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王都
強力な協力者
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目の前には、皮がまだらに剥かれたじゃがいも似の芋、本体よりむしろ皮の方が分厚いにんじん似の野菜、そして不格好にぶつ切られた玉ねぎ似の野菜。
ことの発端は、オグルィ先生に「自分がされて嬉しかったことは相手も喜ぶはず」とのアドバイスを受けた僕がジルさんを撫で続け、他にすることはないかと考えた結果「よし料理をしよう」とやる気を出してしまったせいである。
だって、ジルさんが作ってくれたご飯はとても美味しかったし、何より嬉しかった。
だからといって僕が同じようにできるかと言うともちろんそんなはずはなく、ガシモワ料理長や料理人の皆様に失態を晒し続けているのであった。
昼食後から夕食までのアイドルタイム。といっても軍人の勤務は不規則なのでいつ誰が食べに来ても良いように厨房は数人で回している。
僕は厨房の端っこを使わせてもらい、昨日から料理の練習をしている。のだけど、野菜すらまともに切れない。
1センチ角に刻んでいるはずなのに、何だこの拳大の野菜たちは。
「まァそう落ち込みなさんなってアキオ殿、最初は誰でもこんなもんよ!それに、昨日より上手くなってるじゃねぇか。はっはっは!昨日は野菜が全部つながっちまってたもんなあ!」
「はい……それに比べれば、まあ。
ごめんなさいガシモワさん。昨日に引き続き、休憩中なのに時間を貰ってしまって」
「なァに若ぇモンが気なんか使っちまって!
俺は嬉しいんだよ。アキオ殿が料理を教えて欲しいって言うから聞いてみれば、ジルルドオクタイ最高司令官の為だって言うじゃねぇか。
いやぁ若いってのは良いねえ!俺に手伝えることならなんだってやるからいつでも言ってくれよ!」
「本当にありがとうございます。ガシモワさんみたいな料理は作れないけど、せめてジルさんに、お仕事の疲れが少しでも癒えるようなものが作れたらなと思って。
でも、自分がこんなに不器用だとは思いませんでした……」
「いやいや素敵だよアキオ殿。健気だねぇ。俺はアキオ殿を応援するぜ!!きっとうまくいく!」
料理の応援にしては気合の入り方が凄まじいように思うが、彼らにとっての料理は魂をかけた仕事なのだろう。
中途半端な気持ちでは取り組めない。
よし、僕も気合を入れよう!
「はい……!がんばります!」
硬く拳を握って自分を鼓舞する。
「うんうん、はァ……恋ってのはいいモンだなあ」
ガシモワさんは腕を組み斜め上を仰ぎながら何やら小さな声で呟き感慨に浸っている。
「何か言いましたか?」
「いやいやこちっちの話だ。
それにしてもアキオ殿。ガーの干し肉とケソ茸のスープを作りたいなんて、良い舌してるなぁ。確かに美味い出汁が出るが、若者にはちと味気ねぇんじゃねえか?」
「そうなんですか?
僕、ジルさんに作ってもらって初めて食べたのですが、とっても美味しくて、胸がいっぱいになったんです。だからジルさんも喜んでくれるかなって」
「そりゃアキオ殿が心を込めて作ったモンなら最高司令官はなんだって喜んでくれるさ!それに栄養もたっぷりで、疲労回復にも効くだろうよ!」
「本当ですか?良かった」
「刻んだ野菜をたっぷり入れれば、食べ応えも出るし栄養価もアップするってワケよ。そのためにもせめてもぉ~少し!包丁練習しねぇとな!」
「はい……!お願いします、先生」
「先生だなんてやめてくれよ!照れちまうだろぅが!」
和気藹々とお料理教室が繰り広げられる。
その後の成果からも僕の手先が料理に向いていないことは明白であったが、ガシモワさんの上手なアドバイスとサポートのおかげで、なんとか消しゴム大くらいには野菜を切れるようになった。
最後の方には料理人さんたちが集まって、よし、そうだ!うまい!手ぇ気をつけな!いい感じじゃねえか!などと励ましの言葉をかけてくれた。
「アキオ殿、もう時間だ。今日の練習はここまでにしよう」
「はい。ありがとうございました」
「だいぶ上達したな!明日にゃきっと美味いスープが作れるぞ。
よしっ、今日はこの野菜で絶品の夕飯をこさえてやろうな。座って待ってろ!」
「はい!」
厨房から出てエプロンを脱ぎ、近くの席に座るとちょうどユリが給仕の仕事を終えて食堂にやって来た。
「アキオ様!!!!!!お怪我はっ!?お怪我はございませんかああ???」
「ユリ、いつも元気だね。
ガシモワ料理長がサポートしてくれたおかげで怪我はひとつも無いよ」
「良かった……本当に良かった……」
いつも元気、とは言ったものの、ここ数日のユリは目の下にクマをつくって少し眠そうにしている。仕事が忙しいのかな?
「もう、大袈裟だなあ」
「そんなことはございません!!アキオ様が料理をしたいと申してからわたくしっ!そのしなやかで麗しい御手を怪我してしまわないかと心配で心配でっ!!」
「そっか。心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ」
「なら良いですが……くれぐれも無茶はしないでくださいね?わたくしの心臓が保ちません」
「分かった。できる範囲でやるよ。
……あっ、そうだユリ。僕が料理してること、まだジルさんにはしぃーでお願いね?」
人差し指を口に当てナイショのポーズをして釘を刺すと、「お任せください!!」と頼もしい返事が返ってくる。その眼差しは何故か僕よりも真剣で鋭い。この『ジルさんにスープを作ろう大作戦』で一番意気込んでいるのはユリかもしれない。
食堂でコソコソする僕をほんの少し怪しんでいるようなジルさんに「料理人たちと親交を深めておられるのですよ、アキオ様は」などと言って誤魔化してくれたし、本当に心強い。
「それにしても、ジルルドオクタイ最高司令官は幸せ者でいらっしゃいますね……アキオ様が心を込めて作った料理を召し上がることができるなんて」
「上手に作れるようになったら、ユリも食べて?」
「なっ!よ、よ、よろしいのですか!?
アキオ様のお料理を……わたくしが!?あぁ……生きていて良かった…!!」
「大袈裟だなあ。それまでにきちんと作れるように練習するね」
「アキオ様がお作りになったものなら草でも泥でも美味しくいただく自信があります!!」
「お腹壊しちゃうからダメだよ。
……そうだ。ユリはご飯食べた?」
「いえ、先程まで少々雑務を」
「じゃあ一緒に食べようよ。僕が切った不恰好な野菜が無駄にならないように、ガシモワ料理長がご飯作ってくれてるんだ」
「へっ!?!? アキオ様が切ったお野菜!?
わ、わたくしは、一生分の運を使い果たしてしまったのでしょうか……いや、この命尽きてもアキオ様がその麗しい御手でお切りになったお野菜を口にできるのなら、本望……!!!」
「だから大袈裟だって……ちょっと座って待っててね」
だらだらと涙を流すユリを放って調理場へ向かい、ガシモワさんにもう1人分の料理をお願いする。
「あいよっ!」とか前の良い返事を頂いてユリが泣き止むのを静かに待っていると、しばらくしてとても美味しそうな料理を運んでくれた。
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