【完結】眠れぬ異界の少年、祓魔師の愛に微睡む

丑三とき

文字の大きさ
上 下
69 / 147
東の祓魔師と側仕えの少年

69.満月に映る瞳

しおりを挟む



「あの!  ニエルド様は当主にご就任されるのですよね。今日はそれもお祝いするための食事会だったのに。すみません僕、自分の話ばかりしてしまって」

反省を述べると、ニエルドさんは少し姿勢を崩して顔の前でいやいやと手を振った。

「いいんだいいんだハルオミ殿。当主就任なんてめでたくもなんともない、しかも元々当主不在の屋敷だったから今までと何も変わんねーよ」

「そうなんですか……?」

当主ってもっと「即位の礼」みたいな壮大な儀式とかすると思ってたし、みんなもザ・祝福!って雰囲気かと思っていた。
すっごいラフで、しかも「めでたくない」とか言い出すしびっくりした。

「ギュスターはここ数年ずっと『名ばかりの当主』だったもんな。フレイヤが側仕えを取ったら正式にニエルドに家督を譲るから、それまでは仕方なく当主を名乗るが世代は交代の時期に来ているとか難しい事ばっか言ってさ。びっくりしたよ、ある日突然、屋敷を出るぞ、なんて言い出すんだコイツ」

呆れたように肩をすくめるムーサ様に、ビェラ様は「でも、」と続ける。

「そんな自由人の父上に付き合いきれる母上も母上ですよ」

「ギュスターが自由人なのは昔っからだからな、もう慣れた」

ムーサ様は、はははっと軽やかに笑う。

器の大きさにあっけにとられる。見た目は爽やか大学生だけど、中身はこの三兄弟の母親だもんな。ギュスター様は見るからに威厳があるけれど、ムーサ様は全てを包み込む偉大な母、って感じだ。

改めて、この家族の一員に入れたことを心から嬉しく思う。



食事会も終盤、みな口々に「楽しかった」や「美味しかった」と感想を言い、食事会は無事お開きとなった。




自室に戻った僕たちは、お風呂に入り寝る準備を整え、部屋の明かりを落として月を見ながら賑やかな食事会の余韻に浸っていた。

「びっくりしたなあ、無意識に料理に魔力を込めていたなんて……」

二人でベッドに腰掛けて穏やかな時間を楽しむ。

「私も驚いた、しかしすぐに納得したよ」

「どうして?」

彼を見上げると、切れ長の目の中では大きな丸い月が煌々と輝いていた。その瞳が次に僕をうつしたのは暗い中でも分かった。

「これまでも何度か君の作ったものをいただいたが、全てに真心がこもっていた。口に入れた瞬間に分かるんだよ、食べる者の顔を思い浮かべて丁寧に調理しているのが。誠実さや愛情が体に染み渡って、とても暖かい気持ちになる。それはいつだって変わらなかった。魔力がこもっていようといまいとね」

彼のひとつひとつの言葉に心がすっと穏やかになる。なぜか、救われたような気がした。

「きっと君がずっと、ずっとそういう気持ちで料理をしていたからなんだろうね」



やわらかい羽で心臓を撫でられたような心地よさがまとい、はっと息を呑んだ。

瞼の端に溜まった涙をフレイヤさんの唇が優しく拭った。
自然と目を瞑る。瞼の裏にはお母さんのキラキラとした笑顔が浮かんでいた。


そうだったらいいな。
お母さんも、病室で食べたアップルパイから僕の気持ちや真心を受け止めてくれていたらいいな。
あの時、少しでもお母さんの心を救えていたのならこんなに嬉しいことはない。あの時の彼女の気持ちは分からないけど、でもきっと伝わっていたと信じたい。


フレイヤさんの唇が瞼から下に降り、僕の震える唇を覆った。

ズン、とお腹の底に愛情が渦巻く。
かと思えばぐわっと何かの衝動が湧き上がってきて、少しでも彼との距離を無くしたい一心で、腕を回して一生懸命にしがみついた。

「フレイヤさん、愛してる……」



しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

この恋は無双

ぽめた
BL
 タリュスティン・マクヴィス。愛称タリュス。十四歳の少年。とてつもない美貌の持ち主だが本人に自覚がなく、よく女の子に間違われて困るなぁ程度の認識で軽率に他人を魅了してしまう顔面兵器。  サークス・イグニシオン。愛称サーク(ただしタリュスにしか呼ばせない)。万年二十五歳の成人男性。世界に四人しかいない白金と呼ばれる称号を持つ優れた魔術師。身分に関係なく他人には態度が悪い。  とある平和な国に居を構え、相棒として共に暮らしていた二人が辿る、比類なき恋の行方は。 *←少し性的な表現を含みます。 苦手な方、15歳未満の方は閲覧を避けてくださいね。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...