55 / 147
東の祓魔師と側仕えの少年
55.おかえり②
しおりを挟むひとしきり泣いた。
ようやく涙がおさまってきたところで、フレイヤさんの首に一点の模様を見つけた。
「フレイヤさん、それは、なあに?」
彼の首筋に注目すると、3センチくらいの紫色の花のような模様が咲いていた。
僕が指をさした場所をさすりながら教えてくれた。
「ハルオミにもついているよ」
「え……」
自分じゃギリギリ見えない……
「ほら」
フレイヤさんが手鏡を持ってきて顔の前に差し出した。
「ほんとだ」
確かについてる。
首のところに、フレイヤさんとおんなじ花の模様。
「これは花紋だよ。番の証なんだ」
「番の?」
よく見ると、花が咲いている場所はフレイヤさんに噛まれた場所だ。フレイヤさんの花も僕が噛んだ場所にある。先のとんがった花びらと剣型の葉は、リンドウの花に似ている。
「……おそろい」
「ああ、お揃いだ」
「うれしい」
「私も嬉しい」
「フレイヤさん、愛してる」
「私も君だけを愛している。可愛い笑顔も美しい肌も、優しい心も。君の声、話す言葉、ゆっくりとした動きも驚いた顔も流した涙も、全て好きだ」
とんでもなく恥ずかしいことを言われている自覚はあるけれど、僕も同じことをフレイヤさんに思っている。
それもお揃いだね、と言うと、花の咲く首筋に口付けられた。
「さて、君にも"罰ゲーム"とやらを与えなくてはいけないね」
フレイヤさんは、急に意地悪な笑みを浮かべながら不思議なことを言ってきた。なぜ! なぜ僕が罰ゲーム?
「僕、なにかした……?」
「謝っただろう」
「そうだっけ」
「ああ。先ほど私に『ごめんなさい』と謝った」
「……覚えてないなあ」
「おや、はぐらかすのかい?」
「そんなの忘れちゃった。それに、僕はフレイヤさんに謝らないでって言ったけど、フレイヤさんには言われてないもの」
「それは屁理屈だ」
「屁理屈じゃないもーん」
ぷん、と拗ねたふりをして、フレイヤさんに背でも向けてやろうと布団の中でそろっと体を捻ると、太ももに違和感を感じた。
「あ……」
「どうしたハルオミっ、やはり気分が」
「違う。そうじゃなくて、フレイヤさん」
僕はもう一度フレイヤさんに向き直った。
「印章が……ついてる。フレイヤさんの魔力…僕もらえたの?」
彼は深く頷いた。
「ハルオミの体には、私の魔力が流れている。君はこの世界の人間になったんだ」
体が熱くなる。
熱が出てきたみたいだ。頭がくらっとするくらい嬉しい。また涙が出てきそうになったけど我慢した。どうしても聞かなくちゃいけないことがあるからだ。
「魔法使える?」
「?」
「僕も魔法使えるの?」
ウキウキ、ワクワク、自分の脳でそんな効果音が鳴っているのは気のせいじゃ無いはずだ。
「ああ、使えるはずだよ」
「やったあ、ねえ、どんな魔法使える? フレイヤさんみたいに火が使える? 空とか飛べる? 転移魔法は気分悪くなっちゃうから、空飛びたいなあ」
鳥のように自由に青空を旋回する妄想をしているとフレイヤさんは、
「魔法を使うには練習が必要だ。飛ぶのは難しいかもしれないけれど、私が色々な魔法を教えてあげよう」
と言った。
「飛ぶの難しいのかー。でもフレイヤさんが教えてくれるなら心強いね。先生、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。でもハルオミ君、その前に体調を戻さないといけません。数日はあまり動いては駄目だよ」
「動いちゃ駄目なの?」
「君の体力は今著しく落ちている。どれだけ小さな体力消費でも、蓄積すれば次またいつ倒れるとも分からない。退屈だろうが、数日は回復することだけを考えてほしい」
「退屈だとは思わないよ。でも、じゃあ、フレイヤさんのこと、しばらくは癒せないってこと?」
せっかく体を重ねても大丈夫になったのに。お仕事で疲れてるフレイヤさんを癒せないのは悔しいなあ……
「私はしばらく君と一緒に過ごすよ。だから私を癒そうなどとは思わなくていい。それよりも、楽しい話をたくさんしよう。楽しい時間をたくさん過ごそう」
フレイヤさんは僕の首に手を添え、親指で花紋を何往復も撫でた。
「うん。それ、いい考えだね」
夜中にこんなに楽しいのは初めてだった。
体にまとわりつく暗闇に、眠れない焦燥感に苛まれていたあの時の僕は想像できただろうか。愛に微睡む心地よさを。愛を伝える安らぎを。
11
お気に入りに追加
1,377
あなたにおすすめの小説
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
第一王子から断罪されたのに第二王子に溺愛されています。何で?
藍音
BL
占星術により、最も国を繁栄させる子を産む孕み腹として、妃候補にされたルーリク・フォン・グロシャーは学院の卒業を祝う舞踏会で第一王子から断罪され、婚約破棄されてしまう。
悲しみにくれるルーリクは婚約破棄を了承し、領地に去ると宣言して会場を後にするが‥‥‥
すみません、シリアスの仮面を被ったコメディです。冒頭からシリアスな話を期待されていたら申し訳ないので、記載いたします。
男性妊娠可能な世界です。
魔法は昔はあったけど今は廃れています。
独自設定盛り盛りです。作品中でわかる様にご説明できていると思うのですが‥‥
大きなあらすじやストーリー展開は全く変更ありませんが、ちょこちょこ文言を直したりして修正をかけています。すみません。
R4.2.19 12:00完結しました。
R4 3.2 12:00 から応援感謝番外編を投稿中です。
お礼SSを投稿するつもりでしたが、短編程度のボリュームのあるものになってしまいました。
多分10話くらい?
2人のお話へのリクエストがなければ、次は別の主人公の番外編を投稿しようと思っています。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
好きか?嫌いか?
秋元智也
BL
ある日、女子に振られてやけくそになって自分の運命の相手を
怪しげな老婆に占ってもらう。
そこで身近にいると宣言されて、虹色の玉を渡された。
眺めていると、後ろからぶつけられ慌てて掴むつもりが飲み込んでしまう。
翌朝、目覚めると触れた人の心の声が聞こえるようになっていた!
クラスでいつもつっかかってくる奴の声を悪戯するつもりで聞いてみると
なんと…!!
そして、運命の人とは…!?
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる