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続編その②
11.魔力の解放
しおりを挟む僕は、ひとまず目標を「蛇口をひねれるようになること」と定めて、二人にコツを教えてもらうことになった。
まずは床にお皿を置く。
「では、このお皿を床から浮かすことなく時計回りに回してみてください。こんなふうに」
パネースさんが言うと、くる、くる、とスムーズにお皿が時計回りに回り出す。
「すごい、いとも簡単に……」
「それではハルオミ君、一度やってみてください」
「わ、わかった!」
こうういのは焦ってやると大抵失敗するのだ。二回ほど深呼吸をして、心を落ち着けてからお意識を集中させる。自分の中に魔力をぽわっと灯せば、フレイヤさんの顔や匂いが頭に浮かぶ。魔法を使うたびに彼の魔力が流れているのだと実感するこの感覚が好きだ。
よし、とお皿に集中をして力を込める。
——くるっ………ふわっ
「あ、浮いちゃった」
「浮かさずに」と言われて慌ててお皿を着地させる。もう一度、上下ではなく左右の動きを意識して魔力を込める。時計回り、時計回り……
——くる、くるっ…………ふわ
「やっぱり浮いちゃう!」
パネースさんがやってるのはとても簡単そうに見えるのに……。
ふわふわと心地よさそうに浮くお皿をもう一度着地させれば、パネースさんがアドバイスをくれた。
「空気の流れを頭の中で思い描いてみてください。私たちが今吸ったり吐いたりしているこの空気は部屋の中に充満しています。それをお皿が回る分だけ少し借りて、このように……時計回りに操ってみるんです」
——くるっ、くるくる……
「おぉ……やっぱすごいなぁ」
「俺だってそんくらいできる! 見てろハルオミ、そらっ……!」
——くるくるくるっ
「わー……さすが、イザベラもちょちょいのちょいだね」
「おうよ! コツはな、ふんっ、ってやって、ハッ! ってすればできるから! やってみろ!」
感覚派のイザベラがくれた抽象的なアドバイスも頭に入れつつ、パネースさんが言った「空気の流れ」を思い描いてみる。
ふぅー、とゆっくり息をして、吐いた呼吸の行方を見つめる。そのまままっすぐお皿へ導き、手でお皿を回すときと同じような感覚でそっと空気を操る。
——くるっ、………くるくるくる
「わ、回った」
「やるじゃんハルオミ!」
「その調子です ハルオミ君! そのまま、ゆっくり回し続けてみてください」
「は、はい!」
時計回り、時計回り、浮かさない、浮かさない……。
パネースさんに言われた通りくるくるお皿を回し続けると、なんとなく感覚が掴めてきた。
「反対周りもできますか?」
「やってみる……!」
ぐっとお腹に力を込め、空気の流れを変える。反時計回り、平行に……。僕は再びふぅ、と息を吐いてお皿を取り巻く空気の流れに集中した。
時計回りに回る勢いが少しずつ弱まり、一旦動きが止まる。そこからゆっくり、ほんの少しずつ反対周りに回転していく。先ほど掴んだ感覚を応用して、よりスムーズに動くよう魔力を加えてみた。
——くるくるくる
「「おおっっ!!」」
パネースさんの指示通り反時計回りにお皿が回転すると、二人は歓声を上げて拍手をくれる。
「ハルオミ君! すごいすごい! とても綺麗に回ってます!」
「まぁ、俺だったらもっと簡単に回せてるけどな! でも凄えじゃねえか! 褒めてやる」
くしゎくしゃとイザベラに頭をかき撫でられると集中力も切れてしまって、すすすー、とお皿は動きを止めた。
「基礎中の基礎の浮遊魔法を使えるようになるまではめちゃくちゃ時間がかかったのに、なんだよハルオミ、魔法うまいじゃん!」
イザベラの言う通り、僕に魔力が宿ってからというもの、一番シンプルな浮遊魔法を習得するまでにはとても時間がかかって、フレイヤさんにつきっきりで教えてもらって何週間もかけてやっと塵紙一枚を約一センチ浮かすことができたほどだ。
魔法の練習は疲れてしまうから今まで元気の有り余る時にしかできずコツも感覚も掴めなかったのに、一度つかんでしまえば調理器具くらいはふわふわと浮かせるようになったのだ。(浮かせられるというだけで魔法を駆使して調理などできっこないのだけど)
そして昨日、フレイヤさんから特訓の許可が正式に降りたことで疲れを恐れず魔力を出せるという開放感も相まって、なんだか魔法が楽しい。
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