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続編その①〜初めての発情期編〜
16.仕事っぷり
しおりを挟む「ではわたくしはこれで」と言ってピシッとお辞儀をしたのちに、姿勢良く扉の外まで歩いて出ていくウラーさんに心の中でもう一度謝った。
イザベラもパネースさんも、おそらく僕と同じ気持ちだ。3人とも「その話もっと詳しく聞かせて」という好奇心を飲み込んで、仕事に戻る彼を名残惜しく見送る。
イザベラは茶菓子に伸びた手をそのままに、ウラーさんが出ていった扉を眺めながら「あいつ、こっちが何言ってもいつも余裕そうでムカつく。次はぎゃふんと言わせてやる」と意気込んだ。
「まあまあイザベラ。せっかくハルオミ君と久しぶりに会えたのですから、カリカリせずお話ししましょう」
「別にカリカリしてねぇし!……でもそうだな。せっかくハルオミ帰ってきたしな」
パネースさんに宥められたイザベラは、伸ばしていた手でお菓子を摘んで口に放り入れた。
「ありがとう、イザベラ、パネースさん。僕も2人に会いたくてたまらなかったよ。最初は眠気に勝てずにずっと眠っていたから退屈ではなかったんだけど、やっぱり2人とも何してるのかなって気になっちゃって、寂しかった」
「私たちも寂しかったです。イザベラなんて、ずっとハルオミ君の話ばっかり」
「お前も人のこと言えねぇじゃん!」
これこれ。この仲良しな言い合い、いつもの2人って感じする。感慨に耽りつつお菓子に手を伸ばすと、イザベラが心配そうに聞いた。
「んでハルオミ、体は大丈夫なのか?」
「うん。いつも通りに戻ったよ!心配してくれてありがとね」
「良かった。フレイヤ様"4回"も止まらなかったって聞いたから、ハルオミ体壊してねぇかと思って」
「!?!? だ、だだだ誰に聞いたのそれ!?」
「ウラーとクールベさん」
あの夫婦……口が軽すぎる。
絶対楽しんでる……。
「あの理性の塊みたいなフレイヤ様がまさかハルオミ君にそんな無茶をするなんて、びっくりしました」
僕は恥ずかしくてたまらないけれど、2人は本当に心配してくれているみたいだった。
イザベラもお菓子を食べる手を止めて、話に集中した。
「ハルオミの体力で耐えられるはずないと思ったけど、やっぱこれも番の力ってやつなのか?」
「んー、どうなんだろ。確かに体力は限界でへとへとだったけど、心が何回でもフレイヤさんを求めるんだ。へとへとなのにずーっとウットリしちゃって、多幸感に包まれてるっていうか…多分発情期のフェロモンってやつが関係あるのかも」
「へぇ、人体って不思議ですねぇ」
「毎回そんなにヤッてたのか?」
「流石に毎回は……いやでも、よく覚えてない時もあるからわかんない……」
真夜中にフレイヤさんを襲って熱をおさめてもらったこともあったし、回数なんて全然覚えてない。
「多幸感かぁ……なんか分かる気はするけど、発情期のそれは桁違いなんだろうなー」
イザベラは興味深そうに呟き、お菓子を食べる手を再開した。
僕は2人に言っておかねばならないことを思い出し、今度は僕がお菓子の手を止めて2人に向けて姿勢を正した。
「あのさ、僕が発情しちゃった時、フレイヤさん途中で仕事から帰って来てくれたりしたんだ。だからニエルド様とビェラ様に負担をかけちゃったと思う。改めてお2人にもお礼しなきゃだけど、イザベラとパネースさんにもきちんと言っておくね、ありがとう。それから、また定期的に発情期来ちゃうけど…よろしくお願いします」
僕の発情したタイミングで、それを感じ取ってフレイヤさんはすぐに駆けつけてくれる。お仕事の途中でも何でも。
ニエルド様とビェラ様にはきっと迷惑かけたと思う。ということは側仕えのイザベラとパネースさんにも負担があっただろう。
申し訳なく思い謝ると、2人は顔を見合わせてくすくすと笑い、「いやいやいや」と否定し始めた。
「ハルオミ君が発情期中のフレイヤ様、もうスゴかったらしいですよ」
「そうそう、ビェラさんも言ってた。パワー有り余りすぎて、ここ1週間の魔物はほぼ全てと言っていいほどフレイヤ様が討伐したって」
「え……そ、そうなの?」
「ええ。フレイヤ様、魔物を何体討伐しても、ハルオミ君のところから戻って来たら回復率300%って感じで延々と絶好調だから、毎回『俺らやることねぇんだよ』ってニエルドさんが」
「僕のところから、戻ったら……」
「ビェラさんも、『ハルオミ君が発情期の間は楽させてもらってる』って。だから俺ら心配だったんだよ、ハルオミ発情期とはいえ、フレイヤ様がどれだけ魔物を討伐しても絶好調ってことは……なぁ?」
「ええ、魔祓い師を癒やす"性的接触"。長年側仕えをしている私でもフレイヤ様の仕事ぶりは聞いたことがないくらいちょっとスゴかったので、そういう意味でもハルオミ君の体が心配で」
魔祓い師が魔物を祓った際に受ける悪影響は、側仕えとの性的接触でしか取り除けない。フレイヤさんの回復力と絶好調っぷりがすごすぎて、僕心配されてたんだ。
「恥ずかし……」
友達に性生活を心配されるなんて恥ずかしすぎる。真っ赤になった顔を伏せて羞恥に堪えていると2人は「まあまあ」と笑った。
「ハルオミが無茶してないならいいんだよ。なんか……こっちこそありがとな」
「ありがとうございますハルオミ君」
お礼言わないでーーっ!!
恥ずかしいよ。いっぱいエッチしてるのバレるのはもう仕方ないけど、なんかこう、複雑な気分だよ。
僕の発情が人のお仕事の役に立ってるなんて、言い表せないほど複雑でしょ。
「穴があったら入りたいよ…」
「そんな落ち込むなって! な? ハルオミがエロいのは今に始まったことじゃねえんだから」
「イザベラ、おそらく今のハルオミ君には全くフォローになっていませんよ」
「そうなのか?」
無意識に僕をおちょくってくるイザベラとフォローの痛いパネースさんに慰められながら、僕はひととおりジタバタして羞恥心をおさめた。
「もう、2人とも意地悪なんだから!」
「なんだよ、心配してやったんだろ? 変なハルオミ」
変なのはそっちだ!
と言ってやりたかったが、イザベラの純粋な心配は恥ずかしいけど嬉しかったので、受け取っておくことにした。
僕たちの様子を見てパネースさんはくすくす笑い、話を続けた。
「それでハルオミ君。一度目の発情期が無事に済んだということはムニルさんのお店に行けるのですか?」
その問いに僕は一番大事なことを思い出した。2人に一番に話したかったことを、本題とばかりに揚々と切り出す。
「聞いて聞いて! 僕、今度フレイヤさんとデートするんだ!」
「「デート?」」
「うん。ムニルさんのお店に行く日にね、せっかくだから町を見て回ろうってフレイヤさん言ってくれたの。お米の専門のお店とか、調味料のお店とか、もしかしたらもっと僕の世界のと似てる食材があるかもしれないって」
「へぇ~いいじゃん! ハルオミ町出たこと無いもんな! フレイヤ様とだったら安全だな」
「ええ。いつ行かれるのですか?」
「次の週の、フレイヤさんのお休みに。それまでに僕、ムニルさんと和風ハンバーグの打ち合わせしなきゃ。結局みんなに試食してもらって以来ムニルさんとお話できてないから、ちゃんとレシピも伝えられてないし、試作にも付き合えてないからね」
「病み上がりみたいなものなのですから、お仕事もほどほどにしてくださいね、ハルオミ君」
「はい、分かりました!パネースさん」
「とか言ってパネース、ハルオミが戻ったらわふうはんばあぐの試食できるかなって期待してたくせに」
「そうなのパネースさん?」
「イザベラ、お口が軽過ぎますよ」
恥ずかしそうにイザベラを咎めるパネースさん。どうやら事実のようだ。
「任せてよ。これからムニルさんにたっぷり教え込むから、その分いっぱい食べてもらわなきゃ。しっかり感想聞かせてね?」
「よっしゃー! 作る時ぜってぇ呼べよ! 朝メシ抜いて待ってるから!」
「何ですか、イザベラの方が張り切っちゃってるじゃないですか」
「だっていっつもパネースの方が沢山食うから。次は俺負けねぇもん!」
「変なところで負けず嫌いなんですから…」
二人のいつもの言い合いを久しぶりに近くで感じられて、僕は気持ち新たに仕事へのやる気とデートへの期待を膨らませるのであった。
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