24 / 147
東の祓魔師と側仕えの少年
23.ステージについて
しおりを挟む数分の間伴侶問題が頭から離れなかった。側仕えの役割も詳しいことはウラーさんから聞いたし、こんな大事なことフレイヤさんは言ってなかった。報連相がなってない。
しかし考えてもみれば、この世界に来た時点でなるようにしかならないんだし、いちいち説明されたところで僕は流れに身を任せて生きて行くしかないのだ。
というか知らない世界に放り出されて1から生きるすべを身につけるよりも僕の今の環境は数百倍恵まれている。もしこの屋敷ではなく、例えば広大な草原の上に転送されていたとしたら。住む場所も食べるものも身寄りも無く、一秒を生きるだけで相当苦労したかもしれない。
なんだ。それに比べりゃ伴侶なんて大した問題じゃないや。
そう言うと、「魔祓い師が魔祓い師なら、側仕えも側仕えだな」とイザベラに若干引かれた。
フレイヤさんは気になることは聞けば教えてくれる。だから戸惑うのは彼からの説明を受けてからでも遅くないだろう。
自分の適応力に驚く。フレイヤさんの伴侶になると聞いて嫌だと思っていない自分にも驚く。むしろ少しだけ嬉しいと思っている自分がいる。
仕事を終えて帰ってきたら、根掘り葉掘り問い詰めてやろう。と思っていたのに……
——コンコンコンッ
「パネース殿、イザベラ殿、ハルオミ殿、こちらにいらっしゃると伺いましたが」
「おう、入って良いぞ」
扉の外からウラーさんの声が聞こえてきて、イザベラが入室を許可する。
「失礼いたします」
「どうしたウラー。良い匂いにつられたか? 悪いな、ハルオミのあぷるぱいなら俺たちが全部食っちまった」
アップルパイのところだけカタコトになるイザベラ可愛い。
「いいえ、そうでは無く。まぁあっぷるぱいは食したかったですが……別件です。北の地セヴェラーの伏魔域にステージ4のバカ強い魔物が出現したということで、当家よりニエルド様、フレイヤ様、ビェラ様が応援にまわったとのことです。おそらく本日はお戻りになりません。ご報告まで」
「そうでしたか。わざわざありがとうございます。皆様ほどの魔祓い師なら問題無いと思いますが…ステージ4とは心配ですね」
「ステージ4なんて滅多に出ないのに。ま、大丈夫だろ。心配するだけムダムダ」
ぶっきらぼうな言葉を放つイザベラだが、その裏には信頼が見える。きっとそれだけ皆さんが強いということだろう。でも、心配だ。
「魔物にはステージがあるの?」
会話についていくために質問すると、3人は快く教えてくれた。
「ああ。一応0~5まであるにはあるんだけど、5なんて見たこともねえしほとんど幻だぜ」
「ハルオミ君は、屋敷内で黒い小動物を見かけたことはありませんか?」
「あ、ある!」
僕は昨日庭で見たねこに思いを馳せた。
触りたかったな。この世界のねこってどんなだろう。姿形は似てるように見えたけど。
「あれも魔物です」
………え、屋敷に魔物おるんかい。ていうか僕触ろうとしてたんだけど。
「割と可愛げがあったように思うのですが……」
あんな可愛いのも討伐対象なんて、フレイヤさんの仕事もなかなか酷だな。僕なら情けが生じてできないかもしれない。
小動物が狩られている場面を想像して思い切り眉を顰めてしまった。そんな僕の訴えに答えるようにウラーさんが言う。
「ああいう魔物がステージ0です。魔力はあれど、ほとんど害はありませんから討伐の必要はありません」
なるほど、恐ろしい魔物がライオンのような猛獣だとすると、あの小動物の魔力は虫刺されみたいなものかな。討伐対象じゃないなら触っても大丈夫かもしれない。
「ステージっていうのは、魔物の強さと、襲われた場合の被害からランク付けされてる。ステージ1は自己治癒が可能な程度で、2は専門医の治療が必要、3は生死に関わるレベルだ」
「そして、ニエルドさんたちが討伐に向かったステージ4の魔物は、攻撃を受ければほぼ間違いなく死に至ります」
「………え、それって、大丈夫なの?」
3でも結構ハードそうだったけど、4の討伐ってかなり危ないのでは…っていうか、討伐するには一旦体に取り込んで消化するんだよね。そんな強い魔物を体に取り込んで平気でいられるのだろうか。
「大丈夫ですよハルオミ君。北の地の魔祓い師さんたちも一緒ですし、そういう強い魔物を討伐する時は、一人ではなく複数人で分けて体に取り込むんです。一人一人の負担を減らすことで、魔祓い師が受ける影響も分散されるのです」
パネースさんは僕の背中をさすりながら説明する。よほど不安が顔に出ていたのかもしれない。
「でも確実に死に至るのがステージ4なら、5っていうのはどれだけの影響を受けるんだろう……」
聞きたくない気もするけれど、これから魔祓い師の側仕えを務めるにあたって知っておかなければならない。恐る恐る聞くと、ウラーさんが表情を歪めながら顔で教えてくれた。
「ステージ5の攻撃を受けてももすぐに死ぬことはありません。その代わり死ぬよりも辛いと聞いています。生きている間は悪夢や幻覚、疼痛などに常に苦しめられ、精神をすり減らされ、肉体は弱り、そうやって少しずつ命を奪っていく。そして死んだだけでは終わらない。その影響は死後も続き、魂が尽きるまで恐怖や痛みや苦痛に晒され続ける。そう聞いています」
3人とも痛々しい顔をして俯いた。
そんなものが存在するなんて、毎日伏魔域に出るフレイヤさんたちは恐ろしくないのだろうか。恐ろしいなんて言っていられないのかもしれないが、きっとそういう気持ちになったことはあるはずだ。
「それって、魔物を取り込む魔祓い師にも影響が出るの? もしそのステージ5の魔物を討伐したら魔祓い師はどうなってしまうの?」
「んー、まず出ない魔物だからなあ、言い伝えでしか無いけどステージ5の魔物を一人で討伐した魔祓い師が、魔物になっちまったっていう話なら聞いたことあるぜ」
「魔祓い師が、魔物に?」
「随分遠い昔の話ですので、本当かどうかは明らかではありませんが」
ウラーさんが補足した。
少しだけ魔物のことが知れた。
でも本当に心配だ。イザベラは心配ないと言っていた。その言葉を信じたいけど、僕の心が勝手にフレイヤさんを心配する。
どうか無事に帰ってきますように。
12
お気に入りに追加
1,376
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる