【完結】眠れぬ異界の少年、祓魔師の愛に微睡む

丑三とき

文字の大きさ
上 下
145 / 147
続編その②

16.目覚ましい成長

しおりを挟む


——プクっ

水面がぽこっと膨らみ、少しずつお湯が浮いてきた。

「その調子だ、もう少し肩の力を抜いてみて。ただ呼吸をするように、気張らずゆっくり」

いつも僕を落ち着かせてくれる手がふわりと僕の手を包むと、自分が緊張して力んでしまっていたことに気がついた。意気込みすぎて神経が尖ってしまっていたようだ。
一度魔力をしずめて深呼吸をひとつして、再びお湯へと意識をやった。

——プクッ……

先ほどとは違い、軽やかにお湯が動く。ゆらゆら、ふるふる震えながら、フレイヤさんが作った球体よりも一回り小さな塊を浮かび上がらせることができた。

「すごいじゃないかハルオミ!  そのまま、魔力の出力は保ったままリラックスして、先ほど私が言ったように一粒一粒をばらけさせるイメージをしてごらん?」

「わ、わかった……お米研いでる時のこと思い浮かべてみる!」

「いいね、そしたらその米粒たちがパラパラと落ちていく様子をこのお湯に重ねて」

フレイヤさんの言った通りの想像をめぐらして目の前のお湯にそのイメージ落とし込む。すると球体の下部から雫がポトっと一滴落ち、湯船に小さな波及を作り出した。

耳元で静かにフレイヤさんがつぶやく。

「その調子。イメージはそのままで良いから、思いっきり好きなように魔力を出してみて」

失敗したらどうしようという不安も、その言葉で一気に取っ払われた。

「うん……やってみる!」

約一ミリ程度の細かい粒を想起し、ぽと、ぽと、と数滴降らす。十滴ほどは集中力を保っていたが、イメージしたものが実態となって目の前で再現されている様子に楽しくなって無意識に魔力を解放していた。

力むことなくただ思うままに空気を操れている自分に驚いている間に、雲のように横に広がったお湯の塊から雨のようにザァァっと湯船に降り注ぎきっていた。

背後からぎゅっと圧迫感を感じる。背中で心音が感じ取れそうなほどフレイヤさんの素肌がピッタリとくっついていた。

「素晴らしい!  なんと堂々たる魔法、雄大かつ繊細で、完璧にこなせていた。さすがハルオミだ。私よりも上手いんじゃないかい?」

「それは無いよ!  でも…でも、今の上手だったよね……!」

我ながら結構良い線行ってた気がする。ぎゅうっと引き寄せられ彼の腕の中に収まったまま自画自賛すれば、後ろから称賛をいだいた。

「ああ、とても上手にできていたよ。忘れない内にもう一度やっておくかい?」

「うん!  じゃあ、今度はもっと思い切って、シャワーみたいに降らせてみるね!」

お湯を魔力に乗せて自在にコントロールするのは、これまでの達成感ともまた違う楽しさがあった。魔法をものにするため頭で考えたり一生懸命になったりするのも充実感があったけど、今はただ、なんか楽しい。


四、五回ほど練習した頃には、思うがままにお湯を操れるようになっていた。球体にしたり四角や三角の形にしたり、我ながら目覚ましい成長だと思う。

「驚いた、やはり君は天才だよハルオミ。短時間でここまで上達するなんて、努力家な上に才能もある」

「フレイヤさんの教え方が上手だからだよ。ありがとう」

「君の中には私の魔力が流れているからね、なんとなくだが、君がどのようにすれば魔法を構築できるのかが分かるんだ」

「そうなの?  僕もフレイヤさんの魔力が流れてるのすっごく感じるよ。日を重ねるごとに、僕の中でフレイヤさんが大きくなっていく感じがするんだ」

「私にとってはこれ以上無い殺し文句だな。さてハルオミ、私も時間を忘れて指導に熱中しすぎてしまった。のぼせる前に上がろうか」

「あ、ほんとだ、僕も時間忘れてた!」

二人して暑さで顔を赤くして、こりゃいかん、と湯船から上がりいつものように寝支度を整えた。


しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

この恋は無双

ぽめた
BL
 タリュスティン・マクヴィス。愛称タリュス。十四歳の少年。とてつもない美貌の持ち主だが本人に自覚がなく、よく女の子に間違われて困るなぁ程度の認識で軽率に他人を魅了してしまう顔面兵器。  サークス・イグニシオン。愛称サーク(ただしタリュスにしか呼ばせない)。万年二十五歳の成人男性。世界に四人しかいない白金と呼ばれる称号を持つ優れた魔術師。身分に関係なく他人には態度が悪い。  とある平和な国に居を構え、相棒として共に暮らしていた二人が辿る、比類なき恋の行方は。 *←少し性的な表現を含みます。 苦手な方、15歳未満の方は閲覧を避けてくださいね。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

僕の穴があるから入りましょう!!

ミクリ21
BL
穴があったら入りたいって言葉から始まる。

処理中です...