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王都〜第二章〜
図書館司書のお仕事
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図書館は今日も静かだ。
紙の匂いが広がる空間は落ち着く。
先日ブルネッラさんが返却した樹木の本は2階の西側5段目に、クリスさんが借りてた世界地図は1階の東側2段目に戻す。あ、ニーソンさんが今度動物図鑑を借りたいって言っていたから用意しておこうかな。1階の南側に整理してある図鑑コーナーから数冊ピックアップしてみる。
僕は図書館を使わせてもらっているお礼として、庫内整理の真似事をし始めた。分類ごとに置く場所を分けて、借りたい人には何がどこにあるのか教えてあげる。図書館司書みたいで楽しい。
あまり借りる人はいないから、やることはそこまで無いんだけど。それでもここに来る人はずいぶん増えた印象がある。
———コンコン、ガチャ
「あのー、こんにちは」
「失礼します」
今日はまた見慣れない隊員さんがお二人いらっしゃった。来てくれる人が増えるのは嬉しい。
「ちょっと本を探していて……」
「はい、どんな本で……あれ、貴方は…オリバーさん?」
「お、覚えてくださっていたのですか!!」
「勿論です。訓練を見学させていただいて、その節はありがとうございました」
見慣れないと思っていたお二人のうち、よくみると一人は体術訓練の見学をした時に出会ったオリバーさんだった。
「あの、わたくしは騎馬隊のフィリップと申します!先日配属されたばかりで……アキオ殿のお噂は先輩方からかねがね…」
もう一人の方とも挨拶を交わすと、気になる言葉が飛び出した。
「噂?」
「本を読みたい時はアキオ殿に相談すると良い本が見つかるって、専ら噂なのでありますっ」
目を輝かせるフィリップさん。
それは僕の力のおかげではなく、本を書いた人の力だと思うけど。
褒められると困っちゃうなと思っていると、オリバーさんが
「アキオ殿。フィリップはまだ読み書きが得意でなく、これだけの書籍を管理するアキオ殿を尊敬しているそうです。フィリップだけでなく、隊員は皆アキオ殿に憧れていますよ!」
と言った。
「そんな大袈裟な……。でもありがとうございます。管理というほどではありませんが、お役に立てているのであれば光栄です。
今日は何の本を?」
国のために厳しい訓練をして辛い任務にあたる隊員さんたちを少しでも支えられていることに充実感が湧き上がる。
良かった。僕がやっていることは誰かのためになっているんだ。
「易しめの辞書と、銃関連の本があればと思いまして」
「銃ですか」
「アキオ殿、フィリップは騎馬隊の期待の新人なんです。勉強熱心で、今度射撃の試験にも挑戦するんですよ!」
「き、期待にお応えできるよう、精進しますっ!」
オリバーさんがだだ褒めするから、フィリップさんの声が震えちゃってる。期待の新人なんて言われると、緊張するよね。
でも、
「すごい。馬に乗って、それから射撃も?新人さんなのに皆さんから期待を寄せられているなんて、とても優秀なのですね。頑張ってください。僕、応援しています」
「そ、そそそんなアキオ殿までっ……あ、ありがとございますっ!力の限り頑張りますっ!」
心の声が出ていた。余計に緊張させてしまったかもしれない。でも本当にすごいと思う。新人ということは15、6歳くらいだろうか。
体は大きいけどまだまだ若い。
隊員さん達と話していると、僕も気が引き締まる。
そうだそうだ、話し込んでる場合じゃなかった。皆時間に厳しく行動してるのに、引き止めてしまってはいけない。
「そうだ、辞書と銃の本ですよね。辞書類は1階の東側1段目にあります。武器関連の本は2階の…えっと、北側の3段目です」
「すごい……全て覚えられているのですか!」
オリバーさんが感嘆の声を上げる。
なるほど、彼は人を褒めるのが得意、というか、元々ポジティブな性質の方なんだろう。こりゃ後輩を褒めて伸ばすタイプだ。先輩の鑑だなあ。
褒められてまんまと照れくさくなる僕は頭の隅でそんなことを考えながら、いやぁ、そんなことないですよ、と型にはまった返事をした。
––––
「「ありがとうございましたっ!!」」
「いえ。読みたい本があれば、いつでも言ってください」
失礼します!と、ピシッと芸術的なお辞儀をして図書館を出ていくオリバーさんとフィリップさん。
フィリップさん、射撃の試験うまくいくといいなあー。
おっと、ぼーっとしてちゃいけない。
僕も次の古文書を読もうとしてたんだった。
今まで手に取ったのは、どれも変わり映えのしない内容ばかりだった。そこで、手当たり次第に読むのではなく先に一通り表紙の題名にざっと目を通し、重要なことが書いてありそうなものから順に読んでいくことにした。
まず目をつけた古文書は『くすしき異人』。
" くすしき " とはたぶん、神秘的だとか不思議だとかいう意味だと思う。だとすれば題名は『不思議な異世界人』という感じだろうか。この "異人" というのが誰なのか気になった。
こんな具合に、気になる文書は4階に数冊まとめておいた。いちいち階段を上り下りするのは少し面倒だけど、良いリハビリになるから敢えてこうしている。
それに、この世界に来てからあんまり運動してなくて体力も落ちてるし、動ける時に動いておかないと。
踏み外さないよう慎重に4階までのぼると、少し息切れが。これでも当初よりは疲れにくくなった。ちょこっとずつでも体力をつけていけるように頑張ろう。
それで古文書は、えーっと……
東側の、1番下の…このへんに……
あれ、無い。
ここに置いておいたはずなのに。ん?他にキープしておいたやつも無い。
でも確かにここに……んー、いや、自信無くなってきた。えっ、どこに置いたっけ、西側?いや、南?
…はぁ、さっきオリバーさんとフィリップさんが褒めてくれたばかりなのに、これじゃ示しがつかない。
………………
って、今日コーデロイ先生のところに行く日じゃなかったっけ!?
やばいやばい、今何時だ?
わ、約束の時間まであと5分も無い。
完全に忘れてた。
急いで図書館を出て、急ぎめに、でも転ばないように気をつけながら医務室へ向かう。
もうほんと、自分のぽんこつ具合に呆れる。
紙の匂いが広がる空間は落ち着く。
先日ブルネッラさんが返却した樹木の本は2階の西側5段目に、クリスさんが借りてた世界地図は1階の東側2段目に戻す。あ、ニーソンさんが今度動物図鑑を借りたいって言っていたから用意しておこうかな。1階の南側に整理してある図鑑コーナーから数冊ピックアップしてみる。
僕は図書館を使わせてもらっているお礼として、庫内整理の真似事をし始めた。分類ごとに置く場所を分けて、借りたい人には何がどこにあるのか教えてあげる。図書館司書みたいで楽しい。
あまり借りる人はいないから、やることはそこまで無いんだけど。それでもここに来る人はずいぶん増えた印象がある。
———コンコン、ガチャ
「あのー、こんにちは」
「失礼します」
今日はまた見慣れない隊員さんがお二人いらっしゃった。来てくれる人が増えるのは嬉しい。
「ちょっと本を探していて……」
「はい、どんな本で……あれ、貴方は…オリバーさん?」
「お、覚えてくださっていたのですか!!」
「勿論です。訓練を見学させていただいて、その節はありがとうございました」
見慣れないと思っていたお二人のうち、よくみると一人は体術訓練の見学をした時に出会ったオリバーさんだった。
「あの、わたくしは騎馬隊のフィリップと申します!先日配属されたばかりで……アキオ殿のお噂は先輩方からかねがね…」
もう一人の方とも挨拶を交わすと、気になる言葉が飛び出した。
「噂?」
「本を読みたい時はアキオ殿に相談すると良い本が見つかるって、専ら噂なのでありますっ」
目を輝かせるフィリップさん。
それは僕の力のおかげではなく、本を書いた人の力だと思うけど。
褒められると困っちゃうなと思っていると、オリバーさんが
「アキオ殿。フィリップはまだ読み書きが得意でなく、これだけの書籍を管理するアキオ殿を尊敬しているそうです。フィリップだけでなく、隊員は皆アキオ殿に憧れていますよ!」
と言った。
「そんな大袈裟な……。でもありがとうございます。管理というほどではありませんが、お役に立てているのであれば光栄です。
今日は何の本を?」
国のために厳しい訓練をして辛い任務にあたる隊員さんたちを少しでも支えられていることに充実感が湧き上がる。
良かった。僕がやっていることは誰かのためになっているんだ。
「易しめの辞書と、銃関連の本があればと思いまして」
「銃ですか」
「アキオ殿、フィリップは騎馬隊の期待の新人なんです。勉強熱心で、今度射撃の試験にも挑戦するんですよ!」
「き、期待にお応えできるよう、精進しますっ!」
オリバーさんがだだ褒めするから、フィリップさんの声が震えちゃってる。期待の新人なんて言われると、緊張するよね。
でも、
「すごい。馬に乗って、それから射撃も?新人さんなのに皆さんから期待を寄せられているなんて、とても優秀なのですね。頑張ってください。僕、応援しています」
「そ、そそそんなアキオ殿までっ……あ、ありがとございますっ!力の限り頑張りますっ!」
心の声が出ていた。余計に緊張させてしまったかもしれない。でも本当にすごいと思う。新人ということは15、6歳くらいだろうか。
体は大きいけどまだまだ若い。
隊員さん達と話していると、僕も気が引き締まる。
そうだそうだ、話し込んでる場合じゃなかった。皆時間に厳しく行動してるのに、引き止めてしまってはいけない。
「そうだ、辞書と銃の本ですよね。辞書類は1階の東側1段目にあります。武器関連の本は2階の…えっと、北側の3段目です」
「すごい……全て覚えられているのですか!」
オリバーさんが感嘆の声を上げる。
なるほど、彼は人を褒めるのが得意、というか、元々ポジティブな性質の方なんだろう。こりゃ後輩を褒めて伸ばすタイプだ。先輩の鑑だなあ。
褒められてまんまと照れくさくなる僕は頭の隅でそんなことを考えながら、いやぁ、そんなことないですよ、と型にはまった返事をした。
––––
「「ありがとうございましたっ!!」」
「いえ。読みたい本があれば、いつでも言ってください」
失礼します!と、ピシッと芸術的なお辞儀をして図書館を出ていくオリバーさんとフィリップさん。
フィリップさん、射撃の試験うまくいくといいなあー。
おっと、ぼーっとしてちゃいけない。
僕も次の古文書を読もうとしてたんだった。
今まで手に取ったのは、どれも変わり映えのしない内容ばかりだった。そこで、手当たり次第に読むのではなく先に一通り表紙の題名にざっと目を通し、重要なことが書いてありそうなものから順に読んでいくことにした。
まず目をつけた古文書は『くすしき異人』。
" くすしき " とはたぶん、神秘的だとか不思議だとかいう意味だと思う。だとすれば題名は『不思議な異世界人』という感じだろうか。この "異人" というのが誰なのか気になった。
こんな具合に、気になる文書は4階に数冊まとめておいた。いちいち階段を上り下りするのは少し面倒だけど、良いリハビリになるから敢えてこうしている。
それに、この世界に来てからあんまり運動してなくて体力も落ちてるし、動ける時に動いておかないと。
踏み外さないよう慎重に4階までのぼると、少し息切れが。これでも当初よりは疲れにくくなった。ちょこっとずつでも体力をつけていけるように頑張ろう。
それで古文書は、えーっと……
東側の、1番下の…このへんに……
あれ、無い。
ここに置いておいたはずなのに。ん?他にキープしておいたやつも無い。
でも確かにここに……んー、いや、自信無くなってきた。えっ、どこに置いたっけ、西側?いや、南?
…はぁ、さっきオリバーさんとフィリップさんが褒めてくれたばかりなのに、これじゃ示しがつかない。
………………
って、今日コーデロイ先生のところに行く日じゃなかったっけ!?
やばいやばい、今何時だ?
わ、約束の時間まであと5分も無い。
完全に忘れてた。
急いで図書館を出て、急ぎめに、でも転ばないように気をつけながら医務室へ向かう。
もうほんと、自分のぽんこつ具合に呆れる。
応援ありがとうございます!
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