134 / 147
続編その②
5.自主練
しおりを挟む◆
——パチッ
と、目が覚めた。
「っ! いけないいけない、僕も眠ってた」
慌てて腕の中におさめた(おさまってないけど)フレイヤさんを見れば、先ほどよりもだいぶ楽そうに呼吸をしていた。
「よかった……よしっ、お昼ご飯も作らなきゃ」
まだまだ時間帯は朝なので全然お昼ご飯という時間帯では無いけれど、今日はフレイヤさんのためになんでもするぞと意気込んでいるため気持ちもはやるというもの。
「お雑炊のほかに、風邪の時に食べるもの……んー、おかゆかうどんしか思いつかないなあ」
いかんせん家庭で看病された経験がないから、テレビやドラマなどのイメージしかない。
「そういえば、お米料理はたくさん作ったけど、うどんはまだ作ったことなかったな」
よし、小麦粉もあるからお昼ご飯はうどんにしよう。
っと、その前に……お薬飲んだ後のフレイヤさんのために甘いものを作っておこうかな。
苦そうに眉を歪めるフレイヤさん、可愛かったな。可愛いなんて言ったら可哀想だけど、あんなに子供っぽいフレイヤさんは初めてだ。
母性本能が沸き起こった僕は、彼の顔を思い浮かべながら卵とミルクと砂糖を用意して、プリン作りに取り掛かった。
僕は子供の時に風邪をひくとプリンが食べたくなってたんだよね。プリンのご褒美があれば、フレイヤさんもお薬頑張れるかなあ。
「フレイヤさんが、お薬しっかり飲めますように」
僕はプリンにも少し魔力を込めた。
冷蔵庫で冷やし固めている間に魔法の練習をする。
浮遊魔法はだいぶものになってきた。
しかし任意のものを浮き上がらせることができるだけで、料理人さんたちのように空中で何かを混ぜたりするのはまだまだ危険。大惨事になりかねない。
「お湯を沸かすくらいなら大丈夫かな」
僕は「ふんっ」と丹田に力を込め、お鍋を浮かせ水道に持っていく。蛇口を捻るのも浮遊魔法の応用だ。捻りたい方向に意識を集中させて…………………
うん、まだ無理っぽい。
やっぱ浮いてないものを動かすのはちょっと重たいんだよなあー。
難しい魔法を使う時は重力に似たものを感じる。難しければ難しいほど重たくなるのだ。
魔法のトレーニングというのはスポーツのトレーニングに似ていて(やったことないけど)、同じことを繰り返して身に染み込ませるうち少しずつ上達していく。
蛇口は中々動かない。
いつもなら諦めて手で捻っちゃうけど、今日はなんだか諦めたくなかった。
こんな些細なことだけど、ひとつずつ出来ることを増やさないとこんなんじゃ一生フレイヤさんを守れない。
体が浮き上がりそうになるくらいふんばって魔力を出す。
「ふんっ……!」
………………
——くいっ
う、動いた! あと少し!
こういう時は力技は御法度だ。もっと繊細に、回す方向に意識を込めて………
きゅっ、きゅっ、とほんの少しずつ動いていく蛇口。「がんばれ、そのちょうし……」とエールを送るように集中させた。
——きゅ……チョロ、チョロ…
でた!!
でたけどめっちゃちょっとだ!
でも僕の力ではここまでが限界だった。魔力を緩めるとどっと疲れが吹き出す。
でも、今まで蛇口が動いたことなんて一度もないから少し進歩したんじゃないかな。
あとは手で捻って水を溜め、鍋を浮遊魔法でコンロに移動させる。
「よし、魔力の疲労もすぐに回復してる」
魔力も筋力に似ていて、最初は慣れない運動をするとすぐに筋肉痛になってしまうが習慣化するうちにへっちゃらになるように、魔力もまた習慣化するとすぐに回復するようになったら。
流石にフレイヤさんみたいに魔法でお湯を沸かすことはできないけど、そういう高度な魔法もきっと身につけてやるんだ。
沸いたお湯で小麦粉を練り、うどんを打った。
生地を練る時も魔法で練れたらいいんだけど、試してみると案の定、チョンっとへこませるくらいしかできなこった。頑張って手で捏ねよう。
フレイヤさんが居たら「もう魔法の練習はそのくらいにしておかないか?」「まだやるのかい? そろそろいいんじゃないかな」「これ以上は疲れてしまうよ」とデロデロに甘やかされてしまうので、彼の見ていないうちに色々試して色々失敗しておかなくちゃ。
捏ねている時も、湯掻いている時も、出汁をとっている時も、フレイヤさんの回復を願って魔力を込めた。
この治癒の魔力が料理にこもるというのは僕の唯一の誇れる点だ。あまりこの能力は使わないようにと皆に止められているから役に立つことはなかったけれど、今日みたいにフレイヤさんの辛さがちょっとでも和らいでいるのを見ると、言葉ではどうにも言い表せないくらい嬉しい。
もっともっと魔力が強くなって魔法も上手になったら、もっともっとたくさんの人を助けられるかな。
1
お気に入りに追加
1,377
あなたにおすすめの小説
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
第一王子から断罪されたのに第二王子に溺愛されています。何で?
藍音
BL
占星術により、最も国を繁栄させる子を産む孕み腹として、妃候補にされたルーリク・フォン・グロシャーは学院の卒業を祝う舞踏会で第一王子から断罪され、婚約破棄されてしまう。
悲しみにくれるルーリクは婚約破棄を了承し、領地に去ると宣言して会場を後にするが‥‥‥
すみません、シリアスの仮面を被ったコメディです。冒頭からシリアスな話を期待されていたら申し訳ないので、記載いたします。
男性妊娠可能な世界です。
魔法は昔はあったけど今は廃れています。
独自設定盛り盛りです。作品中でわかる様にご説明できていると思うのですが‥‥
大きなあらすじやストーリー展開は全く変更ありませんが、ちょこちょこ文言を直したりして修正をかけています。すみません。
R4.2.19 12:00完結しました。
R4 3.2 12:00 から応援感謝番外編を投稿中です。
お礼SSを投稿するつもりでしたが、短編程度のボリュームのあるものになってしまいました。
多分10話くらい?
2人のお話へのリクエストがなければ、次は別の主人公の番外編を投稿しようと思っています。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
好きか?嫌いか?
秋元智也
BL
ある日、女子に振られてやけくそになって自分の運命の相手を
怪しげな老婆に占ってもらう。
そこで身近にいると宣言されて、虹色の玉を渡された。
眺めていると、後ろからぶつけられ慌てて掴むつもりが飲み込んでしまう。
翌朝、目覚めると触れた人の心の声が聞こえるようになっていた!
クラスでいつもつっかかってくる奴の声を悪戯するつもりで聞いてみると
なんと…!!
そして、運命の人とは…!?
紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる