【完結】眠れぬ異界の少年、祓魔師の愛に微睡む

丑三とき

文字の大きさ
上 下
123 / 147
続編その①〜初めての発情期編〜

31.逃がさない

しおりを挟む


恥ずかしくなったかと思えば見せつけたいと奮起したり、感情が右往左往するけれど、その根底にあるものを急に自覚してしまい、まんまとフレイヤさんに見抜かれてしまう。

「怒らないで、聞いてくれる……?」

「ああ。絶対に怒らない。約束するよ」

彼の前では何も隠し事が出来ない。それが心地いいとさえ感じる。僕はフレイヤさんに向き合って、じっと目を見つめた。

「ちょっとだけ不安だったんだ。そんなわけないと思ってても、フレイヤさんが本当に誰かに取られちゃうかもって、本当にちょっとだけ、考えてた……」

「!  ハルオミ……そんなことは」

「分かってる!  フレイヤさんはずっとそばにいてくれるって分かってるけど、昨日ね、初めて町に出て、お屋敷の人以外の人たちをたくさん見て、みんなかっこよくて綺麗だなと思った。もしフレイヤさんと出会うのがもう少し遅かったら、とか……もしもっと素敵な人が現れたら、とか、考えなくても良いことをぐるぐる考えてしまう。フレイヤさんはいつだって僕を大切にしてくれているのに、こんな気持ちになっちゃって、ごめんなさい……」

考えてもみれば、僕が今まで会ったことあるのは祓魔家に関わる人たちのみで、パネースさんとニエルド様の祝言の時にしかここの屋敷の人以外に会う機会は無かった。

外の世界を知ったことで自分が井の中の蛙になった感じがした。外の世界は広いな、と感じた。

とはいえこんな不安を抱くのはフレイヤさんに対してとても失礼だ。だから僕はたくさん謝った。

こんなふうに思ってごめんなさい、と。


そしたら体がぎゅぅっと圧縮されてしまいそうなほどきつく強く抱きしめられた。

「謝らないでハルオミ。君の気持ちはよくわかる。私だって、君が魅力的すぎるあまり他人に攫われてしまわないか不安になることもある」

「……フレイヤさんも、同じ気持ち?」

「ああ。だけどね、不安とは裏腹の気持ちもある。私は君がここから逃げようものなら閉じ込めて一生私のそばに縛りつけてしまうかもしれない、君を独占したい気持ちがあまりにも強過ぎて自分が怖くなることもある。私の方こそごめんねハルオミ」

どこか自分に呆れたような、しかしまっすぐな熱を含んだ声でそう言った。フレイヤさんは謝ってくれたけど、僕は体がゾクゾクするほど嬉しかった。独占されたい、したい。支配したい、されたい。フレイヤさんの心と体と溶け合って一つになってしまいたい。

「フレイヤさんも、謝らないで。嬉しい……僕フレイヤさんに独占されたい。僕のことずっと何があっても離さないで。鎖に繋がれたって構わない、フレイヤさんとずっと一緒にいれるならどんな酷いことされても嬉しいだけ。こんなふうに考えちゃうのって、おかしいのかな」

口にすればするほど、自分の独占欲がこれほどまで大きく強かったことに驚く。
フレイヤさんは、僕を腕から一度離した。優しい目には僕の不安そうな顔が写っていた。

「私もね、何がおかしくて何が普通か分からないんだ。人を愛しいと思ったのは初めてだからね。だからこれは私と君との間での感覚に過ぎないのだけれど、今君が伝えてくれた気持ちは、私にとって震えるほど嬉しかった。おかしいか普通かなんて考えなくて良い。私はハルオミを逃さない。ハルオミも私を逃さないで。他の人のことなど考えなくて良い」

お互いの独占欲をこんなに好き勝手にぶつけ合うのは、もしかしたら普通じゃないのかもしれない。でも僕もフレイヤさんしかこんなに愛した人はいないから分からない。誰にもこの気持ちが普通かどうかなんて分からない。

ただ。お互いを独占したいという確固たる気持ちは決して変わらない。

「うん……絶対にずっとずっとフレイヤさんと一緒にいる。死ぬまでいる」

「絶対に逃さないからね、ハルオミ」

「僕も、フレイヤさんのこと絶対に逃がしてあげない」

フレイヤさんは不思議だな。
彼に思う存分に本音をぶつけたら、すっと心が軽くなる。

「フレイヤさん、いつも大切にしてくれて、ありがとう」

ずっとずっと僕のもの。誰にも渡さない。そう意思を込めてフレイヤさんを見つめるうち、彼が僕のものであるという証を刻みたくなった。

ほとんど反射的にフレイヤさんの首に抱きつき、そこに顔を埋めた。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

この恋は無双

ぽめた
BL
 タリュスティン・マクヴィス。愛称タリュス。十四歳の少年。とてつもない美貌の持ち主だが本人に自覚がなく、よく女の子に間違われて困るなぁ程度の認識で軽率に他人を魅了してしまう顔面兵器。  サークス・イグニシオン。愛称サーク(ただしタリュスにしか呼ばせない)。万年二十五歳の成人男性。世界に四人しかいない白金と呼ばれる称号を持つ優れた魔術師。身分に関係なく他人には態度が悪い。  とある平和な国に居を構え、相棒として共に暮らしていた二人が辿る、比類なき恋の行方は。 *←少し性的な表現を含みます。 苦手な方、15歳未満の方は閲覧を避けてくださいね。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

僕の穴があるから入りましょう!!

ミクリ21
BL
穴があったら入りたいって言葉から始まる。

処理中です...