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続編その②

4.僕が守ってあげる

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ギクっ!!!  という音が心の中で鮮明に聞こえた。

忘れていた。フレイヤさんが僕の魔力を感じ取れることを忘れていた。以前も料理にこもった僕の魔力を彼が言い当てたのを忘れていた。

風邪によってぼんやりとしていた瞳がほんの一瞬鋭くなったのを見て、慌てて言い訳をした。

「ごめんなさい。でも本当におまじない程度だよ。体力も全っ然持ってかれてないし! 見て、こんなピンピンしてる!」

僕は力こぶをつくってアピールする。

「それに最近魔法も上達してきたから、魔力のコントロールもうまくできるんだよ!  まぁ……上達って言ってもフレイヤさんの足元にも及ばないけど……とにかく!  僕は元気いっぱいだから心配しないで。フレイヤさんが早く元気になりますようにってお祈りしながら作ったんだ。だから、食べて欲しいな」

彼の目を見つめながら訴える。フレイヤさんは少し考えてから、はぁ、とため息をついた。

「君が作ったものを食べないという選択肢は無いが……本当に問題ないんだね?  疲れてもいないのかい?」

「うん!  元気有り余ってる!!」

「そうかい……ハルオミは魔法の練習も魔力のコントロールも毎日励んでいるから耐性がついたのだろう。本当に、毎日よく頑張っているね」

「フレイヤさん……」

頭を撫でてくれる手はいつも暖かい。
頑張ったね、と言われるに相応しい魔法使いになれるように、もっともっと頑張ろうと思った。

そして彼の口からさらに嬉しい言葉が飛び出した。

「実は、起きてからずっとひどい頭痛がしていたのだけど、心なしかやわらいだ気がするよ」

「本当に!?  あっ、ごめんなさい、声が大きかった。頭に響いちゃうよね……。でもほんとよかった……胃が気持ち悪くなかったらお雑炊全部食べる?  もうちょっと痛みが減るかも」

「もちろん全ていただくよ。ハルオミが食べさせてくれるんだろう?」

「ふふっ、もちろんだよ。じゃあもう一度あーんしてあげるね……ふぅー……ふぅー、はいあーん」

——ぱくっ

くっ……この雛鳥みたいな可愛さ、心臓に悪い……
もっと元気になれ、もっと苦痛よやわらげ、と願いを込めながらフレイヤさんの口へ運び続けた。


全て食べ終わった彼の顔は、少しだけ青白さがマシになっていた。もちろんエネルギーを摂取したからというのもあるけれど、僕も少しは役に立てたと思うと嬉しかった。

「ご馳走様、とてもおいしかったよ」

「お粗末様でした。全部食べれてえらいえらい」

完食してくれたのが嬉しくて、銀色の頭を両手でよしよしさする。するとフレイヤさんもニコッと笑ってくれた。

そうだ、先生に預かった薬も用意しなきゃ。

「フレイヤさん、お薬も飲める?  粉薬なんだけど」

「……君が飲ませてくれるなら」

「…………」

え、なに、可愛いんだけど。
もしかしてもしかして。フレイヤさんお薬苦手?  今ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ嫌そうな顔したよね。わー、うそ、お薬苦手なんだ……可愛い。

「飲ませてあげるよもちろん!  僕に任せて!」

えっへん、と胸を叩きながら薬を用意する。

「口を開けて上向いて?」

僕の言うことをすんなり聞くフレイヤさんの口になるべく舌を避けて粉薬を入れ、水を注ぐ。

「はいっ、飲んで!」

「んっ……中々の味だ……昔から粉の薬だけは不得意でね、この舌にまとわりつく感じがなんとも言えない」

苦そうに舌をもたつかせながら薬の感想を述べるフレイヤさんはいつもより子供っぽい。可愛い彼を見ていたいけどこのままじゃ可哀想なので、ご褒美をあげることにした。

「ちょっと待っててフレイヤさん!」

急いで台所に行き目的のものを持ってベッドに戻る。

「フレイヤさん、目を閉じて口開けて」

僕のいう通りにした彼の口にそれを放り込めば、苦そうに歪んでいた眉がスっといつもの位置に戻った。

「ん、あまい……これはなんだい?」

「飴だよ、昨日の夜に作って固めておいたの。ちょうどよかった。どう?  苦いのなくなった?」

「すっかり消えたよ。素晴らしい。飴玉も作れるなんて君は本当に天才だな」

「ふふふっ、大袈裟だよ。砂糖と水だけでできるからすぐに作れるの」

「簡単そうに言うが、君が作ったものは全て特別な味がする。心があたたかくなる」

「ほんとに?  嬉しい!  もっともっと頑張って、これからもフレイヤさんを幸せにしてあげるからね」

「もう充分幸せなのに、これ以上幸せにしてくれるのかい?  では私も負けていられないね。早く体調を戻して、また君をしっかりとこの腕に抱きしめてあげたい」

力なく笑うフレイヤさん。口では平気そうに振る舞っているけれど、よほど辛いのだろう。いつもの覇気が全く無い。それでも僕の魔力が効いたのか、顔色が戻ったのは本当に良かった。

栄養のあるものを食べて薬を飲んでしっかり寝れば、もっと良くなるはずだ。


再びフレイヤさんを布団に寝かせ、僕も横にひっついてフレイヤさんにぎゅっと腕を回す。

「今日はずっと僕が抱きしめてあげるからね。フレイヤさんは安心してたくさんぐっすり寝てね」

「ハルオミ……君は本当に優しいね」

瞼を閉じた彼の顔を見ながら、髪の毛を撫でたり胸をさすったりしてそっと寝かしつける。

そうしながら、僕は前の世界でのことを思い出していた。
この世界に来るまで、風邪ひいても誰かにこうして撫でてもらうことはなかった。母はずっと病院にいたから心配をかけないように体調が悪くても元気に振る舞ったし、家で父が看病してくれることなんてもちろんなかった。

体調が悪くなると、途端に心細くなる。
わけもなく涙が出てしまうこともあった。今までは一人で泣くしかなかった。でもフレイヤさんと出会ってからは、いつも彼が僕の不安を溶かしてくれた。涙が出たら拭ってくれた。

だから今度は僕がフレイヤさんの力になるんだ。

「大丈夫だよ、必ず、よくなるよ……」

腕の中におさまり切らない彼を一生懸命抱きしめながら、いつのまにか僕も眠りに落ちていた。

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