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東の祓魔師と側仕えの少年

23.ステージについて

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数分の間伴侶問題が頭から離れなかった。側仕えの役割も詳しいことはウラーさんから聞いたし、こんな大事なことフレイヤさんは言ってなかった。報連相がなってない。

しかし考えてもみれば、この世界に来た時点でなるようにしかならないんだし、いちいち説明されたところで僕は流れに身を任せて生きて行くしかないのだ。

というか知らない世界に放り出されて1から生きるすべを身につけるよりも僕の今の環境は数百倍恵まれている。もしこの屋敷ではなく、例えば広大な草原の上に転送されていたとしたら。住む場所も食べるものも身寄りも無く、一秒を生きるだけで相当苦労したかもしれない。

なんだ。それに比べりゃ伴侶なんて大した問題じゃないや。

そう言うと、「魔祓い師が魔祓い師なら、側仕えも側仕えだな」とイザベラに若干引かれた。

フレイヤさんは気になることは聞けば教えてくれる。だから戸惑うのは彼からの説明を受けてからでも遅くないだろう。

自分の適応力に驚く。フレイヤさんの伴侶になると聞いて嫌だと思っていない自分にも驚く。むしろ少しだけ嬉しいと思っている自分がいる。

仕事を終えて帰ってきたら、根掘り葉掘り問い詰めてやろう。と思っていたのに……


——コンコンコンッ

「パネース殿、イザベラ殿、ハルオミ殿、こちらにいらっしゃると伺いましたが」

「おう、入って良いぞ」

扉の外からウラーさんの声が聞こえてきて、イザベラが入室を許可する。

「失礼いたします」

「どうしたウラー。良い匂いにつられたか? 悪いな、ハルオミのあぷるぱいなら俺たちが全部食っちまった」

アップルパイのところだけカタコトになるイザベラ可愛い。

「いいえ、そうでは無く。まぁあっぷるぱいは食したかったですが……別件です。北の地セヴェラーの伏魔域にステージ4のバカ強い魔物が出現したということで、当家よりニエルド様、フレイヤ様、ビェラ様が応援にまわったとのことです。おそらく本日はお戻りになりません。ご報告まで」

「そうでしたか。わざわざありがとうございます。皆様ほどの魔祓い師なら問題無いと思いますが…ステージ4とは心配ですね」

「ステージ4なんて滅多に出ないのに。ま、大丈夫だろ。心配するだけムダムダ」

ぶっきらぼうな言葉を放つイザベラだが、その裏には信頼が見える。きっとそれだけ皆さんが強いということだろう。でも、心配だ。

「魔物にはステージがあるの?」

会話についていくために質問すると、3人は快く教えてくれた。

「ああ。一応0~5まであるにはあるんだけど、5なんて見たこともねえしほとんど幻だぜ」

「ハルオミ君は、屋敷内で黒い小動物を見かけたことはありませんか?」

「あ、ある!」

僕は昨日庭で見たねこに思いを馳せた。
触りたかったな。この世界のねこってどんなだろう。姿形は似てるように見えたけど。

「あれも魔物です」

………え、屋敷に魔物おるんかい。ていうか僕触ろうとしてたんだけど。

「割と可愛げがあったように思うのですが……」

あんな可愛いのも討伐対象なんて、フレイヤさんの仕事もなかなか酷だな。僕なら情けが生じてできないかもしれない。

小動物が狩られている場面を想像して思い切り眉を顰めてしまった。そんな僕の訴えに答えるようにウラーさんが言う。

「ああいう魔物がステージ0です。魔力はあれど、ほとんど害はありませんから討伐の必要はありません」

なるほど、恐ろしい魔物がライオンのような猛獣だとすると、あの小動物の魔力は虫刺されみたいなものかな。討伐対象じゃないなら触っても大丈夫かもしれない。

「ステージっていうのは、魔物の強さと、襲われた場合の被害からランク付けされてる。ステージ1は自己治癒が可能な程度で、2は専門医の治療が必要、3は生死に関わるレベルだ」

「そして、ニエルドさんたちが討伐に向かったステージ4の魔物は、攻撃を受ければほぼ間違いなく死に至ります」

「………え、それって、大丈夫なの?」

3でも結構ハードそうだったけど、4の討伐ってかなり危ないのでは…っていうか、討伐するには一旦体に取り込んで消化するんだよね。そんな強い魔物を体に取り込んで平気でいられるのだろうか。

「大丈夫ですよハルオミ君。北の地セヴェラーの魔祓い師さんたちも一緒ですし、そういう強い魔物を討伐する時は、一人ではなく複数人で分けて体に取り込むんです。一人一人の負担を減らすことで、魔祓い師が受ける影響も分散されるのです」

パネースさんは僕の背中をさすりながら説明する。よほど不安が顔に出ていたのかもしれない。

「でも確実に死に至るのがステージ4なら、5っていうのはどれだけの影響を受けるんだろう……」

聞きたくない気もするけれど、これから魔祓い師の側仕えを務めるにあたって知っておかなければならない。恐る恐る聞くと、ウラーさんが表情を歪めながら顔で教えてくれた。

「ステージ5の攻撃を受けてももすぐに死ぬことはありません。その代わり死ぬよりも辛いと聞いています。生きている間は悪夢や幻覚、疼痛などに常に苦しめられ、精神をすり減らされ、肉体は弱り、そうやって少しずつ命を奪っていく。そして死んだだけでは終わらない。その影響は死後も続き、魂が尽きるまで恐怖や痛みや苦痛に晒され続ける。そう聞いています」

3人とも痛々しい顔をして俯いた。
そんなものが存在するなんて、毎日伏魔域に出るフレイヤさんたちは恐ろしくないのだろうか。恐ろしいなんて言っていられないのかもしれないが、きっとそういう気持ちになったことはあるはずだ。

「それって、魔物を取り込む魔祓い師にも影響が出るの? もしそのステージ5の魔物を討伐したら魔祓い師はどうなってしまうの?」

「んー、まず出ない魔物だからなあ、言い伝えでしか無いけどステージ5の魔物を一人で討伐した魔祓い師が、魔物になっちまったっていう話なら聞いたことあるぜ」

「魔祓い師が、魔物に?」

「随分遠い昔の話ですので、本当かどうかは明らかではありませんが」

ウラーさんが補足した。


少しだけ魔物のことが知れた。
でも本当に心配だ。イザベラは心配ないと言っていた。その言葉を信じたいけど、僕の心が勝手にフレイヤさんを心配する。

どうか無事に帰ってきますように。


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