神は生贄に愛を宿す

丑三とき

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第二章:村人

18. 人間嫌い

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 糊を乾かしている間にフェンリスは同じ材料でもう一つ骨組みを組み始めた。私なんかよりも素早く綺麗に、そして頑丈に仕上げたものだから空いた口が塞がらない。さすが、積んできた経験が違う……!

 彼が組んだ骨組みにも紙を張って、傘の形に丸く切って、乾いたタイミングで二つともに油を塗った。

「本当は天日干しした方が良いんだけど、この天気じゃ無理そうだね」

「天日干しか。ならば一度天界に転送しよう」

「天界に転送?  そんなことできるの?」

「ああ。天界は常に好天だから、"天日干し"もできるはずだ」

「そっか。じゃあ、お願いしようかな」

「分かった」

 フェンリスが二つの傘もどきを見つめると、二、三秒後にはシュンと綺麗さっぱり消えていた。

「すごい……これ今、天界に行ったの?」

「ああ」

「神様ってなんでもできるんだね。
 天界ってどんなところ?  常に好天なら、ここでいうヒデリが続いている感じ?  だったら作物も育ちにくいの?」

 私の矢継ぎ早の質問に、フェンリスは一つずつ答える。

「天界は人間界とは違い、作物が育つのに天候も気温も関係ない。神域と同じようになんでも育つし、別に神は食わずとも生きていける。それに、主神は万物を創造できる為手に入らんものは基本無い」

「主神?」

「神の中の最高権力者のような者だ」

「へえ」

 人間でいう内閣総理大臣みたいな感じかな。あれは日本のトップだからちょっと違うか。神全体を統べる存在が居るとは興味深い。天界は、神域がそのまま世界になったようなものなのかな。

 私は彼の話をもう一度頭の中で整理するうち、ある疑問が生じた。

「ねえ、フェンリスって何故料理も工作もそんなに上手なの?」

「土地神になってから百年以上作り続けているからな。自然と上達もするし物作りの知識もつく」

「でも神様って食べなくても生きていけるし、その主神さま? に言ったら何でも手に入るんだよね?  どうしてわざわざ自分で作るの?」

「どうしてと聞かれてもな……人間はそのようにするだろう?」

「人間がやってることを、同じようにやってるの?  神様なのに?  しなくても生きていけるんだよね?」

 私の執拗な問いに、数秒考え込んでフェンリスは答えた。

「……神には神の生活の仕方がある。が、土地神の座に着いた時になるべく人間と同じ生活をしようと思った。人間がどのようにして生き、何を求め、何を感じているのか。理解しようと人間を真似て生活してはいるが……難しいものだな。百年以上経っても人間の心の内はよく分からん」

 お手上げとばかりに笑いながら縁側から空を見上げた。

「この雨が好機になってくれれば良が……トトの予想ではそう簡単にはいかんらしい」

「……トトさんって、人間のことあんまり好きじゃないのかな」

 叡智の神である彼は人間に愛想を尽かしたような感じだったし、実際、神に見限られたからこの土地は旱という応報に見舞われている。

 しかし、人間に対してあんな口ぶりだったとはいえ、何百年も何百年も根気強く人間に向き合ったトトさんが元から人間嫌いだとは思えなかった。

 それはフェンリスがよく分かっていた。

「あいつはアレで情に深い。やり切れなさに鬱憤は感じれど、完全に人間を憎んでいるわけではないと思う」

「そうだね。トトさんが優しいのはすごく伝わってきたもの」


 私たちは雨の打つ庭を眺めながら、しばらくのんびりと話をしていた。大人になってからは仕事漬けだったし、この世界に来てからは閉じ込められて不自由だったし、こんなに穏やかな時間は本当に久しぶりだ。

 不思議な雰囲気を纏う手先の器用な神様の隣に居ると、懐かしさにも似た心安らぐ空気が流れ続ける。

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