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続編その①〜初めての発情期編〜

12.ウラー・エドムント①

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重い。

体が重い。腰が重い。



目を覚ますと、びっしょり濡れたはずのシーツとドロドロになった僕の体はすっかり綺麗になっていた。

フレイヤさんはきっとお仕事に戻ったのだろう。枕元には、『しっかりと休んで』という書き置きと水の入ったボトルが置いてあった。

「フレイヤさんの字だぁ…」

一文字一文字を指でなぞると、間接的にフレイヤさんの温もりに触れられた気がした。


——コンコンッ

「!?  は、はい…!」

クールベさんかな。他の人は部屋に入らないように言ってあるって言ってたし。
突然のノックに驚きながらも返事をすると、扉が開いた。

「失礼します」

「ウ、ウラーさん……」

姿勢良く入ってきたのは、食事や着替え、本などを手にしたウラーさん。

「ハルオミ殿、体調はいかがです?」

「うん……だいじょうぶ」

「そうですか。フレイヤ様はつい先程までハルオミ殿の寝顔を間抜…うっとりとしたお顔で眺めていらっしゃったのですが、このままでは一生離れそうになかったので僭越ながら背中を蹴って送り出させていただきました」

「ありがとう、さすがウラーさん」

その遠慮のなさが頼もしい。

「お食事はこちらに置いておきますので、気が向いたときにどうぞ。あと、暇つぶしに小説や雑誌などお持ちしました、こちらも置いておきますね」

「何から何までごめんね」

「謝ることなどございません、……っと、そうだ、いきなりお部屋に入ってしまい申し訳ございせん。一度おさまれば数時間は発情することは無いとクールベ様が仰っておりましたので、薬師くすしとして体調を伺いに参った次第です」

ウラーさんはピシッと綺麗にお辞儀をして説明してくれた。彼は物言いに遠慮はないけれど、執事として、薬師として、本当に優秀なのだと思う。

「ありがとう。今のところは体が重たいくらいかな。でも動けるから、不便は無いよ」

「そうですか、それならよかった。今日も"4回"などという鬼畜の所業を昼からなさってハルオミ殿が動けなくなってしまったとあらば、わたくしは今後偉大なる魔祓い師であるフレイヤ様に冷ややかな視線しか向けられないかもしれないと心配しておりました」

「!?!?」

けろっとすごいことを言うウラーさんにびっくりしてヒュっと息が詰まったけれど、すぐに回数の件について問いただした。

「ク、クールベさんから聞いたんですかもしかして」

「薬師として、何かあった時のためにハルオミ殿のことは把握しておかなければなりませんしね。クールベ様が愉快そうに笑いなが…ではなく、心配そうにおっしゃっておりました。『アイツ4回もやりやがった』って」

「な、なるほどね…」

研究対象にでも何でもなってやろうと思っていたけど、これは先が思いやられる……。

「それで、今日は何回?」

「………2回……」

「ワォ………」

多分僕は、この時ウラーさんに初めて引かれた。

引きながらも「よくできますね、昼間に二度も……」と面白そうに笑っていた。面白がってもらえたならまあいいか。



そして彼は僕の退屈そうな様子を気にかけてくれたのか、ベッドサイドの椅子に座ってしばらく話し相手になってくれた。

僕は気になっていたことをチャンスとばかりに矢継ぎ早に聞いた。

「クールベさんは2回も3回もやらないの?」

「!?」

目を見開いて「何聞いてんだコイツ」みたいな顔で見られちゃった。ちょっと失礼が過ぎたかもしれない。

「ごめん、変なこと聞いちゃった」

「いえ、わたくしも人のことは言えませんし……というより、知っていたのですね。クールベ様とわたくしのこと」

「昨日クールベさんに聞いた。フレイヤさんも知らなかったみたい」

「でしょうね。もうフレイヤ様が何を知らなくても驚きません」

「……確かに」

世間知らずのフレイヤさんのことは置いておいて、僕はとにかくウラーさんに興味深々だった。


ウラーさんは僕の失礼な質問に、なぜか堂々と答えてくれるのであった。

「そのご質問に答えるとするならば……彼は一度が長いので困ります。二度されたことはあるにはありますが、次の日、張っ倒しました」

「はははっ、クールベさんみたいに大きい人を張っ倒せるのはきっとウラーさんだけだね」

「でかいだけが取り柄なので、隙をつくと案外いけますよ」

まあ、あちらも手加減してくださっているのでしょうが、と淡々と述べるウラーさんはなんだか強そうに見えた。すげぇや…

「ウラーさんはクールベさんのどういうところが好きなの?」

「中々返答に困るご質問ですね。アホっぽくて騒がしくて研究者気質で変態ではありますが……何かあった時には頼りになりますからね」

「ほぉ…なるほどなるほど」

気分はどこぞの記者のよう。何を聞かれても堂々とカッコよく答えてくれるウラーさんが面白くて、しばらく取材ごっこのようにやりとりした。

「クールベさんって、普段伏魔域に住んでるけど心配じゃないの?」

「あんな変態、殺しても死なないでしょう」

「信頼というやつですな……でも離れて暮らしてるってことは、いつエッチするの?」

「純粋無垢なお顔であなたはホントに……はぁ。そこまで頻繁にセックスするのはあなたたち魔祓い師や側仕えくらいです」

「……へ、へぇ~」

「ちなみにクールベ様は町中にも住居を持っていて、わたくしもいとまにはそこへ帰りますので、その際に」

「なるほど」

普段はお互いの仕事でクールベさんは伏魔域に、ウラーさんは屋敷に住んでるけど、2人の愛の巣もあるということですか。なんか素敵だな。

「ちなみに、クールベさんとの出会いはどこで?」

「あれは……わたくしがまだ五つの時でした。早くに両親を無くし親戚の元に預けられていたのですが、親戚との関係性は劣悪で、わたくしは居心地の悪さに耐えられず家出をしたんです。その時に伏魔域まで迷い込んでしまったのです」

「子供がひとりで伏魔域に?  大丈夫だったの……?」

「もちろん見事に襲われました。そんな瀕死状態の私を介抱してくださったのがクールベ様です。その時クールベ様はすでに家業をサボって魔物祓いなどほとんどせず研究に没頭していたので、暇だったのでしょう。見知らぬ子供に付きっきりで治療をしてくださったのです」

5歳で魔物に襲われるなんてさぞ怖かったろう。
僕なんて見るだけでも震えて動けなくなったというのに、襲われたらきっとトラウマになってしまう。でもウラーさんは、とても楽しそうにその時のことを話してくれるのだ。

「意識も戻って回復して、そこからはクールベ様の住まいに厄介になりました。親戚はわたくしを探しもしませんでしたし、食い扶持が減ると思っていたようですので、わたくしも彼らから離れられるのは願ったり叶ったりでした。で、クールベ様と過ごすうちに気づいたんです……」

「気づいた……」

まさか……もう恋心に気づいたのだろうか。
子供ながら自分の恋心に気づくとは、ウラーさん大人だなぁ……と、彼の口から愛が語られるのを待っていると、意外な言葉が飛び出した。

「ええ、気づいたんです。『あ、コイツ私のこと研究対象として見てんな』って」

「え……?  研究対象?」

「はい。わたくしが襲われていた魔物は非常に珍しい魔物で、回復した後も数年間、夜ごと魔物のささやきが脳内で聞こえていたんです。言葉では何を言っているのかわからないのに意味は頭に入ってくるから気持ち悪くて気持ち悪くて。『お前を呪う』とか、『こちら側に引き込んでやる』とか、子供だったのでうっすらとしか覚えていませんがそんな感じでした」

「それは辛いね……怖かったでしょう…」

「いえ、中々面白かったですよ」

「ほんとに言ってる!?」

頭の中で魔物の声がするんでしょ?
子供でそんなの怖くないハズないと思うけど。



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