神は生贄に愛を宿す

丑三とき

文字の大きさ
上 下
22 / 34
第二章:村人

22.家族②

しおりを挟む
 

 もうほとんど雨も上がってきたので、傘をはしっこに置かせてもらって二人に畑に案内してもらい、"悪霊"とやらの正体や畑の現状を見た。

「これが、もうダメになってしまった豆です。葉に穴が空いて枯れているでしょう。収穫できた豆も白っぽくカビたようになっていて、どんな手を使ってももうダメなです。よほど悪い霊が憑いているのでしょう」

 えんどう豆に似た植物の葉は、パウルさん(ビリエル君のお父さん)が言う通り穴が空いたりしてもう手遅れのような状態だった。

「これって、こうなっちゃう前はどんな感じでしたか?」

「白い粉がふいたようなまだら模様に……ああちょうど、あそこにある瓜の葉のような感じです」

 豆から少し離れた場所にある瓜の株を指差したパウルさんは、肩を落として言う。

「この瓜も次期にダメになる。こうなってしまってからはすぐ広がるんです。この豆も、数日間であっという間に枯れてしまいました」

 私は瓜の葉を観察し、白っぽく粉が吹いている場所を見つけた。ガーデニングが趣味の私には見慣れた病気だった。

「これ……うどんこ病かもしれないですね」

「うどんこ病?」

 うどんの粉が振りかかったように見えるため、日本ではそう呼ばれている。

「最近まで寒かったですが、この頃は日中暖かい日が続いていますよね?  その豆の病気が広がったのって、もしかしてそのちょっと暖かくなって来た頃ですか?」

「その通りです!  何故分かるのですか?」

「うどんこ病は寒さが落ち着き暖かくなって来た頃に広がるんです。この土地は今まで雨は降らなかったけど、じめっとした日はあったから……湿度が高い状態の時に病気になって、乾燥した時に一気に広がっちゃったんだと思います」

「悪霊では、ないということですか?」

「はい。悪霊ではないです」

 私はフェンリスからの受け売りをそのまま伝えた。すると、ビリエル君もパウルさんも、ふっと安心したように息を吐いた。

「よかった。よかったね父ちゃん!  悪霊じゃないって!」

「ああ…で、でもアマネ様、悪霊ではないと言われても、じゃあ何故こんなことに……。俺たち、昔からこの症状に悩まされているんです。いくら肥料をあげてもダメでした」

「肥料をあげすぎると逆効果の場合もあります。例えば……お二人とも、ちょっとこちらに」

 私は二人を呼び寄せ、三人で輪になって肩を組むよう伝える。

「私たち、今葉っぱの細胞だとします。小さな葉っぱだとこんな感じです。ぎゅぅ~~」

「はっはは!  ひっつきごっこだ!」

「アマネ様!  こ、これはどういう状態ですか!?」

 二人をぎゅっと抱きしめると、ビリエル君は無邪気に笑いパウルさんは真っ赤になる。

「肥料は植物を育てるのを助けてくれるけど、葉っぱが育って大きくなったらこんな風に……びよ~ん」

 それぞれの体から離れ、組んでいた肩もただ手を繋ぐだけにしてさらに距離を取る。

「ほら、細胞すっかすかになっちゃうんです」

「そそそ、そうですね……」

『おいアマネ、押し潰されるかと思った』

 やば、またフェンリスのこと忘れてた。

「このスカスカになった細胞に病気が侵入してしまうんです。ほら、私たちの周りこんなに隙間が開いてるでしょう?  これだと病気は入り込みたい放題です」

「じゃあ、植物はおおきくなっちゃだめってことですか?」

「ううん、大きくなるのはいいことなんだけど、栄養はバランスよくとらなきゃいけないの。パウルさん、肥料ってどのくらいあげてますか?」

「やりすぎると良くないっていうのは知っています。でも病気が出るってことは肥料が足りないことも原因なのだと思って、増やしていました」

「では、ひとまずこの瓜にはもう肥料はあげないでおいて……んー、石灰ってありますか?」


 ビリエル君とパウルさんは顔を見合わせ不思議そうな顔をしたが、すぐに走って石灰をもらって来てくれた。



「それでアマネ様、石灰をどうするんですか?」

「撒くんです。よいしょ」

「ああああアマネ様!  御手が汚れてしまいます……!」

 素手で振り撒くとパウルさんが慌てて声を上げ、「俺たちがやります!」と言って変わってくれた。

 彼らが石灰を撒いてくれたところから、私は株もとに落ちた葉っぱなどを拾った。

「アマネ様!  掃除も俺たちが!」

「このくらい手伝わせてください。あっ、もっとしっかり振りかけちゃって大丈夫ですよ。吸い込んじゃわないようにこうやって肘の袖で口と鼻手で押さえた方がいいかも」

「アマネ様は、なにをやっているんですか?」

「株もとを綺麗にしてるの。病気になった葉っぱが落ちてたら蔓延しやすいからね」

「これで本当に治るのでしょうか……」

 パウルさんが不安げに呟いた。

「スカスカになった細胞の隙間を強化するという意味でも、肥料とは別の栄養を足すという意味でも効果的だと思います。それに、うどんこ病は雨が続いた次の日が晴天だったらより蔓延するんです」

 根拠はあるし、実際に私の畑もこれで良くなった。

 とはいえよく考えてみたら人んちの畑に初めて来た人間が好き勝手にやりすぎたかもしれない。夢中になると周りが見えなくなってしまう癖はなおさなきゃいけないな。

「すみません勝手なことをして。でも、この瓜に関しては私のお願いを聞いてもらえませんか?  もし病気が広がってダメになってしまったら、責任を持って私が新しい瓜を育てます。だから数日間私にください。きっと治せると、思います……!」

 頭を下げると、先ほどとは反対に今度は二人が慌て始めた。

「アマネ様!」

「頭を上げてください!」

 パウルさんとビリエル君は少し考えて私に言った。

「このまま放っておいてもどうせダメになる。どうせダメになるなら、できることやり尽くしてからの方がいいよな、ビリエル?」

「うん!  アマネ様に言われたとおりにしよう!」

「パウルさん…ビリエル君……」

 とびっきりの笑顔をくれたパウルさんとビリエル君にお礼を言うと、二人は引き続き仲良く石灰を撒き始めた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

BLドラマの主演同士で写真を上げたら匂わせ判定されたけど、断じて俺たちは付き合ってない!

京香
BL
ダンサー×子役上がり俳優 初めてBLドラマに出演することになり張り切っている上渡梨央。ダブル主演の初演技挑戦な三吉修斗とも仲良くなりたいけど、何やら冷たい対応。 そんな中、主演同士で撮った写真や三吉の自宅でのオフショットが匂わせだとファンの間で持ち切りに。 さらに梨央が幼い頃に会った少女だという相馬も現れて──。 しゅうりおがトレンドに上がる平和な世界のハッピー現代BLです。

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

処理中です...