引きずっていたからのようだ。

「やっぱり生きてたなぁ!」

 ビーグルとネレーオは仲がいいらしく、再会のハグをしてネレーオはビーグルに背中をバンバンと叩かれ痛そうだが、それ以上に再会できたことが嬉しそうだ。

 今までの経験からほぼ死んでいると思っていたヘラクレスは唖然としている。

 半信半疑になっていたメンバーは安堵の表情を浮かべている。

 流石、ドラゴンに追いかけられても軽い傷程度で帰ってきた人だ。

「何とか生き残ろうとして、ここ見つけて正解だった!まさかお前が迎えに来てくれるなんて驚いたよ」

 必死で入るためのパズルをとき、たまたまできていた空間であった泉に生息していた魚や貝を食べて生き延びていたらしい。

 たまたま空間を見つけて、その空間で三週間近く生き残り永華達に見つけられる。

 ネレーオ、彼は生き残ることに対しては天賦の才能でもあるのか。野性味的に全く貴族とは思えない。

 何も知らないものがみると本当に貴族か疑うだろう。

「しかたねえだろ?カリヤは監視されてっし、他の家族はなにも知らねえ。顔知ってて協力できるやつは俺くらいしかいなかったんだよ」

「消去法?」

「まさか、自分の意思だ」

 ビーグルは当初、カリヤ達の近くにいる方がいいのではないか。幼馴染みであるビーグルが近くにいるというのは不自然ではなく、何かあれば守れるのではないかと考えられていた。

 だがよくよく考えてみればダンジョンに来ているメンバーの全員がネレーオの顔を知らない。写真を取り寄せようものの不審がられてはならないと却下、カリヤは監視がついているので却下、他にネレーオを知っているといえば?ビーグルである。

 本人がこう主張して今の編成に至った。

「少しいいですか?」

「えぇっと、何ですか?」

「私はメルリス魔法学校で教師をしているザベル・イービスです。その足の怪我、刃物で刺されたものとお見受けしますが何時のものなんですか?」

「あぁ、これ……。ダンジョンに置いていかれたときのものですよ」

 ネレーオ曰く、使われた刃物には呪いがかかっており、解呪されるまで怪我が治らないものらしい。

 それがあったから、今まで動くにも動けず生き延びることしかできなかっただ。

「そういうことでしたか」

「えぇ。……後ろにいるのはヘラクレス様ですよね?あとの子は学生で……なんでここに?」

 疑問を説明するとネレーオは頭を抱え、妹がすまないと謝ってきた。

 それからネレーオは怪我のこともありビーグルが背負ってダンジョンを脱出することになった。

 ビーグルとネレーオ以外は入ってきたときと同じ順番でそとに続く通路をたどっていく。二人は真ん中に配置された。

 また吸虫が集まっていてはかないわないと言った永華の提案もあり、そとに出る前に虫除けを炊いて出る。

 外には何もいなかった。

 血によって来るはずの吸虫も、そこら辺を歩いてるモンスターも、何もいないのだ。

「何?なんで何もいないの?」

「別の人が来たからそっちに行った、とか?」

「そのわりには戦闘音が聞こえないな」

「こわ……」

 まさしく嵐の前の静けさ。

 何もないことに警戒心を抱き、それぞれ獲物に手をかけて進んでいく。

 下階層に続く階段に行ったとき、静かだった理由がわかった。

「な、んだこりゃ」

「モンスターの大群?」

 恐らく、この階層にいるであろうモンスターが大集合していたのだ。いや、もっといるのではないだろうか?もしや下階からもきてる?

「……先生、魔獣寄せ独特の匂いがします。後ろからついてきたやつ、放置していてよかったんですか?」

 魔獣寄せ、呼んで字のごとく。独特な匂いがあるが薄いので獣人じゃないとわからない者の方が多い。

 そして後ろからつい来てきたもの。ダンジョンに入った当初からついてきていた、恐らくは例の冒険者パーティーの誰かだろう。

「構いません。むしろ一ヶ所に集めてくれてありがたいくらいです」

 杖を構えたザベルは一言。

「“ヘルフレア”」

 一瞬にせいて生成されるザベルの背丈ほどもある火球、火球は動き出すモンスター達をとらえ次の瞬間には爆音と共に消し炭にしていた。

「……流石」

 モンスター達がいた付近は煤に汚れているが原型をとどめている。

 さも何もありませんでしたといった態度でスタスタと進んでいくとザベルを生徒達とヘラクレスは追いかけた。
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