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王都
運命の日②
しおりを挟む———ダッダッダッダ、バンッッッ!!!
「アキオ様ッ!」
「ユリ!?」
突然大きな音がしたかと思えば、給仕の仕事に行っていたユリが厨房の扉を勢いよく開いた音らしかった。
「こらこら給仕さん、困るぜ~いきなり騒がしくされちゃあよ~」
ガシモワさんがやれやれと頭の三角巾に手を当てて苦笑う。
「大変申し訳ございません。
ただ、司令官がアキオ様をお探しになっているとの情報が。一旦厨房から出ましょう!」
「そ、そうなの?どうしましょうガシモワさん」
「ここまで出来てりゃ、あとはもう味が染み込むのを待つだけよ。一旦止めて食べる直前にまた火ぃ入れりゃあいい」
「ありがとうございます。それじゃ、ちょっと行ってきます」
「ああ。気ぃつけてな!」
急いでエプロンを脱いで厨房から出る。
やばいやばい。僕、顔変じゃないかな。
料理に注いでいた集中力が一気に緩んだのと達成感と、安心と不安と、いろんな感情でそわそわがバレちゃったらどうしよう。
「ユリ、僕顔変じゃないかな?」
「へっ!?んんんんんなワケがあるはずないでございましょう!!!」
聞く相手を間違えた。
この世の終わりみたいな表情で僕の顔の造形について演説を繰り広げるユリ。いつも通りのユリ。僕も、いつも通りに……平常心、平常心。
ひとまず出入り口付近の席に座って、髪や服を整える。
どうしよう。ジルさんに会うの、いつもより緊張するかも。落ち着け落ち着け。
「アキオ様の麗しいお姿を一目見るだけで、体の中にそれはそれは美しい音楽が響き渡っているような、何とも言えないあたたかい感覚になるのです。
この感動が伝わっていなかったとは……わたくしとしたことが!これからはもっと」
「つ、伝わってる。ありがとう。
僕の方こそ、いつも元気いっぱいで優しくて可愛いユリといられて幸せだよ」
あ………
あー、やっぱり泣いちゃった。
でもきっと喜んでくれたんだなってのは分かる。
にぎやかなユリと話してるとちょっと落ち着いてきた。
この調子で、ジルさんの前でもちゃんと……
「アキオ、今から少し時間があるか?」
「ジッ!?ル、さん……こんにちは」
心臓が止まるかと思った。
いきなり転移して目の前に現れるんだもの。
「すまない、驚かせてしまった。しかしアキオはこんな時間に食堂で何をしていたんだ?」
「あ…えと……」
「アキオ様と城内の散歩をご一緒させていただいておりました。休憩がてら、先程までこちらでお茶を」
ユリ、ナイス。
「そうだったのか。取り込み中失礼した」
「とんでもございません。それでは、わたくしは宮廷に戻ります。失礼いたします」
「ああ」
ありがとう、と言う間もなくユリはスッと消えてしまった。あとでちゃんと誤魔化してくれたお礼言わなきゃ。
「ジルさん、お仕事おつかれさまです」
———ナデナデ
ジルさんの髪の毛もちょっと乱れていたので、撫でながら整える。急いで来てくれたのかな。
「ありがとう。アキオも勉強に励んでいるとオグルィ先生から聞いている。しかし、息抜きも忘れずにな」
「心配しすぎですよ。ほら、今こうして息抜きを」
してないけどね。
でも、いつもゆっくりのんびりしてるから、ジルんの心配は杞憂だ。
「そうだったな。息抜き中に申し訳ないが、今からコーデロイ医師の元へ向かっても良いか?先日受けた検査の結果が出たらしい」
「あ……そう、ですか………」
今まで胸にひそめていたどきどきが別のどきどきに変わった。一向に良くならない足に、ほんの少しだけ苛立ってしまう時もある。
歩けないのも苛立っちゃうのも仕方ないと自分を受け入れようとするけれど、どうしても罪悪感や劣等感が芽生えてしまう……のも、仕方ないと思えたら少しは楽だろうか。
「アキオ?どうした、具合が悪いか?」
「違います……その、ジルさんも一緒に、行ってくれますか?」
「勿論そのつもりだ」
「良かった…ひとりだと心細くて。……本当によかった」
もし今ひとりになったら、何かに押し潰されてしまうと僕の心が予見している。
「……アキオは本当に強くなったな」
「え?ど、どこが……」
「弱音を吐けるのも強くなった証拠だ。何より、頼ってくれて嬉しい」
ジルさんの発する言葉は、いつだって僕が望んでいるものばかりだ。
「僕も、嬉しい」
今、ちょっとだけきれいに笑えてる気がする。
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