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続編その②
6.ご褒美
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「…………ハルオミ……これは……」
いま、何が起きているのか説明しよう。
フレイヤさんの隣にぴったり寄り添ってうどんを食べさせてあげていると、二口くらい食べたところで急に彼が目を見開いたのだ。
「ど、どうしたの……」
何か苦手なものが入っていたのだろうか。と言ってもまだ麺しか食べてないし……もしかしてこの感触が苦手なのかな。風邪の時に食べるうどんはふにゃふにゃの柔らかいのが良いって聞いたことある。でも出来上がったのはツルツルしこしこの歯応えがあるうどん。
病人には食べづらかったかも……。
「ごめんフレイヤさん! まだ歯応えのあるものは食べづらかったよね。もうちょっと茹でて柔らかくしてみるね。ちょっと待ってて」
急いでやわやわのうどんを作りに行こうとすると、フレイヤさんに腕を掴まれて止められた。
「いや……この世のものとは思えないほど美味いよ。美味くて仕方がないがそれより、ハルオミ、また魔力を込めたのかい? しかも今朝よりも強く感じる。あれだけ酷かった頭痛がすっかり消えてしまった……」
「ほ、ほんと!? 頭痛いの治った?」
僕は一旦うどんをベッドの脇の台に置いて、フレイヤさんを抱きしめた。
「良かった! よかったよーフレイヤさん、顔色も悪かったからほんとに心配だった……あ、でも頭痛が治ったからって今日一日安静にしてなきゃいけないのは変わらないよ。遊んだり走ったりしたらダメだからね?」
「ふふっ、分かった、ハルオミの言う通りに過ごすよ。しかし君の魔力は本当にすごいね。驚いて言葉が出ない……本当にしんどくないのかい? 私がこんなに回復をしているのに、本当に君に影響は無いのかい? 嘘をついていたらお仕置きだよ」
「本当だよ! 全然しんどくない。ピンピンしてるでしょ? ほらみて、顔色も悪くない」
フレイヤさんに顔を近づけてアピールすれば、大きな両手で頬を包まれる。
「確かにいつも通りの可愛い顔をしている。血色も良い」
「前は魔力が漏出しちゃってたけど、頑張ってコントロールできるようになったんだもの。魔法の練習でもね、少し疲れちゃってもすぐにへっちゃらになるよ。僕、フレイヤさんをいっぱい幸せにできるようにいっぱい魔法の練習頑張りたいんだ。だからこういう時くらい、僕の力を役に立てさせて?」
ガラスの様な美しい瞳を見て懇願すると、病人とは思えないほどの強い力で抱きしめられた。
「ありがとう。本当に敵わないな……。ごめんね、ハルオミが頑張っている様子を見るとすぐ心配になってしまって、つい要らない言葉をかけてしまうんだ。君はこんなに頼もしい魔法使いなのに、君をもっと信用してあげるべきだった」
「ありがとうフレイヤさん。フレイヤさんが心配してくれてるの伝わってるよ。でもね、僕はまだまだ上手になりたい。フレイヤさんに頼られるくらい強くなりたい。だから、ちょっとくらい疲れても大丈夫だから、これからはもうょっと魔法の練習したいな……」
「そうだね。これからはもっと君の意思を尊重すると約束しよう。……ただ、頑張りすぎていたら注意はさせてもらうけれどね」
「ふふっ。うん、よろしくお願いします」
「さて、頭がスッキリたら味がよく分かるようになった。もっと君の作った"うどん"を食べたいな」
「うん! いいよ! はい、あーん」
まかせろ、と意気込んでふたたび器を持ちフレイヤさんにぴたりとくっつく。僕が箸で差し出すうどんを彼は器用に平らげ、満足そうに笑った。
「ハルオミの料理は全部美味しい。改めてこうして味わえる有り難みを感じたよ。いつもありがとう」
「こちらこそありがとうフレイヤさん。……じゃあ、お薬飲もっか」
「………………すっかり忘れていた」
しゅん、と肩を落とすフレイヤさん。
「ごめん嫌なこと思い出させて。でもね! お薬の後にはご褒美があるから!」
「ご褒美……さっきの飴玉をくれるのかい?」
「ううん、ちょっと待ってて……」
うどんの器を流しに持っていき、代わりに冷蔵庫からプリンを取り出す。型に入ったプリンを綺麗にお皿に移し、フレイヤさんの元へ戻る。
「じゃーん! お薬頑張ったら、このプリンをプレゼントします!」
「! ぷりん……なんだか見慣れないが実に美味そうだ。上の茶色いのはなんだい?」
「これはカラメルソースっていって、とても甘くて少しだけほろ苦いソースだよ」
「ほう……大変興味深い。できればそのプリンとやらだけを食べたいが、そうもいかないね。プリンのご褒美があれば薬も頑張れそうだ。君が飲ませてくれるかい?」
「任せてよ!」
えっへん、と胸を張り、朝と同じ様にフレイヤさんに粉薬を飲ませて、それからすぐにプリンをスプーンで掬って苦い顔をする彼の口の中に放り込んだ。
「!!! これは美味い。甘くてとても濃厚だね、この少し苦いのがカラメルソースかい? 甘いプリンとよく合う。ハルオミ、もう一口おくれ」
「いいよ~、はいあーん」
——ぱくっ
「んー……こんなに素晴らしい食べ物をご褒美にもらえるなんて、夢みたいだ」
「気に入った?」
「ああ。君にはつくづく驚かされるよ。これまでたくさん美味しいものを食べさせてもらったが、まだ私の知らない料理があるとは思わなかった」
「フレイヤさんに食べさせてあげたいものは、まだまだたくさんあるよ。これからも毎日作ってあげるからね」
フレイヤさんに笑いかけると、彼はどこか影のある表情で微笑んだ。
「……フレイヤさん? どこか痛い?」
心配になって、プリンを置いておでこに手を当てて熱を測る。だいぶ下がってきているとはいえ、まだいつもより熱い。
フレイヤさんは僕の手を両手で包み胸に引き寄せながら言った。
「いや……君と出会った時のことを思い出していたんだ。君と出会うまでは、どこか厭世的な気持ちがあってね、色々と精一杯だった。今改めて思う。本当に、本当に生きていてよかった。ハルオミ、生きたいと思わせてくれてありがとう。これからもずっと私のそばにいてくれ」
フレイヤさんが言った言葉と全く同じことを、僕もずっと思っていた。毎日ぼーっとしてて、いつも眠いのに眠れなくて、お母さんが亡くなってからは生きる意味を見失ってた。
「僕も、フレイヤさんに出会えたから今の僕がある。絶対絶対ずっとそばにいる。約束ね」
僕はいつものフレイヤさんの真似をして、彼のおでこに口付けた。
「甘いご褒美をもうひとつ貰えるとは。ふふっ、あと二、三日は体調がすぐれないままでもいいかもしれない」
「もう! しっかり治さないとご褒美ナシにするよ!」
「じょ、冗談だよハルオミ。そのプリンを全部食べれたら治ると思うから、ね?」
ね?、って……
そういうとこ可愛いんだから。
こて、と首を傾げるフレイヤさんはいつもの三割増しで可愛い。普段から穏やかだけど、覇気がなくなるとこんなに丸っこくなってキュートな感じになるんだ。
風邪っぴきフレイヤさんがいくら可愛くても、早く治ってもらわなきゃ困る!
僕は、ひとくち食べるごとに美味しそうに感想を述べるフレイヤさんにキュンキュンしながら餌付けをした。
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