95 / 147
続編その①〜初めての発情期編〜
3.ハンバーグ
しおりを挟む◆
ムニルさんがお店で出しているのは「ニホン料理」といっても洋食の部類で、人気メニューはハンバーグやオムライス、エビフライ、ナポリタンなど。いわゆる日本の洋食屋さんで出るような、素朴だけど贅沢感のあるメニューを揃えた。
その中でも特に人気があるのはハンバーグ。
「ニエルド様の祝言の席で振る舞われ、各地の魔祓い師がそのあまりの美味さに唸りをあげた」などという噂が広まり、瞬く間に人気メニューに上り詰めたのだとか。
せっかくなら何度食べても飽きないようにソースの種類を選べるようにしたらどうか、という僕の提案をムニルさんは快く受けてくれたので、今日はその打ち合わせ。
厨房にて、僕は食物庫からパネースさんから貰った根菜の中からアレを取り出した。
「まずはこれをすり下ろします」
「これは……根菜?」
「はい。僕の国では、大根っていうんです」
「ダイコン…? 根菜にもそれぞれ名前がついているのですね!」
ムニルさんは目を輝かせてメモ帳にペンを走らせる。
「これを…すりおろす、と」
「そうです。早速やってみましょう」
「はい!!」
厨房のおろし金を拝借して、せっせと2人で大根をすりおろす。ムニルさんは大根をすりおろすのは初めてのようで、「根菜をすりおろすなんて…」「こんな調理法、はじめてです」と終始不思議そうにしていた。
ある程度「大根おろし」ができたので、調味料を準備する。醤油に似た調味料と、柑橘の果汁とお酢と塩。これを混ぜるとポン酢に似た調味料が出来上がるのである。
「よし。ムニルさん、ちょっと舐めてみてください」
「はい! ………んん! 酸味があってさっぱりしていますが、コクの深さもあってたまりません! 美味しい!」
「ほんとですか? よかった、こっちの方の口にも合うみたいで安心しました」
ほっと胸を撫で下ろし、次の工程に取り掛かる。
次はこれを試食するために、実際にハンバーグを焼き上げる。試食用に仕込んでおいたハンバーグのたねを冷凍庫から取り出すと、ムニルさんが素晴らしすぎる魔法で一瞬で解凍し、手際よく焼いて仕上げてくれた。
魔法っていいなー。
冷凍庫から出したものがすぐに冷凍前みたいに解凍できるんだもの。ムニルさんの手つきを尊敬の眼差しで眺めていると、扉の上部に開いた丸い窓から、なにやら影が動いているのが見えた。
「ん?」
そちらに目をやるとシュッと影が引っ込んだ。
見覚えのある二色の髪色が、風にふわっと舞ったのが見えた。
「仕方ないなあ」
僕は扉のほうに足を運んだ。
——ガチャッ
「イザベラ、パネースさん。何してるの?」
「「!!」」
そこには、イタズラがバレた子供のようにバツの悪そうな顔をした2人が、身をかがめて隠れようとしていた。
「いや……だってさぁ」
「すみませんハルオミ君。中庭で君とムニルさんがお話ししているのを聞いてしまって…」
「のぞいてたらなんか良い匂いもしてきたし、……なぁ?」
期待のこもっている瞳に見られちゃ断る理由が無かったし、第三者の意見も聞いてみたかったから、僕は2人を厨房の中へ招き入れた。
「どうぞ、しっかり感想聞かせてね」
「やっったあぁ!」
「ほんとですかハルオミ君? ありがとうございます!」
「ムニルさん、お客さんです」
ハンバーグを焼く手を止めてこちらを見、びっくり仰天のあまりひっくり返ってしまいそうになるムニルさん。
「イ、イザベラ殿とパネース殿!?」
「2人も試食したいらしいです」
「もももももちろんです!! 大歓迎です! ですが…緊張しますね……」
「大丈夫ですムニルさん、お、ハンバーグ、良い焼き色ですね! おいしそぅ…」
「恐縮です……!」
焼き上がったハンバーグをお皿に移し、その上に大根おろしをこんもりと乗っけて、自家製ポン酢をかける。
「で、仕上げに……」
細く刻んだシソのような葉っぱを上からパラっと散らす。
「完成! これが『和風ハンバーグ』です!」
「「「わふう、ハンバーグ……!!」」」
イザベラとパネースさんとムニルさんが珍しそうに声を揃え、完成した和風ハンバーグを覗き込んだ。
「ハルオミ殿! 上のコレは香草ですよね。ハンバーグに香草が合うのですか!?」
「これは僕の世界では大葉って言うんです。日本料理では結構使われるんですけど、ここの皆さんの口に合うかな……ぜひ、食べて感想を聞かせて!!」
「ハルオミが作ったのなら何だって美味いだろ! いただきまっす!」
「私も、いただいてよろしいですか?」
「是非是非! パネースさんも、ムニルさんもほら。食べてみてください」
一口大に切ったハンバーグに大根おろしと大葉が乗せられ、3人の口に運ばれていく。
緊張する……
——パクっ
………
「ど……どうかな?」
………
願うように手を合わせて皆の反応を見ると、目を見開いて固まっていた。
「美味しい? 美味しく無い? お願い、正直に言って!」
3人とも目を合わせ合いながら咀嚼して、最初にイザベラが口を開いた。
「ハルオミ………これ……うますぎんだろ!!!」
「ほっ、ほんと? 大丈夫だった? クセとか無かった?」
「香草の風味が鼻に抜けて、このすりおろした根菜がさっぱりとお肉の後味を爽やかにしていて……これは美味しすぎますハルオミ君! 私、次の食事会のメインディッシュはこれがいいです!」
「パネースさん……よかったぁ…! ムニルさんは? どうですか、お口に合いますか?」
「独特の香りや酸味がバランスが良く口の中で合わさって、この"ダイコンおろし"のみずみずしさが意外や意外、お肉に合う……すごい! うまい! うますぎます! ハルオミ殿、私ではこんなメニュー思いつきませんでした! ぜひともお店で取り入れさせてください!」
「もちろんです! はぁ……、よかった…! 実はとっても緊張してたんだ。大根おろしや大葉って好き嫌いが分かれるから。ここの人たちに受け入れられるかどうか心配だった」
「これならすぐに人気メニューになりますよ! 」
感動を伝えてくれながらもどんどんハンバーグを口に運ぶ3人。あっという間にお皿は空っぽになった。
「ハルオミ、おかわり」
口の端っこにソースをつけてこちらにお皿を差し出すイザベラをパネースさんが「こら」と注意して、その様子をムニルさんが笑いながら見ている。
"この世界の住人になったんだなぁ"と、僕はことあるごとに感慨深く胸がいっぱいになるのだけど、まさに今こうしてみんなと笑い合ったり達成感や安心感を感じたりすると、その実感はより深まる。
「ふふっ、じゃあ、お昼ご飯は和風ハンバーグにしよっか。そろそろフレイヤさん達も帰ってくるしね」
僕はムニルさんに手ほどきしながら、試食用に冷凍しておいたハンバーグのたねを全て使い、これからお昼休憩に帰ってくる頼もしい魔祓い師たちと、僕たち側仕え、そしてムニルさんの計7人分の和風ハンバーグを作った。
9
お気に入りに追加
1,375
あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
軍将の踊り子と赤い龍の伝説
糸文かろ
BL
【ひょうきん軍将×ド真面目コミュ障ぎみの踊り子】
踊りをもちいて軍を守る聖舞師という職業のサニ(受)。赴任された戦場に行くとそこの軍将は、前日宿屋でサニをナンパしたリエイム(攻)という男だった。
一見ひょうきんで何も考えていなさそうな割に的確な戦法で軍を勝利に導くリエイム。最初こそいい印象を抱かなかったものの、行動をともにするうちサニは徐々にリエイムに惹かれていく。真摯な姿勢に感銘を受けたサニはリエイム軍との専属契約を交わすが、実は彼にはひとつの秘密があった。
第11回BL小説大賞エントリー中です。
この生き物は感想をもらえるととっても嬉がります!
「きょええええ!ありがたや〜っ!」という鳴き声を出します!
**************
公募を中心に活動しているのですが、今回アルファさんにて挑戦参加しております。
弱小・公募の民がどんなランキングで終わるのか……見守っていてくださいー!
過去実績:第一回ビーボーイ創作BL大賞優秀賞、小説ディアプラスハルVol.85、小説ディアプラスハルVol.89掲載
→ https://twitter.com/karoito2
→ @karoito2

恐怖症な王子は異世界から来た時雨に癒やされる
琴葉悠
BL
十六夜時雨は諸事情から橋の上から転落し、川に落ちた。
落ちた川から上がると見知らぬ場所にいて、そこで異世界に来た事を知らされる。
異世界人は良き知らせをもたらす事から王族が庇護する役割を担っており、時雨は庇護されることに。
そこで、検査すると、時雨はDomというダイナミクスの性の一つを持っていて──
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる