132 / 147
続編その②
3.お雑炊
しおりを挟む「フレイヤさん。朝だよ。ごはん食べられるかなあ? まだしんどい?」
おでこを撫でながら問いかける。数秒まつ毛が揺れた後、ゆっくり目が開いた。心なしか、いつもより垂れ下がっているような気がする。
「おはよう、フレイヤさん」
「……おはようハルオミ。もう起きていたのかい。すまない、寝坊をしてしまったようだ」
「大丈夫だよ、今日のお仕事はお休みするようにってお医者さんが言ってた。だから一日ゆっくりして風邪を治そう」
僕の言葉をひとつひとつ聞きながら状況を理解しているのか、フレイヤさんは少しの間黙って考えていた。そして苦笑いをこぼしながら、
「そうだね、無理をすると兄さんたちにも迷惑がかかってしまう。情けないが今日はそうさせてもらおう」
「情けないだなんて、そんなことないよ。体調不良は誰にでもある。僕だってフレイヤさんにずっと看病してもらってたんだから、こういう時くらいお役に立たないと!」
ふんっ、と鼻息荒く拳を握りしめれば、フレイヤさんは手を伸ばして僕の頬を撫でてきた。
「なんとも頼もしいね。ありがとうハルオミ」
彼に頼られたのが嬉しくなり、つい捲し立ててしまう。
「あのね、フレイヤさんのお薬は僕が預かってるの。食後に飲まなきゃいけないから、食べられるだけで良いから朝ごはん食べて、お薬飲んで、もう一度寝よう。お昼になったらまたお医者さんを呼んで体調見てもらおうね、お昼もお薬あるからしっかり飲んで、あとはたくさん食べて、寝て……」
「ははっ、君に任せておけばあっという間に治りそうだ」
フレイヤさんは饒舌に本日の予定を語る僕を見て呆気に取られたような顔で聞いた後、ふにゃっと幼い笑顔を見せた。その力の無い笑顔に、彼が弱っているのが分かる。
くっちゃべってないで、早く朝ごはん朝ごはん。
「フレイヤさん、一回起き上がれる?」
「ああ」
「ゆっくりでいいからね。 背中に枕挟んであげる……よいしょ……大丈夫? 体勢しんどくない?」
「大丈夫だよ」
「じゃあお雑炊持ってきてあげるから少し待ってて」
「おぞうすい……?」
首を傾げるフレイヤさんを背に台所に行き、小さな土鍋のような容器に入れた雑炊を持って寝室に戻る。
「良い香りだね……少しお腹が空いてきたよ」
「本当? よかった。熱いからちょっと冷ますね。僕が食べさせてあげる。ふぅー、ふぅー……よし、フレイヤさん、あーん」
「………たまには風邪をひいてみるものだね。あーー」
——ぱくっ
無事フレイヤさんの口に収まったお雑炊。
喉も痛いのか、いつもよりゆっくり飲み込んだのを見計らって、次の一口を冷ます。
「フゥー、フゥー……はい、あーん」
——ぱくっ
「ん……おいしい」
……………かわいい。
いつもは初めて食べるものに対して「ここがこう美味しい」とか「香りと味とがどうのこうの」とか詳細な感想を述べてくれるフレイヤさんだが、今日は弱体に沁みているのか、しみじみと味わってくれている。
「まだちょっと熱いかな、ふぅー、ふぅー」
だんだん餌付けをしているような気になってきた。フレイヤさんがよく僕を膝に乗せてご飯を食べさせる気持ち、今なら分かる気がしてしまう……。
大人しく僕の手からお雑炊を食べていたフレイヤさんだったが、四口目を口に入れたあたりで怪訝な顔をした。
「フレイヤさん……? ごめん、味おかしかったかな? それともペース早かった?」
背中をさすりながら彼の顔を覗き込むと、どこか驚いたように僕を見て言った。
「ハルオミ……君、もしかして魔力を込めたのかい?」
1
お気に入りに追加
1,376
あなたにおすすめの小説
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる