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続編その②
16.目覚ましい成長
しおりを挟む——プクっ
水面がぽこっと膨らみ、少しずつお湯が浮いてきた。
「その調子だ、もう少し肩の力を抜いてみて。ただ呼吸をするように、気張らずゆっくり」
いつも僕を落ち着かせてくれる手がふわりと僕の手を包むと、自分が緊張して力んでしまっていたことに気がついた。意気込みすぎて神経が尖ってしまっていたようだ。
一度魔力をしずめて深呼吸をひとつして、再びお湯へと意識をやった。
——プクッ……
先ほどとは違い、軽やかにお湯が動く。ゆらゆら、ふるふる震えながら、フレイヤさんが作った球体よりも一回り小さな塊を浮かび上がらせることができた。
「すごいじゃないかハルオミ! そのまま、魔力の出力は保ったままリラックスして、先ほど私が言ったように一粒一粒をばらけさせるイメージをしてごらん?」
「わ、わかった……お米研いでる時のこと思い浮かべてみる!」
「いいね、そしたらその米粒たちがパラパラと落ちていく様子をこのお湯に重ねて」
フレイヤさんの言った通りの想像をめぐらして目の前のお湯にそのイメージ落とし込む。すると球体の下部から雫がポトっと一滴落ち、湯船に小さな波及を作り出した。
耳元で静かにフレイヤさんがつぶやく。
「その調子。イメージはそのままで良いから、思いっきり好きなように魔力を出してみて」
失敗したらどうしようという不安も、その言葉で一気に取っ払われた。
「うん……やってみる!」
約一ミリ程度の細かい粒を想起し、ぽと、ぽと、と数滴降らす。十滴ほどは集中力を保っていたが、イメージしたものが実態となって目の前で再現されている様子に楽しくなって無意識に魔力を解放していた。
力むことなくただ思うままに空気を操れている自分に驚いている間に、雲のように横に広がったお湯の塊から雨のようにザァァっと湯船に降り注ぎきっていた。
背後からぎゅっと圧迫感を感じる。背中で心音が感じ取れそうなほどフレイヤさんの素肌がピッタリとくっついていた。
「素晴らしい! なんと堂々たる魔法、雄大かつ繊細で、完璧にこなせていた。さすがハルオミだ。私よりも上手いんじゃないかい?」
「それは無いよ! でも…でも、今の上手だったよね……!」
我ながら結構良い線行ってた気がする。ぎゅうっと引き寄せられ彼の腕の中に収まったまま自画自賛すれば、後ろから称賛をいだいた。
「ああ、とても上手にできていたよ。忘れない内にもう一度やっておくかい?」
「うん! じゃあ、今度はもっと思い切って、シャワーみたいに降らせてみるね!」
お湯を魔力に乗せて自在にコントロールするのは、これまでの達成感ともまた違う楽しさがあった。魔法をものにするため頭で考えたり一生懸命になったりするのも充実感があったけど、今はただ、なんか楽しい。
四、五回ほど練習した頃には、思うがままにお湯を操れるようになっていた。球体にしたり四角や三角の形にしたり、我ながら目覚ましい成長だと思う。
「驚いた、やはり君は天才だよハルオミ。短時間でここまで上達するなんて、努力家な上に才能もある」
「フレイヤさんの教え方が上手だからだよ。ありがとう」
「君の中には私の魔力が流れているからね、なんとなくだが、君がどのようにすれば魔法を構築できるのかが分かるんだ」
「そうなの? 僕もフレイヤさんの魔力が流れてるのすっごく感じるよ。日を重ねるごとに、僕の中でフレイヤさんが大きくなっていく感じがするんだ」
「私にとってはこれ以上無い殺し文句だな。さてハルオミ、私も時間を忘れて指導に熱中しすぎてしまった。のぼせる前に上がろうか」
「あ、ほんとだ、僕も時間忘れてた!」
二人して暑さで顔を赤くして、こりゃいかん、と湯船から上がりいつものように寝支度を整えた。
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