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魔法学校入学試験
47 予想外
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メルリス魔法学校教師の誰かの視点
学内にある、広い会議室。
「まだぁ?俺、昨日研究しててろくに寝てないから眠いんだけど。ふぁ~……」
魔法生物および植物学担当教師、ジャーニーベンズー。
「仕方ないでしょう。ヘルさんが由宇太くんのところにいって確認してんですから、それともうちょっとキチッとしてくれないですか?」
魔法薬学担当教師、ニーナ・ヴィジュル。
「こらこら、噛みつかないの。でも、ヘルスティーナさん遅いわね」
魔法倫理学担当教師、マーマリア・マリー・メイズ。
「……」
魔法史担当教師、ザベル・イービズ。
その他数名。
メルリス魔法学校の教師が集まり、“箱庭”の中の映像を魔具で写し出していた。
集まっている理由は言わずもがな、受験生達が“箱庭試験”を受けている様子を見て合否を決めるためだ。
だが集まる予定の教師が一人、遅れており試験を始めるに始められない状態だった。
「すまん!!!」
バン!__
会議室のドアが勢いよく開き、遅れていた教師が入ってきた。
「由宇太に詳しい話を聞きにいっておったら時間がかかってしもうた……」
魔法体育及び魔法保健学担当教師、ヘルスティーナ・バーベイト。
「あら、ヘルスティーナさん。どうでしたか?」
ジャケットを脱いで椅子の背もたれに適当にかけたヘルスティーナは椅子に深く座り、置いていた水をあおってマーマリアの質問に答えた。
「まぁったく駄目じゃ。侵入経路も手段も目的すらわかっとらん」
実は先日、このメルリス魔法学校に一人の侵入者が現れた。
侵入したのは夜中、見回り警備の由宇太と仕事を片付けるため残っていたヘルスティーナの二人だけが目撃者だった。
目撃といってもフードと全身黒い出で立ち、体格を隠すような服装からさほどの情報は得られなかった。
警備の由宇太はすぐに逃げた侵入者を追いかけたものの、煙幕などによる妨害により見失ってしまう。
ヘルスティーナは何か盗まれたものがないか、その場で確認したが特に取られたものはなく何か新しく増えたものもなかった。
おそらく侵入者が触れていたものは受験者名簿であろうと思われる__のだが、そこに名を連ねた生徒が問題だった。
「ジェフ・マッドハッド卿の弟子、二人組。北の三大人魚貴族の一人娘。軍人の娘。悪い噂しか聞かない貴族の嫡男。魔法薬学の権威と名高い家の天才少年。医者として一代で貴族まで上り詰めた過去がある家の息子、その他色々……みごと狙われても可笑しくないメンツなんじゃよなあ」
ヘルスティーナは受験者名簿を見て頭を抱える。
試験の最中に問題でもあったらと思うとため息を吐かずにはいられなかった。被害が貴族の子供にいく可能性を考えると余計に頭がいたくなってきた。
ちなみに永華が書類事が苦手だからとマッドハッド氏を頼った結果、推薦状がだされることになり滅多にないことに事態にメルリス魔法学校の教師達は驚愕し嫌でも永華達の名前と顔を覚えることになっている。
「その紙に書いてるメンツ豪華~」
「茶化さないでください。受験者名簿を見てた可能性があるんですよね?やっぱり試験は延期にした方がよかったんじゃ……」
「試験を中止したところで、また別の場所で狙われてしまいますしあまり変わらないでしょう。いっそのこと私たちで守ればよいのです」
「同感だ」
「それはわしもなんじゃが、目的がわからんのがなあ~……。まあ、うだうだ一途っても始まらんわ。わしらが後手に回っとるのは入られた時点で確定じゃし」
ヘルスティーナは深くため息をついて、切り替える。
「とっとと試験始めて脅威の削除じゃ。よいな?我が校の教師達よ」
会議室に教師達の行程の返事がこだまする。
ヘルスティーナは、この学校の教師で最年長。今、出張でいない校長に変わって教師達をしきる存在である。
「ではザベル、開始の合図を」
「はい。“鳴れ”」
一斉に“箱庭”の中にある時計塔の鐘が鳴り、残り時間を表す時計は反対に動き出す。
ステージは普遍的で邪魔の少ない無人の港町、鬼であるワイバーンは一般人でも死ぬ気で逃げれば生き残れる程度にレベルを落としている。
逃げれる範囲は広大で空を飛ぶにしろ、地上で逃げるにしろ逃げに徹すればバッチを取られることも脱落することもない。もちろん、判断を誤ったりしなければ……だが。
ワイバーンの襲撃に数名の脱落者がでた。今頃、案内人が相手をしているところだろう。
「……あの」
ワイバーンが登場してすぐ、誰かが声をあげた。
「なんか、あの画面のワイバーン、大きくない?」
教師が指差した画面に写るのは永華達、六人がうつるモニターだった。
「む?確かにでかいな」
ワイバーンというにはデカイ、だがドラゴンというには小さい。
調節ミスして大きくしてしまったか。そう考える暇もなく爆炎が永華達六人を襲っていた。
「て言うか、もう既に一人にいなくない?」
「いないのマッドハッド様の弟子の子じゃあ……」
「ふ~ん、マッドハッド様の弟子も全員すごい訳じゃ……あれ?あ、自転車で走ってる」
「確か体質で飛行魔法が受け付けないと推薦状に書いてあったな」
「へえ~……。自転車はそういうこと」
脱落者は次々と出てくる。
そしてふとジャーニーが眉間にシワを寄せ、口を開いた。
「なあ、何で瓦礫が燃えてんだ?あの辺りに火の気はなかっただよな?」
教師達がざわつく。ジャーニーの言葉の答えはすぐに帰ってきた。
「模造品のワイバーンがブレスを吹きました!」
「やっぱ細工されてやがったか!」
「うげぇ!素人がよく避けましたね……」
教師達は慌てて状態の確認をする。ブレスを吐いているワイバーンはたったの一ヶ所だけだった。
数名の教師が慌てて箱庭に入る準備をしだす。
「細工をされたのは試験用の模造品のワイバーンじゃったか……。でも、なぜ?」
この“箱庭試験”で負った傷は箱庭から出た時になかったことにあるはずだ。ブレスを吐くワイバーンがいたところで試験から脱落するだけだ。
「……もしや!」
ガタン!!__
なにかに気がついたヘルスティーナが立ち上がり、座っていた椅子が勢いに負けて倒れた。
「“箱庭”の魔方陣も書き換えられておるまいな!」
弾かれたように教師達が動き出す。
机にある魔方陣の中から一枚の紙を取り出す。
それは永華達、六人がいる箱庭の魔方陣だった。だが、魔方陣には不振な場所は見当たらず、他のものと変わらないように見える。
「かわっとらん……か?」
ヘルスティーナの隣に座っていた獣人族の教師が険しい顔をして魔方陣の書かれた紙を引ったり、鼻に近づけた。
「う゛っ……なにか嫌な薬品の匂いがする!」
「無色透明な液体で細工しおったか。通りで気がつかん訳じゃ!」
「しかも大分近づかないと匂いもわからないぞ」
「急げ!透明な以上、どんな細工がされてるかわからん、傷をなかったことにするための魔方陣が一部でも壊されてみろ。あのワイバーン擬きにやられた子達、皆死んじまう!」
だが永華達の連撃によりワイバーンは地に伏し動かなくなる。
「……質量で押しきったみたいですね」
「あいつら今日あったのが始めてだよな?」
「ふん。ある意味、当たり前ですね」
「シスブラ野郎め……」
安心もつかの間、ワイバーンを倒したはずなのにいつまでたっても六人が箱庭から弾き出されない事態が起こった。
そして、問題はもう一つ__
「ヘルスティーナ様ぁ!」
「なんじゃ!情けない声をだしおって!」
「箱庭に入れませぇん!」
そう告げた教師は、もう泣きそうだった。
「はぁ!?」
「……どう言うことですか?」
「魔力の圧力のせいで扉が開かないんですぅ!内側から押されててぇ……」
室内と室外で気圧の差があると扉が空かない、もしくは開けれはするものの扉は酷く重たい。というのを想像してもらえればわかりやすいだろうか。
「ええい!ぶち壊せ!崩壊に巻き込まれる前に六人のガキンチョを連れ出すぐらい余裕じゃわ!」
「……なに、あれ?」
ジャーニーが静かに呟く。
モニターはさっきまでの荒れた港町をうつしていたのに、今はホワイトアウトしていた。
やがて画面が戻ったかと思うと、下半身に泥のようなものをまとった黒いドラゴンがいた。
「……は?」
ヘルスティーナは、そのドラゴンに覚えがあった。
かつて魔王と共に世界を蹂躙し、数多の国を焼き、屠り、瓦礫に変えた破壊の化身。
サイズは違えども、それは間違いなく悪しきドラゴン、邪龍だった。
「な、んで……?」
なんで、あの龍がここに?
「ふんぬぅ~~!!!!」
「中から圧がかかってるせいで壊れねえ!!!」
「っ!ええい!どかんか!」
なんで細工が邪龍の姿をしているのか、そんな疑問は後回し。
ヘルスティーナは自身に今日か魔法をかけ、物理的に箱庭を壊そうと試みる。
「ひっ……!」
誰かが悲鳴を上げた。紫色のブレスが、受験者達に向かって放たれたときだった。
学内にある、広い会議室。
「まだぁ?俺、昨日研究しててろくに寝てないから眠いんだけど。ふぁ~……」
魔法生物および植物学担当教師、ジャーニーベンズー。
「仕方ないでしょう。ヘルさんが由宇太くんのところにいって確認してんですから、それともうちょっとキチッとしてくれないですか?」
魔法薬学担当教師、ニーナ・ヴィジュル。
「こらこら、噛みつかないの。でも、ヘルスティーナさん遅いわね」
魔法倫理学担当教師、マーマリア・マリー・メイズ。
「……」
魔法史担当教師、ザベル・イービズ。
その他数名。
メルリス魔法学校の教師が集まり、“箱庭”の中の映像を魔具で写し出していた。
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だが集まる予定の教師が一人、遅れており試験を始めるに始められない状態だった。
「すまん!!!」
バン!__
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「由宇太に詳しい話を聞きにいっておったら時間がかかってしもうた……」
魔法体育及び魔法保健学担当教師、ヘルスティーナ・バーベイト。
「あら、ヘルスティーナさん。どうでしたか?」
ジャケットを脱いで椅子の背もたれに適当にかけたヘルスティーナは椅子に深く座り、置いていた水をあおってマーマリアの質問に答えた。
「まぁったく駄目じゃ。侵入経路も手段も目的すらわかっとらん」
実は先日、このメルリス魔法学校に一人の侵入者が現れた。
侵入したのは夜中、見回り警備の由宇太と仕事を片付けるため残っていたヘルスティーナの二人だけが目撃者だった。
目撃といってもフードと全身黒い出で立ち、体格を隠すような服装からさほどの情報は得られなかった。
警備の由宇太はすぐに逃げた侵入者を追いかけたものの、煙幕などによる妨害により見失ってしまう。
ヘルスティーナは何か盗まれたものがないか、その場で確認したが特に取られたものはなく何か新しく増えたものもなかった。
おそらく侵入者が触れていたものは受験者名簿であろうと思われる__のだが、そこに名を連ねた生徒が問題だった。
「ジェフ・マッドハッド卿の弟子、二人組。北の三大人魚貴族の一人娘。軍人の娘。悪い噂しか聞かない貴族の嫡男。魔法薬学の権威と名高い家の天才少年。医者として一代で貴族まで上り詰めた過去がある家の息子、その他色々……みごと狙われても可笑しくないメンツなんじゃよなあ」
ヘルスティーナは受験者名簿を見て頭を抱える。
試験の最中に問題でもあったらと思うとため息を吐かずにはいられなかった。被害が貴族の子供にいく可能性を考えると余計に頭がいたくなってきた。
ちなみに永華が書類事が苦手だからとマッドハッド氏を頼った結果、推薦状がだされることになり滅多にないことに事態にメルリス魔法学校の教師達は驚愕し嫌でも永華達の名前と顔を覚えることになっている。
「その紙に書いてるメンツ豪華~」
「茶化さないでください。受験者名簿を見てた可能性があるんですよね?やっぱり試験は延期にした方がよかったんじゃ……」
「試験を中止したところで、また別の場所で狙われてしまいますしあまり変わらないでしょう。いっそのこと私たちで守ればよいのです」
「同感だ」
「それはわしもなんじゃが、目的がわからんのがなあ~……。まあ、うだうだ一途っても始まらんわ。わしらが後手に回っとるのは入られた時点で確定じゃし」
ヘルスティーナは深くため息をついて、切り替える。
「とっとと試験始めて脅威の削除じゃ。よいな?我が校の教師達よ」
会議室に教師達の行程の返事がこだまする。
ヘルスティーナは、この学校の教師で最年長。今、出張でいない校長に変わって教師達をしきる存在である。
「ではザベル、開始の合図を」
「はい。“鳴れ”」
一斉に“箱庭”の中にある時計塔の鐘が鳴り、残り時間を表す時計は反対に動き出す。
ステージは普遍的で邪魔の少ない無人の港町、鬼であるワイバーンは一般人でも死ぬ気で逃げれば生き残れる程度にレベルを落としている。
逃げれる範囲は広大で空を飛ぶにしろ、地上で逃げるにしろ逃げに徹すればバッチを取られることも脱落することもない。もちろん、判断を誤ったりしなければ……だが。
ワイバーンの襲撃に数名の脱落者がでた。今頃、案内人が相手をしているところだろう。
「……あの」
ワイバーンが登場してすぐ、誰かが声をあげた。
「なんか、あの画面のワイバーン、大きくない?」
教師が指差した画面に写るのは永華達、六人がうつるモニターだった。
「む?確かにでかいな」
ワイバーンというにはデカイ、だがドラゴンというには小さい。
調節ミスして大きくしてしまったか。そう考える暇もなく爆炎が永華達六人を襲っていた。
「て言うか、もう既に一人にいなくない?」
「いないのマッドハッド様の弟子の子じゃあ……」
「ふ~ん、マッドハッド様の弟子も全員すごい訳じゃ……あれ?あ、自転車で走ってる」
「確か体質で飛行魔法が受け付けないと推薦状に書いてあったな」
「へえ~……。自転車はそういうこと」
脱落者は次々と出てくる。
そしてふとジャーニーが眉間にシワを寄せ、口を開いた。
「なあ、何で瓦礫が燃えてんだ?あの辺りに火の気はなかっただよな?」
教師達がざわつく。ジャーニーの言葉の答えはすぐに帰ってきた。
「模造品のワイバーンがブレスを吹きました!」
「やっぱ細工されてやがったか!」
「うげぇ!素人がよく避けましたね……」
教師達は慌てて状態の確認をする。ブレスを吐いているワイバーンはたったの一ヶ所だけだった。
数名の教師が慌てて箱庭に入る準備をしだす。
「細工をされたのは試験用の模造品のワイバーンじゃったか……。でも、なぜ?」
この“箱庭試験”で負った傷は箱庭から出た時になかったことにあるはずだ。ブレスを吐くワイバーンがいたところで試験から脱落するだけだ。
「……もしや!」
ガタン!!__
なにかに気がついたヘルスティーナが立ち上がり、座っていた椅子が勢いに負けて倒れた。
「“箱庭”の魔方陣も書き換えられておるまいな!」
弾かれたように教師達が動き出す。
机にある魔方陣の中から一枚の紙を取り出す。
それは永華達、六人がいる箱庭の魔方陣だった。だが、魔方陣には不振な場所は見当たらず、他のものと変わらないように見える。
「かわっとらん……か?」
ヘルスティーナの隣に座っていた獣人族の教師が険しい顔をして魔方陣の書かれた紙を引ったり、鼻に近づけた。
「う゛っ……なにか嫌な薬品の匂いがする!」
「無色透明な液体で細工しおったか。通りで気がつかん訳じゃ!」
「しかも大分近づかないと匂いもわからないぞ」
「急げ!透明な以上、どんな細工がされてるかわからん、傷をなかったことにするための魔方陣が一部でも壊されてみろ。あのワイバーン擬きにやられた子達、皆死んじまう!」
だが永華達の連撃によりワイバーンは地に伏し動かなくなる。
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「あいつら今日あったのが始めてだよな?」
「ふん。ある意味、当たり前ですね」
「シスブラ野郎め……」
安心もつかの間、ワイバーンを倒したはずなのにいつまでたっても六人が箱庭から弾き出されない事態が起こった。
そして、問題はもう一つ__
「ヘルスティーナ様ぁ!」
「なんじゃ!情けない声をだしおって!」
「箱庭に入れませぇん!」
そう告げた教師は、もう泣きそうだった。
「はぁ!?」
「……どう言うことですか?」
「魔力の圧力のせいで扉が開かないんですぅ!内側から押されててぇ……」
室内と室外で気圧の差があると扉が空かない、もしくは開けれはするものの扉は酷く重たい。というのを想像してもらえればわかりやすいだろうか。
「ええい!ぶち壊せ!崩壊に巻き込まれる前に六人のガキンチョを連れ出すぐらい余裕じゃわ!」
「……なに、あれ?」
ジャーニーが静かに呟く。
モニターはさっきまでの荒れた港町をうつしていたのに、今はホワイトアウトしていた。
やがて画面が戻ったかと思うと、下半身に泥のようなものをまとった黒いドラゴンがいた。
「……は?」
ヘルスティーナは、そのドラゴンに覚えがあった。
かつて魔王と共に世界を蹂躙し、数多の国を焼き、屠り、瓦礫に変えた破壊の化身。
サイズは違えども、それは間違いなく悪しきドラゴン、邪龍だった。
「な、んで……?」
なんで、あの龍がここに?
「ふんぬぅ~~!!!!」
「中から圧がかかってるせいで壊れねえ!!!」
「っ!ええい!どかんか!」
なんで細工が邪龍の姿をしているのか、そんな疑問は後回し。
ヘルスティーナは自身に今日か魔法をかけ、物理的に箱庭を壊そうと試みる。
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