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続編その②

14.珍味

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結局今日は一日中魔法の練習をしていたけど、そこまで疲労が溜まることはなかった。慣れないことをしたという気疲れは少しあるものの、フレイヤさんとご飯を食べていたらそれもすっかり吹き飛んだ。

「それでねそれでね、イザベラがすぐにフワッて乾かしてくれて、そのあとは水やりの練習もしたんだ!」

「水やり?」

「うん。毎日庭園に水やりしてるパネースさんにコツを教えてもらったんだ。水に浮遊魔法をかけて、雨みたいに降らせるの。細かく空気を操るから、魔法の練習に最適なんだって。でもパネースさんみたいに上手にできなかった」

卵焼きを器用に箸で切るフレイヤさんに悔しさを伝えると、彼は律儀にも箸を置いて、その手を伸ばし僕の頭をぽんぽん叩いた。

「ハルオミはすごいね。一日でたくさんのことを覚えて早速身につけている。私は今まで君の可能性の芽を摘んでいたようだ。本当にすまない」

「また謝った……それはもう良いって言っているでしょ?」

「君は優しいね、しかし私は反省しているんだ。愛しい者はこの身を捧げて尽くし、危険から遠ざけ、何をするにも手の届く範囲で守らなければと思っていたし、守りたいと思っていた。けれどそれではハルオミが本当にしたいことをさせてあげられなくなるという葛藤もあった」

「フレイヤさん……」

「私の看病をしながら勇気を振り絞って本音を教えてくれる君を見て、このままではいけないと思った。気づかせてくれて、本当にありがとう」

大好物の卵焼きがすぐ目の前にあるというのに、食べることも忘れ僕の頭を丁寧に、気持ちを込めて撫でるフレイヤさん。

僕が思っていたより彼は自身の過保護ぶりを気にしていたらしい。

「僕、フレイヤさんが心配してくれるのとっても嬉しかったよ?  少し頑張っただけでもたくさん褒めてくれて、疲れたらすぐに抱きしめてくれて、フレイヤさんに守られてるって実感できる瞬間が本当に幸せなんだ。……でも、最近はね、守られるだけじゃなくて守りたいって思う……僕がフレイヤさんを守ってあげるんだって自分自身に誓っているの」

フレイヤさんは驚いているような、でもどこか安ららな表情で僕の話を聞いている。

「だから、今までの反省よりも、これからの僕を見て!  きっと強くなって見せるから、フレイヤさんと一緒に幸せになるために、守られるだけじゃなくて守って見せる!」

「 ハルオミ……本当に、つくづく君には敵わない。こんなに幸せなことってあるのかい?」

フレイヤさんは天を仰いで目を手で多い感慨に浸る。大袈裟なリアクションが面白くて、僕はつい笑ってしまった。

「ふふふっ、フレイヤさん大袈裟なんだから。それより早くしないと卵焼き冷めちゃうよ! あたたかいうちに食べて」

「そうだね、今日の特別な卵焼きをしっかり堪能させてもらうよ」

「特別だなんて、本当に何でも大袈裟だね。今日は市場で手に入れた明太子を入れてみただけだよ」

正式には日本と全く同じ"明太子"ではないと思うけど、味も素材も調理法もよく似ているのでそう呼んでいる。

先日フレイヤさんとデートに行った際、初めて入る食材屋さんで見つけたのだ。その食材屋さんというのがいわゆる珍味店で、魚卵やナマコや豚足などが置いてあった。日本では馴染みのあるものが多かったので、嬉しくなって買い込んで帰ったらイザベラとパネースさんにギョッとされた。
慣れない食べ物なので抵抗があるらしい。

フレイヤさんはというと、これまで食べ物にこれといった感情を持たずに育ってきたらしいのでここのみんなが「ゲテモノ」と恐れる食材も平気な顔で食べるのだ。

だから卵焼きにも遠慮なく明太子をたっぷり入れさせてもらった。前の世界でも元気を出したい日には卵焼きに明太子やほうれん草やチーズなどを入れて特別な気分を味わったりすることもあったので、僕にとっては懐かしく、フレイヤさんにとっては新しく感じたようだ。

「んん、つぶつぶした感触と塩気の効いた風味が卵料理に合うとは意外だな、いつもとはまた別の味わいでこちらも気に入ったよ!」

「ほんと?  よかった~。イザベラとパネースさんは、このつぶつぶは馴染みのないものだから食べるのに勇気が要るって言ってた」

「おや、そうなのかい。こんなに美味いのに勿体無い」

「でもね、せっかくなら挑戦したいって言ってくれたんだ。今心の準備をしてるところなんだって」

「はははっ、心の準備か。きっと後悔するだろうね『もっと早く食べておけばよかった』と」

「そうだといいな~。美味しく食べて貰えるように色々考えてるんだ。前に作ったポテトサラダあるでしょ?  あれにこのつぶつぶを混ぜてみようかな。そんなにクセがないって分かってもらえたら次はオムライスのソースにしてみようかなって思ってるんだ」

頭の中でぐるぐるレシピを組み立て、イザベラとパネースさんが美味しく食べてくれているところを妄想しながら語る。フレイヤさんは食べる手をそのままに、頭で僕の言った料理を思い浮かべているのか興味深そうに目を開く。

「そんな調理法もあるのかい……?  どうだいハルオミ、二人に食べさせる前に味見係が必要だろう、ぜひ私に担当させてもらえないだろうか」

気持ち前のめりになりながら声を弾ませるフレイヤさんは遠足を待ちきれない小学生のように可愛らしい。

「ぜひぜひお願いします。フレイヤさんに味見してもらったら間違い無いね。明日の夜ご飯は味見も兼ねて明太子尽くしにしちゃってもいい?」

「勿論だ!  しっかり吟味するから任せておいて」

「ふふっ、心強いや」

無事に明日の献立も決まって、台所を預からせてもらう者としては一安心だ。



ご馳走様をして後片付けをして、二人で星を見ながら胃を休め、落ち着いたところでお風呂に入った。



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