39 / 147
東の祓魔師と側仕えの少年
38.それぞれの覚悟②
しおりを挟む
————————Side Haruomi ———————
◆
何時間眠っていたのだろう。
空の向こうには夕焼けが顔を覗かせている。
起きあがろうとすると何かに引っ張られる。
「あ……フレイヤさん」
床に座ってベッドに顔を伏し、僕の手を握ったまま眠るフレイヤさん。
「ほんとに、どこにも行かないでくれた」
そんな中途半端な体勢で寝てたら足痺れちゃう。
起こさなきゃ、と思いつつも、もう少しだけ寝顔を拝ませてもらうことにした。
初めて会った時は、僕と同じくらい目の下のクマが濃かった。思えば、あれって魔物の呪いのせいで悪い夢ばっかり見てたからなんだよね。
以前よりクマの薄くなった目元を指でなぞる。僕のおかげだったら嬉しいな。
◆◆翌朝◆◆
——ギィィ
「ハルオミィ、大丈夫かあ?」
翌朝、イザベラが心配そうな顔で部屋のドアを遠慮がちに開けてきた。フレイヤさんが出て行った後なので遠慮無く入ってもらうことにした。
「心配しました、ハルオミ君。昨日は顔色が悪かったので」
「ありがとうパネースさん。立て続けに二回も転移したら気分悪くなっちゃって。でももう大丈夫。座って? お茶淹れるね」
「無理すんなってハルオミ、お前が座ってろ!」
「でも」
「そうですよハルオミ君。気分が良くなったと言っても、すぐに動くとまた体調を崩してしまいます。あなたも座ってください」
「うん……ありがと」
イザベラとパネースさんに促されて席につき、三人でテーブルを囲んだ。
「で? フレイヤ様いないじゃん」
「もう討伐に行ったよ?」
「は!? 大丈夫なのかよ。聞いたぜ、その、もう……」
イザベラは言葉を選びきれないのか、俯いたまま口篭ってしまった。
「うん、時間がないんだ。だからね、今日の夜、番つがうことにした」
「……そっか。二人で決めたんだろ?」
「うん。異世界の半身と番になれた例は少ないから、どんな影響があるか正直分からないってクールベさんに言われたんだけど、このまま何もせずにフレイヤさんが死ぬのを待つだけなのは嫌だから。フレイヤさんとも話し合って、自分たちを信じようって」
「そうですか。ハルオミ君、よく決意しましたね」
「そっか。それで、魔力も貰えることになったのか? 半身なら魔力が呪われてても授受できるらしいじゃんか」
「それは番になれた後。フレイヤさんの魔力を貰って正式にこの世界の人間になったら、体質も変わるんだって。熱が出たり、しんどくなっちゃうかもしれない。そしたら番う時に負担がかかって失敗しやすいから……無事番になった後に、ちゃんと魔力を貰うよ」
「そっか」
「うん……もし失敗したら、とか、そういうのは考えないようにした。幸せだから。今でも充分幸せだから」
「ハルオミ……」
イザベラはしゅん、として肩を丸めて縮こまっている。
こんな重たい空気、だめだ!
僕を含めた みんなの気分を晴らすために、僕は声を上げた。
「だから、応援してて! 今日の夜、フレイヤさんと僕、やっと、ね?」
ん? と不思議そうな顔をしていた二人が、意味を理解した途端ニヤニヤ笑い出した。
「あ~、そっか、番になるって、そういうことだもんな」
「良かったですねハルオミ君、ついに! ですね」
「感慨深いよね、なんか、……あ、だめだ急に緊張してきた。今までフレイヤさんとそういうことするために頑張ってきたけど、いざそうなると……しかも側仕えとしてじゃなくて、あぁ、心臓が」
「大丈夫ですハルオミ君、深呼吸、深呼吸」
「そうだぞハルオミ、ハルオミはこれまで数々の死戦を潜り抜けてきた!自身持て!」
「フレイヤ様もハルオミ君にかかればもうイチコロですから!」
「うん、頑張る!」
二人は冗談を言って和ませてくれる。
兎にも角にも夜まで体調を崩さないようにしなきゃ。心も体も、準備は万全に。
僕も覚悟を決めた。
◆
何時間眠っていたのだろう。
空の向こうには夕焼けが顔を覗かせている。
起きあがろうとすると何かに引っ張られる。
「あ……フレイヤさん」
床に座ってベッドに顔を伏し、僕の手を握ったまま眠るフレイヤさん。
「ほんとに、どこにも行かないでくれた」
そんな中途半端な体勢で寝てたら足痺れちゃう。
起こさなきゃ、と思いつつも、もう少しだけ寝顔を拝ませてもらうことにした。
初めて会った時は、僕と同じくらい目の下のクマが濃かった。思えば、あれって魔物の呪いのせいで悪い夢ばっかり見てたからなんだよね。
以前よりクマの薄くなった目元を指でなぞる。僕のおかげだったら嬉しいな。
◆◆翌朝◆◆
——ギィィ
「ハルオミィ、大丈夫かあ?」
翌朝、イザベラが心配そうな顔で部屋のドアを遠慮がちに開けてきた。フレイヤさんが出て行った後なので遠慮無く入ってもらうことにした。
「心配しました、ハルオミ君。昨日は顔色が悪かったので」
「ありがとうパネースさん。立て続けに二回も転移したら気分悪くなっちゃって。でももう大丈夫。座って? お茶淹れるね」
「無理すんなってハルオミ、お前が座ってろ!」
「でも」
「そうですよハルオミ君。気分が良くなったと言っても、すぐに動くとまた体調を崩してしまいます。あなたも座ってください」
「うん……ありがと」
イザベラとパネースさんに促されて席につき、三人でテーブルを囲んだ。
「で? フレイヤ様いないじゃん」
「もう討伐に行ったよ?」
「は!? 大丈夫なのかよ。聞いたぜ、その、もう……」
イザベラは言葉を選びきれないのか、俯いたまま口篭ってしまった。
「うん、時間がないんだ。だからね、今日の夜、番つがうことにした」
「……そっか。二人で決めたんだろ?」
「うん。異世界の半身と番になれた例は少ないから、どんな影響があるか正直分からないってクールベさんに言われたんだけど、このまま何もせずにフレイヤさんが死ぬのを待つだけなのは嫌だから。フレイヤさんとも話し合って、自分たちを信じようって」
「そうですか。ハルオミ君、よく決意しましたね」
「そっか。それで、魔力も貰えることになったのか? 半身なら魔力が呪われてても授受できるらしいじゃんか」
「それは番になれた後。フレイヤさんの魔力を貰って正式にこの世界の人間になったら、体質も変わるんだって。熱が出たり、しんどくなっちゃうかもしれない。そしたら番う時に負担がかかって失敗しやすいから……無事番になった後に、ちゃんと魔力を貰うよ」
「そっか」
「うん……もし失敗したら、とか、そういうのは考えないようにした。幸せだから。今でも充分幸せだから」
「ハルオミ……」
イザベラはしゅん、として肩を丸めて縮こまっている。
こんな重たい空気、だめだ!
僕を含めた みんなの気分を晴らすために、僕は声を上げた。
「だから、応援してて! 今日の夜、フレイヤさんと僕、やっと、ね?」
ん? と不思議そうな顔をしていた二人が、意味を理解した途端ニヤニヤ笑い出した。
「あ~、そっか、番になるって、そういうことだもんな」
「良かったですねハルオミ君、ついに! ですね」
「感慨深いよね、なんか、……あ、だめだ急に緊張してきた。今までフレイヤさんとそういうことするために頑張ってきたけど、いざそうなると……しかも側仕えとしてじゃなくて、あぁ、心臓が」
「大丈夫ですハルオミ君、深呼吸、深呼吸」
「そうだぞハルオミ、ハルオミはこれまで数々の死戦を潜り抜けてきた!自身持て!」
「フレイヤ様もハルオミ君にかかればもうイチコロですから!」
「うん、頑張る!」
二人は冗談を言って和ませてくれる。
兎にも角にも夜まで体調を崩さないようにしなきゃ。心も体も、準備は万全に。
僕も覚悟を決めた。
17
お気に入りに追加
1,375
あなたにおすすめの小説
軍将の踊り子と赤い龍の伝説
糸文かろ
BL
【ひょうきん軍将×ド真面目コミュ障ぎみの踊り子】
踊りをもちいて軍を守る聖舞師という職業のサニ(受)。赴任された戦場に行くとそこの軍将は、前日宿屋でサニをナンパしたリエイム(攻)という男だった。
一見ひょうきんで何も考えていなさそうな割に的確な戦法で軍を勝利に導くリエイム。最初こそいい印象を抱かなかったものの、行動をともにするうちサニは徐々にリエイムに惹かれていく。真摯な姿勢に感銘を受けたサニはリエイム軍との専属契約を交わすが、実は彼にはひとつの秘密があった。
第11回BL小説大賞エントリー中です。
この生き物は感想をもらえるととっても嬉がります!
「きょええええ!ありがたや〜っ!」という鳴き声を出します!
**************
公募を中心に活動しているのですが、今回アルファさんにて挑戦参加しております。
弱小・公募の民がどんなランキングで終わるのか……見守っていてくださいー!
過去実績:第一回ビーボーイ創作BL大賞優秀賞、小説ディアプラスハルVol.85、小説ディアプラスハルVol.89掲載
→ https://twitter.com/karoito2
→ @karoito2
この世界で唯一『スキル合成』の能力を持っていた件
なかの
ファンタジー
異世界に転生した僕。
そこで与えられたのは、この世界ただ一人だけが持つ、ユニークスキル『スキル合成 - シンセサイズ』だった。
このユニークスキルを武器にこの世界を無双していく。
【web累計100万PV突破!】
著/イラスト なかの
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

恐怖症な王子は異世界から来た時雨に癒やされる
琴葉悠
BL
十六夜時雨は諸事情から橋の上から転落し、川に落ちた。
落ちた川から上がると見知らぬ場所にいて、そこで異世界に来た事を知らされる。
異世界人は良き知らせをもたらす事から王族が庇護する役割を担っており、時雨は庇護されることに。
そこで、検査すると、時雨はDomというダイナミクスの性の一つを持っていて──

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。

召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる