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異世界転移
17 魔導師
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異世界召喚されて、かれこれ一ヶ月たった。今日は待望の給料日である。
これで!魔道書が買えるぞ!帰宅に一歩近づいたぞ!
そうやって人知れずテンションを富士山並みにあげている。なんでかって、そりゃあやっと魔道書が手に入るから、それにつきる。
魔法書は帰るのにいると判断したのはもちろん、魔法なんてロマンや夢の固まり。それが使えるチャンスがあるなんてテンションが上がるのも致し方なし、今とてもワクワクしてます。
「はい、これが今月分のお給金よ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
あの後、いつも帰るべく話し合いをしている部屋に戻り中身を確認する。すると予想外の金額が入っていた。
「ええ、これ……一ヶ月で15万ってことになるよな?多くない?」
「いや、妥当だろ。定休日で休みが五日、それから四日は実質仕込みだけ。時給が千で……うん、間違いないな」
「週に二日で五時間……二万八千……時給九百円……」
「なんにをショックを受けているんだい?まあ、いい。これならば余裕で魔道書が買えるだろうね。割り勘でいいね?」
「うん、それじゃあこの後暇だし今から行こうか」
「ああ」
給料をもらって早速、永華とカルタは魔具堂に向かうこととした。道中子供たちが走り回る姿が見えた、その中にはナノンもいてとても楽しそうだ。
ふと空を見上げる。最近は雨が多い、今もなお空は鉛色の曇天だ。早めに動いた方がいいな。
店に続く扉を開けると相変わらず薄暗く、どこか不気味だ。掃除だとか電球交換だとかしないんだろうか。
「じいさーん」
「はいはい、はい」
コツコツと杖で床を鳴らし、店の奥からマッドハットじいさんが出てきた。今見ても凄い魔道師ってのがよくわからないんだよねえ、人は見た目によらずとは言うけどそう言うことなんだろうかね。
「お金貯まったから本買いにきたよ」
「おお、そうかい。ちょっと、とってくるから待っとれよお」
「はーい」
じいさんは奥に取っておいてくれたらしい本をもってとぼとぼとレジに向かう、割り勘での会計を終える。
「取り置きしといてくれてありがとうね。じいさん」
「ええんじゃ、ええんじゃ。ものは使われんとのう」
お礼を言えば断られてしまった。とてもいい人だ、なんでこの人のお店に誰も来ないんだろうか。魔具ってそれほど人気ないのかな?
「いやあ、なんというかさ。魔道書ってワクワクするよね」
永華の目がキラキラと輝く、それほどまでに魔法への憧れは強かったのだろう。魔道書を抱えてクルクルと回り、はしゃいでいる。まるで欲しがっていたオモチャを与えられた子供のようだ。
「子供か……」
「いいではないか。ああいう心はいつの間にかなくなっておるものじゃ、大切にしなければな」
「でもあれは子供過ぎるかと……」
はしゃぐ永華にカルタの言葉は聞こえない。カルタは永華のようすに呆れており、マッドハット氏は微笑ましげに見ていた。
「さて、魔道書の件が終わりましたので、もう一つの件にうつりましょう。戌井!いい加減、有頂天から戻ってきてくれ」
「お?おお。ごめん、ごめん」
永華は本をしまい、慌ててカルタとマッドハット氏のいるもとへと走り寄る。
「マッドハット氏、実は一つ聞きたいことがあるのですが」
「なんじゃ?」
「あなたは魔道師なのですか?」
じいさんはなにも答えず、ゆっくりとまばたきしている。どう答えるか、考えているようだ。
「実はさあ、市場であった人に聞いたんだ。魔法を使いたきゃじいさんに相談しなって、隠居したけど凄い魔道師だって言ってたんだよね」
じいさん「ふむ」と合図ちを打つ、話すは聞いてくれるようだ。
私達の最終目標は帰ること、帰るには異世界召喚魔法について知る必要がある。それを知るには王宮勤めの魔術師になる必要がある。恐らくは魔法学校にかよった方が採用率が上がるだろう。
それに魔法学校にだって情報があるようかもしれない、そもそも魔法がまともに扱えなきゃ王宮勤めなんて無理だろうし、どっち道行かなきゃ行けない。だから、この情報が本物ならば、マッドハットのじいさんには頷いて貰わなければならない。
「私ら諸事情あって魔法学校に行こうと思ってて、それで魔法が扱えると色々ありがたいんだ。だからもしお願いできるんなら……と思って」
「僕らにはしなければならないことがあるんです。推測ですが、それには魔法学校に通うことが重要になってくる、そう思っているんです」
「ふむふむ、ふむ。なるほどなあ。して、その諸事情というの、聞いても?」
……言って、良いのだろうか。勇者伝説がある以上、下手な扱いはされないだろうが。
チラリと篠野部を見る。軽く、首を横に振った。警戒心の強い篠野部は事情を話すことを却下した。まあ、妥当な話だ。
「……帰りたいんだ。大事なものをおいてきた故郷にさ」
まっすぐマッドハット氏を見る永華とカルタの目にうつるのは寂しさと悲しみ、それから……。
マッドハット氏はアゴヒゲを撫で付け、考え込む。すこしの間が空いて、ため息を吐いた。
「この当たりにはわしが魔道師だったことを知るものはおらんはずなのじゃがなあ。誰に聞いたか、それを聞いてから決めようかの。して、お主らにわしのことを教えたのは誰じゃ?」
「戌井がダバリア帝国ってとこの王宮勤めの魔道師のリコス・ファウストという方から聞いたようです」
「……うん」
私がなにか言う前に篠野部があっさりといった。正直、誤魔化すかと思ったそんなことしないらしい。怪しいとか言ってたのに。いや、だからかな?
「ダバリア帝国、リコス……小僧が言ったのか。ならばよいか、あの小僧がお嬢ちゃんのなにを気に入ったのかはわからんが、ええじゃろう」
じいさんの口ぶり的にリコスさんと知り合いなんだろう、小僧と言っているしそこそこ仲が良かったのか。というか私、あの人に気に入られてたの?
「このわし、ジェフ・マッドハットがお主らを鍛えよう」
「やった!ありがとお!」
「ありがとうございます」
これでこれで魔法が使える。一歩進んだ感じだ、たった一歩、されど一歩。進みはしたのだ。
「お主ら、その反応からして一度も魔法を使ったことがないのは確かだろう。なれば普段から魔力が溢れていない、と言うことは魔力を引き出すことから始めるべきじゃな」
ん?魔力が溢れてない?魔力を引き出す?魔力って普段から蛇口開けっぱみたいな感じじゃないんだ。
「引き出す、ですか」
「そうじゃ、お主らの魔力は眠っておる。それをたたき起こすのじゃ。魔力が眠っておるものは少ないがいないわけではない。異世界からの来訪者に、たまたまそう言う体質のもの、呪いでそうなったもの、様々じゃ」
“異世界からの来訪者”という部分にヒヤリとする。いろんな意味でばれちゃ不味い、だからなるべく顔にださないように気を付けなければ。
「たたき起こす方法は原因と同じだけあるが、お主らの場合は魔力を注いで道を開いてやれば良いじゃろうな」
「薬とかじゃないんだ」
「その方法もあるが時間がかかる上に死ぬほど不味いぞ」
「あ、じゃあパスで」
「その方が懸命じゃろうな」
「なんか、仲いいですね?」
篠野部が小さく言葉をこぼす。
その言葉に私もじいさんも首を捻った。私とじいさん、仲いいんだろうか。確かに老人の相手をすることが多いので慣れているのは事実だ、その慣れた対応が仲がいいように見えるんだろうか。
「仲いいのかな?」
「いいんじゃないのかの?」
「なんなんだ、あんたら」
また呆れた表情だ。最近は篠野部のこういう表情しか見ていない気がする。私が子供っぽすぎるのか、向こうが大人すぎるのか。
こういうやつって抱え込みやすいんだよねえ。
「篠野部、抱え込みすぎないでね」
「うるさい能天気」
酷くないか?
これで!魔道書が買えるぞ!帰宅に一歩近づいたぞ!
そうやって人知れずテンションを富士山並みにあげている。なんでかって、そりゃあやっと魔道書が手に入るから、それにつきる。
魔法書は帰るのにいると判断したのはもちろん、魔法なんてロマンや夢の固まり。それが使えるチャンスがあるなんてテンションが上がるのも致し方なし、今とてもワクワクしてます。
「はい、これが今月分のお給金よ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
あの後、いつも帰るべく話し合いをしている部屋に戻り中身を確認する。すると予想外の金額が入っていた。
「ええ、これ……一ヶ月で15万ってことになるよな?多くない?」
「いや、妥当だろ。定休日で休みが五日、それから四日は実質仕込みだけ。時給が千で……うん、間違いないな」
「週に二日で五時間……二万八千……時給九百円……」
「なんにをショックを受けているんだい?まあ、いい。これならば余裕で魔道書が買えるだろうね。割り勘でいいね?」
「うん、それじゃあこの後暇だし今から行こうか」
「ああ」
給料をもらって早速、永華とカルタは魔具堂に向かうこととした。道中子供たちが走り回る姿が見えた、その中にはナノンもいてとても楽しそうだ。
ふと空を見上げる。最近は雨が多い、今もなお空は鉛色の曇天だ。早めに動いた方がいいな。
店に続く扉を開けると相変わらず薄暗く、どこか不気味だ。掃除だとか電球交換だとかしないんだろうか。
「じいさーん」
「はいはい、はい」
コツコツと杖で床を鳴らし、店の奥からマッドハットじいさんが出てきた。今見ても凄い魔道師ってのがよくわからないんだよねえ、人は見た目によらずとは言うけどそう言うことなんだろうかね。
「お金貯まったから本買いにきたよ」
「おお、そうかい。ちょっと、とってくるから待っとれよお」
「はーい」
じいさんは奥に取っておいてくれたらしい本をもってとぼとぼとレジに向かう、割り勘での会計を終える。
「取り置きしといてくれてありがとうね。じいさん」
「ええんじゃ、ええんじゃ。ものは使われんとのう」
お礼を言えば断られてしまった。とてもいい人だ、なんでこの人のお店に誰も来ないんだろうか。魔具ってそれほど人気ないのかな?
「いやあ、なんというかさ。魔道書ってワクワクするよね」
永華の目がキラキラと輝く、それほどまでに魔法への憧れは強かったのだろう。魔道書を抱えてクルクルと回り、はしゃいでいる。まるで欲しがっていたオモチャを与えられた子供のようだ。
「子供か……」
「いいではないか。ああいう心はいつの間にかなくなっておるものじゃ、大切にしなければな」
「でもあれは子供過ぎるかと……」
はしゃぐ永華にカルタの言葉は聞こえない。カルタは永華のようすに呆れており、マッドハット氏は微笑ましげに見ていた。
「さて、魔道書の件が終わりましたので、もう一つの件にうつりましょう。戌井!いい加減、有頂天から戻ってきてくれ」
「お?おお。ごめん、ごめん」
永華は本をしまい、慌ててカルタとマッドハット氏のいるもとへと走り寄る。
「マッドハット氏、実は一つ聞きたいことがあるのですが」
「なんじゃ?」
「あなたは魔道師なのですか?」
じいさんはなにも答えず、ゆっくりとまばたきしている。どう答えるか、考えているようだ。
「実はさあ、市場であった人に聞いたんだ。魔法を使いたきゃじいさんに相談しなって、隠居したけど凄い魔道師だって言ってたんだよね」
じいさん「ふむ」と合図ちを打つ、話すは聞いてくれるようだ。
私達の最終目標は帰ること、帰るには異世界召喚魔法について知る必要がある。それを知るには王宮勤めの魔術師になる必要がある。恐らくは魔法学校にかよった方が採用率が上がるだろう。
それに魔法学校にだって情報があるようかもしれない、そもそも魔法がまともに扱えなきゃ王宮勤めなんて無理だろうし、どっち道行かなきゃ行けない。だから、この情報が本物ならば、マッドハットのじいさんには頷いて貰わなければならない。
「私ら諸事情あって魔法学校に行こうと思ってて、それで魔法が扱えると色々ありがたいんだ。だからもしお願いできるんなら……と思って」
「僕らにはしなければならないことがあるんです。推測ですが、それには魔法学校に通うことが重要になってくる、そう思っているんです」
「ふむふむ、ふむ。なるほどなあ。して、その諸事情というの、聞いても?」
……言って、良いのだろうか。勇者伝説がある以上、下手な扱いはされないだろうが。
チラリと篠野部を見る。軽く、首を横に振った。警戒心の強い篠野部は事情を話すことを却下した。まあ、妥当な話だ。
「……帰りたいんだ。大事なものをおいてきた故郷にさ」
まっすぐマッドハット氏を見る永華とカルタの目にうつるのは寂しさと悲しみ、それから……。
マッドハット氏はアゴヒゲを撫で付け、考え込む。すこしの間が空いて、ため息を吐いた。
「この当たりにはわしが魔道師だったことを知るものはおらんはずなのじゃがなあ。誰に聞いたか、それを聞いてから決めようかの。して、お主らにわしのことを教えたのは誰じゃ?」
「戌井がダバリア帝国ってとこの王宮勤めの魔道師のリコス・ファウストという方から聞いたようです」
「……うん」
私がなにか言う前に篠野部があっさりといった。正直、誤魔化すかと思ったそんなことしないらしい。怪しいとか言ってたのに。いや、だからかな?
「ダバリア帝国、リコス……小僧が言ったのか。ならばよいか、あの小僧がお嬢ちゃんのなにを気に入ったのかはわからんが、ええじゃろう」
じいさんの口ぶり的にリコスさんと知り合いなんだろう、小僧と言っているしそこそこ仲が良かったのか。というか私、あの人に気に入られてたの?
「このわし、ジェフ・マッドハットがお主らを鍛えよう」
「やった!ありがとお!」
「ありがとうございます」
これでこれで魔法が使える。一歩進んだ感じだ、たった一歩、されど一歩。進みはしたのだ。
「お主ら、その反応からして一度も魔法を使ったことがないのは確かだろう。なれば普段から魔力が溢れていない、と言うことは魔力を引き出すことから始めるべきじゃな」
ん?魔力が溢れてない?魔力を引き出す?魔力って普段から蛇口開けっぱみたいな感じじゃないんだ。
「引き出す、ですか」
「そうじゃ、お主らの魔力は眠っておる。それをたたき起こすのじゃ。魔力が眠っておるものは少ないがいないわけではない。異世界からの来訪者に、たまたまそう言う体質のもの、呪いでそうなったもの、様々じゃ」
“異世界からの来訪者”という部分にヒヤリとする。いろんな意味でばれちゃ不味い、だからなるべく顔にださないように気を付けなければ。
「たたき起こす方法は原因と同じだけあるが、お主らの場合は魔力を注いで道を開いてやれば良いじゃろうな」
「薬とかじゃないんだ」
「その方法もあるが時間がかかる上に死ぬほど不味いぞ」
「あ、じゃあパスで」
「その方が懸命じゃろうな」
「なんか、仲いいですね?」
篠野部が小さく言葉をこぼす。
その言葉に私もじいさんも首を捻った。私とじいさん、仲いいんだろうか。確かに老人の相手をすることが多いので慣れているのは事実だ、その慣れた対応が仲がいいように見えるんだろうか。
「仲いいのかな?」
「いいんじゃないのかの?」
「なんなんだ、あんたら」
また呆れた表情だ。最近は篠野部のこういう表情しか見ていない気がする。私が子供っぽすぎるのか、向こうが大人すぎるのか。
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