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続編その②
15.練習inお風呂
しおりを挟む熱い湯船に浸かって、体の芯からぐでっと力を抜いてだらけるこのひとときは、いつなんどきでもサイコーだ。
フレイヤさんのがっしりとした胸板にもたれかかると、これまた全身がフィットしてよりサイコーなのだ。
フレイヤさんと一緒じゃないとお風呂に入れない体になってしまったらどうしよう。彼は浄化魔法が使えるので僕に付き合って無理にお風呂に入る必要は無いはずなのだが、ほとんど毎日一緒に入ってくれて、一緒にほかほかの体で布団にくるまるのが日課になっている。
とはいえ一昨日はフレイヤさんが、昨日は僕が風邪を引いたので一緒にお風呂に入るのは二日ぶり。改めてこの時間のありがたみを感じる。
「ふぁ~~、なんたるしあわせ……」
「ああ、二日ぶりの君との風呂は格別だな」
「フレイヤさんも思った? 僕も思った」
「一人なら浄化魔法で済ませてしまうが、 ハルオミがここに来てから湯浴みの醍醐味を知ってしまった。もう元には戻れないね、どうしてくれるんだい?」
フレイヤさんはお湯を掬って僕の肩にかけながら、冗談めかしく言った。
「んーーー、じゃあ、僕が責任とってあげる。ずっとフレイヤさんと一緒にお風呂入ってあげるね」
自分だってフレイヤさんとでなければ嫌なのに何を上から言っているのだ、と自分自身にツッコミを入れつつフレイヤさんを見上げると、彼はウインクを寄越しながら言った。
「約束だ」
「ふふっ、うん、約束ね」
湯気に当てられてぽわっと色気ムンムンになってるフレイヤさんは、一昨日の憔悴が嘘みたいに健康的だ。やっぱり愛しい人が元気なのは何より嬉しい。
「そういえばハルオミ、水を上手く操れなかったと言っていたね。どんなふうにやってみたのか見せてくれないかい?」
フレイヤさんは背後から手を回し僕の目の前で両手でお湯を掬った。大きな手にお湯が満ちている。
「うん……分かった、下手くそでも笑わないでね?」
「君の魔法は全て尊くあたたかい。笑うはずないだろう?」
「じゃあ……やってみるね……」
僕はフレイヤさんの手に満ちたお湯に意識を集中させ、今日イザベラとパネースさんから教えてもらったコツを思い浮かべながら、ぐっと力を込めた。
水面がふるっと静かに揺らぎ、少しずつ、ゆっくりと時間をかけておよそピンポン玉くらいのお湯の塊となって浮き上がった。
「素晴らしい!!! すごいじゃないかハルオミ! 綺麗な球体が作れているのは均等に魔力を加えられている証拠だ」
「ありがとう……でもね、もっとたくさんの水を操ってみたいんだ。それで雨みたいに細かくつぶつぶにして降らせたいの。そしたらパネースさんみたいに水やりもできるから」
「なるほど、分かった。水は固体と違って質量も流動的だから、もっと意識を集中させる範囲を広げてみて。こんなふうに……」
フレイヤさんが手をお湯にかざすと、ザパッと音を立ててサッカーボールくらいの大きさのお湯の球体が浮き上がり、僕が作ったお湯の球体に合体した。
「わっ、すごい」
「ここから雨のように細かい水滴にするには、そうだね……例えば米粒の大きさなら思い浮かべやすいかい? お湯の形を一粒一粒バラけさせるように意識するんだ。一度やってみるよ」
サッカーボール大のお湯の塊にフレイヤさんが手を翳す。ぐにゃっと形が歪み、横に細長く伸びたかと思えば小さな雲のような形になり、十秒ほど時間をかけてザァァーーと雨のように湯船に降り注いだ。
「すごいっ!!! これだよ僕がやりたかったの! さすがフレイヤさん! 僕もやってみたい」
「ハルオミならきっとできる。いいかい? まずはお湯に集中してできるだけ多くの質量を操ることに慣れるといい」
手の甲にフレイヤさんの手のひらがぴたりとくっつき、支えられているような心強さを感じながら彼の言った通りお湯に意識を込めた。
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