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東の祓魔師と側仕えの少年
5.残り香
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目が覚めたら隣にフレイヤさんはいなかった。
隣にじんわり残る温もりが、彼が確かにここにいたことを教えてくれる。色々と夢じゃないらしい。
———コンコンッ
「はい……」
「失礼いたします」
寝ぼけまなこを擦っていると、昨日と同じく身なりをぴしっと整えたウラーさんがやってきた。着替えや食事を用意してくれたらしい。
そういえば、昨日夕飯食べてないや。いろいろびっくりしちゃってお腹あんまり空いてなかったしな。
部屋の中央にあるテーブルでテキパキと食事の準備をするウラーさんは、「で、ハルオミ殿、昨夜はいかがでしたか?」と聞いた。
「昨夜………」
そうだ。あんなに寝たのはいつぶりだろう。
気がついたら眠りについていた。幸せだった。
「とっても、気持ち良かったです」
僕がそう言うと、ウラーさんの顔がパッと明るくなった。僕の両手を握り、なんだか嬉しそうにしている。
「そうですかそうですか! それは良かった! フレイヤ様の技術でハルオミ殿が満たされたのならば、お二人のご関係はまず及第点といったところでしょうか。しかしこれからですよ! 本来の目的は、あなたがフレイヤ様を満たしてさしあげることなのですから。まぁ、急がず、焦らず。こういうのは互いの "相性" もありますからね」
「技術……? 相性……?」
昨日のフレイヤさん、何かテクニカルだっただろうか。そして相性とは。
あ、もしかして。
「はい。撫でてくれる手つきはなかなかのものでした。それにフレイヤさんもお布団入ってすぐ眠たそうにしてたし。相性、いいと思います。おかげで僕もよく眠ることができました」
……………
沈黙が流れた。
気のせいかな。どことなく空気が凍ってる気がするのだけど。ウラーさん、表情が無くなった気がするのだけど。
「ねむっ…た……?」
ウラーさんは眉の辺りをピクピクさせてそう言った。
「はい。たぶん、体感では8時間くらい眠れました。それも一度も目覚める事なく。最高記録かもしれません。あ、もちろん赤ん坊の頃の睡眠はカウントしていません、覚えていませんから」
良かった良かった。
これでしばらく眠れなくても体は大丈夫だろう。いい寝溜めができた。満足だ。
「な、な、なんと……!! あなたはこの東の地、ヴィーホットの祓魔家次期当主候補の側仕えでありながら、夜伽に眠ったというのですか!?」
「はい。ん………? よと…?」
「………あ、あ…」
「ウラーさん?」
どうしよう。ウラーさんが壊れたみたいに目をうつろにして下を向いてる。大丈夫かと顔を覗き込もうとした瞬間、ガバッと頭を上げ叫んだ。
「あり得ません!!! ハルオミ殿、あなたはフレイヤ様の側仕えなのですよ!? 寝台を共にしながら何もせず眠りこけるなんて決してあってはなりません! これからはご自身の立場をしっかり肝に銘じ、行動を弁えてください!」
わ。
怒られちゃった。
顔を赤くして目を吊り上げて、後ろに般若でも見えそうな形相で僕を叱るウラーさん。確かに、世話になる以上言うことはちゃんと聞かなきゃ。
「分かりました。でも、側仕えって具体的になにをすればいいのでしょうか」
僕の言葉に、今の今まで鬼みたいな顔をしてたウラーさんがサーっと一気に青ざめた。
「……………は?」
「……へ?」
ウラーさんは少しの間顎に手を当てて何かを考え込み、こう続けた。
「ハルオミ殿……ひとつ聞いても?」
「はい」
「昨日、フレイヤ様はあなたに何とお伝えしたのですか?」
「んー……様付けや敬語をやめろとかなんとか。それ以外は特に何も」
「なっ…何も!?!?」
「はい」
何か言ってた気はするが忘れた。
「魔祓い師の事や側仕えの役割などは……?」
「マバライシ……? 聞いてないです。なんか、執事と側仕えの違いを聞こうと思ったらお布団に突っ込まれて、よしよしされて、そしたら眠たくなってきちゃって……」
「……あんのお方はっ……はぁ、まったく何を考えておられるのでしょう。いや、きっと何も考えておられないに違いない」
「ウラーさん?」
「分かりました。貴方の昨夜の行動は、貴方のせいでは無かったようです。早まって叱ってしまい申し訳ありません」
「いえ。とんでもないです」
「フレイヤ様がそんな調子となると、ここはわたくしがきちんと教育をするしか無いようですね。何はともあれまずはお着替えを。そして朝食にしましょう。昨日は急でしたから、お腹が減っているでしょう」
「はい」
ウラーさん優しい。
襦袢を脱ぎ、彼が用意してくれた服に着替えて豪華な料理が並ぶテーブルについた。
見たことない数種類の果物はどれも食べやすく切ってくれている。とにかく甘くて全部美味しい。あ、これはりんごに似てる。りんごよりだいぶ大きいけど。庭に実ってたのもこれかな?
小さなパンは、パンというには水気が多い。焼かずに茹でているのかな。日本にはあんまり無い食感でこれはこれで美味しい。
ヨーグルトみたな乳製品もあって、こんなに至れり尽くせりな朝ご飯は初めてだ。しあわせ。
隣にじんわり残る温もりが、彼が確かにここにいたことを教えてくれる。色々と夢じゃないらしい。
———コンコンッ
「はい……」
「失礼いたします」
寝ぼけまなこを擦っていると、昨日と同じく身なりをぴしっと整えたウラーさんがやってきた。着替えや食事を用意してくれたらしい。
そういえば、昨日夕飯食べてないや。いろいろびっくりしちゃってお腹あんまり空いてなかったしな。
部屋の中央にあるテーブルでテキパキと食事の準備をするウラーさんは、「で、ハルオミ殿、昨夜はいかがでしたか?」と聞いた。
「昨夜………」
そうだ。あんなに寝たのはいつぶりだろう。
気がついたら眠りについていた。幸せだった。
「とっても、気持ち良かったです」
僕がそう言うと、ウラーさんの顔がパッと明るくなった。僕の両手を握り、なんだか嬉しそうにしている。
「そうですかそうですか! それは良かった! フレイヤ様の技術でハルオミ殿が満たされたのならば、お二人のご関係はまず及第点といったところでしょうか。しかしこれからですよ! 本来の目的は、あなたがフレイヤ様を満たしてさしあげることなのですから。まぁ、急がず、焦らず。こういうのは互いの "相性" もありますからね」
「技術……? 相性……?」
昨日のフレイヤさん、何かテクニカルだっただろうか。そして相性とは。
あ、もしかして。
「はい。撫でてくれる手つきはなかなかのものでした。それにフレイヤさんもお布団入ってすぐ眠たそうにしてたし。相性、いいと思います。おかげで僕もよく眠ることができました」
……………
沈黙が流れた。
気のせいかな。どことなく空気が凍ってる気がするのだけど。ウラーさん、表情が無くなった気がするのだけど。
「ねむっ…た……?」
ウラーさんは眉の辺りをピクピクさせてそう言った。
「はい。たぶん、体感では8時間くらい眠れました。それも一度も目覚める事なく。最高記録かもしれません。あ、もちろん赤ん坊の頃の睡眠はカウントしていません、覚えていませんから」
良かった良かった。
これでしばらく眠れなくても体は大丈夫だろう。いい寝溜めができた。満足だ。
「な、な、なんと……!! あなたはこの東の地、ヴィーホットの祓魔家次期当主候補の側仕えでありながら、夜伽に眠ったというのですか!?」
「はい。ん………? よと…?」
「………あ、あ…」
「ウラーさん?」
どうしよう。ウラーさんが壊れたみたいに目をうつろにして下を向いてる。大丈夫かと顔を覗き込もうとした瞬間、ガバッと頭を上げ叫んだ。
「あり得ません!!! ハルオミ殿、あなたはフレイヤ様の側仕えなのですよ!? 寝台を共にしながら何もせず眠りこけるなんて決してあってはなりません! これからはご自身の立場をしっかり肝に銘じ、行動を弁えてください!」
わ。
怒られちゃった。
顔を赤くして目を吊り上げて、後ろに般若でも見えそうな形相で僕を叱るウラーさん。確かに、世話になる以上言うことはちゃんと聞かなきゃ。
「分かりました。でも、側仕えって具体的になにをすればいいのでしょうか」
僕の言葉に、今の今まで鬼みたいな顔をしてたウラーさんがサーっと一気に青ざめた。
「……………は?」
「……へ?」
ウラーさんは少しの間顎に手を当てて何かを考え込み、こう続けた。
「ハルオミ殿……ひとつ聞いても?」
「はい」
「昨日、フレイヤ様はあなたに何とお伝えしたのですか?」
「んー……様付けや敬語をやめろとかなんとか。それ以外は特に何も」
「なっ…何も!?!?」
「はい」
何か言ってた気はするが忘れた。
「魔祓い師の事や側仕えの役割などは……?」
「マバライシ……? 聞いてないです。なんか、執事と側仕えの違いを聞こうと思ったらお布団に突っ込まれて、よしよしされて、そしたら眠たくなってきちゃって……」
「……あんのお方はっ……はぁ、まったく何を考えておられるのでしょう。いや、きっと何も考えておられないに違いない」
「ウラーさん?」
「分かりました。貴方の昨夜の行動は、貴方のせいでは無かったようです。早まって叱ってしまい申し訳ありません」
「いえ。とんでもないです」
「フレイヤ様がそんな調子となると、ここはわたくしがきちんと教育をするしか無いようですね。何はともあれまずはお着替えを。そして朝食にしましょう。昨日は急でしたから、お腹が減っているでしょう」
「はい」
ウラーさん優しい。
襦袢を脱ぎ、彼が用意してくれた服に着替えて豪華な料理が並ぶテーブルについた。
見たことない数種類の果物はどれも食べやすく切ってくれている。とにかく甘くて全部美味しい。あ、これはりんごに似てる。りんごよりだいぶ大きいけど。庭に実ってたのもこれかな?
小さなパンは、パンというには水気が多い。焼かずに茹でているのかな。日本にはあんまり無い食感でこれはこれで美味しい。
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