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続編その②
13.成功体験
しおりを挟む万が一室内で魔法を失敗して水が飛び散るなんてことがあれば大惨事なので、庭に出ていつもパネースさんが水やりをする水道に来た。
「蛇口を捻るのは先ほどお皿を回した応用で、ただ単にさっきより力をたくさん出せばいいだけです。見ていてくださいね……」
——キュ……ジャァーー!
パネースさんが水道に意識を移したかと思えば、ものの数秒で水が流れ出した。
「やっぱりパネースさんすごいや……僕、昨日自分でやってみたけどほんのちょっとしか水出なかったんだ」
「俺だってこんくらいできるし」
イザベラは薄桃色の唇をぷっくり尖らせて拗ねてしまったので、ふわふわの金髪を撫でておく。
「でも、さっきの"お皿くるくる魔法"で感覚は掴めたでしょう? あれを思い出しながら、同じように力を加えてみてください」
パネースさんは、魔法でキュッ!と蛇口を閉め、ぴたりと水を止めた。
「分かった、やってみる!」
蛇口の前に移動して、先ほどと同じように集中した。上下へ力は加えず、平行に、空気の流れを意識して……
——キュ……チョロ……
コツを掴んだおかげで昨日よりスムーズに水が出た。でもまだ、もうすこしいける! たしかこう、空気を掴む感じだったな、もうちょっと、力を加えて、
——ジャァァーー
「「おおっ!」」
「出た!」
「やりましたねハルオミくん! すごいすごい!」
嬉しくてテンションがMAXになって、歓声を上げながら拍手喝采をくれる二人に抱きつこうとした時、魔力の出力が不安定になったのか、水がビシャっと飛び散ってしまった。
「わっ! ハルオミ! 蛇口閉めろ!!」
三人ともしっかり水をかぶってしまい、慌てて魔力で水を止める。
「ごごごごめん! し、閉めた!」
「も~びしょ濡れじゃねえか、まったくよー」
「ふふふっ、豪快な魔力でしたね」
「本当にごめんね二人ともっ! 風邪引く前に着替えなきゃ!」
「俺らよりもハルオミの方が病弱なんだから。早く乾かすぞ、こっち向け」
素早く僕の服と髪を乾かしてくれたイザベラ。相変わらず病弱扱いしてきたからほんの一瞬むっとした気持ちも、すぐに尊敬に変わった。
「すごっ、イザベラ」
自分で魔法を使うようになってから、これまでよりも人の魔法に対して尊敬の念を感じるようになった。イザベラがいとも簡単に僕を乾かしたことに感動して褒め称えると、彼は、えっへん、と胸を張った。
「そうだろ、乾かすのも『空気の流れ』ってやつを掴めばできるんだ。ハルオミも練習すれば使えるようになるぜ!」
「魔法には、やっぱり空気が大切なんだね!」
「おう! 物を浮かすのも乾かすのも、物の周りの空気を操ることが基本中の基本だ」
「ほほぉ」
イザベラの言葉を頭の中でメモをとる。
確かにお皿を浮かせるのと蛇口を捻るの、筋トレで例えると、筋肉の使い方は違うけど使う筋肉は同じって感じだろう。筋トレしたことないけど。
「さすがだねイザベラ、ありがとう」
「まぁ、俺にかかりゃこんなの朝飯前だけどな!………は、は…ハクションッッ!」
「! 感心してる場合じゃ無かった! 早く二人とも乾かさないと!」
「イザベラは本当に調子がいいんですから……二人まとめて乾かしますよ」
「あっ、おい、俺は自分でできるっ…」
イザベラの訴えも聞かず、パネースさんは自分とイザベラの濡れた部分に魔法をかけた。
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