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続編その①〜初めての発情期編〜
21.side民間人
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民衆は浮き足立っていた。
滅多に姿を見せないフレイヤ・ヴィーホットと側仕えのハルオミが手を繋いで歩いていたかと思えば、ハルオミがフレイヤに抱き抱えられ何やら言い合いをしており、その内容が「こいつは自分のものである」というお互いの主張。
この世界では昔から「魔祓い師と側仕えの仲睦まじい姿を見れば幸福が訪れる」という言い伝えがあった。
その言い伝えは実に理に叶っていて、市民の平和を保っているのは魔祓い師であるが故に、その魔祓い師の健康を直接的に左右すると言っても過言では無い側仕えと仲が良いということは、イコール町の平和が保障されたようなものなのである。
ここ東の地では、祓魔家当主のニエルド・ヴィーホットとその側仕えパネース、末の弟のビェラ・ヴィーホットとその側仕えイザベラの姿が目撃されることはままあった。
しかし、三人の中でも特に強い力を持ち世界中の魔祓い師の中でもトップと言われているフレイヤ・ヴィーホットに関しては、25の年を迎えるまで側仕えを置くことすらなかった。
側仕えを置かないと言うことは、その魔祓い師の衰退をも意味していた。
民衆もフレイヤの活躍を諦めかけたその時、異界から訪れた少年が魔祓い師になったという噂が流れた。
黒い髪の毛や黒い目をしており、不思議な料理を作り、さらに呪いにかかったフレイヤを命をかけて救ったという情報は瞬く間に広まった。
しかし、側仕えを置いても未だに彼らが仲良く町へ繰り出すことは無かったので、皆の間では「デマ」だの、「本当はビジネスライクな関係」、つまり魔祓い師を性的に癒すだけでそこに愛情というものは存在しない、そういう関係だと思っていた者も少なくなかった。
が! 本日、晴天で気温良好な本日、フレイヤとハルオミが仲良く手を繋いで歩いているではないか!
町行く人々は惹きつけられた。
フレイヤといえば冷酷・冷徹、悪魔を祓う事だけに生きがいを見出している、生まれてこの方笑ったことがない、などまあ散々な噂が立っていた。新聞でもフレイヤの姿が掲載されれば、その鋭く冷たい目に射抜かれて恐怖で心臓発作を起こした者がいるとか居ないとか。
そんな彼が、柔和に目を細めて笑っている。
そして飲食店から出て来るやいなやハルオミを抱えて痴話喧嘩を始めた。
あのフレイヤに強い口調でものを言えるなど、世界中探してもハルオミ以外にいないだろう。
しかも「フレイヤさんは僕だけのだ」と宣言してみせた。聞き耳を立てていた人々は心の中で喝采を送った。
"側仕え様……!"
"これで我が地も安泰だ!"
"さすがフレイヤ様を救った側仕え様だ"
周りの人々の心はひとつになった。
「ハルオミがあまりにも愛おしくて、昨日の今日でまた部屋に閉じ込めて骨の髄まで可愛がってしまうところだったよ」
というフレイヤの言葉にあわや鼻から流血しそうになる者も居たとかいないとか。
"へ…へやに閉じ込めて!?"
"フレイヤ様、独占欲がお強いのか……"
"ただでさえ最強のフレイヤ様が、側仕え様に癒されて心身共に絶好調ということか!?"
"連日のフレイヤ様のご活躍はやはりハルオミ様のおかげだったのか!"
フレイヤとハルオミは市場に行ってもなお注目の的だった。
無事にフレイヤの腕の中から解放されたハルオミは、満面の笑みで市場を見渡した。
「すごいすごい! お店も屋台もたくさん!」
「君の行きたい場所、全て行ってみよう」
「ほんと!? えっとね……じゃあフレイヤさんが言ってたお米の専門店に行きたい! あっ、でも待って……最初にお米を買ったら重たいから、調味料から見に行きたいな。いやでも、じっくり見ちゃうと時間経っちゃうかもしれないから……」
「はははっ、大丈夫。心配しなくても時間はたっぷりある。ひとつずつ見てまわろうか」
「そうだね、うん、そうする!」
ハルオミが不思議な料理を作ることは知れ渡っていた。祓魔家当主の祝言の際に振る舞った異界の料理は、来賓者全員を虜にしたという噂だ。
その料理を食べられるのが、現在では町にたったひとつ。祓魔家の料理人でもあるムニルが最近オープンさせた飲食店だ。
あの絶品の料理を生み出す調味料や米に町の人間は興味深々。二人が退店したのち、全ての店の店主らにハルオミが購入したものを聞き出す者もいたとかいなかったとか。
◆
日も傾いて来た頃、ハルオミとフレイヤは帰路についていた。
「たくさん買っちゃった。ありがとうねフレイヤさん。僕のお小遣いで買うつもりだったのに……」
「そのお小遣いは自分のために使いなさい。私は君の料理を誰よりも楽しみにしている一人だ。君に払わせる訳にはいかない」
「フレイヤさん……いつもありがとう」
「それはこちらの台詞だ。私が私でいられるのはハルオミのおかげだからね」
彼らの仲睦まじい姿に心温まる者も居れば、あの冷徹なフレイヤの顔をそこまで蕩けさせるハルオミに恐れ慄く者も居た。
「それにしても、一瞬で終わっちゃったね。デート……」
しゅん、とするハルオミの表情に、周囲の者たちもつられて眉を下げた。
「そうだね。一人で町へ出ることなど今まで殆ど無かったが、君とならどこへ行っても楽しい」
「フレイヤさんも、今日は楽しかった?」
「ああ! とても楽しかった。ハルオミ、今日はありがとう」
「ううん! 結局僕の行きたいところに連れ回しちゃったね。次のデートではフレイヤさんの行きたいところに行こ!」
「君に連れ回されるのは大歓迎だよ。しかしそうだな……君に似合う服を見繕いたいから、次回のデートでは服屋をまわろうか」
「じゃあ僕はフレイヤさんに似合う服探してあげるね!」
「ハルオミが選んでくれるのかい? それは嬉しい。では帰ったら、早速次のデートの作戦会議だな」
「作戦会議! なにそれ楽しそう!」
民衆は思った。
「本当はビジネスライクな関係」だの、「魔祓い師を性的に癒すだけでそこに愛情というものは存在しない」だの、好き勝手なことを思っていて本当にすみませんでした、と。
そして、この町に生まれて良かった、と。心の底から思ったのである。
民衆は浮き足立っていた。
滅多に姿を見せないフレイヤ・ヴィーホットと側仕えのハルオミが手を繋いで歩いていたかと思えば、ハルオミがフレイヤに抱き抱えられ何やら言い合いをしており、その内容が「こいつは自分のものである」というお互いの主張。
この世界では昔から「魔祓い師と側仕えの仲睦まじい姿を見れば幸福が訪れる」という言い伝えがあった。
その言い伝えは実に理に叶っていて、市民の平和を保っているのは魔祓い師であるが故に、その魔祓い師の健康を直接的に左右すると言っても過言では無い側仕えと仲が良いということは、イコール町の平和が保障されたようなものなのである。
ここ東の地では、祓魔家当主のニエルド・ヴィーホットとその側仕えパネース、末の弟のビェラ・ヴィーホットとその側仕えイザベラの姿が目撃されることはままあった。
しかし、三人の中でも特に強い力を持ち世界中の魔祓い師の中でもトップと言われているフレイヤ・ヴィーホットに関しては、25の年を迎えるまで側仕えを置くことすらなかった。
側仕えを置かないと言うことは、その魔祓い師の衰退をも意味していた。
民衆もフレイヤの活躍を諦めかけたその時、異界から訪れた少年が魔祓い師になったという噂が流れた。
黒い髪の毛や黒い目をしており、不思議な料理を作り、さらに呪いにかかったフレイヤを命をかけて救ったという情報は瞬く間に広まった。
しかし、側仕えを置いても未だに彼らが仲良く町へ繰り出すことは無かったので、皆の間では「デマ」だの、「本当はビジネスライクな関係」、つまり魔祓い師を性的に癒すだけでそこに愛情というものは存在しない、そういう関係だと思っていた者も少なくなかった。
が! 本日、晴天で気温良好な本日、フレイヤとハルオミが仲良く手を繋いで歩いているではないか!
町行く人々は惹きつけられた。
フレイヤといえば冷酷・冷徹、悪魔を祓う事だけに生きがいを見出している、生まれてこの方笑ったことがない、などまあ散々な噂が立っていた。新聞でもフレイヤの姿が掲載されれば、その鋭く冷たい目に射抜かれて恐怖で心臓発作を起こした者がいるとか居ないとか。
そんな彼が、柔和に目を細めて笑っている。
そして飲食店から出て来るやいなやハルオミを抱えて痴話喧嘩を始めた。
あのフレイヤに強い口調でものを言えるなど、世界中探してもハルオミ以外にいないだろう。
しかも「フレイヤさんは僕だけのだ」と宣言してみせた。聞き耳を立てていた人々は心の中で喝采を送った。
"側仕え様……!"
"これで我が地も安泰だ!"
"さすがフレイヤ様を救った側仕え様だ"
周りの人々の心はひとつになった。
「ハルオミがあまりにも愛おしくて、昨日の今日でまた部屋に閉じ込めて骨の髄まで可愛がってしまうところだったよ」
というフレイヤの言葉にあわや鼻から流血しそうになる者も居たとかいないとか。
"へ…へやに閉じ込めて!?"
"フレイヤ様、独占欲がお強いのか……"
"ただでさえ最強のフレイヤ様が、側仕え様に癒されて心身共に絶好調ということか!?"
"連日のフレイヤ様のご活躍はやはりハルオミ様のおかげだったのか!"
フレイヤとハルオミは市場に行ってもなお注目の的だった。
無事にフレイヤの腕の中から解放されたハルオミは、満面の笑みで市場を見渡した。
「すごいすごい! お店も屋台もたくさん!」
「君の行きたい場所、全て行ってみよう」
「ほんと!? えっとね……じゃあフレイヤさんが言ってたお米の専門店に行きたい! あっ、でも待って……最初にお米を買ったら重たいから、調味料から見に行きたいな。いやでも、じっくり見ちゃうと時間経っちゃうかもしれないから……」
「はははっ、大丈夫。心配しなくても時間はたっぷりある。ひとつずつ見てまわろうか」
「そうだね、うん、そうする!」
ハルオミが不思議な料理を作ることは知れ渡っていた。祓魔家当主の祝言の際に振る舞った異界の料理は、来賓者全員を虜にしたという噂だ。
その料理を食べられるのが、現在では町にたったひとつ。祓魔家の料理人でもあるムニルが最近オープンさせた飲食店だ。
あの絶品の料理を生み出す調味料や米に町の人間は興味深々。二人が退店したのち、全ての店の店主らにハルオミが購入したものを聞き出す者もいたとかいなかったとか。
◆
日も傾いて来た頃、ハルオミとフレイヤは帰路についていた。
「たくさん買っちゃった。ありがとうねフレイヤさん。僕のお小遣いで買うつもりだったのに……」
「そのお小遣いは自分のために使いなさい。私は君の料理を誰よりも楽しみにしている一人だ。君に払わせる訳にはいかない」
「フレイヤさん……いつもありがとう」
「それはこちらの台詞だ。私が私でいられるのはハルオミのおかげだからね」
彼らの仲睦まじい姿に心温まる者も居れば、あの冷徹なフレイヤの顔をそこまで蕩けさせるハルオミに恐れ慄く者も居た。
「それにしても、一瞬で終わっちゃったね。デート……」
しゅん、とするハルオミの表情に、周囲の者たちもつられて眉を下げた。
「そうだね。一人で町へ出ることなど今まで殆ど無かったが、君とならどこへ行っても楽しい」
「フレイヤさんも、今日は楽しかった?」
「ああ! とても楽しかった。ハルオミ、今日はありがとう」
「ううん! 結局僕の行きたいところに連れ回しちゃったね。次のデートではフレイヤさんの行きたいところに行こ!」
「君に連れ回されるのは大歓迎だよ。しかしそうだな……君に似合う服を見繕いたいから、次回のデートでは服屋をまわろうか」
「じゃあ僕はフレイヤさんに似合う服探してあげるね!」
「ハルオミが選んでくれるのかい? それは嬉しい。では帰ったら、早速次のデートの作戦会議だな」
「作戦会議! なにそれ楽しそう!」
民衆は思った。
「本当はビジネスライクな関係」だの、「魔祓い師を性的に癒すだけでそこに愛情というものは存在しない」だの、好き勝手なことを思っていて本当にすみませんでした、と。
そして、この町に生まれて良かった、と。心の底から思ったのである。
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