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東の祓魔師と側仕えの少年
46.前日譚
しおりを挟む◆◆———1日前———◆◆
クールベさんの元を訪ねていた僕とフレイヤさんは屋敷に戻った。この時僕は、立て続けの転移魔法で酷い気分だった。
イザベラとパネースさんが心配してくれたけど、ゆっくり話せそうに無かった。ひとまず体調を少しでも回復しなくちゃ。
フレイヤさんがギュスター様に報告に行っている間、僕はひと足先に部屋に戻ってベッドに潜り込んだ。
——くしゃ
「……? こんな紙ポケットに入ってたかな……」
ポケットには身に覚えのない紙切れが入っていた。手のひらサイズの紙を開くと、それは白紙だった。
「ん? なんだろ、まあいっか、捨てよ」
『おいおいおいおい、捨てんな捨てんな!』
「!?」
どこからか声がする。
周りを見渡しても誰もいない。
手に持っていた紙に目を落とすと、紙は唇の形を浮き上がらせ、……なんか動いてるんだけど。
「………え!?」
『フレイヤが戻ってくる前に手短に話す』
唇の形の紙が動く通りに言葉が聞こえる。
どうやら紙が喋っているらしい。そしてこの声。
「ク、クールベ、さん!?」
『ああそうだ。今は驚いてる暇ねえぞ、いいか、ハルオミ君……よく聞きなさい』
いきなり真面目な声色になるのでびっくりして姿勢を正す。
「は、はい」
『実は、君らにまだ伝えてないことがあってな』
「じゃあ、フレイヤさんも呼んで来ま」
『待て待て待て、あいつに話すかどうかは、内容を聞いてからハルオミ君が判断しろ』
「…………?」
フレイヤさんに話さずに僕だけに話すってこと? 何だろう。
『いいか? 俺がさっき、番うには問題があるって言ったのを覚えてるか』
「はい。番える可能性は5割、っていうやつですよね。でもこればっかりは、信じてやってみなきゃ」
『まだある』
「え……」
『問題はそれだけじゃねえ。むしろ、これから話すことが一番の大きい壁だ』
「……はい」
『いいか、ハルオミ君。番の儀式は……大半の負担が君にかかる』
「そう、ですか。その負担というのは」
『まず第一の壁は、君が元の世界へ強制送還されてしまう可能性があることだ』
「え……な、何言って……」
『かつて異世界人の半身と番おうと試みた者がいたことは話したな。その異世界人のうち数人は、元の世界に戻されたという記録がある』
なにも言葉が出なかった。
黙る僕に、クールベさんは更なる"壁"を伝えてきた。
『第二の壁は、もし番うことに成功したとして、君の体が耐えきれず……死に至ってしまう可能性だ』
「死……」
『番になれば体質が変化する。血液の成分が変わったり、発情期が訪れたりな。今までの異世界人は発熱や疼痛だけで済んだやつが大半だが、中には死んだ例もある』
わざと単調に言葉を紡いでくれているのがわかった。こちらに動揺を伝えないように、クールベさんはただただ丁寧にわかりやすく説明してくれた。
「このこと、フレイヤさんは、知らないん…ですよね」
『あの様子のフレイヤを見ちまったらな、言えなかった。ハルオミ君にそこまでの負担がかかるってわかれば、あいつは10000%番おうとしねえだろう。それはハルオミ君も望まないと思った……』
やっぱりクールベさんってすごい人なんだなあ。
変態っぽいところが目立っていたけど、実際はこんなに僕たちのことを考えてくれている。
僕は紙を握りしめたまま少しの間考えた。
といっても考えることなんてほとんどなかった。
「クールベさん、僕のお願いを聞いてくれますか」
『あぁ、何でも言え』
「フレイヤさんに、……いえ、誰にもそのことは言わないで貰えますか」
『………いいんだな』
「はい」
迷う理由はない。
何があったって僕がやれることは何でもするつもりだった。
『………』
クールベさんは黙ってしまった。
「クールベさん?」
『申し訳ない、ハルオミ君。俺は仮にもフレイヤの叔父だ。フレイヤを助けたい、君がどうか番ってくれないかと、君への負担を分かっていながら、そういうふうに、考えていた。本当に……本当にすまない!』
クールベさんらしい威勢がなくなったかと思うと、そんなネガティブなことを言い出したのだ。
身内を助けたい気持ちに申し訳ないだなんて、そんなことを言って欲しくない。
「なんで謝るんですか」
『………』
「クールベさん、ありがとうございます」
『ハルオミ君……』
「謝らないでください。チャンスをくれてありがとうございます。僕には信じることしかできません。自分のことも、フレイヤさんのことも信じる。奇跡を信じる。これしか方法は無い。その方法を教えてくれたのはクールベさんです。希望をくれてありがとうございます」
『ハルオミ君……君は、なんて子だ……』
姿は見えないけど、クールベさんはどこか涙ぐんだような声をしている。
「フレイヤさん戻ってくるかもしれないから、そろそろ……」
『あぁ……明日、また行く』
「待ってます」
じゃ、と言って紙は自ら散り散りに破かれ、空中に消えた。
知らず知らずのうちに心拍数が上がっていた。
布団に入って、呼吸を落ち着ける。
「大丈夫、きっと大丈夫……」
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