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東の祓魔師と側仕えの少年

63.魔力の神秘

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————————Side Haruomi————————


なんか、疲れた………


夕食後のデザートを作っても良いという許可をフレイヤさんから得て、意気揚々と頭の中でレシピを考えて、フレイヤさんにも手伝ってもらいながらせっせと作って、おおかた完成した……が、いかんせん疲れた。

いやでもほとんどの工程椅子に座ってたんだよ? それにフレイヤ監督がちょくちょく休憩のカットを入れるもんだから、と~っても時間をかけて作ったんだよ?

体調が回復したとはいえ、料理ってこんなに体力使うの知らなかった……
フレイヤさんの注意にもっと耳を傾ければ良かったと少し後悔。

しかし! 体力消費しつつもデザートが無事完成したことに変わりはない。ひとまず安心だ。


夕飯まであと少しの時間、横になって息を整えようとソファに向かうとフレイヤさんが先に座って自分の太ももをぽんぽんと叩いてみせた。

「よく頑張ったねハルオミ。おいで、少し休もう」


おぉ……
これは久しぶりの……


——ポフっ


フレイヤさんのお膝を枕にして横になる。
膝枕、懐かしいなぁ。フレイヤさんを初めてこの目で見た時と同じアングルだ。

あの時は「高校2年生」という言葉が伝わらないことにびっくりした。それからこの場所が異世界だと知って、びっくりはしたけどすぐに受け入れられた。

あれから長い年月が経っている訳でもないのに、僕の魂はすっかりこちらの世界に染み付いているように感じる。フレイヤさんの言っていた僕の「魂の性質」は、やっぱりこの世界に合っているのだろう。

「なんだか楽しそうだねハルオミ」

「ふふふ、分かった?」

「何か良いことがあったのかい?」

「良いことなら沢山あるよ。最近は毎日フレイヤさんと一日中居られるし、今日は久しぶりにお菓子作りできたでしょ?  それに膝枕、懐かしいなあって…」

「そうだね、君に初めて出会った時もこうだった」

思い出に浸る僕の顔に手を添えて、親指で眉毛やほっぺたを撫でるフレイヤさん。それから前髪に指を通したり唇をふにふに触ってきたり。彼が動くたびにふわりと漂う甘い香りとくすぐったさが程よい眠気を誘う。

あの時と同じだ。
ひとつ違うことは、今この空間には実態がなく不安定な、けれど非常に心強くどんな重圧からも抜け出せる「愛情」という不思議な力が漂っているということ。その力がこの上なく身に染み、疲れが少しずつ和らいでいく。

「ん?  フレイヤさん、僕に何かした?」

「……?」

和らいだ疲れを不思議に思って彼に聞くと、彼もまた不思議そうにこちらを見た。

「なんか、疲れがちょっとだけどっか行っちゃったみたい…」

「本当かい?  ……なるほど、叔父上の話は本当だったのか」

「クールベさんが、どうしたの?」

呟きに問いかけると、彼はこう答えた。

「番同士は、簡単な魔力の授受で少しの疲労なら回復できると。しかし不思議だ、叔父上の話では魔力の疲労を回復できるというだけで身体面には特に影響を及ぼさないと言う話だったが……もしかしたらハルオミ、君は無意識のうちに魔力を放出してしまっているのかもしれないね」

「…魔力を?  ど、どんな魔力!? 僕、光ったりとかしてた? 空飛んでた?  なんか神秘的な感じだった?」

「こらこら起き上がらない」

テンション上がって起きあがろうとしたところ、肩を押されてお膝に逆戻り。これも以前と同じ光景だ。

いやでもだって、これがテンション上がらずにいられようか。自分から魔力出てたんだよ?  

そんな興奮も、次に繰り出されたフレイヤさんの一言でたちまち鎮まった。

「"魔力の放出"と"魔法を使う"のとでは、少し意味合いが違うかな」

「え……そ、そうなんだ」

落ち込む僕に丁寧に説明してくれた。
つまりはこういうことらしい。

「転移したり火を出したり、そういう"魔法"を使うにはもちろん魔力が必要だけれど、正確な魔術を構築して表出しないと魔法にはならない」

「……あー、ほぉ~」

多分2割くらいしか理解できてないけどとりあえず返事をする。

「ただ魔力を出すだけではそれは"魔法"にはならないということだよ」

あぁー、……なるほど。つまり僕からいくら魔力が出てたって、その魔力を正しく組み立てる技術がない限りは魔法なんか使えないってことか。

魔法使いまでの道のりは遠い……

まあ急がず焦らず。僕にはフレイヤさんという心強い先生がいるし。

あ、でもフレイヤさんは職場復帰が近いから、これから付きっきりで教えてもらうことは出来ないか。

「魔法の練習は大変かもしれないけれど、私がいればすぐに君を癒して回復させることができるね。君の力になれることがとても誇らしいよ」

「それは嬉しいけど、それってフレイヤさんが疲れちゃわないの?」

「大丈夫だ。君の疲れを癒すくらいならなんてことない」

「おぉー……かっちょいー……」

いいなあ、僕もそんなふうに言えるくらいになりたいなあ。

フレイヤさんの疲れを癒すくらい、なんてことない。そんなこと言える日が来るのだろうか。

——ぱふっ


言えるのがいつになるかわからないようなかっちょいいセリフを脳内で再生していると、突然視界が真っ暗になった。

「だからほら、少し回復しようね。目を瞑っていていいから」

どうやらフレイヤさんの大きな手が僕の瞼を覆ったらしい。

「でもこれ、……眠たくなっちゃう」

「問題ない。夕飯の時間までには起こしてあげよう」

瞼を閉じられながら頭を撫でられたらたまったもんじゃない。一気に眠気が襲う。

「ん~、でも、分かってる……? 準備も、あるん、だ…よ……」

「ああ分かっている。きちんと起こしてあげるから大丈夫だ」

「ちゃんと、……おこして…ね……デザート…もりつけ……」

舌がこんがらがって言葉が上手に紡げない。

このごろの僕は、不眠症だったのが嘘みたいによく眠る。フレイヤさんから一度「眠り姫」なんてあだ名をつけられそうになったこともある。全力で止めたけど、その時のフレイヤさんのいじわるっ子みたいな顔は可愛かった。


これからもいろんなフレイヤさんの顔、見れたらいいな……


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