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続編その①〜初めての発情期編〜
31.逃がさない
しおりを挟む恥ずかしくなったかと思えば見せつけたいと奮起したり、感情が右往左往するけれど、その根底にあるものを急に自覚してしまい、まんまとフレイヤさんに見抜かれてしまう。
「怒らないで、聞いてくれる……?」
「ああ。絶対に怒らない。約束するよ」
彼の前では何も隠し事が出来ない。それが心地いいとさえ感じる。僕はフレイヤさんに向き合って、じっと目を見つめた。
「ちょっとだけ不安だったんだ。そんなわけないと思ってても、フレイヤさんが本当に誰かに取られちゃうかもって、本当にちょっとだけ、考えてた……」
「! ハルオミ……そんなことは」
「分かってる! フレイヤさんはずっとそばにいてくれるって分かってるけど、昨日ね、初めて町に出て、お屋敷の人以外の人たちをたくさん見て、みんなかっこよくて綺麗だなと思った。もしフレイヤさんと出会うのがもう少し遅かったら、とか……もしもっと素敵な人が現れたら、とか、考えなくても良いことをぐるぐる考えてしまう。フレイヤさんはいつだって僕を大切にしてくれているのに、こんな気持ちになっちゃって、ごめんなさい……」
考えてもみれば、僕が今まで会ったことあるのは祓魔家に関わる人たちのみで、パネースさんとニエルド様の祝言の時にしかここの屋敷の人以外に会う機会は無かった。
外の世界を知ったことで自分が井の中の蛙になった感じがした。外の世界は広いな、と感じた。
とはいえこんな不安を抱くのはフレイヤさんに対してとても失礼だ。だから僕はたくさん謝った。
こんなふうに思ってごめんなさい、と。
そしたら体がぎゅぅっと圧縮されてしまいそうなほどきつく強く抱きしめられた。
「謝らないでハルオミ。君の気持ちはよくわかる。私だって、君が魅力的すぎるあまり他人に攫われてしまわないか不安になることもある」
「……フレイヤさんも、同じ気持ち?」
「ああ。だけどね、不安とは裏腹の気持ちもある。私は君がここから逃げようものなら閉じ込めて一生私のそばに縛りつけてしまうかもしれない、君を独占したい気持ちがあまりにも強過ぎて自分が怖くなることもある。私の方こそごめんねハルオミ」
どこか自分に呆れたような、しかしまっすぐな熱を含んだ声でそう言った。フレイヤさんは謝ってくれたけど、僕は体がゾクゾクするほど嬉しかった。独占されたい、したい。支配したい、されたい。フレイヤさんの心と体と溶け合って一つになってしまいたい。
「フレイヤさんも、謝らないで。嬉しい……僕フレイヤさんに独占されたい。僕のことずっと何があっても離さないで。鎖に繋がれたって構わない、フレイヤさんとずっと一緒にいれるならどんな酷いことされても嬉しいだけ。こんなふうに考えちゃうのって、おかしいのかな」
口にすればするほど、自分の独占欲がこれほどまで大きく強かったことに驚く。
フレイヤさんは、僕を腕から一度離した。優しい目には僕の不安そうな顔が写っていた。
「私もね、何がおかしくて何が普通か分からないんだ。人を愛しいと思ったのは初めてだからね。だからこれは私と君との間での感覚に過ぎないのだけれど、今君が伝えてくれた気持ちは、私にとって震えるほど嬉しかった。おかしいか普通かなんて考えなくて良い。私はハルオミを逃さない。ハルオミも私を逃さないで。他の人のことなど考えなくて良い」
お互いの独占欲をこんなに好き勝手にぶつけ合うのは、もしかしたら普通じゃないのかもしれない。でも僕もフレイヤさんしかこんなに愛した人はいないから分からない。誰にもこの気持ちが普通かどうかなんて分からない。
ただ。お互いを独占したいという確固たる気持ちは決して変わらない。
「うん……絶対にずっとずっとフレイヤさんと一緒にいる。死ぬまでいる」
「絶対に逃さないからね、ハルオミ」
「僕も、フレイヤさんのこと絶対に逃がしてあげない」
フレイヤさんは不思議だな。
彼に思う存分に本音をぶつけたら、すっと心が軽くなる。
「フレイヤさん、いつも大切にしてくれて、ありがとう」
ずっとずっと僕のもの。誰にも渡さない。そう意思を込めてフレイヤさんを見つめるうち、彼が僕のものであるという証を刻みたくなった。
ほとんど反射的にフレイヤさんの首に抱きつき、そこに顔を埋めた。
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