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東の祓魔師と側仕えの少年
38.それぞれの覚悟②
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————————Side Haruomi ———————
◆
何時間眠っていたのだろう。
空の向こうには夕焼けが顔を覗かせている。
起きあがろうとすると何かに引っ張られる。
「あ……フレイヤさん」
床に座ってベッドに顔を伏し、僕の手を握ったまま眠るフレイヤさん。
「ほんとに、どこにも行かないでくれた」
そんな中途半端な体勢で寝てたら足痺れちゃう。
起こさなきゃ、と思いつつも、もう少しだけ寝顔を拝ませてもらうことにした。
初めて会った時は、僕と同じくらい目の下のクマが濃かった。思えば、あれって魔物の呪いのせいで悪い夢ばっかり見てたからなんだよね。
以前よりクマの薄くなった目元を指でなぞる。僕のおかげだったら嬉しいな。
◆◆翌朝◆◆
——ギィィ
「ハルオミィ、大丈夫かあ?」
翌朝、イザベラが心配そうな顔で部屋のドアを遠慮がちに開けてきた。フレイヤさんが出て行った後なので遠慮無く入ってもらうことにした。
「心配しました、ハルオミ君。昨日は顔色が悪かったので」
「ありがとうパネースさん。立て続けに二回も転移したら気分悪くなっちゃって。でももう大丈夫。座って? お茶淹れるね」
「無理すんなってハルオミ、お前が座ってろ!」
「でも」
「そうですよハルオミ君。気分が良くなったと言っても、すぐに動くとまた体調を崩してしまいます。あなたも座ってください」
「うん……ありがと」
イザベラとパネースさんに促されて席につき、三人でテーブルを囲んだ。
「で? フレイヤ様いないじゃん」
「もう討伐に行ったよ?」
「は!? 大丈夫なのかよ。聞いたぜ、その、もう……」
イザベラは言葉を選びきれないのか、俯いたまま口篭ってしまった。
「うん、時間がないんだ。だからね、今日の夜、番つがうことにした」
「……そっか。二人で決めたんだろ?」
「うん。異世界の半身と番になれた例は少ないから、どんな影響があるか正直分からないってクールベさんに言われたんだけど、このまま何もせずにフレイヤさんが死ぬのを待つだけなのは嫌だから。フレイヤさんとも話し合って、自分たちを信じようって」
「そうですか。ハルオミ君、よく決意しましたね」
「そっか。それで、魔力も貰えることになったのか? 半身なら魔力が呪われてても授受できるらしいじゃんか」
「それは番になれた後。フレイヤさんの魔力を貰って正式にこの世界の人間になったら、体質も変わるんだって。熱が出たり、しんどくなっちゃうかもしれない。そしたら番う時に負担がかかって失敗しやすいから……無事番になった後に、ちゃんと魔力を貰うよ」
「そっか」
「うん……もし失敗したら、とか、そういうのは考えないようにした。幸せだから。今でも充分幸せだから」
「ハルオミ……」
イザベラはしゅん、として肩を丸めて縮こまっている。
こんな重たい空気、だめだ!
僕を含めた みんなの気分を晴らすために、僕は声を上げた。
「だから、応援してて! 今日の夜、フレイヤさんと僕、やっと、ね?」
ん? と不思議そうな顔をしていた二人が、意味を理解した途端ニヤニヤ笑い出した。
「あ~、そっか、番になるって、そういうことだもんな」
「良かったですねハルオミ君、ついに! ですね」
「感慨深いよね、なんか、……あ、だめだ急に緊張してきた。今までフレイヤさんとそういうことするために頑張ってきたけど、いざそうなると……しかも側仕えとしてじゃなくて、あぁ、心臓が」
「大丈夫ですハルオミ君、深呼吸、深呼吸」
「そうだぞハルオミ、ハルオミはこれまで数々の死戦を潜り抜けてきた!自身持て!」
「フレイヤ様もハルオミ君にかかればもうイチコロですから!」
「うん、頑張る!」
二人は冗談を言って和ませてくれる。
兎にも角にも夜まで体調を崩さないようにしなきゃ。心も体も、準備は万全に。
僕も覚悟を決めた。
◆
何時間眠っていたのだろう。
空の向こうには夕焼けが顔を覗かせている。
起きあがろうとすると何かに引っ張られる。
「あ……フレイヤさん」
床に座ってベッドに顔を伏し、僕の手を握ったまま眠るフレイヤさん。
「ほんとに、どこにも行かないでくれた」
そんな中途半端な体勢で寝てたら足痺れちゃう。
起こさなきゃ、と思いつつも、もう少しだけ寝顔を拝ませてもらうことにした。
初めて会った時は、僕と同じくらい目の下のクマが濃かった。思えば、あれって魔物の呪いのせいで悪い夢ばっかり見てたからなんだよね。
以前よりクマの薄くなった目元を指でなぞる。僕のおかげだったら嬉しいな。
◆◆翌朝◆◆
——ギィィ
「ハルオミィ、大丈夫かあ?」
翌朝、イザベラが心配そうな顔で部屋のドアを遠慮がちに開けてきた。フレイヤさんが出て行った後なので遠慮無く入ってもらうことにした。
「心配しました、ハルオミ君。昨日は顔色が悪かったので」
「ありがとうパネースさん。立て続けに二回も転移したら気分悪くなっちゃって。でももう大丈夫。座って? お茶淹れるね」
「無理すんなってハルオミ、お前が座ってろ!」
「でも」
「そうですよハルオミ君。気分が良くなったと言っても、すぐに動くとまた体調を崩してしまいます。あなたも座ってください」
「うん……ありがと」
イザベラとパネースさんに促されて席につき、三人でテーブルを囲んだ。
「で? フレイヤ様いないじゃん」
「もう討伐に行ったよ?」
「は!? 大丈夫なのかよ。聞いたぜ、その、もう……」
イザベラは言葉を選びきれないのか、俯いたまま口篭ってしまった。
「うん、時間がないんだ。だからね、今日の夜、番つがうことにした」
「……そっか。二人で決めたんだろ?」
「うん。異世界の半身と番になれた例は少ないから、どんな影響があるか正直分からないってクールベさんに言われたんだけど、このまま何もせずにフレイヤさんが死ぬのを待つだけなのは嫌だから。フレイヤさんとも話し合って、自分たちを信じようって」
「そうですか。ハルオミ君、よく決意しましたね」
「そっか。それで、魔力も貰えることになったのか? 半身なら魔力が呪われてても授受できるらしいじゃんか」
「それは番になれた後。フレイヤさんの魔力を貰って正式にこの世界の人間になったら、体質も変わるんだって。熱が出たり、しんどくなっちゃうかもしれない。そしたら番う時に負担がかかって失敗しやすいから……無事番になった後に、ちゃんと魔力を貰うよ」
「そっか」
「うん……もし失敗したら、とか、そういうのは考えないようにした。幸せだから。今でも充分幸せだから」
「ハルオミ……」
イザベラはしゅん、として肩を丸めて縮こまっている。
こんな重たい空気、だめだ!
僕を含めた みんなの気分を晴らすために、僕は声を上げた。
「だから、応援してて! 今日の夜、フレイヤさんと僕、やっと、ね?」
ん? と不思議そうな顔をしていた二人が、意味を理解した途端ニヤニヤ笑い出した。
「あ~、そっか、番になるって、そういうことだもんな」
「良かったですねハルオミ君、ついに! ですね」
「感慨深いよね、なんか、……あ、だめだ急に緊張してきた。今までフレイヤさんとそういうことするために頑張ってきたけど、いざそうなると……しかも側仕えとしてじゃなくて、あぁ、心臓が」
「大丈夫ですハルオミ君、深呼吸、深呼吸」
「そうだぞハルオミ、ハルオミはこれまで数々の死戦を潜り抜けてきた!自身持て!」
「フレイヤ様もハルオミ君にかかればもうイチコロですから!」
「うん、頑張る!」
二人は冗談を言って和ませてくれる。
兎にも角にも夜まで体調を崩さないようにしなきゃ。心も体も、準備は万全に。
僕も覚悟を決めた。
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