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東の祓魔師と側仕えの少年
72.練習とお芋
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賑やかなお食事会から数日、僕は主に"魔力放出の抑制"という術を身につけるための訓練に尽力していた。
魔力が芽生えてからこちら、「いつ魔法が使えるか」とウキウキしていたがまさか最初にすべきが"抑制"だとはなかなか受け入れ難い現実である。
しかしこれができない限り、みんなに美味しい料理が作れないのだ…!
「ハルオミ君、意識が逸れていますよ」
「あ…ごめんなさいパネースさん」
中庭にて、パネースさんとイザベラ、それからクールベさんの指南を受けている。訓練内容は至ってシンプル。
クールベさんが作ってくれた黒い野球ボール大の球(「魔力検知球」と名付けたらしい)。これは適切な量の魔力を検知すると宙に浮く仕様となっている。しかし必要以上に魔力を検知すると赤く光ってしまうのだ。黒いまま宙に浮かせることができれば合格。赤く発光してしまと不合格。
とてもわかりやすい。
「んじゃハルオミ君、もう一回やってみよう」
「がんばれハルオミぃぃ~」
中庭のベンチに座って、2メートルほど先に置かれた魔力検知球を見据える。
周りではパネースさんとイザベラとクールベさんが拳を握りしめながら声援を送ってくれる。
おへその下の丹田に意識を集める。まっすぐに放ったボールを2メートル先の球に当てるようなイメージで……息を吐いて、くっと止めて力を込める。
——フワッ
お、浮い…
——ピカァァ!
「はーいストップストップストップ!!」
赤光ってしまった球を見てクールべさんが制止をかける。そして僕は集中を止める。
ぽとん、と地面に落ちた黒い球が無情にころんと転がった。
先ほどからこの調子なのだ。
魔力を使うには集中力が必要だけど、僕は集中すると放出してしまうというなんとも難儀な状態なのである。
「んー、やっぱり出ちまうな」
「でもモウチョット!って感じするんだけどなあ~。ハルオミ、最初は球が浮きもしなかったもんな」
「浮かないのに赤く光ってしまう、まさに0か100って感じでしたので、それに比べるとコントロールのコツは掴めてきていると思いますよ」
みんな優しいので褒めてくれるが、中々出来ない自分にちょっとしたショックを受ける。
「結構、難しいですね」
ぽろりと弱音をこぼすと、イザベラが肩を叩いて励ましてくれた。
「んなの当たり前だろ? 俺らは生まれた時から魔力があるから無意識に抑制できてるけど、ハルオミはついこの間初めて魔力を持ったんだ、難しくて当たり前なんだから、元気出せよ!」
「そうだね、ありがとうイザベラ」
よし、次は必ず…!と意気込んでいたらクールベさんが「今日は終いだ」と球を取り上げポケットに仕舞った。
「え……もう少し」
「何言ってんだ、あまり君に無茶をさせると俺がフレイヤに怒られる」
「あー……そっか……」
フレイヤさん、前科があるから。
屋敷の人たちを威圧して一切僕に話しかけさせなかった前科あるから。クールベさんの言葉もなんとなく納得できてしまう。
残念だけれどまた明日、次こそ成功させられるように頑張ろう。
「ハルオミ君、少し休みますか?」
パネースさんは隣に座って僕の顔色を伺う。おそらく疲れが出てしまっているのだろう。優しく気遣ってくれた。
「ううん、少し疲れたけど、でも全然大丈夫。それよりさ、息抜きに、農園にお芋見に行かない?」
以前パネースさんと交わした約束。農園で育てているお芋をいつか調理して欲しいと言われ、先日ようやく農園を見学することができた。
葉っぱの形からさつまいもに似たものが収穫できると予想し、僕もお世話に参加させて貰っていたのだ。ついた実は徐々に大きくなっていき、あと少しで収穫できるらしい。
僕の提案に賛成してくれたイザベラとパネースさんは、早速行こうと言って揚々と歩き出す。
「んじゃ俺はちょっと屋敷に挨拶してから今日はもう帰るわ、あんまりはしゃぐんじゃねーぞ」
「はい、クールべさん。ありがとうございます。明日もよろしくお願いします」
じゃあな、と言って屋敷に戻るクールベさんの背中を見送る。
彼は今も以前と同じように国境近くの小屋に住んでいるのだけれど、僕の訓練に付き合ってくれたり体調を見てくれたりしているので、たまに屋敷に寝泊まりすることもある。
お酒が好きで魔物の話も止まらないため(主に魔物に対する変態発言が止まらないため)、ウラーさんに「騒が…賑やかですねえ」と冷ややかな視線を向けられている場面をよく見かける。
さて、農園は中庭から屋敷を抜けて裏側にある。
井戸水を引いたポンプに向けてパネースさんがヒョイっと指を振るとポンプが引かれ、桶にジャーっと水が溜まる。
溜まった水がふわっ宙に浮き細かい粒子となって芋畑の上に運ばれ、徐々に重力を失った水が優しく畑に降り注いだ。
「やっぱパネースは水の扱いに長けてるよな」
「そっか、パネースさんの魔力の性質は"水"だったね。なんだか植物が喜んでいるみたい」
「ふふ、ありがとうございます。今まであまり役立てることは無かったのですが、このお屋敷に来てからは庭仕事が面白くなって、こんなふうに水やりをしている時が至福の時間なんです」
ベビーブルーのポニーテルを風に靡かせながら笑顔で話すパネースさんは、なんだか農園の妖精みたいだ。
「それにしても、かなり育ったんじゃないですかね~。ほらこれなんか、もう収穫できそうですよ?」
「え? どれどれ?」
パネースさんが葉っぱを優しくかき分けながら言った言葉に、僕とイザベラは興味津々でそちらを見やる。
ジャガイモのような色だけれど、形的にはさつまいもとおんなじ感じで細長い。どんな味なのかな。
「本当だな、結構デカい。なぁ、これ収穫してハルオミに味見してもらおうぜ。どんなふうに調理するかアイデアが浮かぶかもしれないだろ?」
「 それはイイですね! ハルオミ君、いいですか……?」
「もちろん! 僕も食べてみたかったんだ。そうだ、ちょうど料理人さん達ともお話ししたかったし、厨房に行ってお芋ふかしてもらえるか聞いてみようよ」
「おお!それいい考えだな!」
「そうしましょうそうしましょう!」
パネースさんが一番大きく育っているのを収穫して、僕たちは芋をひとつ抱えて厨房へ急いだ。
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