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東の祓魔師と側仕えの少年
50.団欒①
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ハルオミに魔力を与えながら夢と現実の間を揺蕩っていた私は、首元にひんやりとした感触が当たり意識を覚醒させた。
「っ……ニエルド兄さん」
兄が私の首に氷嚢を当てたらしい。
「北の地の奴らに恩売っといて良かったな。あいつら、魔力を使わず手作業で流氷を加工して氷嚢まで作ってくれやがった。氷の扱いには北の人間の方が長けてるからな、今度ちゃんと礼言っとけよ」
「……ああ。ありがとう。ハルオミも、冷やしてあげてくれ…」
「もうやってるよフレイヤ兄さん。叔父上、これで良いんですか?」
ビェラはハルオミの首筋と両脇、おでこに氷嚢を置き汗を拭った。
「ああ、それで良い。とにかく体温を平熱まで下げろ。絶対魔力を使わずにな」
「分かりました……でも、兄さんもハルオミ君もすごく熱い。すぐ氷が溶けちゃう」
「父上が北の地の当主に交渉して、製氷の人員を確保してくれている。これから俺も応援に行く」
「うん、頼んだよニエルド兄さん。僕はここでフレイヤ兄さんのサポートをするよ」
兄弟がこんなにも心強くあたたかいものだと知らなかった。私がこれまで目を背けてきたものは、とてつもなく大きな存在だったと気付かされる。
「戻りました!」
イザベラの声が響いた。
続いて現れた母上とパネースとともに薬草を持ち寄って叔父上に渡した。
「よし完璧だ。ウラー、調合を頼む。いいか? 魔力は絶対使うなよ?」
「かしこまりました」
礼儀よく承るウラーに、母が声をかけた。
「ウチの執事に薬師が居て助かったよ。ウラー、頼んだぜ」
ウラー、薬師だったのか。
朦朧とする中、周りを見渡す。私の部屋に大勢の人間が集まっている。実に賑やかだ。こんなのは初めてだ。
これまで、他人との接触は極力避けてきた。
その方が相手も自分も困らないからだ。
なぜこれまで目を背けてきたのだろうか。
ぶつからなければ分からないこともある。
言い合わなければいけない時もある。
そんなことに今更気づいた。
「にしても、まさかお前に声を荒げられる日が来るとはな」
クールベ叔父上が感慨深げな声で話しかけて来た。その様子に皆が笑う。
「本当だよ全く、母親の俺ですら胸ぐら掴まれたこと無いのに」
「はっはっは! まあそう拗ねんなってムーサさん」
「別に拗ねてねえよ」
「拗ねてたじゃありませんかムーサ様。『フレイヤはクールベさんの名前も覚えてなかったのに、親より先にいろんな顔見せやがって』ってさっき」
パネースはおとなしそうに見えて意外と口が多い。
「は? 俺名前覚えられてなかったのかよ」
「……プッ!」
「おいウラー、お前今笑ったな? 嘲笑ったな俺を」
「いいえ、甥に存在すら覚えられていなかった可哀想な叔父様のことを笑ってなどおりません」
「存在すら!? どういうことだフレイヤてめえ」
「まあまあ叔父上、フレイヤ兄さん今死にそうなんだから。そんな怒んないであげてください」
本当にその通りだ。人が死にそうな時にえらく楽しそうだな。しかしこういうのも悪くない。
私にとっての初めての一家団欒は、吐き気と眩暈と頭の芯がぐらっと揺れるような悪寒の中、息も絶え絶えにもがき苦しみながらの心温まる体験となった。
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