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第一章:生贄
12.マジな話
しおりを挟む「ップー!クククッ! ヒィ~、ハッハハハハッ」
床をバンバン叩きながらお腹を抱えるトトさん。過呼吸になりそうで心配だ。
「天界への土産話できたわ。一匹狼で寡黙で堅物のフェンリスが、一人のしょうね……青年に対して…っハハハ! 皆に見せてやりてぇー! 眉の下がった犬っころみてぇな顔!」
格好の餌食にされているフェンリスが、額に青筋を立てて「いい加減に帰れ」と痺れを切らしたのをトトさんは右から左へ受け流し、床に寝転び肘を付き、声のトーンを少し落として話し始めた。
「でもよぉ、マジな話どうすんだよこれから。きっと雨が降るたび人間様はフェンリスのこともアマネ君のことも崇め奉ってくださるぜ? お供え物なんか置いてくれちゃったり? アマネ様の銅像なんかお建てになってくださるかもよ?」
慇懃無礼に人間へ謙るように色々と予想を立てるトトさん。
「"マジな話"をする態度かそれが。いきなり来たと思ったら狭い場所で寝転んで幅をとるな。
そういうことは後々考える。今はアマネに肉をつけさせ、体力を取り戻させるのが先だ。神域は治癒力は高めるとはいえ体質そのものを変える訳ではない。長期間に渡り不衛生な環境に居たアマネの体は弱り切っている。まずは…」
「へいへいへいへい。分かった分かった。全く溺愛しちゃって。……ま、今回のことで分かっただろ? 生贄を拒もうと何をしようと、人間は変わらねえよ。あいつらにとっちゃ神が全てだ。自分らで何かを打開しようなんて考えちゃいねえ。恵みは全部神からのもの。不遇な環境も全部神のせい。ハッ、やってらんねぇぜマジで。お前らも懲りたら土地神なんてつまらねぇこと辞めて天界でゆる~く暮らそうぜ。じゃな、また来る」
「もう来るな」
トトさんは立ち上がって、「んじゃ」と手を振り、次の瞬間消えていた。
「っ! き、消え……」
「天界へ転移しただけだ」
「そっか……。なんか、台風みたいな神様だったね」
「軽薄で調子の良い奴だが、アレで叡智の神なんでまともな事も言いやがる。お前も起き抜けから気疲れしたろう」
「ちょっとびっくりしたけど、楽しかったよ。フェンリスにも友達がいて安心した」
「友ではない。ただの前任者だ」
フェンリスは地べたにあぐらをかきベッドにもたれ、疲れ切ったようにため息を吐いた。友ではないとは言うけれど、心を許した者と言い合いをする姿は、私には羨ましく見えた。
「でも……やっぱトトさんの言うとおりだね。『生贄は要らない』って言ったって、人間もすぐには受け入れられないし、対応できないよね」
考えてもみればそうだ。元の世界でも、人類が誕生してから約20万年。
かつては病気を治すために神仏祈願や呪術的行為が行われていたし、科学の進歩が進んだのなんて歴史的に見ればまだほんの最近だ。
「どうすれば良いのかな。やっぱり、時間が経つしか無いのかな……」
時間が経つって言ったって、何年? トトさんは百年ごとの生贄儀礼を何回もしたって言ってた。数百年では人間に理解してもらうのなんて無理だった。じゃあ何千年? 何万年? 何万年もかけて、私は何をしたいの? この世界の人間の普通の暮らしを経験したことのない私が、人間に何を説こうと言うの?
色々考えてたら、もう分からなくなってきた……。
「はぁ……」
無意識に出たため息を慌てて吸い込もうとするも出てしまったものは取り返せなくて、心配げな顔をしたフェンリスが地べたから腰を上げ、ベッドに座る私の隣に腰掛けた。
「アマネ、ひとまずお前は自分のことを考えろ。まずは栄養を摂取し、最低限の肉をつけろ。この国で今お前が一番痩せ細っているといってもいいくらいだ。病程度で半神は死なんが、このままではすぐに体調を崩す。人間のことを考えるのはお前自身が健康体になってからだ。分かったな?」
諭すように強く言われ、フェンリスに多大な心配をかけてしまっていたのだと反省し肩を落とす。
「うん……分かった」
「…………すまん。お前は俺のためを思ってくれているのに、今の言い方は間違っていたな。まずは調子を整えて、それから一緒に考えてくれるか?」
考えすぎて凝り固まっていた脳味噌も、彼の言葉を聞くとほぐれていく。
フェンリスの言うとおりだ。体調も回復して元気にはなったけど、少し動くと息が切れたり咳が出そうになる。こんな虚弱な半神が、人間のために何ができると言うのだ。フェンリスに心配かけないためにも、助けてもらった彼に恩返しをするためにも、まずは私自身が健康を取り戻さなければ。
私は隣に座ったフェンリスに体を向け、できるだけ力強く笑顔で返答をした。
「うん。早く元気になる。せっかくフェンリスに助けてもらった体だもん。大切にしたい」
「!…… お前は、全く……」
フェンリスが俯きながら顔を片手で覆ったので、何かまずいことを言ったのかと顔を覗けば、「いや、何でもない。ただ、そのような無防備な笑顔はトトには向けるな」と釘を刺された。
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