【完結】眠れぬ異界の少年、祓魔師の愛に微睡む

丑三とき

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続編その①〜初めての発情期編〜

19.絶品

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「お待たせいたしました。それではこちらが和風ハンバーグと…こちらがオムライスでございます」

「わぁ……さすがムニルさん!  美味しそう」

「ありがとうムニル」

「それでは!  ご、ごゆっくり!  お寛ぎください!」

カク、カク、とぎこちなくお辞儀をして厨房へ戻っていくムニルさん。料理人としてフレイヤさんに料理を出すって、やっぱり緊張するんだろうな。お屋敷の料理人さん達が直接給仕することはあまり無いし、複数人で分担して調理しているから、一人で作ったものを直接その手で差し出すっていうのは相当な緊張感があると思う。

ほかほかと湯気が立ち食欲をそそる香りに空腹を刺激され、僕とフレイヤさんは目を見合わせて「いただきます」をした。

ふっくら焼き上がったハンバーグにナイフを入れると、ジュワッと肉汁が染み出す。一口サイズにして大根おろしと大葉を乗せれば、もう口の中はこの極上の一口を迎え入れる準備万端だ。

ちょっと大きく切りすぎた気がしないでも無いが、遠慮なく一口でおさめた。

「ん~~~っっ!!」

「はははっ、そんなに頬張って。喉に詰まらせないように気をつけなさい」

香ばしいお肉の味わいと溢れ出す肉汁に、ポン酢と大根おろしの酸味の効いた風味が合わさって、さっぱり&こってりのバランスがちょうどよい……それに試作の時よりもおいしさアップしてる!

「おいひい~~!」

「そうかい。では私もオムライスをいただこう」

「うん、召し上がれ」

フレイヤさんもスプーンをオムライスに入れて一口運んだ。

薄い唇の端に少しトマトソースが付いているのが僕の母性をくすぐる。いつもは僕が世話を焼かれる方なので、ここぞとばかりにフレイヤさんの唇を指で拭った。

「ん……おや、付いていたのかい?  ありがとうハルオミ、君は優しいね」

「ペロッ……フレイヤさんが子供みたいに頬張るの珍しいね。なんか可愛い」

「ハルオミがあまりにも美味そうに食べるからつられてしまった。それに、君とのデートに私も浮かれてしまっているようだ」

「!」

にこやかな笑みを浮かべるフレイヤさん。彼の振る舞いはいつも行儀が良くて上品で、さすが両家の御子息って感じの雰囲気が漂っている。けれど今日はいつもよりラフで、隣にいて楽しそうなのがすごく伝わる。

フレイヤさんも僕とのデート、楽しんでくれてるんだ!

「ところでハルオミ、このオムライス絶品だよ。君も食べてみて」

「ありがとう!  いただきます。フレイヤさんも和風ハンバーグどうぞ」

「ありがとう」

お皿をそっと寄せてくれたので、僕も和風ハンバーグを差し出す。交換したものを一口ずつ口に入れると、どちらからとも無く笑顔が溢れた。

「ん~、ほんとだ、オムライスも美味しいっ!  さすがムニルさん。具とお米の量が絶妙だね。それに卵もすっごく綺麗に巻いてある」

「和風ハンバーグも、口に含んだ途端に溢れ出る肉汁が堪らないね」

「でしょでしょ~?  ムニルさん毎日練習してたんだよ」

我が物顔で喜ぶ僕に、今度はフレイヤさんが手を伸ばして口の端を拭った。

「え、うそ付いてた?」

「ああ。君はいつも小動物のようで愛らしいね」

「フレイヤさんだって付けてたくせに」

「はははっ、そうだったね。ペロッ」

「!  ちょっとフレイヤさん、他のお客さんの前で舐めないでよ、恥ずかしいでしょ?」

「おや。私は君の真似をしただけだよ」

「え、うそ、僕舐めてた?」

「ああ。しっかりと」

「無意識だ……」

恥ずかしい。偉大な魔祓い師様の口元を拭って舐めるだなんて、もし誰かに見られてたらどうしよう……。

「公衆の面前で君に世話を焼かれるとは、夢のような時間だな」

「もう、からかわないでよ」

「揶揄ってなどいないよ。こうして素敵な店で愛しい人の笑顔を見ながら食事ができるなんて、この上なく幸せだ。私は昔からあまり町へは出ないから、君をきちんと楽しませてあげられるか心配だった。しかし君はほんの小さな何気ないことにもとびっきりの笑顔で喜んでくれる」

「だってフレイヤさんと一緒ならなんだって楽しいんだもの」

「ふふっ、私も同じ気持ちだよ。ハルオミと居られるだけで幸せだ」

大切なお店で大切な人と美味しいものを食べるというのは初めての経験だった。外食なんてほとんどしたこと無かったし、する理由もなかった。

フレイヤさんにはたくさんの初めてを貰った。これからもいろんなことを彼と経験していきたいな。フレイヤさんも同じ気持ちだったらいいな。

単純な僕は、恥ずかしさなんて忘れて目の前のあたたかいご飯とあたたかい笑顔をお腹いっぱい楽しんだ。




—————————おまけ——————————


来店客は興奮していた。

ただでさえあのフレイヤ・ヴィーホットと側仕えのハルオミが訪れてパニックだというのに、目の前で繰り広げられる甘い空間に、見ていいのかだめなのかも分からず、しかしこの光景を目に焼き付けたい気持ちが抑えきれずに皆チラチラ横目で見やっていた。

「そ、側仕え様がフレイヤ様の口元のソースを指で拭ってお舐めになった……」
「ちょ、狡い、お前場所変われよ。俺の位置からだと振り返らなきゃいけないだろ」
「振り返えりゃいいじゃねえか」
「無理だって…!  お邪魔しないと決めたからには…!」
「見るくらい問題ねえって!  お、ほら!  二人で頼んだものを仲良く交換してらっしゃる」
「なんだその尊い光景は……!」

ちなみにこの日のオーダーは客の9割が和風ハンバーグかオムライスのどちらか、もしくはその両方を注文したそうな。

「っ!!!!!  今度はフレイヤ様がハルオミ様の御口元をお拭いになられた!」
「声がデケェよ、お二人に聞こえるだろ!」
「でもよ、見たかよあの幸せそうなお顔……フレイヤ様って魔祓い師様の中でも、冷徹で有名だったよな」
「ああ。行事にもほとんど顔を見せないらしい」
「そんなお方が今や……はぁぁぁぁ、なんか、推しの幸せなお顔を拝見できるのが幸せすぎる」
「お前フレイヤ様推しだったのかよ」
「もちろん、御一族皆様好きだけどフレイヤ様は謎めいてるだろ?」
「側仕えも、今の今まで置かなかったらしいしな」
「フレイヤ様の側仕えになるのは誰だって、一時期ニュースになってなかったか?」
「あったあった!  立候補者を一蹴したって」
「ますますハルオミ殿って何者なんだろうな」
「何者でも良いじゃねぇか……お二人ともが幸せそうなら……」
「「「「「だな……」」」」」

この日、見知らぬもの同士で来店した来客はこの後別の茶店に移動して「祓魔家の皆様を語ろうの会」二次会が開催されたとかされなかったとか。

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