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東の祓魔師と側仕えの少年

68.魔力の行方②

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「それはいけない。君のこれは訓練して抑える必要がある。おそらく集中してしまうと無意識に無意識に放出してしまう癖があるようだから、調整できるまで、料理などの集中力を使う行為はなるべくしない方がいいね」

「え、どうして?」

早速出鼻をくじかれた感があり肩を落とす。

「いいかい?  魔力量には限度があるんだ。今日は私が付きっきりで手伝っていたしその後も魔力を与えて回復させられたから良かったけれど、何かあってからでは遅い」

「まあ……確かにそうだけど」

残念な思いからモゴモゴと言い淀んでいると、パネースさんも意見した。

「ハルオミ君の作ったお菓子がしばらく食べられないのは残念ですが、こればかりはフレイヤ様のご意見に大賛成です。君の体が一番大切ですもの。魔力制御の練習は私も付き合います」

「俺もそう思う。食べた途端元気みなぎって、なんだコレすげぇ…!って思ったけど、それでハルオミの具合が悪くなるんじゃ意味ないじゃん。それに、そんなん抜きにしてもハルオミの料理サイコーだからさ、今は魔力を抑えられるようになることだけを考えろよ。俺も練習手伝うから!」

「イザベラ……」

確かにそうだ。
自分の魔力も満足に管理できないのにその不安定な魔力で人の役に立てるかもと考えるのは、ちょっと気が早すぎたのではなかろうか。

フレイヤさんたちが言うように、今僕がすべきはいち早く魔力を制御できるようになることかもしれない。

「ありがとうパネースさん、イザベラ。僕、はやく魔力をコントロールできるように頑張る。農園のお芋を美味しく調理するっていう約束も忘れてないからね。なるべく早く叶えられるように、練習よろしくお願いします」

二人に向かって頭を下げると、「任せて!」と頼もしい声が降ってきた。本当に心強い友達だ。

料理は息抜きになるからしばらくできないのはとても残念だけど、目標ができれば達成も早いというではないか。

僕の意気込みに、一同「それがいい、それがいい」と頷いた。




一件落着の空気が流れたところで、話は「アップルパイのアイスクリーム添え」に戻った。

「いやしかしハルオミ殿の世界の甘味がこれほど美味いとは。こんなのをたらふく食ったフレイヤが恨めしいな」

「そうでしょう?ニエルドさん。特にあの何層にもなった外側のやつが香ばしくてたまらなかったでしょう?」

「パネース、なんだかお前が誇らしげだな」

ニエルド様からのつっこみに頬を赤らめて恥ずかしがるパネースさんを皆が微笑ましげに笑う。

「ギュスター、お前も一瞬で平らげたよな。甘いものは苦手なのに珍しい」

「ギュスター様、甘いもの苦手でしたか…すみません!」

「いや、非常に美味しく戴いた。皆を唸らせる味もさることながら、君の心遣いに深く感謝する」

「うん、本当にありがとうハルオミ君!めちゃくちゃ美味しかったよ!」

「ムーサ様……本当に、皆さんのお口に合って良かったです!」




「あのぅ、その事なんですが……」

扉の方を見ると、実はまだ居たウラーさんが控えめに手を上げながら話し始めた。

「屋敷の料理人がですね、どーーしても!もうど~~~ぅっっしても!!このお菓子の作り方が知りたいと、わたくしに"お前が頼んで来い"と押し付けやがっ…ことづかったためこちらへ参った次第なのですが……。ハルオミ殿、暇で暇で仕方ない時で構いませんので、料理人たちの我儘を聞いてやってはくださいませんでしょうか?  料理の基礎はできている奴ら…者たちですから、口頭で指南いただければある程度のコツは掴めるはずなのです」

ガバっと直角にお辞儀するウラーさん。
彼の、執事にしてはいつも言葉の端々に正直さが滲み出ているところが大好きだ。

「それはもちろん良いですが……まだ僕ここにいる皆さん以外にはお屋敷の方とお話しした事ないので……上手に喋れるかな…」

この世界に来てから決まった人としかコミュニケーションとってないから、何だか他の人と話すのは緊張しちゃう。

「おや、ハルオミは人当たりがいいから、てっきり屋敷の皆と仲が良いのかと思っていたよ」

のほほんと言うフレイヤさんを、ギンッッッ!!とウラーさんが鋭い目で射抜く。

「お言葉ですがフレイヤ様……」

なんかちょっと怖い……。
彼は、矢継ぎ早にこう繰り出した。

「あのですね!?
もっちろん執事も給仕も軍人も、皆ハルオミ殿とお近づきになりたいなりたいなりたいと申しておりましたよ!?  あれだけ側仕えを置かなかったフレイヤ様が出会ってすぐの少年を側仕えにしたという噂はすぐさま屋敷中に広がっておりました故、どのようなお方なのかと皆興味津々でした! しかしですね! ハルオミ殿が屋敷へ来て間もなくは貴方様直々に『何かあっては危ないから屋敷を出歩かせるな』と申しつけられておりましたし、出歩いても良いという許可をいただいてからも……誰がハルオミ殿に話しかけることなどできましょうか」

「なぜだい?  仲良くなりたいならまず会話を…」

「貴方が! 貴方が屋敷ですれ違う者全てに 、『ハルオミに何かあったら、分かってるね……?』という目で威圧していたからではないですか、皆気づいておりますよ!」

「私はそのような事……思ってはいたが口に出してはいない」

「ほぅら思ってたんじゃないですか! 貴方の圧倒的にコワイ視線を受けてハルオミ殿に気安く話しかけられる図太い人間がどこに居ましょうか!」

図太い……ね。
きっとウラーさんはフレイヤさんのどんな視線にも負けなそうだなあ。あ、決してウラーさんのことを図太いと思っているわけじゃないけれどね。

「成程。皆私に気を遣ってくれていたのか。すまないね」

フレイヤさんの素っ頓狂な返しに、ウラーさんは呆れて言葉も出ないと言った様子だ。そして僕はとても納得していた。

「屋敷の執事さんや軍人さん、僕を見てヒソヒソしていたのは話しかけようとしてくれてたからなんだね。でもフレイヤさんの顔がよぎって恐怖に負けた、と」

「そういうことでございます。さすがハルオミ殿は頭の回転がお早い」

「なら良かった、安心した。僕皆さんにあまり歓迎されていないのかと思っていたから」
 
「なっ!?  ハルオミ、そんなことを考えていたのかい!?  本当にすまなかった、私の配慮が足りないばかりに……」

「もう解決したから、大大大だって!」

いつまでもグイグイと肩を掴んで、すまない、本当に考えが足りなかった、と謝り続けるフレイヤさんを頑張って諭す。

「とにかく料理はできないけど教えるのは自分でも勉強になるし、僕にできることならなんでもさせてくださいウラーさん」

「ありがとうございますハルオミ殿! 皆とても喜びます」

少しの間は自分では何も作れないけど、ひとまず今日のデザートだけでも完成させることができて良かった。だって今日は特別な日だもの……

「……って!そうじゃん!」

「どうしたハルオミ」


今思い出した。
この食事会の目的。




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