ある時計台の運命

丑三とき

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王都〜第二章〜

家族①

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なんとか顔の熱を冷まして身支度を整えた。
いつもと同じように顔を洗って、いつもと同じように服を着替えて。いつもと違うのは、首にあるほんの少しの重み。 "ながらスマホ " のごとく何をする時も手にとってずっと眺めていたら、ジルさんがふっと笑った。

「その時計に、アキオを取られてしまったみたいだな」

「だって、これを掛けてるとジルさんがずっとそばに居てくれているみたいだから……」

「なるほど。それは大変喜ばしいが……本物がそばに居る時はできるだけ構ってくれると嬉しいのだが」

「ふふっ、ジルさん甘えん坊みたいなこと言う」

「私が甘えては駄目か?」


……

ジルさんがいつもより可愛らしく見える。もちろんいつも通りに格好良くてハンサムで男前で渋いのだけれど、こんなに大きくて凛々しい男が可愛く見えるなんて、これも愛の力というやつなのだろうか。
甘えては駄目か?だって。
どれだけ僕の心をくすぐれば気が済むのだろう。

「甘えても良いですよ」

なんてちょっと上から言ってみる。こんな些細なことがおかしくて、ほくほくと温まる気持ちがそのまま顔に出ていたらしい。ジルさんが僕の頭を撫でながら言った。

「近頃はアキオの笑顔がよく見れるな」

「笑顔、できてますか?」

「ああ。とても愛らしい」

言いながら僕の前髪を大きな手でかきあげて、顔の隅々までを観察してくるジルさん。

「……魅力的ですか」

図々しい問いを投げると、彼は僕を抱き寄せ、その大きな体を縮こまらせて僕の首元へ頭を預けた。

「君の魅力にあてられてしまった私を労ってくれ」

彼が発する一文字一文字が首筋にかかってくすぐったい。

ジルさんをいたわる……

お任せあれ、と僕は意気込んで、いつもよりずっと近くにある彼の頭を、子供をあやすように撫でた。

「よし、よし」

体温も心音も呼吸も、2人分のが一緒くたに混ざり合っている。ずっとこのままでいたいなあと思っていると、ジルさんがもっと深く僕の首に顔を埋めた。彼も同じことを思ってくれたのだろうか。そう考えるとさらに愛おしさが増して、髪を撫でる手にぎゅっと力が入った。

大きなわんこを愛でているみたい。

ジルさんの可愛らしい一面を見ることができた充足感に浸っていると、コンコン、と外から扉を叩く音が聞こえた。



「……中々に離れ難いが、時間のようだな。父だ」
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