ある時計台の運命

丑三とき

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王都〜第二章〜

※甘美な夜①

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ジルさんはこう続ける。

「我慢強い方だと自負していたが、君の前ではそれもあっけなく崩れ去ってしまった」

「我慢……。ジルさん、我慢してたんですか?」

「ああ、ずっと」

「ずっと……どうして」

「君を傷つけてしまってから後悔するのではあまりにも遅すぎる。もっとゆっくりと話し合ってから進むつもりだった……」

その言葉で彼の考えていたことが全てわかった。僕は奴隷商に閉じ込められている時、性的な嫌がらせを受けていた。二度ほどジルさんに燻った情欲を解放してもらったことはあったが、それもいわばトラブルで、あの時は正気ではなかった。媚薬も摂取していない今、触れば僕が嫌なことを思い出してしまう可能性を考えていたのだろう。だから、ずっと我慢をしていたのだ。

「傷つくわけないです。嫌な気持ちなんてちっともないです。だから……」

勇気を振り絞って言うと、彼はこう応えてくれた。

「そうか。では……いいんだな?」


なんだ。
そっか。
ジルさんも同じ気持ちだったのか。良かった。僕だけひとり焦ったみたいになっているのが実は少し恥ずかしかった。彼も同じ気持ちなら、あとはユリが言ったみたいにたくさん甘えたらいいんだな。

「はやく、ジルさんが欲しい、です」

彼に手を伸ばすと、整った顔が近づいて来た。柔らかい唇が僕の唇を包み込んで離さない。僕もジルさんのことを離したくない。そう思って一生懸命ジルさんの頭を抱きしめる。とっても恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
彼の熱い舌が僕の口の中を蹂躙した。
歯列をねっとりとなぞり、上顎を丁寧に愛撫されると、腰の奥がゾワゾワと疼く。

口の端からこぼれた唾液をジルさんが親指で拭った。

「はぁ……はぁ…」

大丈夫か? と労らんばかりに優しく優しく頭を撫でてくれる。いつのまにか部屋は明かりが落とされ、薄暗くなっていた。
僕はもうひとつ、どうしても聞きたかったことを思い出した。

「ジル、さん」

息も絶え絶えの声で呼びかけると、彼は僕の唇に耳を近付けた。

「キスしても、僕にはが付かないの?」

「跡?」

「イガさんには付いてたんです、首のあたりに。ユリが、"これは口付けの跡です " って言ってた。でも、僕には付いてなかった」

ジルさんは困った顔をした。
君にとってはただの好奇心でも、私には少し毒気が強い、と言いながら僕の寝巻きのボタンを外しだした。

「ジルさん?」

何事かと思えば、鎖骨の下、胸の上あたりのところにジルさんが口付けをした。彼のする行為は全てが愛おしくて、胸が締め付けられそうになる。すると、

「っ」

ちくっ、と痛みでもない痒みでもない、何ともわからない感覚が口付けた場所に降って来た。

「あ、……ついた」

暗がりの中、うっすらと自分の胸に赤いしるしが生まれていた。なんだろうこの気持ち。嬉しすぎて訳がわからなくなる。まるで僕がジルさんのものだという証のようだ。嬉しくなって指で撫でてみる。

「アキオ、喜ぶのもいいが、私にも集中してくれると助かる」

「え……え、んぅ、ぁぁ」

ジルさんは赤い印にもう一度口付けた後、僕の胸の突起を舌で転がし始めた。頭にぴりぴりと快感が鳴り渡る。

「ぁっ、ん……はぁ、はぁ」

反対の乳首は指でくにくにといじられ、倍に膨れ上がった快感はやがて僕の全身を支配した。ジルさんに触られた場所が全部敏感になっていく。

「んんっ、んぁっ、はっ、ジ、ルさん」

彼の髪の毛を手でとかすと、石鹸の匂いとジルさんの匂いが混じって鼻腔に充満し、ますます変な気分になった。

「アキオ、怖くないか」

彼の問いにしっかり大丈夫だと答えようにも、頭を縦に振るので精一杯だった。だから目で訴える。大好き、愛してる、と。

僕の意図を正確に読み取ってくれたのか、ジルさんはさらに僕の寝巻きをはだけさせた。胸の下、肋骨、おへそ、ジルさんが僕の全てに口付けを施している間に、いつのまにかシャツはすっぽり抜き取られ、ジルさんも自分のシャツを脱いでいた。
彫刻のような筋肉をした体に抱きしめられる。肌が直接触れ、お互いの熟れた心を包み合う。

ぴったりと、それはもうぴったりと体がくっつき、僕はあることに気づいてしまったのだ。


「ジルさん。あの、おっきく、なってる……」

そう言う僕もまた、反応しきったそれをジルさんに押し付けていた。

「アキオのこんな姿を見せられて、興奮せずにいられるか」

優しい中にも猛々しく熱い思いを灯らせた瞳は、僕をとらえて逃がさない。ジルさんが僕には興奮している。その事実に僕の血も高ぶった。再び口付けが降り注ぐ。その間、彼は僕の脇腹や胸を、まるで繊細なものに触れるみたいに撫でている。

「ふっ、んぅ……」

僕もジルさんの体に触れたいけど、与えられる快感で脳がぐずぐずに溶けたみたいになって、身じろぐので精一杯だ。だからジルさんの手が僕の下履きにかかっていたことにも気づかなかった。

僕の下半身はいつのまにか外気に晒されていた。ジルさんの早業に仰天したのも束の間、すぐに恥ずかしさが込み上げて来た。いつもお風呂では裸を見られているけど、それとこれとは違うと言うか、もう、こんなの初めてだからどうしたらいいかわからない。
ひとまず両手でジルさんの目を隠した。

「アキオ、見えない」

「だって、はずかしい」

大の大人が裸一つで情けないこと言ってるのは分かってるけど、相手がジルさんだから仕方がないのだ。

ジルさんは僕に目を隠されたままピンポイントに口付けをして来た。すごい。どんな技。もしかして見えてるのかな。彼のキスで再びぐずぐずになった僕は、いつのまにか両手を枕の横にぱたっと投げ出していた。

「これなら恥ずかしくないだろう」

低い囁きに促されてジルさんの方を見ると、彼も着ているものを全て脱いで生まれたままの姿になっていた。

もっと恥ずかしいのですが……
どこを見たらいいのかわからなくなって、ジルさんに手を伸ばす。望み通り彼はぎゅっと抱きしめてくれる。こうしていれば目のやり場に困らない。でも彼の熱がダイレクトに伝わって来るので結局心臓の高鳴りはおさまらなかった。

あたたかい人肌に酔いしれながら呼吸を整えていると、次の瞬間、甘い刺激が襲ってくる。

「ぁっ、ん……」

大きな手が僕の昂りを刺激する。ここを触られるのは3度目だけど、過去2回と今では色々と状況が違う。ジルさんは僕の瞼や頬、首筋、胸、おへそに口付けながら刺激を与え続ける。彼の唇が触れたところ全てが疼いて仕方がない。

「はぁ、っあぁあ、」

勝手に声が漏れて何もかもが止まらない。
そして、流れ出る先走りをジルさんが舐めた。

「ぁああっ、…え、っな、」

一瞬何が起きたのか理解できなかった。熱い舌が先端に触れて、眩暈がするほどの快感が訪れる。信じられないことにジルさんはそのまま僕のものを口に含んだ。

「なっ……んんっ、ぁ、はぁっ」

息を呑む光景に動揺して、愛おしい人の髪の毛をギュッと掴んでしまう。

「ぁ、っ、ご、めん、なさ……っんん、あぁあ」

「何も気にしなくていい。アキオ、痛くないか?」

「ん、は、ぁぁ……きも、ちいい、っです…ん、ぁあっ」

ジルさんは僕を逐一気にかけ、怖くないか、痛くないかと心配してくれる。そうやって丁寧に扱ったかと思えば、舌を裏筋や先端に這わせて容赦なく強い刺激を与えて来る。

「あぁあっ、んぅ……だめ、だめ、ぁぁあっ」

ついに限界を迎えそうになったその時、ジルさんの口が離れた。危なかった、もう出ちゃうところだった。

寸止めされたもどかしさはとてつもなく、今すぐにでも続きを求めて縋りつきたい。けれど、僕もジルさんを気持ちよくしたいという欲望が沸き起こり彼の体に手を伸ばそうとした。が、

動かない。

あまりにも強い快感に力が抜けてしまい、思うように体が動かせない。異変を感じ取ったジルさんは僕の乱れた髪を整えながら言った。

「すまない、あまりにもアキオが可愛いので、つい止められなくなってしまった」

「はぁっ、ハァ……んっ、だい、じょうぶ…」

「アキオ、どうした。やはり少し辛かったか」

「そう、じゃなくて……ぼくも、ジルさんきもちよくしたい、です。でもちから、抜けて……」

情けない告白を聞いた彼は、優しく抱きしめてくれた。

「ありがとう。しかし慣れないことで君もいっぱいいっぱいだろう。大丈夫。今日は気持ちよくなることだけを考えなさい」

「でも……」

「何も今日限りではない。時間はたくさんある。ゆっくり進んで行けばいい」

そっか。これからもジルさんと体を重ねるタイミングはあるんだよね。こんなドキドキして仕方ない行為いつまで経っても慣れる気がしないけど、いつか僕もジルさんを気持ちよくできるようになれたらいいな。なんて、この時は呑気にそんなことを考えていたのだ。


ゆっくり頷くと、彼はもう一度僕の頭をひと撫でしてから太腿の方に手を伸ばした。

包み込まれるような感覚にまどろんでいると、ジルさんの指がお尻の窄まりに触れた。なぜかぬるぬると滑りの良い感触を不思議に思い顔を上げると、ジルさんが潤滑油をベッド脇に置いていた。いつのまに……。
きたる刺激に身構えるも、彼の指はなかなか進入してこようとせず、入口の筋肉をほぐすように撫でるばかり。だんだんもどかしくなってきて、我慢できず腰を擦り付けた。

僕の要求を正しく汲み取ったジルさんは、ゆっくりと、とてもゆっくりと長い指を進めて来た。ぐじゅぐじゅに解された後孔はいとも簡単にひらいていく。

「はぁ…っ、」

正気だとやっぱり少しだけ怖い。普段ならありえない場所で異物を飲み込んでいるのだから当然だけど。でも、そんな恐怖も紫色の深い瞳に見つめられたら一気に消え去った。

「確か、このあたりだったな」

小さく呟いたジルさんの言葉の意味を理解しようと一生懸命頭を捻っていると、喉を劈くような激しい快感が全身を貫いた。

「あぁぁっ! っ、んぅ、あぁっ」

気持ちいいのが体を駆け巡るたびにお腹がきゅっとせつなくなって、丸太のような太い腕に何度も何度も爪を立ててしまった。愛しい人の温もりがもっと欲しくなる。
触れられたら訳がわからなくなるその場所を長い指で擦られて、押さえられて、ギリギリまで引き抜かれたと思ったらまた進入してきて。慣れない刺激の繰り返しに、はやくも限界を迎えそうだった。

「ジル、さんっ、もう……」

男同士でどうやって交わるかなんてはじめは想像もつかなかった。けど、初めてジルさんに後ろを触られた時確信した。きっとここで気持ちよくなるんだと。そして今、どうしようもなく彼の熱を受け入れたいと疼いている。

「はやく、ほしい……っ、です」

「っ!!」

ジルさんの眉が大きく歪み、指が抜かれた。直後激しい口付けが襲ってくる。

「んぅ、んっ、」

口の中が熱い。顔が熱い。胸が熱い。体全部が熱い。爪を立ててしまった場所を優しく撫でる。彼の皮膚も熱くなっていた。




「アキオ、少しでも嫌だと感じたら必ず言ってくれ。なるべく止められるよう善処する」

気遣うようなことを言いながらも余裕なんて全くなさそうな顔のジルさん。彼のこんな表情が見れるのはとても珍しい。ぜひ目に焼き付けておきたいと思うけれど、僕にもそんな余裕はなかった。

「だいじょうぶ、止めないで、ください……ジルさん、あいしてる」

「ああ。私もアキオを愛している。アキオの全てを私にくれ」

ぴたり。とあてがわれる大きくて熱い昂り。
怖くないと言えば嘘になる。でもこの小さな小さな恐怖もすぐに期待と化してしまう。

ゆっくり、ゆっくりとジルさんの熱が僕の体をひらいてゆく。

「んんっ……!」

少し苦しい。ジルさんの大きさはよく知ってる。お風呂の時にいつも立派なのが目に入るんだもの。でも今日のは比べものにならない。苦しくてたまらない。嬉しくてたまらない。
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