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東の祓魔師と側仕えの少年

55.おかえり②

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ひとしきり泣いた。
ようやく涙がおさまってきたところで、フレイヤさんの首に一点の模様を見つけた。

「フレイヤさん、それは、なあに?」

彼の首筋に注目すると、3センチくらいの紫色の花のような模様が咲いていた。

僕が指をさした場所をさすりながら教えてくれた。

「ハルオミにもついているよ」

「え……」

自分じゃギリギリ見えない……

「ほら」

フレイヤさんが手鏡を持ってきて顔の前に差し出した。

「ほんとだ」

確かについてる。
首のところに、フレイヤさんとおんなじ花の模様。

「これは花紋だよ。つがいの証なんだ」

「番の?」

よく見ると、花が咲いている場所はフレイヤさんに噛まれた場所だ。フレイヤさんの花も僕が噛んだ場所にある。先のとんがった花びらと剣型の葉は、リンドウの花に似ている。

「……おそろい」

「ああ、お揃いだ」

「うれしい」

「私も嬉しい」

「フレイヤさん、愛してる」

「私も君だけを愛している。可愛い笑顔も美しい肌も、優しい心も。君の声、話す言葉、ゆっくりとした動きも驚いた顔も流した涙も、全て好きだ」

とんでもなく恥ずかしいことを言われている自覚はあるけれど、僕も同じことをフレイヤさんに思っている。

それもお揃いだね、と言うと、花の咲く首筋に口付けられた。

「さて、君にも"罰ゲーム"とやらを与えなくてはいけないね」

フレイヤさんは、急に意地悪な笑みを浮かべながら不思議なことを言ってきた。なぜ! なぜ僕が罰ゲーム?

「僕、なにかした……?」

「謝っただろう」

「そうだっけ」

「ああ。先ほど私に『ごめんなさい』と謝った」

「……覚えてないなあ」

「おや、はぐらかすのかい?」

「そんなの忘れちゃった。それに、僕はフレイヤさんに謝らないでって言ったけど、フレイヤさんには言われてないもの」

「それは屁理屈だ」

「屁理屈じゃないもーん」

ぷん、と拗ねたふりをして、フレイヤさんに背でも向けてやろうと布団の中でそろっと体を捻ると、太ももに違和感を感じた。

「あ……」

「どうしたハルオミっ、やはり気分が」

「違う。そうじゃなくて、フレイヤさん」

僕はもう一度フレイヤさんに向き直った。

「印章が……ついてる。フレイヤさんの魔力…僕もらえたの?」

彼は深く頷いた。

「ハルオミの体には、私の魔力が流れている。君はこの世界の人間になったんだ」

体が熱くなる。
熱が出てきたみたいだ。頭がくらっとするくらい嬉しい。また涙が出てきそうになったけど我慢した。どうしても聞かなくちゃいけないことがあるからだ。

「魔法使える?」

「?」

「僕も魔法使えるの?」

ウキウキ、ワクワク、自分の脳でそんな効果音が鳴っているのは気のせいじゃ無いはずだ。

「ああ、使えるはずだよ」

「やったあ、ねえ、どんな魔法使える?  フレイヤさんみたいに火が使える?  空とか飛べる?  転移魔法は気分悪くなっちゃうから、空飛びたいなあ」

鳥のように自由に青空を旋回する妄想をしているとフレイヤさんは、

「魔法を使うには練習が必要だ。飛ぶのは難しいかもしれないけれど、私が色々な魔法を教えてあげよう」

と言った。

「飛ぶの難しいのかー。でもフレイヤさんが教えてくれるなら心強いね。先生、よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします。でもハルオミ君、その前に体調を戻さないといけません。数日はあまり動いては駄目だよ」

「動いちゃ駄目なの?」

「君の体力は今著しく落ちている。どれだけ小さな体力消費でも、蓄積すれば次またいつ倒れるとも分からない。退屈だろうが、数日は回復することだけを考えてほしい」

「退屈だとは思わないよ。でも、じゃあ、フレイヤさんのこと、しばらくは癒せないってこと?」

せっかく体を重ねても大丈夫になったのに。お仕事で疲れてるフレイヤさんを癒せないのは悔しいなあ……

「私はしばらく君と一緒に過ごすよ。だから私を癒そうなどとは思わなくていい。それよりも、楽しい話をたくさんしよう。楽しい時間をたくさん過ごそう」

フレイヤさんは僕の首に手を添え、親指で花紋を何往復も撫でた。

「うん。それ、いい考えだね」

夜中にこんなに楽しいのは初めてだった。
体にまとわりつく暗闇に、眠れない焦燥感に苛まれていたあの時の僕は想像できただろうか。愛に微睡む心地よさを。愛を伝える安らぎを。
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