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続編その①〜初めての発情期編〜
4.食後のお昼寝
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「おかえりなさいフレイヤさん」
「ただいまハルオミ」
数時間ぶりのフレイヤさんは少し疲れた顔をしていて、でも僕と話す時には必ず笑顔を向けてくれる。
「フレイヤさん疲れたでしょう?」
僕は彼の首に腕を回し、整った顔を引き寄せてそのまま口付けをした。柔らかくて皮膚の薄い唇が触れると、心臓のあたりがぎゅっと疼く。
ゆっくりと顔を離し、フレイヤさんの顔を覗く。
「…ありがとう。少し疲れていたけれど、すっかり元気をもらったよ」
確かにほんの少しだけスッキリした顔になったけど、まだ疲れは取れていない。もう一度、今度は深い口付けをしようと手を伸ばしたところで、フレイヤさんが「ん?」と不思議そうに部屋の中に目を向けた。
「どうしたのフレイヤさん」
「なんだか美味しそうな香りがするね」
スン、とキッチンから漂う香りをかいでフレイヤさんが言った。
「そうだそうだ、今日のお昼ご飯は和風ハンバーグだよ、食べる?」
「わふうはんばあぐ…? 普通のはんばあぐとは違うのかい? 気になるな、是非いただこう」
「うん! 来て来て、すぐ用意するからね」
フレイヤさんの手を引いてキッチンに入り、彼を席に座らせ準備をする。手伝おうと起立した彼を何度も着席させつつ、ムニルさんと一緒に作ったハンバーグに人参に似た根菜やポテトを添えて、お茶の用意も。朝はフレイヤさんに全部やってもらったから、挽回しなきゃ。
「今日はね、ムニルさんと新メニューの話をしたんだ。新メニューといってもハンバーグのソースをもう一種類増やすだけなんだけど。フレイヤさんにも試食してもらいたくて」
「それは嬉しいな。店で出るよりも早く、一足先にいただけるとは」
喜びの声を上げながらも、フレイヤさんは何やら俯いて複雑そうな顔をした。
「どうしたの…?」
「いや……本当は君もムニルの店に早く行きたいのだろうが……不自由させてすまない」
「なんでフレイヤさんが謝るの! そりゃ早く行きたいけど、仕方ないよ。体調は安定してきたけど、まだアレがいつ来るか分かんないもんね……」
そう。せっかく自分の考案した料理がムニルさんのお店で食べられると言うのに、僕はまだ一度も足を運んだことがない。
魔力が体に染み付いてきたから、以前のように風邪症状は出にくくなったけれど、まだアレが……発情期がまだ来ていない。
フレイヤさんと番になって数ヶ月が経つけれど、まだ来ない。クールベさん曰く発情期のサイクルやその程度は人によって違うらしい。僕のように一度目が遅い人もいれば、早く訪れる人もいるし、症状が軽い人もいれば重い人もいる。
ただ、この世界には番という存在自体がほとんど居なくて正確なデータが無いから、何かあった時のために一度目の発情期が終わるまでは屋敷で大人しく過ごすことにしようと決めたのだ。
正直不安だけど、フレイヤさんがそばにいるし、まぁ何とかなるでしょ!
「よし、準備完了!」
「おお、これは素晴らしい。見たことのない盛り付けだ。いただいても良いかい?」
「うん、それじゃあ…」
「「いただきます」」
手を合わせて、早速2人でナイフとフォークを手にウキウキと切り分ける。
まずはフレイヤさんの口に運ばれていくのを、緊張しながらじーっと見届ける。
「………どうかな?」
先ほどイザベラ、パネースさん、ムニルさんからのお墨付きはいただいたが、やはりフレイヤさんに食べてもらう時は緊張してしまう。
彼は口一杯に入れたハンバーグを咀嚼し飲み込んだ後、大きくため息のように息を吐き、興奮ざまに言った。
「ハルオミ、君は天才だ…、このように水気のある根菜と調味料を肉と合わせようなど誰が思いつくものか。そして上にかかっている香草がまたたまらない風味を感じさせる…! こんなに美味いものが新メニューになるのかい? 客達はさぞ幸せだろうね」
「よかった、お口に合った?」
「合うどころか、いくら食べても止まらないよ」
「ふふふっ、嬉しいな。まぁ、これは僕の国では定番だから、僕が思いついたわけじゃないんだけどね」
「そうだとしても、食材も違うこの世界で限られた調味料と素材を使って作って見せたのは他でもない君だ。いつも美味しいものを食べさせてくれて本当にありがとう」
「ううん、こちらこそ、いつも『美味しい』ってフレイヤさんが言ってくれるから、僕も嬉しくなってたくさん作っちゃうんだ。よし、僕もいただきます!」
「ああ、たくさん召し上がれ」
何度も試作したから味はよく知っているけど、フレイヤさんと食べるともっと美味しく感じるから不思議だ。
2人してあっという間に平らげ、食後のお茶を楽しむ。お腹も満たされたからか、また朝のような眠気が襲って来てしまう。
「んー……」
「ハルオミ、また眠そうだね。あれから二度寝はしなかったのかい?」
「うん、ムニルさんとも新メニューのお話する予定あったし…それにフレイヤさんがおしごと行ってるのに、ぼくだけ寝るなんて…」
「そんなことは考えなくて良いんだよ。君の体調が第一だ、ほら、すこし寝台で休もう。すぐに眠るのは良くないが、少し体を落ち着けないとね」
「うん…おなかいっぱいで眠くなっちゃったみたい、ごめんね」
お腹いっぱいで眠気に抗えないなんて、幼稚園児か。
フレイヤさんが僕を抱え上げベッドに連れて行く。背中に大きなクッションをいくつか足されて、いい具合に体を起こしつつもゆったりと心地の良い姿勢にしてくれた。
「フレイヤさんも、時間もうちょっと大丈夫でしょ? 一緒に休も?」
布団を少しめくって隣へと促すと、「では言葉に甘えて」と言って大きな体を同じようにクッションに預けた。
僕は隣に来たフレイヤさんの手を握って、少し密着してみた。
フレイヤさんの疲れが取れるように、少しでも体をくっつけて癒しを与える。
彼の手や頬や髪を撫でると、僕までうっとりしてしまう。それから彼の首筋に唇を寄せて、花紋にキスをした。
「ハルオミ、いつもありがとう。魔物を討伐した際に受ける影響も、君のおかげでいつもすぐに良くなる」
「ほんとに…? よかった…僕もフレイヤさんに触れてると、とても心地いい」
彼から漂う香りは体をふわふわとさせ、僕の眠気をますます増長させた。
「フレイヤさん……」
彼のシャツの胸元をギュッと掴み、顔を近づけ口付けをせがむ。
フレイヤさんがそっと僕の願いを叶えてくれたところで、意識を保つ気力にも限界が訪れた。
食べてすぐ眠っちゃいけないって言われたのに…ごめんなさいフレイヤさん、でももう限界みたい……
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