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東の祓魔師と側仕えの少年
15.印章と加護①
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「やっぱり、まだお部屋にいたんですねイザベラ」
「チッ」
入ってきたのは、これまた日本人離れした顔の青年。ポニーテールにした長い水色の髪の毛をなびかせながら部屋に入ってきた。イザベラさんはばつが悪そうに舌打ちした。
「側仕えさんが新しくいらっしゃったから、今日は広間をお掃除しようと約束したじゃないですか、時間になっても来ないから迎えに……あら? あなたはもしかして」
「お前はいっつもタイミングが悪いんだよパネース!」
「仕方ないじゃないですか、あなたが時間を破ったのが悪いんです」
喧嘩が始まっちゃった。
言い合いながらも、パネースと呼ばれた人は眉を下げて申し訳なさそうに謝ってきた。
「すみません、お見苦しい場面をお見せして」
「いえいえ」
パネースさんって、ここの長男とかいうニエルドさんの側仕えじゃないか。なぜ側仕え同士で喧嘩なんて。やっぱり当主争いバチバチなんだ……。次期当主たちの仲も悪けりゃ側仕えも仲悪いんだ。
「おいお前。お前が選ばなければ俺が勝手に選ぶぞ」
パネースさんに突っかかっていたイザベラさんが標的を変え、再び僕に選択を迫ってきた。
「あ、はい……でも、これ、何でしょう……?」
「そんなことも知らないのか。これは側仕えの証である "印章" だ。ほら」
イザベラさんは、自身が穿いていたゆったりめのズボンの裾を太腿のところまで捲り上げ、"印章" とやらを見せてくれた。彼の白く細い太腿には、シンプルな黒いベルトが巻きついていた。ちょうどそのトランクに入っているのと同じくらいの大きさだ。
どうやらイザベラさんはこの印章を僕に選ばせようとしていたらしい。
「ハルオミ君、でしたっけ? イザベラが無礼な物言いをごめんなさい。でもできれば許してあげて欲しいんです。彼、新しい側仕えが入ったと聞いて昨日は一日中ワクワクしてたんですよ」
「っ! おい、パネース! 余計なことを」
「国内の他の地に比べてここ東の地ヴィーホットには側仕えが少ないんです。現当主がこの場所をニエルド次期当主たちにお譲りしてからというもの、屋敷の側仕えは私とイザベラだけでしたから。弟ができたみたいで嬉しかったんでしょう。こんなにたくさん印章を用意して……あれが似合うかこれが似合うかとずーっと悩んでいたのですよ」
「おい、いい加減に…」
「午前中にあなたを見かけた時、私に嬉しそうに報告して来ました。でもすぐに逃げられたと肩を落としていたんです」
「すみませんつい」
防衛本能が働いて。
「いえいえ謝る必要なんて全くありません。どうせこの子が無愛想にあなたに突っかかったんでしょう」
その通りです。
「とても可愛らしい子だからこれなんか似合うんじゃないかって、ほら、今もこんなに手前に置いて」
トランクの中を再び見れば、確かにたくさんある印章の中でもペロンとこちらに主張強く置かれている逸品がある。銀色で、幅広目の細かい模様が施されたレース。ひらひらしてないシンプルな作りだ。
僕はタートルネックとか品質表示タグが煩わしくて嫌いなので、どうしても着けなきゃいけないのならこういう、あまりでこぼこしなさそうなのがいい。
イザベラさんはセンスがいいらしい。
「じゃあ、これにします」
「ほ……ほんとか!? いいのか!?」
「はい。シンプルなのがいいので、それがぴったりかなって」
「そ、そうか。じゃあこれにしろ」
ほら、と頬を赤らめてその印章をよこすイザベラさん。あら。なんだか可愛く見えて来た。このつっけんどんな態度も見ようによっちゃアレみたいで愛らしい。なんだっけ、アレ、クラスの子が言ってた………そう、ツンデレだ。
でも何でこれを付けなければいけないのだろうか。誰が側仕えなのか見分けるためのもの? でもズボンで隠れちゃうから意味ないんじゃ……
「この印章って、どうしても付けなきゃいけないんですか?」
「当たり前だろ! 殺されても知らねーぞ」
「チッ」
入ってきたのは、これまた日本人離れした顔の青年。ポニーテールにした長い水色の髪の毛をなびかせながら部屋に入ってきた。イザベラさんはばつが悪そうに舌打ちした。
「側仕えさんが新しくいらっしゃったから、今日は広間をお掃除しようと約束したじゃないですか、時間になっても来ないから迎えに……あら? あなたはもしかして」
「お前はいっつもタイミングが悪いんだよパネース!」
「仕方ないじゃないですか、あなたが時間を破ったのが悪いんです」
喧嘩が始まっちゃった。
言い合いながらも、パネースと呼ばれた人は眉を下げて申し訳なさそうに謝ってきた。
「すみません、お見苦しい場面をお見せして」
「いえいえ」
パネースさんって、ここの長男とかいうニエルドさんの側仕えじゃないか。なぜ側仕え同士で喧嘩なんて。やっぱり当主争いバチバチなんだ……。次期当主たちの仲も悪けりゃ側仕えも仲悪いんだ。
「おいお前。お前が選ばなければ俺が勝手に選ぶぞ」
パネースさんに突っかかっていたイザベラさんが標的を変え、再び僕に選択を迫ってきた。
「あ、はい……でも、これ、何でしょう……?」
「そんなことも知らないのか。これは側仕えの証である "印章" だ。ほら」
イザベラさんは、自身が穿いていたゆったりめのズボンの裾を太腿のところまで捲り上げ、"印章" とやらを見せてくれた。彼の白く細い太腿には、シンプルな黒いベルトが巻きついていた。ちょうどそのトランクに入っているのと同じくらいの大きさだ。
どうやらイザベラさんはこの印章を僕に選ばせようとしていたらしい。
「ハルオミ君、でしたっけ? イザベラが無礼な物言いをごめんなさい。でもできれば許してあげて欲しいんです。彼、新しい側仕えが入ったと聞いて昨日は一日中ワクワクしてたんですよ」
「っ! おい、パネース! 余計なことを」
「国内の他の地に比べてここ東の地ヴィーホットには側仕えが少ないんです。現当主がこの場所をニエルド次期当主たちにお譲りしてからというもの、屋敷の側仕えは私とイザベラだけでしたから。弟ができたみたいで嬉しかったんでしょう。こんなにたくさん印章を用意して……あれが似合うかこれが似合うかとずーっと悩んでいたのですよ」
「おい、いい加減に…」
「午前中にあなたを見かけた時、私に嬉しそうに報告して来ました。でもすぐに逃げられたと肩を落としていたんです」
「すみませんつい」
防衛本能が働いて。
「いえいえ謝る必要なんて全くありません。どうせこの子が無愛想にあなたに突っかかったんでしょう」
その通りです。
「とても可愛らしい子だからこれなんか似合うんじゃないかって、ほら、今もこんなに手前に置いて」
トランクの中を再び見れば、確かにたくさんある印章の中でもペロンとこちらに主張強く置かれている逸品がある。銀色で、幅広目の細かい模様が施されたレース。ひらひらしてないシンプルな作りだ。
僕はタートルネックとか品質表示タグが煩わしくて嫌いなので、どうしても着けなきゃいけないのならこういう、あまりでこぼこしなさそうなのがいい。
イザベラさんはセンスがいいらしい。
「じゃあ、これにします」
「ほ……ほんとか!? いいのか!?」
「はい。シンプルなのがいいので、それがぴったりかなって」
「そ、そうか。じゃあこれにしろ」
ほら、と頬を赤らめてその印章をよこすイザベラさん。あら。なんだか可愛く見えて来た。このつっけんどんな態度も見ようによっちゃアレみたいで愛らしい。なんだっけ、アレ、クラスの子が言ってた………そう、ツンデレだ。
でも何でこれを付けなければいけないのだろうか。誰が側仕えなのか見分けるためのもの? でもズボンで隠れちゃうから意味ないんじゃ……
「この印章って、どうしても付けなきゃいけないんですか?」
「当たり前だろ! 殺されても知らねーぞ」
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