【完結】眠れぬ異界の少年、祓魔師の愛に微睡む

丑三とき

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続編その②

5.自主練

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——パチッ

と、目が覚めた。

「っ!  いけないいけない、僕も眠ってた」

慌てて腕の中におさめた(おさまってないけど)フレイヤさんを見れば、先ほどよりもだいぶ楽そうに呼吸をしていた。

「よかった……よしっ、お昼ご飯も作らなきゃ」

まだまだ時間帯は朝なので全然お昼ご飯という時間帯では無いけれど、今日はフレイヤさんのためになんでもするぞと意気込んでいるため気持ちもはやるというもの。

「お雑炊のほかに、風邪の時に食べるもの……んー、おかゆかうどんしか思いつかないなあ」

いかんせん家庭で看病された経験がないから、テレビやドラマなどのイメージしかない。

「そういえば、お米料理はたくさん作ったけど、うどんはまだ作ったことなかったな」

よし、小麦粉もあるからお昼ご飯はうどんにしよう。

っと、その前に……お薬飲んだ後のフレイヤさんのために甘いものを作っておこうかな。
苦そうに眉を歪めるフレイヤさん、可愛かったな。可愛いなんて言ったら可哀想だけど、あんなに子供っぽいフレイヤさんは初めてだ。

母性本能が沸き起こった僕は、彼の顔を思い浮かべながら卵とミルクと砂糖を用意して、プリン作りに取り掛かった。
僕は子供の時に風邪をひくとプリンが食べたくなってたんだよね。プリンのご褒美があれば、フレイヤさんもお薬頑張れるかなあ。

「フレイヤさんが、お薬しっかり飲めますように」

僕はプリンにも少し魔力を込めた。


冷蔵庫で冷やし固めている間に魔法の練習をする。
浮遊魔法はだいぶものになってきた。

しかし任意のものを浮き上がらせることができるだけで、料理人さんたちのように空中で何かを混ぜたりするのはまだまだ危険。大惨事になりかねない。

「お湯を沸かすくらいなら大丈夫かな」

僕は「ふんっ」と丹田に力を込め、お鍋を浮かせ水道に持っていく。蛇口を捻るのも浮遊魔法の応用だ。捻りたい方向に意識を集中させて…………………

うん、まだ無理っぽい。

やっぱ浮いてないものを動かすのはちょっと重たいんだよなあー。
難しい魔法を使う時は重力に似たものを感じる。難しければ難しいほど重たくなるのだ。

魔法のトレーニングというのはスポーツのトレーニングに似ていて(やったことないけど)、同じことを繰り返して身に染み込ませるうち少しずつ上達していく。

蛇口は中々動かない。
いつもなら諦めて手で捻っちゃうけど、今日はなんだか諦めたくなかった。

こんな些細なことだけど、ひとつずつ出来ることを増やさないとこんなんじゃ一生フレイヤさんを守れない。

体が浮き上がりそうになるくらいふんばって魔力を出す。

「ふんっ……!」

………………

——くいっ

う、動いた!  あと少し!
こういう時は力技は御法度だ。もっと繊細に、回す方向に意識を込めて………

きゅっ、きゅっ、とほんの少しずつ動いていく蛇口。「がんばれ、そのちょうし……」とエールを送るように集中させた。

——きゅ……チョロ、チョロ…


でた!!
でたけどめっちゃちょっとだ!

でも僕の力ではここまでが限界だった。魔力を緩めるとどっと疲れが吹き出す。
でも、今まで蛇口が動いたことなんて一度もないから少し進歩したんじゃないかな。

あとは手で捻って水を溜め、鍋を浮遊魔法でコンロに移動させる。

「よし、魔力の疲労もすぐに回復してる」

魔力も筋力に似ていて、最初は慣れない運動をするとすぐに筋肉痛になってしまうが習慣化するうちにへっちゃらになるように、魔力もまた習慣化するとすぐに回復するようになったら。

流石にフレイヤさんみたいに魔法でお湯を沸かすことはできないけど、そういう高度な魔法もきっと身につけてやるんだ。


沸いたお湯で小麦粉を練り、うどんを打った。

生地を練る時も魔法で練れたらいいんだけど、試してみると案の定、チョンっとへこませるくらいしかできなこった。頑張って手で捏ねよう。

フレイヤさんが居たら「もう魔法の練習はそのくらいにしておかないか?」「まだやるのかい?  そろそろいいんじゃないかな」「これ以上は疲れてしまうよ」とデロデロに甘やかされてしまうので、彼の見ていないうちに色々試して色々失敗しておかなくちゃ。


捏ねている時も、湯掻いている時も、出汁をとっている時も、フレイヤさんの回復を願って魔力を込めた。

この治癒の魔力が料理にこもるというのは僕の唯一の誇れる点だ。あまりこの能力は使わないようにと皆に止められているから役に立つことはなかったけれど、今日みたいにフレイヤさんの辛さがちょっとでも和らいでいるのを見ると、言葉ではどうにも言い表せないくらい嬉しい。

もっともっと魔力が強くなって魔法も上手になったら、もっともっとたくさんの人を助けられるかな。



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