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続編その①〜初めての発情期編〜

23.呼び出し

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さて、せっかくイザベラとパネースさんが来てくれたので、昨日手に入れた食材を使って何か作ってみようと思う。

ちなみに餅米はフレイヤさんを見送ってからすぐ炊き始めて、先ほど炊き上がった。

おはぎかお団子か、何を作ろうかなと想像を巡らしているとパネースさんがあたりを見回りながら言った。

「ハルオミ君、何だか良い匂いがしますね」

「おっさすがパネースさん!  実はね、さっき餅米を炊いたんだ」

「もちごめ?」

「お米の一種だよ。そのまま食べても良いけど粘り気が強いから、お餅スイーツにするのもアリかなあって思ってね」

「スイーツ!  お米がお菓子になるのですか?  それは気になりますねえ……」

「ハハハッ、パネース食い意地張りすぎ」

「だってお米のスイーツですよ?  イザベラだって気になっているくせに」

「まあそりゃ、どんなもんか見てみてぇけど……」

いつも通りの二人のやり取りに心が和む。
そうだ。使い慣れていない食材もたくさん手に入れたから、二人にも手伝ってもらうことにしよう。

そう二人に提案すれば、イザベラから「まかせろ!」と元気の良い返事が返って来た。

「私にもできることがあればぜひお手伝いさせてください!」

パネースさんの承諾も得られたところで、イザベラは閃いた顔をして言った。

「そういえば今日ウラー休みじゃん。あいつも呼ぼうぜ」

「ウラーさん?  そういえば朝から姿を見てないような」

「家帰ってるらしいぜ。普段は執事としてしか屋敷に居ないから、込み入った話できないだろ?  せっかくだからシンボクを深めよう!」

込み入った話……執事の性生活ってかなり込み入った話だったよなぁ、とは思いつつも、確かにプライベートのウラーさんにはとても興味があった。

「でも良いのかな、せっかくのお休みなのに、クールベさんと過ごす予定とか……」

「確かクールべさんは、今日から二、三日泊まりで北の地セヴェラーに研究に出るとおっしゃってました」

「丁度いいじゃん!  とりあえず呼んでみる!」

「呼んでみる、ってどうやって……」

イザベラは意気揚々と僕の部屋の窓を開け、外に何かを放っぽり投げた。

「え、ちょちょちょ、イザベラ!?」

——ヒュ~~……バァァァァン!!!

花火!?

「ちょっとイザベラ、いきなり爆弾使うのやめてください。びっくりするじゃありませんか」

「いいだろ?  ウラー呼ぶのはこの爆弾なんだよ」

なにその決まり。狼煙みたいなこと?
オレンジ色の花火みたいなものが空に咲いて、突然のことに心臓が驚いている。

「ひとまず呼んだから、先に始めてようぜ」

自由だなあ……。
へへっ、と得意気に笑う彼はとっても可愛いけど、やることと顔のギャップがすごすぎる。

もう爆発させちゃったものは仕方ない。
パネースさんもやれやれと呆れながら、イザベラの奇行が面白かったようでちょっと笑っている。僕もプライベートのウラーさんに会えるのがかなり楽しみなので、彼が来るまで料理の下準備を着々と進めた。






「ハルオミ君。お豆さん、こんな感じでいいですか?」

「うん!  しっかり洗えてる。そしたらお鍋に入れて、水からゆっくり茹でよう」

「こんなに水入れんのか?」

「うん。だいたい小豆の三倍くらいの量かな」

昨日手に入れた食材その2はつやつやの小豆に似た豆。ここでは茹でてそのまま食べるらしいけど、あんこにできそうかも、と何となく思い買ってみた。

無事あんこになってくれるかどうかは僕らの腕にかかっている。

「10分から15分くらい茹でたら茹で汁を一回捨てるんだ」

「一回捨てる?  これで出来上がりではないのですか?」

「うん。一回捨てて、もう一回水を替えて茹でるの」

「へぇ~、フクザツな工程なんだな」

「そうなの、ちょっと手間がかかるんだよね。でもきっと美味しくなると思うから期待してて!」

成功すればだけどね……!

しかし、こんなふうに友達と一緒にわいわい料理をする日が来るなんて思わなかったな。イザベラは手を洗った時の石鹸のあわあわがチョン、とほっぺについたままだ。
多分、パネースさんもその姿を可愛い思っているから何も言わないんだと思う。
そのパネースさんはというと、僕の言葉を生徒のようにしっかり聞いて、時々メモを取りながら熱心に聞いてくれている。

対極的な二人を見ていると、ぽわぽわと胸が満たされる。フレイヤさんと居る時とはまた違う感覚で、でも幸せなことに変わりはなくて、ここで過ごす一秒一秒が大切な宝物になっていく。

二人を微笑ましく見ていると、コンコンッと扉が叩かれた。

「はぁ~い!  開いているのでどうぞ!」

——ガチャ

「失礼します」

「おっ、来た来たウラー、こっちこっち!」

イザベラが調理場からぴょこっと顔を出してウラーさんを手招きする。予想通り呆れ顔で入って来たウラーさんは、いつもとかなり感じが違っていた。

いつもはオールバックにしている茶髪は前髪がサラッと眉にかかり、すこし幼い印象。いつもはきっちりかっちりとスーツを身に纏っているが、簡単なシャツにカーディガンを羽織って緩い装いだ。加えてシンプルな肩掛けカバンをかけている。

その姿からはいつもの「陽きゃ」感が感じられず、えーっと、……なんていうんだっけこの、こういう雰囲気を表す、クラスの子が言ってた、んーーっと、………そうだ!

「えもい!」

「「「えも……?」」」

三人はきょとんとして僕の言葉を反芻する。

「ウラーさん、えもい。その、なんかいつもと違うギャップのある感じ。陽きゃ男子でもあり、えもい系男子でもあったんだね……!」

彼の違う一面を感じられて感動する。

「…………ウラー、お前『えもい』んだってよ?」

「それは光栄です」

ウラーさん絶対適当に返事してる。そういうところはいつも通りだ。

「いやでも、久しぶりにウラーさんの私服を見れて嬉しいです。いつもはピシッとして『完璧な執事!』という感じなので……ふふっ、なんだか今日は可愛らしいですね」

「誰かさまがいきなりあんな呼び出し方をするもんだから、身なりもそこそこに急いで来たんですよ。今日はもう自宅に帰っていたので。町中からもよーく見えましたよ?」

それは問題だ……。町、大騒ぎじゃなかったのかな。

「それにしても、やっぱりあの爆発で来たの?  よく分かったね」

「ええ。昔はよく彼の悪戯に付き合わされていましたから。イザベラ殿から爆弾で呼び出されるのは久しぶりで、懐かしささえ感じましたよ」

「昔もあったんだ……ウラーさんの苦労が目に浮かぶ気がする。そういえばお屋敷に来たのはイザベラが最初だったんだよね。そしたらウラーさんとの付き合いもパネースさんよりイザベラの方が長いの?」

「おうよ!  なんせ、この三人の側仕えの中じゃ俺が一番先輩だからな」

「一番先輩なのはパネース殿ですよ。イザベラ殿は屋敷にいらっしゃったのがパネース殿より数ヶ月早いだけで、側仕えになったのは屋敷に来て二年後でしょう?」

「そうなの?」

「べ、別に側仕えになった時期なんてどうでもいいだろ?  屋敷じゃ俺が一番先輩だ!  ウラーが影に隠れてクールべさんとちちくりあってたのを最初に発見したのも俺だ!」

「ちちくり……言い方が良くないですね。そん時はもうギリ伴侶になってたんだから良いじゃないですか」

「あ、開き直った」

「ウラーさん、お屋敷でいちゃついてたんだ……」

いつも完璧で、クールベさんのことも足で使うようなウラーさんが普段どんなふうにイチャイチャしてるのか、めっっちゃ気になる……!

羨望の眼差し(?) を彼に向けると、はぁ、とひとつため息を吐いた。

「そんなことより、良いのですか?  鍋、吹きこぼれそうになっていますよ」

——ぶくぶくぶく

「わっ!!」


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