18 / 34
第二章:村人
18. 人間嫌い
しおりを挟む糊を乾かしている間にフェンリスは同じ材料でもう一つ骨組みを組み始めた。私なんかよりも素早く綺麗に、そして頑丈に仕上げたものだから空いた口が塞がらない。さすが、積んできた経験が違う……!
彼が組んだ骨組みにも紙を張って、傘の形に丸く切って、乾いたタイミングで二つともに油を塗った。
「本当は天日干しした方が良いんだけど、この天気じゃ無理そうだね」
「天日干しか。ならば一度天界に転送しよう」
「天界に転送? そんなことできるの?」
「ああ。天界は常に好天だから、"天日干し"もできるはずだ」
「そっか。じゃあ、お願いしようかな」
「分かった」
フェンリスが二つの傘もどきを見つめると、二、三秒後にはシュンと綺麗さっぱり消えていた。
「すごい……これ今、天界に行ったの?」
「ああ」
「神様ってなんでもできるんだね。
天界ってどんなところ? 常に好天なら、ここでいう旱が続いている感じ? だったら作物も育ちにくいの?」
私の矢継ぎ早の質問に、フェンリスは一つずつ答える。
「天界は人間界とは違い、作物が育つのに天候も気温も関係ない。神域と同じようになんでも育つし、別に神は食わずとも生きていける。それに、主神は万物を創造できる為手に入らんものは基本無い」
「主神?」
「神の中の最高権力者のような者だ」
「へえ」
人間でいう内閣総理大臣みたいな感じかな。あれは日本のトップだからちょっと違うか。神全体を統べる存在が居るとは興味深い。天界は、神域がそのまま世界になったようなものなのかな。
私は彼の話をもう一度頭の中で整理するうち、ある疑問が生じた。
「ねえ、フェンリスって何故料理も工作もそんなに上手なの?」
「土地神になってから百年以上作り続けているからな。自然と上達もするし物作りの知識もつく」
「でも神様って食べなくても生きていけるし、その主神さま? に言ったら何でも手に入るんだよね? どうしてわざわざ自分で作るの?」
「どうしてと聞かれてもな……人間はそのようにするだろう?」
「人間がやってることを、同じようにやってるの? 神様なのに? しなくても生きていけるんだよね?」
私の執拗な問いに、数秒考え込んでフェンリスは答えた。
「……神には神の生活の仕方がある。が、土地神の座に着いた時になるべく人間と同じ生活をしようと思った。人間がどのようにして生き、何を求め、何を感じているのか。理解しようと人間を真似て生活してはいるが……難しいものだな。百年以上経っても人間の心の内はよく分からん」
お手上げとばかりに笑いながら縁側から空を見上げた。
「この雨が好機になってくれれば良が……トトの予想ではそう簡単にはいかんらしい」
「……トトさんって、人間のことあんまり好きじゃないのかな」
叡智の神である彼は人間に愛想を尽かしたような感じだったし、実際、神に見限られたからこの土地は旱という応報に見舞われている。
しかし、人間に対してあんな口ぶりだったとはいえ、何百年も何百年も根気強く人間に向き合ったトトさんが元から人間嫌いだとは思えなかった。
それはフェンリスがよく分かっていた。
「あいつはアレで情に深い。やり切れなさに鬱憤は感じれど、完全に人間を憎んでいるわけではないと思う」
「そうだね。トトさんが優しいのはすごく伝わってきたもの」
私たちは雨の打つ庭を眺めながら、しばらくのんびりと話をしていた。大人になってからは仕事漬けだったし、この世界に来てからは閉じ込められて不自由だったし、こんなに穏やかな時間は本当に久しぶりだ。
不思議な雰囲気を纏う手先の器用な神様の隣に居ると、懐かしさにも似た心安らぐ空気が流れ続ける。
1
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました
ひより のどか
ファンタジー
ただいま女神様に『行ってらっしゃ~い』と、突き落とされ空を落下中の幼女(2歳)です。お腹には可愛いピンクと水色の双子の赤ちゃんドラゴン抱えてます。どうしようと思っていたら妖精さんたちに助けてあげるから契約しようと誘われました。転生初日に一気に妖精さんと赤ちゃんドラゴンと家族になりました。これからまだまだ仲間を増やしてスローライフするぞー!もふもふとも仲良くなるぞー!
初めて小説書いてます。完全な見切り発進です。基本ほのぼのを目指してます。生暖かい目で見て貰えらると嬉しいです。
※主人公、赤ちゃん言葉強めです。通訳役が少ない初めの数話ですが、少しルビを振りました。
※なろう様と、ツギクル様でも投稿始めました。よろしくお願い致します。
※カクヨム様と、ノベルアップ様とでも、投稿始めました。よろしくお願いしますm(_ _)m
天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる
ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。
※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。
※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話)
※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい?
※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。
※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。
※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。
神は眷属からの溺愛に気付かない
グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】
「聖女様が降臨されたぞ!!」
から始まる異世界生活。
夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。
ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。
彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。
そして、必死に生き残って3年。
人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。
今更ながら、人肌が恋しくなってきた。
よし!眷属を作ろう!!
この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。
神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。
ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。
のんびりとした物語です。
現在二章更新中。
現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる