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続編その②
7.アイドル
しおりを挟む食後にのんびりしていると軍医の先生が来て、フレイヤさんを診察してくださった。
光で体をスキャンして体調を見るあの魔法、僕もやってみたいなー、なんて、妄想を膨らます。
「先生、どうですか……?」
「何事でしょう……こんな短時間でここまで回復するとは思いませんでした。フレイヤ様、今現在お辛いところは?」
「少し倦怠感はありますが、頭痛や咳はおさまりました」
「なんと。初めに診察した時は療養も長くなると想定しておったのですが、いやはや驚きました。さすが全国屈指の魔祓い師様」
「いいえ、ハルオミのおかげです」
「ハルオミ殿の……?」
不思議そうに僕を見る先生に、フレイヤさんがこう説明した。
「ハルオミの魔力には、自然治癒力を高める性質があるんです」
「おぉぉ! 聞いたことがございます。以前ハルオミ殿の料理を口にした隊員のぎっくり腰が瞬時に治癒し庭を駆け回っておったと!」
懐かしい……そんな微笑ましいこともあったな。
「しかし、あの時はハルオミ殿にかかる負担が大きく、今後この能力は使わないと風の噂で伺ったのですが」
「皆さんが魔力のコントロールや魔法の使い方を教えてくれて、少しなら使っても大丈夫になったんです。そうだ! 先生、僕の体もその光で診れますか……? フレイヤさんにいくら大丈夫って言っても、ずっと心配するんです」
「当たり前だろう。君を信頼しているとはいえ、心配になるのは当然のことだ」
「フレイヤ様の御心労もよく分かります。愛するお方が頑張っておられるお姿には心打たれるものもあり、けれどやはり心配のお気持ちは拭えないのでしょう。そうしましたらハルオミ殿。体をこちらに向けてくだされ」
「はい! よろしくお願いいたします」
先生に向き合い、言われた通りに目を閉じる。
すると、ぽゎっと目の前に光らしきものがちらつき、体が暖かくなった。
おぉ……スキャンされてる。
コピー機に挟まった印刷物の気分だ。
一、二分大人しくしていれば、「よろしいでしょう」という先生の声が聞こえて目を開ける。
「先生、ハルオミはどうでしょうか」
先ほどと逆の立場になってフレイヤさんが聞いた。先生は、ほっほっほ、と目を細めながら
「まるで健康体です。フレイヤ様、ご心配には及びませんよ」
「良かった……」
「ほら! 言ったでしょ? ピンピンしてるって」
「しかしハルオミ殿、無理は厳禁ですぞ?」
ピシッと人差し指を立てて僕に注意を促す先生を見て、フレイヤさんが言った。
「ほら、言っただろう?」
そらみたことか、みたいな顔で見てくるのが悔しいけど可愛い……。先生はこう続けた。
「 私はこれまで二百年間生きてきて、料理に治癒力が宿るなんぞ聞いたことがございませぬ。あなた様に無理がたたってお倒れにでもなったら屋敷中が、いえ……国中がパニックでございます」
「く、国中……? そんな大袈裟な。っていうか、先生二百歳だったんですか……若々しいですね」
「光栄です。しかし大袈裟ではございませんよ。今やハルオミ殿は国中の……えー、あれはなんと言いましたかの………あ…あい………そう! "アイドル" なのでございます。皆あなた様をお慕いしているのですから、お身体はお大事になさってくだされ」
「あいどる? へ?」
先生が二百歳だということにじわじわ驚いている最中だったのに、突然のアイドルを投下されて頭の中がこんがらがる。
「ん? なんで? アイドル?」
「それでは夜のお薬も忘れずに。また明日の朝に伺いますので、くれぐれもご無理はなさらず」
首をころころ傾げていれば、先生は何事もなかったかのように注意事項だけを残して去ろうとする。フレイヤさんも涼しい顔でお礼を言う。
「ありがとうございます」
結局僕の"アイドル"を消化しきらないうちに先生は去ってしまった。
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