ある時計台の運命

丑三とき

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王都

樹木医登場

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「あれっ珍しい。図書館に人が」

「あ……こんにちは」

入ってきたのは、軍服を来て眼鏡をかけた優しそうな背の高い(全員そうだけど)男性。濃い茶色の髪はボサボサと乱れ気味で、目の下にはクマがある。服と髪の毛は少し濡れており、外の雨模様を物語っていた。

「どうもこんにちは。
オグルィ先生もいらっしゃったんですね。今日って図書館で講義でもありましたっけ?
もしかして、何かお取り込み中でしたか?」

「いやいや、構わんよ」

「ごめんなさい。僕が勉強に使わせてもらっていたんです。
はじめまして。スワ・アキオといいます」

自己紹介をすると、男性はパッとなにかひらめいたような顔をした。

「あ~、君があの”アキオ様”か。はじめまして」

「様……。そう呼んでいただくのはちょっと、恐れ多いので……」

不本意にも”殿”とは呼ばれ慣れてしまったが、僕をアキオ様なんて呼ぶのはユリだけだ。
最初はその厳かな敬称に居心地が悪かったけど、ユリの熱意(?)がすごすぎてなんだかんだで押し切られてしまった。
僕は形式上は王様の客人なわけだし、彼にも給仕としての立場があるのだろう。

しかし軍人の方にそう呼ばれるのはどうしてもしっくり来なくてビクッとしてしまう。

「ごめんごめん、そうだよね。じゃあアキオ君でいいかい?」

「はい。もちろんです」

「僕は地中部隊で樹木医アーボリストをやっています。ハヤチ・ブルネッラです。どうぞよろしく」

「よろしくお願いします」

ブルネッラさんにお辞儀をすると、隣に座っていた先生が目を細めた。

「ブルネッラも、無事戻れたようじゃな。いや良かった良かった」

「ええ。昨夜着きました」

「どこかへ行かれていたのですか?」

「ああ。ここから馬車で3日ほど走ったところにある『ダリタリ』っていう町の支援にね。
樹木がかなり病んでいたから、診察と修復にだいぶ時間がかかったよ。まだ完治はしていないんだけど状態が安定してきたから、これからは交代で経過観察することになったんだ」

「え……ダリタリの町へ?
住民の皆さんの様子はどうでしたか?
確か、えっと…エレネイという男の子と、そのお父さんを知っていますか?」

「アキオ君よく知ってるね。エレネイ君、呼吸器が弱ってたけど今は順調に回復してるよ。お父さんももうすっかり元気になって、物資運びやら炊き出しやら、何でも率先して手伝ってくれたんだ。彼、住民からの信頼も厚くてね。
……町があんなことになるまで何もできなかった軍を非難する声も最初は多かったんだけど、彼が言ってくれたんだ。『軍人の方達も日々命をかけて国民を守ってくれている。感謝はしても非難するのは違う』って」


そう言ってブルネッラさんは後頭部の跳ねた髪の毛を撫で付け、苦笑いしながら遠くを見た。
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