苦手な人と共に異世界に呼ばれたらしいです。……これ、大丈夫?

猪瀬

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魔法学校入学試験

45 別の何か

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永華視点

時間は遡ってワイバーンの襲撃を受けた時。

 ドゴォン!!!!___

 永華は走り出そうとしたところでワイバーンの攻撃の余波で吹き飛ばされ、地面を転がっていた。

 幸いにも火を被ることはなかったが背中と後頭部を強かに打ち付け、視界が揺れた。

「うぐっ…………は?」

 一番最初の脱落者は私だ。そう思って身を固め、目を閉じていたのにワイバーンの追撃はいつまでたってもやってこなかった。

「いったい、何で……」

 空を見上げると、どうにか箒で飛んでい^逃げた五人と、その後ろをついていくワイバーンがいた。

 ああ、運良く目に入らなかったから生きてるのか。

 逃げている五人を横目に、使えもしない箒を背負ったまま何か使えるものはないかと探す。

 見つけたのは古びた自転車だった。幸いにもチェーンなどはかかっていなかったので、急いで股がって海を目指す。

 私の見間違いでなければ、ワイバーンであるはずのあの生物がブレスを、火を吹いていた。

 吐くブレスは属性に応じて異なるものの通常のドラゴンがブレスを吐くならば何らおかしくはない。

 だか、この試験の鬼役である生物は模造品とは言えワイバーン。体の作りの問題でブレスは吐けやしない、体の頑丈さや生命力の強さで冒険者達を苦しませる存在。

 細工がされているかと問われれば、永華はそれを否定するだろう。

 なにせ試験管が“強さを調節している”と、“倒すのは無理難題”ではないと言っていたからだ。

 受験者のほとんどは素人で戦闘経験がほとんどない一般人。一般人が体の頑丈さや生命力の強さで冒険者を苦労させる、しかもブレスを吐けるようなワイバーンを倒せるだろうか?

 答えは否、瞬殺がされるのが落ちである。一般人が。

 あと試験管が嘘をついているのではないかと言う話しも否定する。

 わざわざ嘘を着くメリットはない。卒業試験などの高難易度であるべきものならまだしも、入学者を決める大事な試験で、こんな不意打ちじみた真似をするだろうか?

 答えはこちらも否である。悪評がたちかねないのもそうだが、これでは実力者集団でもなければ正確な実力が図れない。

 何らかの理由でトラブルで調節が失敗したワイバーンの模倣品が試験に使われている。

 ……私の見間違いでなければ。

 これこれが故意でも事故でも、異常事態なのは明白。試験管が気がついて介入してくれると良いんだけど……。

「おーい!!!おーい!!!おーい!!!くっそ!流石に聞こえないか」

 五人にワイバーンが火を吹く事実を伝えなければならないのだが、遥か遠くにいるせいで私の声が聞こえていない。

 私は飛べない。だから近づくにも向こうが低空飛行になったときしか近づけない。

「近づけないんなら、近くでなくても出きることをすれば良いよ、ねっ!」

 立ちこぎの姿勢にかえて、こぐ速度を上げる。坂なのも相まって相当速度が出ているが、そんなのお構いなしだ。

 火を吹くのなら水をぶっかけて鎮火してやる。火の属性もちならどうせ水に弱いでしょ。

 自己魔法を使って魔方陣を作れば後方支援は出きるだろう。

「水……魔法でぶつける?水だって速度で刃物になるんだしいけるかな」

 町が開けて海に浮かぶ船と水平線が視界に入った。

 ……いや、わざわざ魔法で水を生成しなくても目の前に大きな水源があるじゃん。

 その方が速度操作や他のことに割ける要領が増える。

 一生懸命、自転車をこいでいるとら空が暗くなり、雷が落ちた。

「ひっ!な、何で雷!?」

 雷は苦手なんだけどなぁ!!!

 後ろからワイバーンのものであろう悲鳴と大きなものが落ちたような音がした。

 巨体が落ちた影響で起こった揺れに自転車ごと転けそうになる。一瞬ヒヤッとしてがうまいことバランスを取って走り続ける。

 だがすぐに羽ばたくような音が聞こえたところを見るに、あまりダメージにはならなかったようだ。

 必死でこいでいると時計塔が目にはいる。右回りに進むはずの時計の針は反対方向の左回りに進んでいた。

「え……?って、そんなこと気にしてる場合じゃない!」

 波止場が近づいてきたのに気がついて慌ててブレーキをかける。

 止まったところで自転車を乗り捨てて波止場の桟橋へと走る。

「魔方陣、必死に覚えてよかった」

 腰に吊るしているポーチから一番頑丈な糸を取り出し、糸の端をつかんで本体を海に放り込んだ。

 作業している場所は桟橋の下だから見えなくて、少しやりにくいが桟橋の柱を利用して糸を引っ掻けていく。

「早く、ミスしないように……」

 糸に糸をかけて魔方陣の形になるように編む。

 転送魔方陣を土台として速度操作、威力上昇など、その他の魔方陣を盛り込んでいく。

「……これでできてるはず!」

 私の自己魔法で魔方陣を編むことで詠唱を省略するという方法を考え付いたのは、私が自己魔法でドイリーを編み上げたときだった。

 じいさんのもと複数の魔方陣を覚え、練習を重ねてもたつくことなく素早く編み上げられるようになった。

 糸に魔力を流して魔方陣がほどけて崩れないように結んでから、その場を離れようとした。

 桟橋から離れようとしたとき、太陽とは真反対の位置、ワイバーンと五人がいる方向から強い光が発された。

 慌てて振り向くと火のブレスを吹くワイバーンと、それをギリギリで避ける五人がいた。

「やばい!やばい!やばい!」

 乗り捨てた自転車を起こして急いで一番近くにいるベイノットの元までこいでいく。

「おーい!ベイノット!ベイノット!!!」

 二、三度、名前を呼ぶと気がついたようでワイバーンを気にしつつ、こちらによって来てくれた。

「どうした!」

「私乗っけて鬼の方いってくれない?」

「はぁ!?なに言ってんだ!」

「それか指定した場所までおびき寄せてくれても良いんだけど……」

「どっちも無理だ!」

「無理じゃな__あぁあ!!!」

「うお!?」

「篠野部の箒燃えてる!!!」

 ブレスの火が燃え移ったのだろう。箒の穂先が燃え飛行が安定せず、フラフラとしている。それと、だんだんと高度が下がっているようにも見えた。

「あのままじゃ落っこちちまう!」

 危なっかしい飛行にヒヤヒヤしているとカルタの後ろにワイバーンがいた。

「篠野部!!!」

 あと少しで食べられる。そう思ったとき、不安定だった飛行が功を奏したらしくワイバーンに補職される事態は回避できた。

「ベイノット!!連れてって!!篠野部がヤバい!」

 いくら試験とは言え人が死にかけている。しかもこの世界で一番、付き合いが長い篠野部カルタがだ。

 ワイバーンも怖い。だが篠野部が死ぬかもしれない状態におかれることの方が怖かった。

「……あぁ、もう!怪我したって知らねえからなあ!」

「うん!」

 自転車を放り投げてベイノットの箒の後ろに飛び乗り、急いでワイバーンのいる方向へと向かっていく。

 箒で空を飛ぶのは飛行魔法をどうにか習得できないか試行錯誤していた半年まえぶりだ。

 風ではためくスカートが邪魔だ。バサバサと揺れて風に引っ張られ、箒にもベイノットにもベシベシとあたる。

「チッ」

 ポーチからしつけ糸を取り出して適当にスカートの裾上げをする。足首までの長さから膝丈にまで裾を上げた。

 あと少し、あと少しと言うところで篠野部が乗っていた箒が折れた。

「……え?」

「なっ!」

 自分まで空中に放り出されたような気分になる。

 だが視界のはしに全速力でカルタに向かっていくミューが入ったことで持ち直した。

 あの速度ならば、間に合う。んらば、私のするべきことは一つ。ミューがカルタを回収したあと、ワイバーンによる妨害を阻止すること。

「……終わった」

「勝手に終わってンじゃねえぞ!」

 ベイノットは身を乗り出した永華を慌ててかかえて落ちないようにする。逆さに落ちていくカルタと永華の目が合う。すぐにミューが落ちていくカルタをさらっていった。

 すぐに桟橋の下に仕込んだ魔方陣と同じものを速攻で編んでワイバーンの前に展開する。

「ぶっ飛べ!」

 私の目の前で篠野部を食おうとしたこと、後悔しろ。

 糸に魔力を注ぎ、魔方陣を発動させる。魔方陣は永華の魔力の影響か、淡く赤色に輝く。

 魔方陣は海から海水を引っ張り、すさまじい勢いで海水を噴射した。

「流石に初手で水圧カッター並みの威力はでないか……」

 ワイバーンは水圧で押されていき、カルタ達を追うことはできなかった。押され、体制を崩したワイバーンに追撃をかけるように角度と位置をかえて地面に叩きつける。

 一度、水の供給を切り、水圧カッターにも見劣りしない威力にするため水圧を上げる魔法と威力上昇の魔法を増やし魔方陣を書き換える。

 水の刃で固い鱗に破ろうとしたとき、雷撃がワイバーンを直撃した。

「……さっきから何?この雷」

「ローレスの雷魔法だな」

 雷に苦しむワイバーンに、メイメアからの追撃が入った。

 耐久力の限界が来たのか、鱗が割れ骨の折れる音が聞こえる。四肢を暴れさせ、人と変わらない赤い血を吐いて動かなくなった。

 それと同時にワイバーンに貼り付けられた紙がビリッと破れた。

「……もう、大丈夫かな?」

「だな。ありゃ内蔵ぐちゃぐちゃだろ」

「……うぅ、気持ち悪くなるようなこと言わないで」

「あ?さっきまでの威勢はどうしたんだよ?」

「グロいの嫌いなの!はやく篠野部のところ行くよ」

「あぁ、はいはい」

 この後は知っての通り、カルタ達と合流して永華がカルタに怒って、巨大な魔方陣について説明することになった。
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