上 下
3 / 147
東の祓魔師と側仕えの少年

2.目覚めは銀色の膝枕

しおりを挟む




非常に気分が良い。
後頭部から首にかけて当たる枕がちょっと硬いけど、とってもいい匂いがして、ぽかぽかする。こんなに気持ちよく眠れるなんて今日はツイてる。


でも、なんで眠れたんだっけ?


…………あれ。

さっきまで僕は学校に居たはずだ。帰ろうとして外を歩いていて、そうだ、頭に何か落ちてきて……もしかして学校で寝てしまったのだろうか。

これはまた変なあだ名付けられてしまうかもしれない。半目どころか、がっつりと気持ちの良い睡眠を楽しんでしまった。まああいや。眠れたのだから何でもいい。

でもいつまでも寝ていたら帰るのが遅くなってしまうから、とりあえず起きなきゃ。今日はお花を買ってお墓参りに行くんだ。


「ふぁ~ぁ、よく寝た……」


「あぁ、本当によく眠っていたね」






え…………





「誰?」

目の前には見知らぬ人がいた。目の前というか、真上?

くっきりとした切れ長の目で、彫りが深くて、風になびく長い銀髪は繊細で、鼻はすっと高くて、肌もすべすべしてそう。モデルさん?

でもその綺麗な目の下には、肌の美しさに似合わないクマが乗っかっている。彼も僕と同じで眠れないのかな?

「それはこちらの台詞だ。君は一体何なんだい?」

少し驚いた顔をしてる。
驚いているのはこっちの方だ。

「半間晴臣です。高校3年生です」

ひとまず自己紹介をして、怪しい者ではありせんと主張してみる。が、

「ハンマハルオミ? コーコーサンネンセー? どちらが名前だい?」

不思議そうな目で見られてしまった。

……高校3年生が通じない。この人高校3年生だったこと無いのかな。綺麗な銀髪だし、留学生かもしれない。いや、もしかして新しく来た英語の先生とかかな。どちらにしても言葉が流暢だ。すごいなあ。僕なんて中学生から英語の授業の受けてるけど全く話せないもの。

彫刻のような、彫りの深く美しい顔をずっと見つめていると、彼の耳にかかっていた細く柔らかい髪が一房するりと落ちて僕の頬を掠めた。

その不自然な重力に、初めて膝枕をされていることに気がつく。硬いと思っていた枕はこの人の鍛え上げられた筋肉だったらしい。

いい加減起きないと怒られてしまうだろう。よっこいしょと手をついて、なけなしの腹筋を使って起きあがろうと試みる。

「そのままでいい」

「わあ」

肩を押さえられて膝に逆戻り。
まあいいか、心地いいし。

周りを見渡すと、四方を建物に囲まれただだっ広い中庭みたいなところにいる。あたりには、気を失う前に頭にぶつかったやわらかい梅のような花の香りが漂っている。しかし周りにある花や木はどれも梅とは違うようだ。なんかりんごみたいなのが実った木がたくさんあるけど、この木の匂いじゃなさそう。

一体何の匂いだろう。

いい香りというのは一様に懐かしさを秘めていると僕は思う。鼻腔いっぱいに吸い込んで、ありもしない思い出に浸る。


「で?」



………"で?" ?
なんの話してたんだっけ。

「名前を聞いている」

「……あ、半間が苗字で晴臣が名前です。晴臣と呼んでください」

「ハルオミか。君はこの世界の子では無いね」

「………この世界の子です」

当然のような質問に当然のように返す。するとまた質問が返ってきた。

「君の世界には、この場所があるのかい? ブロムスト国の東の地、ヴィーホットという場所が」

「ぶろ?  びーほ、?……多分ないと思います」

「……なるほど。やはり状況が分かっていないようだね」

「状況……」

いやいや、それくらいわかってますよ。頭の上に校長先生の鉢植えが落ちてきて眠ってしまって、どこかの中庭であなたに膝枕されてるんだ。


「説明してあげよう。君はここではない別の世界から、今しがたこちらに転送されてきたようだ。以上」
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

処理中です...